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おおかみひめものがたり【WEB版】  作者: とりまる ひよこ。
竜玉は泥に塗れど玉のまま

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始源の泥

「ちっ、厄介な!」

「寵愛を受ける身でありながら我等の使命に応じないなど!」

「そんなものしるカァ!」


 現在、ぼくを中央にして両サイドで戦いが行われている。

 異様に素早い細身のやつはリオーネを前衛にしたDクラスのメンバーが。

 タフそうなゴツいやつはノーチェ率いるしっぽ同盟が。

 それぞれ何とか戦えている、だけど油断はできない。


「『追い詰める光矢(ホーミングアロー)!』 クリフォトさん、人形魔術じゃ不利ですわ! 追尾できる魔術は使えませんの?」

「つ、使えるけど、得意じゃないよ」

「牽制になれば問題ありませんわ!」

「リンクル! 動きを止めて!」


 マリークレアが上手く指揮して、リオーネの邪魔をしないように追尾できる魔術を放っている。

 細身は片手で魔術を払ってはいるものの、無視できるほど硬くはないようだ。

 一方で怪物すら両断するリンクルの攻撃は、意外なことに効果が出ていない。


「――プゥ!」

「リンクルの攻撃が効いてない……」

「ですが一瞬動きは鈍りましたわ!」


 あのゴツいやつもそうだったけど、精霊の力を緩和するアーティファクトか魔道具を持っているのかもしれない。

 複数あるってことは魔道具か。


「細い方は無理だな、第2射放て!」

「チュリリ!」


 ぴょんっと跳ねたシラタマがセットされたレバーを蹴る。

 空から近付いてくる怪物が避けようとするが、風を受けてぐらついたところに砲弾が直撃する。

 そこで着地する程度の知能はないようだ。


「再装填」

「そう好き勝手に!」

「フィリア! 盾で足止めするにゃ! シャオ! 撃ちまくるにゃ!」

「守って!」

「ええい、シャルラート!」


 ぼくに踏み出そうとする男の前に光の盾が作り出され、足を止めた男にシャルラートの水弾が集中する。

 その間にブラウニーが再装填を終えた。

 即席だから装填する度にメキバキ嫌な音がする。


「チィッ!」

「照準合わせ!」


 号令をすると、どいてと言う前にフィリアとシャオが左右に移動して射線を開ける。

 フィリアもようやく戦いの緊張が解けてきたらしい。


「はな」

――バギリ

「ウオオオ!?」


 照準を合わせるために動かしたせいか、凄い音がして留め金が折れた。

 暴発した砲弾がゴツいフードに放たれるが、慌てた男が片腕で殴って軌道を逸らした。

 進路上の外壁を壊して家に刺さる。


「あっぶねぇなクソガキ!」

「強度が足りなかった」

「たぁー!」


 間髪入れずにスフィが風の刃を放つ。

 ゴツいフードは殴った方の腕を庇うようにしながら回避し、音もなく追撃するノーチェから距離を取った。


「フシャア! サンダーエッジ!」

「てやー!」


 どうやら相手は腕を痛めた様子で、ノーチェたちもここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。


「このっ」

「守って!」

「チィ!」


 横打ちだと少し危ないので、留め具だけ修理してから、足元に錬成をかけて引っ掛ける。

 上手く足を引っ掛け、ゴツいフードの動きが止まる。


「『ソードクラッシュ』!」

「『パワーブレイク』ニャ!」

「ぐわあ!?」


 スフィが白光を纏う剣を手に、一回転しながら遠心力を乗せてフードを斬りつける。

 続くノーチェが雷を纏った刀を大上段から振り下ろす。

 そのまま走り抜けたふたりは、フードから距離を取って構えた。


 タイミングを合わせた連撃を食らったフードは斬られた胸元を押さえながら膝をつく。


