表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おおかみひめものがたり【WEB版】  作者: とりまる ひよこ。
竜玉は泥に塗れど玉のまま

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

476/580

過去の疵痕

 父娘の感動の再会を見守っていると、スフィが何かに気付いた様子で左右を見て、振り返った。

 鼻の頭が真っ赤になって、頬は涙でびちゃびちゃだ。


「アリス、なにしてるの……?」

「……ん?」


 ……ああ、そうか。


「いや、ぼくは……」

「アリスも来て、おとうさんだよ」


 正直、スフィ以上にどう接したらいいのかわからなかった。

 父親と言われても、ぼくの中にそれに該当するイメージがない。

 母親みたいにマイナスのイメージはないけど……。


 困っていることを察したのか、声をかけられたシラタマが突然大きいサイズになった。

 シラタマにオウルノヴァの視線が向かう。


「……厳冬の主よ」

「ヂュルル」

「娘たちを守ってくれたのだな、礼を言う」

「チュリピピピ」


 シラタマが突然ぼくのお仕着せの襟首をついばんだ。

 引っ張られるけど、無理矢理ではなく促されている程度だ。


 こういう時、前世の記憶というものが本当に邪魔だ。

 心のどこかで他人事に感じてしまう自分がいる。


「アウルシェリス」


 じっとこちらを見るスフィとオウルノヴァに根負けし、近付いていく。

 シラタマに見守られながら近付いたところでスフィに手を掴まれた。

 諦めて力を抜くと、大きな手がぼくの背中を抱き寄せた。


 オウルノヴァは人間とは少し違う不思議な匂いがした。

 ……この匂い、ぼくは知っている気がする。

 目元が熱くなった、どうしよう、心と体が一致しない。


「よく、無事に戻ってきてくれた」

「…………」


 自分の感情の整理がつかない。

 突然現れた父親にどう接すればいいのかわからない。

 兄貴分や護衛とかなら、なんとなくわかるんだけどな。


「……ここは話を聞くには寒すぎるか」


 無言のぼくを見て勘違いしたのか、オウルノヴァが視線だけで銀竜を呼びよせる。

 近くにきた銀竜の1頭がぼくたちの隣に頭を下げて、タラップ代わりにするかのように翼を地面へつけた。


 確かに、まだぼくの方も接し方がわからない。


「ステラも、お前たちの母も待っている。来なさい」

「あ、うん……アリス、だいじょぶ?」

「…………なんとか」


 涙をぬぐいながらスフィが手を握ってくれて、少し落ち着いた。

 スフィを送り届けた段階で記憶が消えて、元の"アリス"に戻れれば楽だったのに。


 オウルノヴァに抱えられて銀竜の背に乗ると、周囲を光の膜が覆った。

 途端に風を感じなくなり、小さいサイズに戻ったシラタマがぼくの頭めがけて飛んでくる。膜は通過できるのか。


「しっかり掴まっていなさい」

「は、はい」


 触ってみると意外とゴツゴツしている銀竜の鱗の凹凸に掴まる。

 オウルノヴァが竜の姿に戻り、光を散らしながら翼をはばたかせて飛び立つ。

 銀竜も続いて夜空へと飛びたった。


「きれいだね……」

「うん」


 シラタマで慣れているせいか、あまり空を飛ぶ感動も味わえない。

 たどり着くために必要だった色んな物が裏目にでてるな。


「……むぅ、そっか。アリスはシラタマちゃんがいるもんね、ずるいんだ」

「シラタマ次第だから」

「チ゛ュリ゛リ゛」


 頭の上からシラタマの声がする。

 スフィであれど断固拒否らしい。


「……ダメだって言ってるのは、スフィでもわかるよ」

「緊急事態以外は嫌みたい」


 限界ギリギリで我慢できるラインが乗せないと命に関わる状況くらいのようだ。

 こればっかりは無理強い出来ないし、むしろスフィたちを見殺しにはしたくないという感情を抱いてくれていて嬉しく思う。


 最初の頃は事故を狙ってた節があったからなぁ。


「危ないときにたすけてくれるなら、いっか」

「チュルリリ」


 髪の毛が引っ張られるように揺れる。

 笑うスフィにシラタマは頷いているようだった。

 ……ちょっと気が抜けた。


 オウルノヴァの先導に従って、景色が凄まじい速度で流れていく。

 浮島の城までかかった時間はせいぜい数分。


 浮島には城へ繋がる作りになっている、大きな石造りの庭園があった。

 カラフルな石で大きな星の模様が描かれている場所に、オウルノヴァが降り立つ。

 ……ヘリポートみたいな感じかな。


 人の形状になったオウルノヴァが片手をあげる。

 ぼくたちの乗る銀竜は誘導されるように模様の中心へ向かい、重力を無視するような動きで衝撃もなく着地した。


「先に降りるね」


 翼を滑り台みたいにしてくれた銀竜の背から、スフィが勢いよく滑り降りる。

 それに続いてぼくも翼を滑り降りると、途中で一気に動きが遅くなる。

 この感覚、重力を操っている時のだ。


「わ、わ、なんか身体軽いよ」

「星……そうか、重力も含まれるんだ」


