敵の話
「助かったにゃ」
「でも、なんでここにいるの?」
ノーチェとスフィがリオーネたちに駆け寄る。
「あたしたちも同じ宿にしてもらったんだけど、眠れないからみんなで話してたんダ。アリスたちのとこはダメって言われたからナ。それでミリーも起きてるかなって部屋にいったんだ」
「ミリーが部屋にいなくて、そしたらクリフォトがすげぇでっかい声で『ルイくんが大変だって言ってる気がする』って言い出してよぉ。仕方ないからドアをこじ開けて入ったら……」
「ベッドの下に変な穴が空いていて、あの変な奴らに攫われたんだと思って追いかけたんだ。そしたらこの変な街で迷っちゃって、あの建物に隠れてたらみんなの声が聞こえたんダ!」
「なるほど」
どうやら攫われたミリーを追いかけてきたようだ、誰が開けたのかわからないけど、入口をそのままにしてたのが良かった。
「声のすごくでかい子と派手派手な子もいるゾ」
「あのふたりも来てるんだ」
クリフォトとマリークレアも来ているなら……だいぶ戦力が集まってきたな。
「ちなみに騒ぎになってたりした?」
「いいや、ぜんぜんだな!」
「そのまま飛び込んだから多分まだ誰も気付いてないゾ」
「そっかぁ」
よく考えたらぼくたちよりずっと猪突猛進系のメンバー揃いじゃん。
クリフォトの苦労が偲ばれる。
「こっちの事情は……」
ひとまずこちら側の状況を話し、別行動中のクリフォトとマリークレアとの合流を目指すことになった。
なんでも「まだマシな私たちが周囲を見てきますわ!」ということで、ふたりが様子見に出たらしい。
確かにこのふたりは能力的にも性格的にも偵察は向いてない。
■
強力な前衛メンバーの追加により、戦闘は一気に安定した。
怪物は数が少ないからか姿を現さず、基本的にはゴブリンを倒して回る。
「うー……くさくてわかんない」
「匂いも消えるまで少しかかるからね」
半分消えかかったゴブリンたちの中心でスフィが鼻を押さえる。
幻獣は死体も血も匂いも時間経過で消えるけど、いかんせん倒した奴が消える前に次のが来るのでずっとくさい。
おかげでスフィの鼻も機能していないし、音もゴブリンのものしか聞こえない。
置いて出るわけにいかない、早めに合流できるといいんだけど。
「もうすぐ入ってきたところについちゃうよ?」
「入口の近くにいるのかな」
歩いているうちにステーションの近くまで来ていたようだ。
スフィの言葉で町並みを記憶と突き合わせると、確かに近い。
2個先の道を右に曲がれば見えるはずだ。
「敵が待ち構えているかも、慎重にいこう」
「おれがぶっとばしてやる!」
「ダメだゾ」
ぼくが止める前にリオーネがブラッドの頭を鷲掴みにした。
たすかる。
「ぼくとノーチェで偵察してくる」
「ん、わかったにゃ」
ノーチェと一緒に道を曲がり、ステーションが見える位置までいく。
駅のような建物の入口を押さえるようにフードたちが並んでいる。
厄介な3人も戻っているようで、手当を受けているのが見えた。
「……あいつらにゃ」
「見てない奴らもいる」
いかにも幹部っぽいスキンヘッドがひとり、背の高い女がひとり。
強そうなのが全部で5人に増えてしまった。
「どうするにゃ?」
「できるだけ情報収集したい、集中する。いざという時は引っ張って逃げて」
「わかったにゃ」
目を閉じて音を拾うのに集中する。
完全に集中すると他のことまで気が回らないので、判断を任せられる人間が必要だったのだ。
「ふむ、逃げられてしまいましたか」
「まさか御使いを容易く倒せるとは思いませんでした。命を賭した同志たちにはすまないことをしました」
「星竜の娘、姉の方は愛子だと聞いています。力ある精霊の助力を得られても不思議ではありませんが」
聞き覚えのない男の声は恐らくスキンヘッドのもの、雰囲気からしてリーダー格みたいだ。
「竜のお姫様ってぜったい嘘だろ、土の魔術でキンタマ狙ってきたぞキンタマ!」