「くっ、こんなガキどもに……!」

「ブロッツォ!」


 細身の叫ぶ声が背後から聞こえる。


「貰ったぁ!」


 振り返るとこっちに注目した細身の隙をつき、リオーネが殴りかかっているところだった。

 細身は両手で棒を構えてリオーネの強撃を受け流す……が、そこに地面すれすれからブラッドが迫る。


「うおお! 『ジョーブレイク』」

「しまった……ぐあぁ!」


 ブラッドは構えた剣に赤い光をまとわせ、下から真上に半円を描くように振り上げる。

 剣の直撃は身体を反らして避けた細身だったが、剣に沿って描かれた赤い光がジャギジャギに尖り、衝撃波を伴って細身を斬りつけた。


 直撃より威力は落ちるけど、攻撃に伴うオーラにも攻撃する力がある武技か。

 突進系の割に器用な技を……。


 斬られたふたりの傷は深いようで、少し危ない量の血を流している。

 このまま押せば勝ちきれる。


「かくなる上は仕方ありません。ブロッツォ、覚悟を!」

「……ガキ相手にここまで手こずるとはな。負けて死ぬよりゃマシか」


 細身が袖口から小瓶を取り出すと、ゴツい方も同じように懐から小瓶を取り出す。

 フードが持っていた、黒いモノが入った小瓶だ。

 随分と大事そうに持っていたけど、パワーアップアイテムなのか?


「よくわかんないけど、止めたほうがいい!」

「我が名は浅葱のモンド。世界を黒に帰す色を持ち受ける贖罪者にして、主の寵愛の試練に臨む者なり」

「我が名は群青のブロッツォ、世界を黒に帰す色を持ち受ける贖罪者にして、主の寵愛の試練に臨む者なり」


 好きにさせるわけにはいかない。


「シラタマ、フリーズショット!」

「たああ!」

「フシャア!」


 ぼくたちはゴツいやつに集中する。

 シラタマに小さい氷柱を撃ってもらったが、やはり精霊の攻撃は緩和されるのか身を守る腕に何本か突き刺さるだけだった。

 続くスフィたちの攻撃は、出血をものともせず動いて回避する。

 その間に瓶を割り砕いて中身を自らの胸に押し当てた。


「ぐ、ぐぅ……ぐあああああああ!?」

「ひえっ」


 ドクンとここまで聞こえるような心音が響き、ゴツいフードの身体が不自然に膨らむ。

 破裂寸前といった様相にスフィたちが慌てて避難してくる。


「くそぉ、こっちも逃げられた!」

「ぐ、グゥゥゥゴオオオオ!!」

「ぐああああああ! ああ……ぐぅぅう! ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 細身の方も屋根の上で倒れ、悲鳴をあげているようだ。

 全体は見えないが、あり得ない方向に曲がった脚が持ち上がり、不自然に膨らんでいるのが見える。


 謎のアイテムでクリーチャー化するカルティストとか地球だけで十分だよ、転生したファンタジー世界でまで見たくない。


 ゴツい方は目の前で盛り上がった肉が白く変色し、フードの付いた法衣を突き破って複数の腕が生える。

 顔は歪に歪み、一部の歯は肥大化して口から飛び出している。


「ウウ……アあ……」

「にゃ。にゃんだ……こいつ、化物になったにゃ」


 変異が終わったゴツい方は上半身だけやたら肥大化し、背中から大量の手が生える怪物となっていた。

 見た目はともかく、反応はさっきから襲ってくる怪物と同じだ。

 自意識みたいなのは無くなっているようだ。


「……ブロッツォ、やはり寵愛の器足り得ませんでしたか。残念です」


 屋根から飛び降りてきたのは、下半身が白く硬質な馬になった細身のフードだった。

 こっちは形も整っていて意識があるようだ。


「人間の、亜精霊化じゃと?」

「まさか精霊の力を無理矢理取り込んで……」

「我等が源獣より授かった寵愛の力です。『始源の泥(ルトゥム・オリジニス)』、時に新たな寵愛を与え、時に寵愛の力を強める。寵愛の力を受け止めるには、私のように敬虔である必要があるのです」


