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おおかみひめものがたり【WEB版】  作者: とりまる ひよこ。
竜玉は泥に塗れど玉のまま

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ランナウェイ

 変異したフードたちからは意識を感じない。


「さぁ、この者たちを罰するんだ!」


 他者の指示に従って行動する、まるで神兵……神の走狗だ。

 原理的には亜精霊の発生と同じなのだろうか。


「ぐっ、こいつら、攻撃が効かにゃいぞ!」

「あのときの人そっくりだよ、どうするの!?」

「御使いとなったものたちに普通の攻撃なんて通じないんだよ! 覚悟しろ!」

「じゃあ……これでどうにゃ!」


 ノーチェが太刀に翠色の雷を纏わせてフードの怪物を斬りつける。

 さっきまで斬撃が通らなかった相手の身体に焦げたような切り傷ができた。


「効いたにゃ!」

「むぅぅ、こっちはダメ!」


 捕まえようと迫る手を避けて、スフィが戦場を移動する。


「フィリア、シャオ、ミリーはぼくと同じ場所で防衛。いつでもスフィとノーチェをフォローできるように」

「わわ、わかった」

「任せるのじゃ!」

「でも、このままじゃまた囲まれちゃうよ」


 これだけ派手にドンパチやってるから、玩具たちがこっちに気付いてくれてもおかしくないんだけど……。

 あてにするのは早計か。

 戦えているうちにブラウニーに転がっていった車を取りにいってもらおう。


「おまえらもいつまでかかってるんだよ! 廃棄処分にされたいのか!?」


 無理矢理従わされてる玩具たちを破壊するわけにもいかず、こっちも中々手を出しづらい。

 玩具たちを巻き込まない位置に移動させられたら派手な攻撃も出来るんだけど。


「仕方ない、本体狙いか」

「ぬ、しかしあの者たちを盾にされては撃てぬのじゃ!」

「手はある」


 カンテラの火を灯し、バレないように影を動かす。

 同時に氷の杖を作ってもらい、ゆったりとした動作で杖の先を少年に向けた。


「なにをする気だ?」


 あからさまに警戒するが、ぼくが魔術を使えないことは理解していないのだろうか。

 こっち側の情報を相手がどれだけ持っているのやら。


「頭上注意、当たるといたいぞ。アイスブロック」


 少年の頭上に大きめの白氷の塊を作り出してもらって、そのまま自由落下させる。

 相手の注意が上に向かったところで、バレないように小声で錬成の起動句を唱える。


「こんなの通じるわけがないだろ、色持ちを舐めるな!」


 少年は魔力をまとわせた拳で白氷を弾き飛ばす。

 その踏ん張る脚の間のちょうど中心にあたる位置のブロックを、できるだけ勢いよく隆起させる。


「それで終わン!?」


 ローブの股間部分に綺麗にブロックが入ると、少年は変な声を出して股を押さえて倒れ込んだ。

 通じるかはお試しだったけど、ファウルカップ的なものはつけていなかったようだ。


「こ、ぉ、おま……えぇ……」

「いま楽にしてやる」

「あ、アリスちゃん……」

「のじゃ、どうしたのじゃ?」


 青ざめているのはミリーだけである。

 この痛みは経験がないとわからないよなぁ、だからこそ容赦する気はないんだけど。


「なるほど、集中がそがれると支配が弱まるのか」


 少年が負傷すると目に見えて玩具の動きが鈍った。


「まず玩具の精霊を捕まえる。その子に出入り口を作らせて、まずあのくそがきを送り込む。転移に必要なマーカーを持たせて、そうやって大人が入れない条件を突破した? いや、外で捕まえていたならどこでも送れたはず」


