戦闘開始
きっちり1時間の休憩ののち、再びステーションに向かうことになった。
残り時間的にもこれがラストアタックになるだろう。
新しく用意された車に分乗して移動する。
ブラウニーが運転する青い車にはしっぽ同盟が。
ラフィが運転する赤い車にはDクラスメンバーが。
「ノーチェ、大丈夫?」
「大丈夫とはいえないにゃ、でもサポートくらいはしてやるにゃ」
怪我はラフィの力で何とかなるとして、魔力まではすぐに回復しない。
ノーチェも加護を使うのは厳しいだろう。
今回ぼくたちはサポートに回ることになる。
『もうすぐつくでち』
「戦闘準備にゃ!」
「戦闘準備ですわ!」
風を浴びながら、みんな武器を手に真剣な表情をする。
戦いが始まろうとしている。
■
「アリス、大丈夫?」
「……ずっとさ」
ステーションが近くまで迫ったところで一度車が止まる。
近くに居るぬいぐるみたちが陣形を組むのをここで待つらしい。
作戦としてはこうだ。
周辺にいるぬいぐるみ達に招集をかけ、まずは一斉攻撃を行う。
ぼくたちはサポートしながら隙を見て敵を突破し、出口に向かう。
突破が難しい場合はぬいぐるみたちと協力して応戦。
敗北しそうな場合は彼等がそのまま殿を務めてくれるらしい。
さすがに玩具の陣営としても子供を前線に出すわけにはいかないようだ。
待っている間に寝ないよう、少し身体を動かすことにした。
車から降りてトランクの上に座ると、スフィが隣に腰掛けてくる。
「ブラウのことをさ、マイクの生まれ変わりとか、マイクと石像の欠片から生まれた新しい精霊とか、そんなふうに見てた」
「うん」
自然と口から後悔がこぼれ落ちた。
ブラウニーという存在が何か、という問いならそれで正解だと思う。
だけど「ブラウニーがぼくにとって何か」という問いに対しては不正解だった。
「ダメだよね。ブラウはマイクが最後にぼくに渡したプレゼントだったんだって。言われてはじめて気付くなんて」
シラタマがカンテラの使い方を知っていたように、マイクも知っていた可能性は高い。
ただ敵を倒すための武器じゃなくて、日常生活で一緒に居る意味がある玩具。
ブラウの今の在り方がマイクの理想だったのかな。
力をコントロール出来ないのもあるけど、何より武器としての在り方を拒否していた。
だから攻撃と受け取れる行動に、ある種の制約じみた失敗が伴っていたのかもしれない。
そう考えるとなんだかしっくりくる。
「最高のプレゼントだよね」
「うん」
スフィの言葉に頷く。
わかっているつもりになっていただけで、実際にはわかっていなかった。
「ブラウのこと、戦わせていいのかなって悩んでる」
「…………」
元々はコントロールに対する不安から前線から離していたけど、これからは意味が違う。
今後はブラウニーに戦わせるのはやめたほうがいいかもしれない。
望んでいないことを無理にさせたくはないし、ぼくの生活のフォローをしてくれるだけでも十分ありがたい。
『配置完了でち、いくでちよ! 可能なら突っ切って向こう側に送り返すでち!』
答えが出る前にラフィの呼ぶ声が聞こえる。
時間がきてしまったようだ。
「おう!」
我先に返事をしたブラッドが背負う剣に手をかける。
ぼくたちも車に乗り込み直し、再び出発した。
無事に帰ってから考えればいいか。
■
ステーションが近づくと、フードたちがバリケードのようなものを作り上げているのが見えた。
目算でざっと20人、怪物は6体。
バリケードの奥の方で佇んでいるスキンヘッドがハルファスってやつだろう、女と少年もいる。
あと……スキンヘッドの近くにレヴァンも居る。
「あいつらバリケード作ってるにゃ!」
『想定の範囲内でち、総員攻撃開始でち!』
ラフィが玩具のトランシーバーに呼びかける。
乾いた音がして、バリケードの内側に居たフードがふたり、吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