 ケンタウロスのような姿になった元細身が、手にする棒に白い血管のようなものを走らせる。

 白く硬質な外殻のようなものが先端で槍のように鋭く尖る。


「まずは余計な物から切除しましょう」

「全員で身を守って! 錬成」

「児戯ですね」


 マリークレアたちによる魔術の攻撃を受けているけど、防ぐ様子もない。

 変形させて馬の脚に絡めた道路のブロックを、細身改めケンタウロスはいとも簡単に引きちぎる。

 パワーも耐久力も桁違いにあがってる。


「フッ!」

「きゃああ!?」

「うわぁ!」


 ケンタウロスが手にする棒を一振すると強風が巻きおこる。

 ミリーとルイくんが庇ったものの防ぎきれず、マリークレアたちが道路を転がされる。

 壁への激突はリンクルが防いだみたいだけど、耐えきれたのはリオーネとブラッドか。


「みんな」

「こっちは無事にゃ! フィリア、ナイスにゃ!」

「こ、これくらいしか、できないから」


 しっぽ同盟組はすぐにフィリアが盾を作って耐えたようだ。

 因みにぼくはワラビが風を逸らしてくれたので無事。


「ふむ。加減がわかりませんね……ですがこの力は素晴らしい。同志たる赤のヘイルもこんな気分だったのでしょうか」

「再装填を」

「させませんよ」

「っ!」


 目にも止まらぬ速さでケンタウロスが近づき、バリスタを踏み砕きながら槍をぼくに向かって振るう。


「ヂュリリリ!」

「シャアア!」


 シラタマとブラウニーが間に入り、フカヒレがぼくのコートを噛んで勢いよくノーチェたちの方に引きずっていく。

 まずい、消耗とか言ってられない……。


「ああ、この全能感に酔いしれてしまいそうです!」

「ヂュリリ!」

「シラタマちゃん!」


 飛び上がって蹴ったシラタマが槍で貫かれ、ブラウニーは吹き飛ばされてしまった。

 地面に倒れたシラタマは雪に戻り、ぼくの隣で即座に再顕現する。


「雪の精霊は雪ある限りほぼ不滅ですか」

「ヂュリリリ」


 そうは言っても残り4割、残念ながらエネルギー切れも近い。

 フカヒレは今回は撤退のための戦力だ。


「……戦いなさいブロッツォ!」

「ウオ……オ……」


 ケンタウロスの号令を受けて、佇んでいた巨体の怪物が動き始める。

 そんな姿になることを承知の上でなんとかって物質を取り入れたんだろうか。


「くそ、サンダーエッジ!」

「たぁー!」


 スフィとノーチェの攻撃も、ああなったら通じない。

 強度だけでも怪物以上だ。


「仕方ない」


 誤射の危険があったから嫌だったけど、ビームライフルを取り出そうとポケットの中に手を突っ込む。


「これは守れるでしょうか、ブロッツォ! やりなさい!」

「オオオ」


 巨体の怪物が地面を殴るのと、ぼくが銃をポケットから引きずり出したのはほとんど同時。


「うわっ」

「ふぎゃ……」


 地面がたわみ、跳ねあがる。

 踏ん張れずに打ち上げられたぼくたちに、駆け寄ったケンタウロスが槍を振りかぶる。


「シラタマ盾! ワラビは――」

「守って! キャアアアア!」

「ぬわああああ!? 死にたくないのじゃぁぁぁぁぁぁ……」


 咄嗟に氷塊を作ってくれたシラタマと、盾を出現させたフィリアのおかげで直撃だけは避けられた。

 しかし攻撃に伴う衝撃波までは防げない。

 軽いみんなはそのまま吹き飛ばされてしまう。

 ぼくだけは何かに引っ掴まれて、空中で留まった。


「着地補助!」


 指示が遅れたワラビに、みんなの衝突を防いでほしいと伝える。

 シャルラートも合わせて水のクッションで守ってくれたみたいで、見える範囲で大きな怪我はしていないようだ。

