フラグ
魔道具学科から連れ出されたあと、あの怪しげな連中に近づいてはいけないと護衛たちから説得された。
翌日護衛たちの誤解だと呆れながら学院に行くと、惨劇が起こっていた。
「ア……アァ……ア」
「ダマサ……レルナ……」
「オレハ……ニンゲ……タスケ……」
随分とざわついている人だかりを見に行くと……。
彼らの視線の先、個別授業をおこなうための講義室に続く回廊の一部が、哀れな成れの果てのオブジェによって飾り立てられていた。
何かの事件のはじまりにしか見えない。
「にゃんだ、あれ……」
「ひ、ひう」
スフィがぼくに抱きつき、すぐ横ではフィリアとシャオが震えながら抱き合っている。
しっぽの毛を膨らませたノーチェが護身用の短剣を引き抜こうとするのを止める。
「だいじょうぶ、あれは魔術的に作り出された疑似生物。改造人工スライムみたいなもの」
「アリス、なにか知ってるの?」
「魔道具学科の助教授が増産してるナレハテくんだよ」
「もうそこに近づいちゃダメだからね、お姉ちゃん命令だから」
スフィが真顔だ。
昨日話したときは「ああ、いつもの錬金術師ね」みたいな反応だったのに……。
さようなら魔道具学科。
「文化祭の飾り付けだって」
「魔道具学の助教授の仕業か」
「ここ数年は大人しかったのに……」
人だかりの中には事情を知っている人もいるのか、封印されていた怪物が解き放たれたみたいな会話が行われている。
「学問はぁぁぁ、理解なき弾圧には屈しませんからぁ~~~!!」
片付けにきた錬金術師に向かって吠える助教授の声を聞き流しながら、ぼくたちは自分たちの教室へと向かう。
こういうのって、学園モノのアニメ作品にでてくる生徒たちのお化け屋敷的なポジションなのかな。
■
子どもの噂は巡るのが早い。
「ナレハテ廊下って知ってる?」
「講義棟の通路にあるやつだろ」
闘争の末、ナレハテくんたちは講義棟にある使われていない通路に展示されることになったらしい。
古い建物だからそういった死角は沢山あるみたいで、変に表に出されるよりは場所を与えて大人しくさせようとしたのだろう。
かくして正式に許可を得たマッドは喜々としておぞましい空間を作り上げ、放課後には生徒たちにその空間の存在が知れ渡っていた。
「たまに人が行方不明になるって」
「昔から何人もいなくなってるらしいよ」
「人がいなくなるたびにナレハテくんの数が増えるんだって」
放課後のラウンジではナレハテくんの話題で持ちきりだ。
きっと例の助教授も成仏していることだろう。
「たった数時間でこれとは」
「すごかったもん、あれ」
壁にずらっと並べられたナレハテくんたち。
そのインパクトがよほど凄かったためか、お昼の食堂で一気に広まったようだ。
「おもいだすだけで鳥肌すごいよ……なんでアリスちゃんは平気なの?」
「うーん……」
前世でそこそこ見慣れてるというか、多少のスプラッタなら耐えると言うか。
「アリス、ああいうの得意だよね」
「得意じゃないし、ぼくも怖いし」
気持ち悪いし、すぐ回れ右するくらいには怖いよ。
パニックを起こすほどじゃないってだけだ。
「思い出したくないし、楽しい話するにゃ」
「そうじゃな……わしも思い出したくない」
「文化祭どう回るかって話とか?」
ノーチェの発言に乗っかってナレハテくんから強引に話題を切り替える。
文化祭は学生たちが勉強や研究の成果を発表する学校単位の小さなお祭りで、年末に行われる星祭の前哨戦だ。
よく出来た研究はそのまま本番である星祭の品評会に出されることになる。
そのため、高学年になるほど本気で発表内容を考えている。
とはいえ基本的にはお祭りムードを盛り上げるための前夜祭の一種なので、楽しい催しも多いそうだ。
12月のはじめに文化祭、中旬に前夜祭がはじまり、年の瀬から年明けまでが本番。