音のした方向を見ると、建物の上にテンガロンハットをかぶったガンマンスタイルの狐のぬいぐるみがいた。
……輪ゴム鉄砲のガンマンだ。
援護射撃に続き、ステーション前の広場を中心として左右の物陰からペロペロキャンディを持ったライオンと多数のぬいぐるみが飛び出してくる。
全員持っているものは玩具や菓子に見えるけど、あれも武器だと思われる。
「エインヘリヤルだ! 気をつけろ!」
「御使いを前に!」
「ぐわああ!」
変わった格好をしているのはライオンくらいで、他は兵士みたいな格好の子ばかり。
ライオン、狐、他にも動物モチーフのぬいぐるみが4体、全部合わせて6体か。
バリケードから顔を覗かせたフードが頭部を撃ち抜かれ、地面を転がって倒れる。
指示を受けてフードたちの盾になるように怪物たちがバリケードを乗り越えて出てきた。
ライオンは一撃ごとに怪物を屠っているけど、他のメンバーはそうもいかない。
4体でお互いをフォローしながら戦っているが、怪物のほうが多い。
そのうち怪物に掴まれたぬいぐるみが投げ飛ばされて地面を転がっていった。
残った3体で連携して怪物1体を仕留めたものの、倒した隙を突いた別の怪物に1体が捕まり、無惨に引き裂かれてしまう。
白い綿を飛び散らせながら転がるぬいぐるみの姿は痛々しい。
「ああ!」
『彼等は玩具で戦士でち、君たちが無事に勝つことこそが彼等に報いることでち!』
クリフォトの悲痛な声に被せるように、ラフィがフォローするように叫ぶ。
ぼくも無意識に握っていた拳を開いた。
一般フードは銃撃で倒されていき、今は12人。
怪物は6体から3体倒されて残り3体。
不利を悟ったのか。バリケードの奥でフードが叫び声をあげて怪物に変異しはじめた。
4体増えて怪物は7体……ちょっときつそうだ。
最初は玩具側の圧倒的優位に見えたけど、考えを改める。
玩具たちにとってもこれは死闘だ。
『ここを崩せば侵入者は一掃できるでち! 何のために翁と契約したでちか! 未来のために頑張るでち!』
鼓舞するラフィの声に応じて、腰が引けていたぬいぐるみたちが武器を握りしめて再び怪物に挑む。
バリケードの奥で更に怪物が2体増えた。
指示を受けて動き出す怪物たちに、ライオンが斬りかかる。
1体を斜めに両断し、返す刃で2体目を横に断ち切る。
3体目を切ろうとしたところで、急に真横に引っ張られたようにバランスを崩し、怪物に殴られて壁まで転がっていった。
「キャルト、気をつけなさい」
「わかっています」
とうとう奥に控えていた女が動き始めたようだ。
女がバリケードを飛び越えてライオンの方に近づき、攻撃を始める。
少年の方は力が戻っていないのか、今のところ動きはない。
ライオンは不自然な動きで引っ張られたり弾き飛ばされたり、空振りしたり。
明らかにおかしい動作をしていて、そこを突かれるように怪物からの攻撃を受けてしまっている。
他のぬいぐるみ兵と違ってかなり頑丈みたいだけど、見るからにボロボロになっていく。
『クラッシャー!そいつは歪曲の加護、ベクトル操作でち!』
「相手の加護がわかるの?」
『このモノクルもアーティファクトでち』
便利なものをいっぱい持ってるなぁ。
輪ゴムの銃弾も放たれてはいるみたいだけど、女の加護によって攻撃を逸らされるようだ。
他のぬいぐるみは3体一組になって怪物に対抗しているけど、ライオンが女にかかりきりになって押されつつある。
あぁ……1体が武器ごと腕を千切り飛ばされて一気に押され始めた。
『やっぱりこの頭数だと厳しいでちか!』
「……プランB、ぼくたちも行こう」
「うん! ぬいぐるみさんたちを手伝ってあげなきゃ!」
「おれもいくぜ!」
「あたしもいけるゾ!」
隙をついて突っ切るのは無理だろう。
ぼくたちも加勢する方向に切り替えて、戦えるメンバーが武器を手に車を飛び出す。