 玩具の精霊たちはここのところ外に出ていないはずだ。

 ってことは玩具を捕まえたんじゃなくて、学院内にある正規ルートを通った。

 子供しか入れないって条件は同じはずだし。


「あの変な鳥が使っていた出入り口の情報は伝わっていると考えれば、あの襲撃はそこから目を逸らすための陽動か」


 玩具の街に目印さえ送り込んでしまえば、追加人員はあとでゆっくりでもいい。

 聖王国側は敵の目的に気付いているんだろうか。


「くそ、なんで急に地面が……うぐ……ちくしょう」

「あ、アリス! 奴がまた動き出すぞ、どうするのじゃ!?」

「いや、だいたいわかった」


 少年は股間を押さえながら根性で立ち上がり、手をこっちに向ける。

 その背後の道路からゆっくりと黒いヒレが浮かび上がってきた。

 念の為フカヒレには潜っていてもらったのだ。


「もう、もう手加減はなしだからな!」

「わかった」


 それなら仕方ない。


「強制服従! ころ」

「フカヒレ」


 亜精霊たちの支配を強めようと鎖の繋がる手に魔力を集める少年。

 その脚に地面から飛び出したフカヒレが食らいついた。

 こいつは上からの攻撃には慣れているようだけど、下の守りはぬるい。


「なっ」

「シャアアア!」

「うわああああああああ!」


 勢いよく引きずられていく少年、鎖が無限に伸びるとは思えない。

 このまま射程範囲外まで連れていってもらおうとしたんだけど……。


「ハァッ!」

「シャーッ」

「ぐおお! い、いってぇ……」

「フカヒレ、戻って」


 大きくジャンプした細身のフードが、フカヒレを狙って長い棒を地面に突き刺す。

 幸い回避したみたいだけど、少年は離してしまった。


「双子の姉の方は愛子だと聞いていましたが、これほどの力を持つ精霊を連れているとは」

「いつつ……わるいモンド、助かった。ブロッツォは?」

「私たちを庇って負傷しました、暫く動けませんね」

「マジかよ……」


 相手のセリフを鵜呑みにするわけじゃないけど、ガタイの良い方も死んではないけど相応のダメージは入っているようだ。


「さっきのサメも支配の鎖がぜんぜん通じなかった、気配はあの玩具どもと大差ないのに」

「最低でも大精霊クラスと見たほうがよさそうです。それよりさっきの一撃でかなり死にました。我々も寵愛の試練を覚悟しなくてはいけません」

「そうかよ……同志の仇は取らせてもらう! 半獣ども!」

「…………これ以上命の奪い合いする前に撤退してほしいんだけど」


 ぼくたちはゲームの雑魚モンスターじゃないんだ、一方的に狩れると思われちゃ困る。

 ただ、仕方ないこととは言えやっぱり人の命を奪うのは最悪の気分だ。

 戦意が萎える。


「ふざけろ! こんだけ殺っておいてそんなのが通じるかよ!」

「たしかにね」


 こうなるから可能な限り殺し合いは避けたいのだ。


「そもそも逃がすわけにはいかないんですよ。星竜に正面から勝てると考えるほど、我々は自惚れてはおりません」

「なんで星竜が関係あるの?」

「それは貴女が一番ご存知でしょう」

「心当たりがないね」


 そういえばやつらの誰かが竜の娘と言っていた。

 ぼくたちのことを把握しているのは間違いない。


「諦めて我々に同行して頂けるのが一番平和なのですが」


 細身のフードは怪物と戦っているスフィとノーチェに視線を送る。

 拮抗しているのはふたりが強いのもあるけど、怪物側にも殺意がないからだろう。


「シンプルにお前たちを信用できない」


 みんなの無事が確定するなら考慮の余地があるけど、こいつらが約束を守るとは思えない。


「なんで呑気に話してんだよ、有利なのはこっちじゃないか! 他のやつらごと叩きのめせばいい!」

「相手は子供といえど寵愛を受けている者たちです、一筋縄では行かないから対話で解決しようとしているんですよ」

「それにお互いに増援待ちしてるんだから、余計なこと言わないほうがいいと思うよ」

「のじゃ!?」


 ぼくが呑気に話しているのも、奴がそれに応じたのもお互いに増援を待っているからだ。

 そして先に到着したのはこっち側だ、キコキコという車を漕ぐ音が近付いてくる。


「こっちのお迎えが先みたい、お話はまたこんど。囲みを抜けるよ」

「かかりなさい!」

「くそ、おまえたち!」


 囲んでいた怪物たちは大人しく言うことを聞いている、多少なり理性みたいなのが残っているのかもしれない。


「ひ、こっちくるななのじゃ!?」


 そのうちの1体がシャオに向かって手を伸ばす。


「フカヒレ、シャオを」

「シャー」

「のぎゃあああ!」


 フカヒレが素早くシャオの脚を噛んで、引きずって怪物から引き離す。

 いやもうちょっと穏便に……。


「アリスあぶない!」

「こっちは平気、自分の身を守って」

「ヂュリリリ」


 今度はこっちに迫る怪物。

 シラタマが飛び上がりながら顔面にあたる部分を足で掴んだ。

 一瞬で地面が白く凍るほどの冷気を発しながら、翼を広げてバク宙するように身体を捻る。

 