毎年行われる"星鱗祭"だと規模感はもっと小さい。
でも7年に一度の"星竜祭"は、国を上げての大騒ぎになる。
「出し物リストのなかで何か気になるのあった?」
一応各学科とクラスごとの文化祭の出し物の予定は既に出ていたっけ。
本館の大掲示板に貼ってあったものを思い出しながら話す。
「うーん、なんか小難しいのばっかりなんだよにゃ」
「まぁ文化系の催しだしね……」
主に研究成果の発表なので、興味ない人間からするとこういった反応になるのか。
家であまり文化祭の話が出なかったのは、そのせいかもしれない。
「スフィはぬいぐるみとか見たいかも」
「あ、それ私も気になってた……」
スフィたちはどこかのクラスがやるらしい、ぬいぐるみデザインの展示が気になっているみたいだ。
ぬいぐるみへのトラウマは払拭されてるし、ぼくも見に行ってもいいかもしれない。
「……………………」
…………なんかブラウニーがぼくをじっと見ている気がする。
「冶金学科で武器とか防具の展示をやるみたいだけど」
「お、それなら見てみたいにゃ」
錬金術系の研究室でもなんらかの展示をやるらしい。
ぼく自身も興味はあるし、見て回るとしたらそっちだろう。
「あとはねー、劇とか、演奏会とか」
「アクセサリーの展示会も気になるのじゃ」
こうして話し合うと意外と選択肢が多い。
「どうせ騒動は起きるにゃ、武器の場所は知っておいたほうがいいにゃ」
「ノーチェがすれてしまった……」
一周回って達観というか、覚悟完了してるというか。
「こ、今回は外部の人は招待なしじゃ入れないらしいし……」
何とかフォローの言葉を絞り出してみるものの、つい先日されたばかりの忠告が頭をよぎる。
以前聞いた話だと、レヴァンという錬金術師はローディアスの実家の手駒みたいだし。
「疑わしい人物はマークされてるし」
「だといいんだけどにゃあ」
「ねー」
当然ながら彼はマークされている。
夜梟の団長さんが何とかして聖王様に話を通してくれるそうだし、上手く行けば警備は強化されるだろう。
そもそも彼のターゲットはぼくたちじゃない訳だし。
「みんなこんにちは!」
「あら、みなさん御機嫌よう!」
ものすごい大きな声と負けじと張られた声に振り返ると、クリフォトとマリークレアがこっちに向かってきていた。
その後ろにはルークとミリーの姿もある、クラスを超えたいつものメンバー感がすごい。
「ターゲットの側にいなければそうそう巻き込まれないと思う」
「おまえそのターゲットを前によく言えたにゃ」
「へ? 何? 何の話?」
ミリーを見ながらはじまったぼくとノーチェの会話に、当の本人は何事かと眼を瞬かせた。
「ミリーに危険が迫っているって話」
「え!?」
散々狙われてるのに驚くってことは、前回ので一段落したと思っていたんだろうな。
わざわざ忠告してくるなんて、裏で何かしらの動きがあった証拠だ。
巻き込まれて利用された以上は無関係って訳でもないし、クラスメイトを見捨てるのもなんか違う。
あの嫌味な錬金術師もむかつくし、いっそ迎え撃つのも悪くないかも。
「文化祭で何か騒動起こるかもって」
「さ、さすがにないでしょ」
ぼくの言葉を受けてミリーが頬を引きつらせる。
「手引された武装集団が襲撃してきて……」
「それはやったばかりにゃ」
「それを生徒で協力して迎撃する」
「派手ですわね、気に入りましたわ!」
「流石に先生たちが阻止するだろう……」
所詮はぼくの妄想話だ。
マリークレアは気に入ってくれたが、ルークもミリーも呆れたような態度を取る。
普通に考えたらそんなことは起こらないって言いたいんだろう。
わかる。
流石に警備も厳重の上に厳重を重ねるだろうし、教員側の警戒も強い。
騒動が起こるにしても、武装集団の侵入なんて許すはずがない。
でも敢えて言わせてもらおう。
――連続する騒動の流れならありうるね!