「ガルルアアアアアア!」
「うおお……おわぁ!?」
リオーネは鉄輪を振りかぶり、ぬいぐるみ兵を仕留めようとしている怪物に殴りかかる。
ブラッドはライオンに加勢しようと女に剣を振りかぶるものの、突然真横に振り向きながら剣を振って転んだ。
厄介だな、歪曲の加護。
「錬成」
「!?」
カンテラの影を伸ばして女の足元にしのばせると、変形させた地面を絡みつかせる。
こういう小細工には慣れていないのか、女は驚愕の表情を浮かべながら転んだ。
そこにキャンディを振りかぶってライオンが迫るものの、直撃はずらされてしまう。
渾身の一撃の後に出来た隙は大きく、ライオンはまた怪物の一撃を食らった。
厄介な。
「魔力が尽きるまで援護しますわよ!」
「はぁ、はぁ、そろそろ危ないけど!」
「頼むリンクル!」
「やるのじゃ、シャルラート!」
マリークレア率いる後方部隊から魔術が飛び始める。
人間の魔術は有効打とは言い難いけど、目くらまし程度にはなる。
ほんの一瞬怯んだ怪物に、ぬいぐるみ兵の持つ武器が突き刺さった。
精霊たちの攻撃が殺到して1体が倒れ、続けざまにもう1体が倒される。
バリケードの向こうにいるフード達は予備人員なのか、動く様子はない。
凄い勢いで輪ゴムが乱れ飛び、怪物たちの動きを制限する。
徐々にこちらに戦況が傾きつつあるった。
「……ひ、ひいい! なんで、なんでこんな事に! 全てあの疫病神のせいだ!」
奥の方からレヴァンらしき男の声が聞こえる。
反射的に視線を向けると、いるはずの人物の姿がなくなっていた。
「つるつる頭がいないにゃ!」
『あいつはたしか接敵の加護……まずいでち、ガンナー!』
ラフィにつられて狙撃手のいる場所を見る。
そこにはスキンヘッドの男が棍棒を振り切った姿で立っており、狐のぬいぐるみが殴り飛ばされたような姿勢で空中を舞っていた。
「一瞬であそこまで移動した!?」
『視界の中の戦闘中の相手の元に転移できる加護でち!』
攻め限定のショートテレポートみたいなものじゃん、ずるい。
「そっちですわね!」
「ダメ! 恐らく攻撃されることが発動トリガー!」
『正解でち! 遠距離組は攻撃しちゃダメでちよ!』
スキンヘッドに攻撃しようとするマリークレアを慌てて制止した。
言葉の感覚から予想した結果だけど、正解だったようだ。
「もっと早く手札を切っておくべきだった」
ぼくもポケットから小瓶を取り出し、割って身体の中に取り込む。
……やっぱり特に異常とか変化みたいなのは起こらない。
詠唱をして偽典神器を作り出してから、傀儡モードに切り替える。
「ノーチェ、フィリア、本体のことお願い」
「あ、うん」
「今回はサポートに徹してやるにゃ」
変化後の姿を映し出した鏡に触れると、鏡が砕けて意識が幻体に移る。
今回はこのためにシラタマたちにはカンテラの中で控えていてもらったのだ。
後ろから飛んでくるブラウニーのリボンを手で掴み、そのままスキンヘッドに向かって駆け出した。
重力操作のオンオフを繰り返して高くジャンプしながら、建物の上を走る。
「――シッ!」
氷で出来た手槍を投げつけるが、普通に回避された。
次はジャンプしながら氷の大鎌を作り、相手の立つ建物に着地しながら横薙ぎに斬る。
タイミングを合わせて姿勢を低くして斬撃をくぐられてしまう。
「ほう、複数の寵愛を持つとは……流石は竜の娘ですねぇ」
「うぐっ!?」
攻撃を振り切ったところにスキンヘッドによって掌底を打ち込まれた。
痛い、苦しい、息が詰まる。
幻体は普通の肉体よりずっと頑丈だけど、身体機能そのものは人間に近似している。
痛みもあるし呼吸もする、そこをオフにするとまともに動けなくなるから仕方ないんだけど……つらい。
「……くっ! この!」
膝をつきそうになるのを何とか堪えて、手の平から氷の槍を伸ばす。
それを避けたスキンヘッドの不気味な笑顔が迫り、ぼくの顔に拳が向かってくる。
あぶねぇ!