「ギュビッ」


 ボギリと音がして怪物の頭部が首元から折れた。

 シラタマは着地と同時に踏み砕き、今度は残った胴体を蹴って粉砕する。


「こいつも情報と違うぞ、雪の小精霊じゃなかったのか!?」


 あそこまで凍らせるのには結構エネルギーがいるらしい。

 今ので使った冷気は2割、1体倒すのに消耗しすぎだってば。


「シラタマは主力なんだから、もう少し長く戦えるように」

「チ゛ュリ゛リ゛」

「ぼくにまでキレないでよ」


 何故かぼくにまでキレながら、シラタマは飛び上がって怪物の頭を蹴って回る。

 頭の一部だけ凍らせながら蹴り砕くという器用な技術を見せつけるように。


 エグい技を使えるようになったなぁ。


「シラタマちゃん、アリスから離れちゃダメ!」

「ヂュビッ」

「こいつらほんとかってぇにゃ!」


 スフィとノーチェが上手く切り抜けながら前に出て、ぼくたちは真横に向かって包囲から抜けた。

 最後に厄介そうな幹部級ふたりに向かい、錬成で足元のブロックを絡みつかせておく。


「待っ……ぐはっ!?」

「これは、足元が!」


 少年の方は見事に転んだが、細身の方は冷静に棒で足に絡みつくブロック材を壊す。

 まぁ時間が稼げればいい。


「追え、追いなさい! ここで逃せばもうチャンスはありません!」


 細身の男の叫ぶ声を聞きながら、横道に飛び込む。

 ちょうど道の先でブラウニーが車を止めて手を振っていた。

 ……西部劇に出てきそうな古めかしいデザインのオープンカーだ。


「色々あるなぁ」

「シャオと女装やろうは後ろにゃ!」

「じょそ……!?」

「ワシは前がいいのじゃ!」

「遠くを攻撃できるのはふたりだけにゃ!」


 ノーチェの指示に従ってテキパキと位置を決めて乗り込んでいく。

 さっきのオープンカーよりはちょっと大きいため、6人でも余裕がある。

 口を挟まなくてもちゃんといい感じにやってくれていた。


「シャオ、最初に怪物がきたら水をぶっぱなして遠ざけて、そしたら再召喚。リンクルは温存でいい」

「わかったのじゃ!」

「わかったよ」


 横からちょっと口出ししながら、シラタマたちを見回す。

 シラタマは6割ちょい、ブラウニーとワラビが4割、フカヒレは9割。

 カンテラのエネルギーは軽めの偽典神器1回分。

 ビームライフルはここじゃ使えないし、派手にやれるのはあと1回か。


「全員乗ったにゃ!」

「ブラウ、よろしく」

「…………!」


 ブラウニーがペダルを漕ぎはじめ、車はどんどん加速する。


「後ろからきてるよ!」

「遠距離攻撃があったらフィリアが盾を高めに。まずそうならシャルラートが出来るだけ節約しながら迎撃」

「分かったのじゃ!」

「が、がんばってみる!」


 あの怪物はいつぞやの神兵とかと同じで、普通の攻撃が殆ど効かないみたいだ。

 通るのは精霊の攻撃か大火力の一撃……ぼくたちだとちょっと厳しいな。


 精霊たちの力が残っているうちに逃げ切れるといいんだけども。


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― 新着の感想 ―
[一言] あそっか、乗り物使えばフィリアは移動しながら盾出せるのか。
[一言] 男女平等金的(ただしダメージは男の方がデカい 戦闘力は低いアリスだけど、指揮能力はそれなりに高い。 適材適所やね。
[一言] 金的攻撃!そう、ここはルール無用の真剣勝負…
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