 ふんわりと高くジャンプして、風船のようにゆっくりと降りてくるスフィ。

 外から見るとこんな感じなんだなぁ。


「まずは汚れを落とさねばな」


 オウルノヴァの視線を受けて、自分たちの姿を確認する。

 たしかに銀竜たちの流れ星アタックにより泥まみれだ。

 聖王様との面会までは別に苦労してないのに、苦労してたどり着きましたって雰囲気が出てる。


「……あのね、スフィここ知ってるかも」

「……ぼくは全然」


 石造りの庭園には澄んだ水の流れる水路があって、そこを輝く花びらが流れていく。

 天空の夜空を映して、まるで天の川に橋をかけたみたいだ。


「シルフィステラはこの庭を散歩するのが気に入っていた。アウルシェリスはあの時はまだベッドから動かすことも出来なかった、自分の足で歩いていることが信じられぬ」

「そっか、だからスフィだけ知ってるんだ」

「本当に、よく揃って戻ってきてくれた」

「あのね、あのね、色々あってね……」


 歩きながらこれまでのことを話そうとするスフィ。

 しかしそれを遮るように城の方から足音が近付いてくる。

 城へ続く渡り廊下の暗がりから、ランタンを手にした神官服の女性がでてくる。


「ノヴァ様? 突然飛び出されて驚きました、何かあったのですか?」


 奥から聞こえた声には何故か聞き覚えがあった。

 柔らかい女性の声、神官服の女性たちに囲まれていたその人が、姿を見せる。


 不思議と明るい星明かりに映える銀色の長い髪、三角の大きな獣の耳に淡い菫色の瞳。

 背はあまり高くはなくて、スフィが大人になった姿という印象を受ける。


 女性たちはぼくとスフィを見て驚愕の表情を浮かべた。


「何も言わずに済まなかったな。確証がなかった故、落胆させることは避けたかった」

「シルフィステラ……アウルシェリス……?」


 信じられないと言いたげな顔で、女性は口元を覆いながら近付いてくる。


「嗚呼……姫様! まさかこのような奇跡が!」

「すぐに、すぐに側仕えを集めなさい!!」


 ひとりを除いた神官服の女性たちが、バタバタと慌てた様子で城の中に戻っていく。

 止める暇もなかった。


 呆然としていた女性は、近くで見ると随分やつれているように見えた。

 顔立ちは整っているのに目の下には化粧で隠しきれないクッキリとした隈が出来ている。


「お、おかあ……さん?」


 スフィがその言葉を口にした瞬間、女性は駆け出した。

 長いスカートが脚に絡んで転びそうになりながらも立て直し、スカートの裾を片手で掴みあげて走る。

 屈みながら一歩下がったところで、頭上を細い腕がかすめた。


「シルフィステラ! ああ、シルフィステラ! 夢じゃないのですね、幻ではないのですね! お顔をよく見せて……」

「おかあさん、なんだよね?」

「ええ、そうよ……ああ、間違えるはずもないわ、シルフィステラ! ……アウルシェリスは!?」

「おかあさん……おかあさんだ!」


 スフィは避けずにそのまま抱きしめられていた。

 先ほど父親との再会を済ませたばかりだからか、少し落ち着いている。


「ぐすっ……アリス、なんで離れてるの?」

「いや……」


――あんたなんかが産まれてきたせいで、あたしはどん底よ!

――はぁぁ……お願いだから消えてよ、ねえ、消えてってば!

――なんでまだ生きてんのよ!? どれだけ母親を苦しめたら気が済むの!?


 母親か、意識していないのに汗がでてくる。 

 この人は、"あの人"じゃないのに。


「アリス、どうしたの? 具合悪いの?」

「アウルシェリス、大丈夫なの?」


 スフィを伴って、女性が近付いてくる。

 とっくに乗り越えたと思っていたのに、伸びてくる手に息が苦しくなった。

 ああ、ここにきて全部裏目にでた。


 呼吸が苦しくなって、意識が落ちそうになる。

 仲良く話していた人が眼前でひき肉にされても、怪物に食われても冷静でいられたのに。

 ストレスからくる過呼吸なんて前世を通してはじめてだ……。


「アリス無理しちゃダメ!」

「アウルシェリス! しっかりして、アウルシェリス!」

「だい、じょうぶ」


 心配するふたりを手のひらで制止して、気合で呼吸を立て直す。


「少し、疲れがでただけ、だから」

「……ふむ」


 近付いてきたオウルノヴァが背中を擦ってくれる。

 呼吸が落ち着いたところで、抱き上げられた。


「健康になったわけではない、当然か……まずは休ませよう。積もる話はあとでいい」

「うん……」


 ようやく一段落したところで、また別の問題が湧き出てきた。

 はぁ……説得もあるのにどうしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんか… この再会を楽しみにずっと長いこと読んでたのに… こんなモヤモヤする再会になんのか…
[一言] 前世の記憶に助けられた事もあったけど、前世の記憶で苦しむ事になるのは辛いなぁ……
[一言] >スフィを送り届けた段階で記憶が消えて、元の"アリス"に戻れれば楽だったのに そんな悲しいこと言わないで…(´;ω;`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