「ふむ、それも寵愛でしょうか。奇妙な子だ」
「酷い言いざまだ……なっ!」
至近距離でぼくが放った拳は奴の手の平で受け流された。
失敗を悟ってすぐにフックにした氷を引っ掛けて床の中に一度潜り、建物の内部を経由して別の場所から屋上に飛び出る。
「鏡から出現すると同時に、竜の娘が気を失った。現れた方は氷を操り、石を潜る……多数の寵愛を操るだけでなく、更には他者の寵愛を失わせる力まで。人どころか神の枠すら超えかねません……星竜の血統というだけでは説明がつきませんね」
ぼくがさっきまでいた場所に棍棒が突き刺さって屋根が砕けていた。
あのままボケっとしていたらまともに食らっていたな。
身体能力任せになった怪物の方がよほど楽に思える。
「半獣といえど同志に迎え入れてもいいくらいだ。いかがですか? 贖罪が果たされた暁には新しい世界で望む全てが手に入りますよ? 共に戦いませんか?」
「贖罪だのなんだの言う割に、随分と俗っぽい勧誘だな」
「ククク、わかりやすいメリットというのは大事なのですよ。どうでしょうか? それだけの力があれば原色も夢ではありません、誰に差別されることも侮られることもなくなりますよ」
……直接話してわかった。
こいつは今の教義が欺瞞であることを理解してる、そのうえで自分に都合がいいから利用しているんだ。
「新しい世界なんて本当に作れるの?」
「勿論……と言いたいところですが、仮に作れなくても奪われた戦争の神の財宝が手に入れば国ひとつ作るくらいは容易いでしょう。いかがですか?」
「魅力がないね」
少し話したくらいだけど、こいつの人となりは理解した。
宗教を隠れ蓑にして自分の欲望を満たすタイプの人間だ。
光神教も源獣教も、歪んでいったのはきっとこういう奴等が入り込んだせいだろう。
忠実な兵隊に、人間を大きく強化する小瓶。
ここに戦争の神の神器が加われば源獣教は大きく力を取り戻すだろう。
それこそ強国であるアルヴェリアですら容易に手を出せないくらいに。
そのために色んな人を巻き込んで、街中を滅茶苦茶に引っ掻き回したのか。
「ククク、残念です。仕方ありませんね、姫君には予定通りに取引材料になっていただきましょうか」
「お断りだ、バーカ」
こんな奴等の思い通りになんて、なってたまるかって話だ。
おおかみメモ
【御使い】
適性を持たない人間が『始源の泥』を取り込んで変異したもの。
白く硬質化した肌を持ち、全身が肥大化する。
アリスは怪物と呼んでいる。
天使、神兵はこの原理を応用し、神の血を人間に注入して作り出される。
適性がないため思考力などは大幅に落ちている。
そのため知っている人間の指示に反応するくらいで、自発的な行動はあまり取らない。
戦闘技術は大幅に落ちてしまうが、その代わり身体能力は大きく向上する。
また"特定の力"を含まない攻撃に対して異常な耐性を持つ。