「魔術の予兆はありませんでしたし変化は維持されていました、恐らく錬成術でしょう。あんな使い方は初めて見ましたが」
「錬金術師が養い親だったそうですし、使えても不思議ではありませんね」
「……私もリッシュに同意見です、星竜に娘が居るという話は聞いたこともありません。七星騎士が動く前に"ラグナロク"を手に入れなければならないのですよ、我々が揃って子供を追いかける必要などあるのでしょうか?」
男たちの会話の中に女の声が混じる。
これが背の高い女か。
「俺あのチビもう嫌なんだけど。そのラグナロクって剣さえ手に入れれば星竜も一発なんじゃないの?」
「"ラグナロク"は神とそれに連なるモノを討ち滅ぼすとされる剣。一方で星竜は精霊に属する獣、かの剣が通じる可能性は低いでしょう。竜の娘を捕らえる事ができれば星竜に対する切り札になりえます」
「なんであいつらが竜の娘だって言い切れるんだよ、星竜に娘がいるって話だって初めて聞いたし、信じられないんですけど!」
割と聞きたいことを少年が質問してくれている。
そうだもっと突っ込め、知的好奇心を働かせろ。
君はやればできる子だ。
「以前蛇の神が星竜の娘の存在を知り、攫う計画を立てたのです。我々も困窮していましたから、様々な見返りと引き換えに協力することになりました。私自身は後方からの支援でしたから容姿までは知りませんでしたが……」
「それで、なんであいつが"そう"だってわかったんですか?」
「蛇の神がラウド王国のフォーリンゲンで見つけたそうです。痕跡を追えばアルヴェリアを目指していることは明白ですからね、双子で雌の狼人なんてそうそう街中にいません。まさかもう到着しているとは想定外でしたが、あのレヴァンという錬金術師から話を聞いて確信しました。これは僥倖だと思ったのですが……やれやれ、思いの外手強いようだ」
……こいつらも誘拐に関わっていたのか。
「その計画って結局成功したんですか?」
「結果としては失敗ですよ。竜の娘に転送用のアーティファクトを行使するところまではいけたみたいですが、高位存在の思わぬ介入があったようです。蛇の神も感知出来ない状態で大陸のどこかに飛ばされてしまったと聞いています」
「マジならよく忍び込めましたね……」
「光神教の司祭が貴族を引き込んだようです。生還を前提としなければ、侵入くらいなら出来ますよ」
「ハッ、バカなお貴族様もいたもんだ」
「アルヴェリアの全ての貴族が半獣に好意的な訳ではありません。そのうち国を乗っ取られるのではと、危機感を抱いている普人も多いのですよ」
こいつらがぼくたちの事を知っていた理由もだいたいわかった。
確かに「誘拐事件があった」、「失敗して大陸のどこかに飛ばされた」という情報を持っているなら簡単に推測出来る。
「しっかし、娘が目と鼻の先に居るのに星竜は動かないのかよ……ですか?」
「精霊に属する者たちは、直視する以外の方法で存在を認識出来ないという寵愛を受けているようです。蛇の神もフォーリンゲンからの足取りを辿るのに苦労していたようですからね、捕らえて引き渡すことが出来れば大きな貸しを作れるでしょう」
「なるほど……そう考えるとあの錬金術師も間抜けですね。目の前にすんごいお宝が居るのに、その価値に全然気付いていないなんて」
「余計な横槍がなくて結構ではありませんか」
「あとで始末するんだから、横槍も何もねぇと思うんだがなぁ」
「ブロッツォ、滅罪と言いなさい。我々は彼が罪を償う手伝いをするのです」
レヴァンもやはり彼等と同行している様子だ。
だとすると大人が通れる入口も作れるのだろうか、あるいは学院内から外に出る裏通路を使ったのだろうか。
まぁ、どっちでもいい。
「アリス、フードのやつの見回りが近付いてくるにゃ」
「…………」
「アリス、戻るにゃ」
「うん」
ノーチェに袖を引っ張られながら、空中を滑るようにその場を後にする。




