├双子のいない日3
星竜祭の催しのひとつである聖王国武術大会。
各地から集まった武芸者たちが、鍛え上げたおのれの戦技を競い合う7年に1度の大舞台である。
予選は12月19日と20日に行われ、25日から2日間に渡って本戦が開催される。
……かなりタイトなスケジュールだが、これは『こどもの部』の話である。
きたる19日、ノーチェは外周6区にある競技場で行われる一次予選に参加していた。
方式は倒れるか場外になったら負けのバトルロイヤル方式。
会場ひとつにつき100人近いこどもたちが、訓練用の武器を手にところせましと戦っている。
「っしゃあ!」
そんな中で、ノーチェはアリスの予想通りに無双していた。
使う戦法は長剣は相手の武器狙いに絞り、メインは足技による転倒狙い。
ノーチェからするとかなり手加減していたが、それでも圧倒してしまうくらいには実力差がある。
「…………」
「うえええええん!」
弱いものいじめをしている気分になりながら、ノーチェは普人の少年を踏み固められた砂の上に優しく転がす。
彼等も武術大会に出るくらいだからそれなりに鍛えてはいるのだろうが、敵としてアリスの方が強いとすら感じるレベルだった。
「これで8人にゃ」
さくさくと近くの子供を倒したノーチェが舞台を見渡すと、気づけば20人も残っていない。
これならひとつ上の年の部の方が手応えがあったのではと思いながら、素早く駆け出す。
「え、うわぁ!」
「うそ、はや……ぎゃー!」
加速した勢いでひとりを蹴り飛ばし、着地と同時に手を軸にして身体を回転させる蹴りで足を払う。
一瞬でふたり倒したノーチェは、体勢を整えながら背後から振り下ろされる木剣を自らの剣で受け止めた。
「げっ」
「見え見え……にゃっ!」
弾くのではなく身体を斜めにしながら受け流し、加減しながら鳩尾に柄頭を打ち込む。
「ぐえっ……」
「わ、わー!」
背後にいた少年の服を掴んで横に転がし、更にその後ろで隙を伺っていた少年の足を引っ掛けながら手で上半身を押して倒す。
そして頭を打たないように服を掴んで勢いを調整しながら、背中を地面に押しつけた。
「まけ……まけ……ふぐぅぅぅ」
「ピーーー! そこまで! 残った10名を一次予選通過とします!」
負けを認識した少年が泣き出したところで、ホイッスルと同時に審判役の声が会場に響いた。
ようやく終わったと息を吐きながら、ノーチェは肩を回す。
まったく動き足りなかった。
「あの黒猫の獣人、見事だな。ひとつ上の部でもやれそうだ」
「ひとりも怪我をさせていないようで、随分と余裕がありますな。優勝候補でしょう」
騎士団関係者と思わしき男たちの声に耳をぴくりと動かしながら、ノーチェは舞台から出る。
予選は誰でも参加できるので、資質はあれど生まれに恵まれない子がスカウトを受けるチャンスでもある。
自分の実力が認められたようなむず痒さを覚えて、ノーチェはしっぽをゆったりと動かしつつ舞台脇にいた審判から予選通過の証を受け取る。
「二次予選は明日の同時刻にここで行う、大丈夫か?」
「大丈夫にゃ」
「では遅刻しないように。何か痛みなどあれば治療室で見てもらってから帰りなさい」
「わかったにゃ、あんがとにゃ」
身体の調子を確かめながら、頷いたノーチェは治療室に寄らずに更衣室へ向かう。
更衣室には数は多くないものの女児の参加者がいた。
手当跡を押さえながら泣いている子と、それを慰めている子。
予選を通過したノーチェを無遠慮に見てくる子。
多数の視線を受けながら、ノーチェは自分に割り当てられたロッカーの鍵を開けて着替えをはじめた。
こどもの部の予選は外周に多数ある予選会場でまとめて行われ、1会場につき10人が通過する。
翌日に残った10人で総当たり戦を行い、上位3人が本戦に出場する。
予選の本番は明日だ。
■
「ノーチェちゃんがんばれー!」
「がんばるのじゃー!」
予選2日目、同じ会場には前日とは比較にならないほど観客が増えていた。
こどもの部の中でも年少クラスということもあり、親族友人以外は1日目に興味がないのだろう。
「1戦5分、時間内に決着がつかないと引き分け……にゃ」
二次予選は連戦だった。
10歳以下の子供には酷な設定は、この後に他の年齢の予選もあるせいだろう。
「まぁ、あたしはいいんだけどにゃ」
「そろそろ始めるぞ、各自準備はいいな」
「問題ないにゃ」
舞台の上には区切るように線で書かれた戦闘エリアが10用意されており、年少の部ではそのうち5つが使われる。
ノーチェはそのうちのひとつの片側に陣取り、相手を待つ。
最初の相手は茶色の髪の10歳くらいの少年だった。
布の巻かれた長棒を手に、ノーチェを鋭く睨んでくる。
「用意……はじめ!」
審判役の掛け声に合わせ、各エリアで試合がはじまる。
「やあー!」
「フッ!」
少年の割には鋭い突きを木剣で受けながら進行方向に勢いをつけさせ、体勢を崩した所に足を引っ掛けて転ばせる。
「うわああ!」
「そこまで! 83番の勝利!」
悲鳴をあげながら少年が転び、審判がノーチェの勝利を宣言する。
会場を選んだ理由は一番近いからだったが、結果的に普人の多い場所を選んでしまった。
「(卑怯なことしてるみたいで素直に喜べないにゃ)」
他のエリアの試合が終わると、相手を入れ替えて次の試合がはじまる。
「はじめ!」
続く試合も苦戦らしい苦戦もなく、ノーチェはあっさりと全勝を決め、本戦へ進出した。
■
「ノーチェ、圧倒的だったのじゃ」
「強かったね」
「まぁ、あたしも強くなったってことにゃ」
会場からの帰り道、本戦出場の証明カードを見ながらノーチェは口元を綻ばせていた。
ノーチェは決して対戦相手をなめているわけではない。
年齢的な問題もあるが、旅に出る前の自分ならここまで楽勝とはいかなかっただろう。
今日の結果は確実に強くなっている証拠だった。
「次は本戦だにゃ、あいつらも見に来るかにゃ」
「もし戻れるとしたらお父さんたちと一緒だろうし……ギリギリじゃないかな」
つい先日のことだ。
家の近くで夜梟騎士が新しい拠点を準備していると知ってから、フィリアとシャオは目に見えて元気を取り戻していた。
いつ戻れるかはわからないが、周囲がアリスたちの意思を尊重して『いつかは戻る』ことを前提に動いている。
そのことがまた会えるという希望をもたらしていた。
「カイン殿には言葉を濁されてしもうたからのう」
護衛の中でもカインとヴィータは、ノーチェたちとも比較的親しい。
特にカインは他の護衛との橋渡し役にもなってくれていた。
そのおかげで"竜の姫君に馴れ馴れしい勘違い娘"のような扱いは受けずに済んでいる。
「ま、頑張ることには変わりないにゃ。いる場所はわかってるんだから、優勝したら自慢してやるにゃ!」
「ふふ、そうだね」
楽しげに笑いながら帰り道を歩くノーチェたちが、見慣れた住宅地に足を踏み入れる。
子供たちの歩く道を、冬の曇り空の隙間から太陽の光が照らしていた。