 問題はこっちだ、人の襟首を掴んでぶら下げるケンタウロスを横目で睨む。


「……フカヒレ、離れて」

「シャー! シャー! ギャッ!」


 ぼくを助けようとケンタウロスの脚に噛みついていたフカヒレ。

 ケンタウロスに蹴られるみたいに壁に叩きつけられて、痛そうな悲鳴をあげる。


「うぅ……アリス!」

「アリスをはなすにゃ!」

「みんなも無理しないで……」

「ハハハ、コバエのようですね」


 制止するものの、みんな焦っているのか聞いてくれない。

 ケンタウロスに槍で払われ足で蹴られ、傷ついていく。

 致命傷になりかねない攻撃はシラタマとシャルラートが上手くカットしてくれているけど、消耗は加速する。


 失敗だ、失敗した。

 途中までは危なげなく押せていたのに、人間が怪物になった原因にもっと気を配るべきだった。

 こいつらより強敵相手でも余裕があったから慢心していた。

 本当の意味で余裕があったわけじゃないのに、いつの間にか思い込んでいたのかもしれない。


 謎のラジオが言ってた援軍はいつくるんだ、まだかかるのか。

 ぼくはいいからせめてスフィたちだけでも助けて欲しい。


「アリス待ってて、すぐ助けるから!」

「スフィ、無理しないで、おねがいだから」


 ビームライフルはどこかに転がっていってしまった。

 ポケットにしまいこんだ装備品はぼくじゃ扱いきれないし、今のこいつらに通じるとも思えない。

 服の中を探っても見付かるのは紙に包まれたキャンディとクッキー、あとは呪符が何枚か。


「怪我をしたくなければ大人しくしていなさい」

「シャアア!」

「ええい、鬱陶しい!」

「シャギャッ!?」

「フカヒレちゃん! 大丈夫!?」


 役に立ちそうなものは見つからない。

 あとは……あとは……服についた普通のポケットの中、固いものに指が触れた。

 黒いものが入った小瓶だ、渡す機会がなくてポケットに入れたままだった。


 考えろ。


 援軍はいつくるかわからない。

 小瓶の中身を取り込んでフードのやつらは異形化し、亜精霊に近いものになった。

 やつらの使う単語の『寵愛(フェイバー)』は、世間一般で言う加護とか愛子とかを全部ひっくるめて呼ぶ言葉のようだ。

 亜精霊とは精霊の力を多く宿した物質もしくは生物。

 つまりこの小瓶の中身は精霊の力に近いもの。


「…………」

「アリス!? なにかんがえてるの! ダメ!」

「貴様、その瓶をどこで!? やめろ!」


 不思議と不安はなかった。

 最初に見たときから"懐かしい"と感じていたから。


 ぼくを妨害しようと迫るケンタウロスの腕を、シラタマが掴んで止めた。


「なんだ、腕が!」


 凍りつく腕に焦るケンタウロスの声を聞き流してシラタマと視線を合わせる。

 シラタマはぼくのやることを察して、いつものように大丈夫だと頷いた。


「錬成」


 瓶がふたつに割れ、揺らめく中身が手の平にこぼれ落ちる。


「アリス! だめええええ!」 

「大丈夫」


 スフィたちを静かに見て、抱きしめるようにそっと胸元へ押し当てる。

 これが精霊の力の源流なら、きっと悪さはしないさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勝ったな泥被ってくる
[一言] シラタマがアリスの行動を止めないので安全は確証されましたね、ヨシ! 状況は大ピンチだけど、次はアリス覚醒……つまり、ワイルドウルフに!?
[良い点] さすがワイルドなウルフ。判断が速いし男前!!
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