風渡り秋に先駆け雪の庭
アヴァロンでも秋を感じさせるような肌寒い風が吹き始めたある日のこと。
「チュピピ! チュリリ! チピィ!」
「シラタマちゃんどうしたの!?」
リビングに入るなり、テーブルの上で羽をばたつかせてのたうち回っているシラタマを見て、スフィが心配そうに悲鳴をあげた。
「大丈夫? どこかいたいの?」
「チュリリリ!」
「ダンスの練習だって」
シラタマはラオフェンの大使館で何かに触発されたようで、家の中でこっそりダンスの練習をはじめていた。
毒か何かで苦しんでいるようにしか見えないけど、本人的には真剣にやっている。
「えー……?」
納得したようなそうでもないような微妙な反応をしながら、スフィが隣に腰掛ける。
肩をくっつけながらソファの背もたれに体重を預けて、手に持っていた論文をめくる。
「アリスはなに読んでるの?」
「積層型魔術式の圧縮についての新解釈」
「おもしろい?」
「ごみ」
自分ならこうする、自分のほうが効率的にできるっていう根拠のない自慢が書かれてる。実際に構築した実験データとかはない。
どうしてこれが通ってぼくの論文が通らないんだ、世の中間違ってる。
「チュリリリ!」
一通り読み終えた論文を閉じて、ため息まじりにテーブルの上に放り出す。
その上をシラタマがばたつきながら転がっていった。
■
「アリスちゃん! アリスちゃん!」
「アリス大変にゃ! シラタマが!」
今度は慌てた様子でノーチェとフィリアがリビングに飛び込んできた。
「どうしたの?」
シラタマはひとしきりのダンスを終えてぼくの頭の上で満足そうにしている。
「……あれ?」
その姿を見て、ふたりが不思議そうに首を傾げた。
「シラタマがたくさんいるのじゃ!?」
とりあえず庭から聞こえてきたシャオの声で、何かが起こっていることだけはわかった。
スフィと顔を見合わせてから、みんなで一緒に庭に出る。
何があったのかとシャオの姿を探すと、彼女が見つめている庭の一角で雪が積もっていた。
庭の奥側にある池の近くだ、木も雪で真っ白に……。
「ひっ」
「!?」
木の上の方に視線を向けた瞬間、葉の少なくなった枝の上に積もる雪がうごめいた。
突然の事態にびっくりしてスフィと抱き合いつつ、目を凝らす。
雪かとおもったら違う、枝の上に白い小鳥がびっしりと止まっていたから雪が積もっているように見えた。
鳥が固まっている一角の地面に積もっているのは本当の雪のようで、空気が冷えきって湯気のようなものが漂っている。
「……何あれ」
「さっき外出たらああなってたにゃ、シラタマがめっちゃ増えたと思ったにゃ」
「チピィ……」
頭の上でシラタマが呆れたような声を出した。確かに白くて丸いシマエナガのような鳥はシラタマにそっくりだけど、よく見ると羽の色が違う。
シラタマの羽は鮮やかな水色から青のグラデーション。小鳥たちは薄いパステルブルーや緑、赤と色とりどりだ。
「チュリリ」
「……あれ、雪の精霊。ついてきちゃったって」
「おぉー」
永久氷穴で産まれたシラタマの眷属で、秋から冬に合わせてシラタマを追って渡って来てしまったようだ。
ぎゅうぎゅう状態で身を乗り出してぼくを見ていた鳥の一部が、押し出されるように地面へ落ちた。
危ないと思ったけれど、雪が落ちるようにふんわりと地面に着地した。地面に積もる雪の上からじっとこちらを見てくる。
視線を感じてちょっと居心地が悪い。
「雪の精霊さんたち、シラタマちゃんに会いに来たの?」
「……シラタマ、あそこだけ雪積もってるんだけどもしかして」
「チュピ」
精霊の領域になってないかという疑問に肯定の意を示された。
「会いに来たんじゃなくて、引っ越してきたみたい」
それも無許可で。
ぼくの与り知らないところで精霊屋敷っぷりが加速していく。
■
「チュリリリ」
「チュピピ」
「チチッ」
精霊たちが集まっている一角に近づくと、シラタマがあちら側の要望を通訳してくれた。
『いい子にするから近くに住ませて』
簡単に言うとこのような内容。
精霊なら食事はいらないし、庭の片隅に住むくらいなら強く否定するのも可哀想だと思った。シラタマの身内みたいなものならいいか。
「庭の一部なら住んでもいいよ。あとはスフィたちと喧嘩しないこと、引っ越す時はついてきて貰う」
「チュピィ!」
小鳥たちにそう答えると、全員羽をぱたぱたさせて飛び跳ねながら大喜びになった。引っ越しの同行も大丈夫らしい。
「よろしくね!」
「おう、よろしくにゃ」
「チュピピ」
問題はスフィたちと仲良く出来るかだったけど、割と好意的な反応を見る限り大丈夫そうだった。
シラタマの人間嫌いもかなり丸くなってるようだし、眷属もその影響を受けているのかもしれない。
「しかし大丈夫かのう」
「共存するなら囲いかなんかで境界線をはっきりさせたいね、あとは夏場をどうするか……」
「いや、そうでなくてのう」
柵か何かで雪の精霊用のスペースを区切ろうか考えていると、シャオがそうではないと溜息を吐いた。
「雪の精霊といえば、その愛らしさからひと目見たいと死の雪原に挑むものもおる。ラオフェンから見ても永久氷穴は近いからのう、パナディアからその姿が伝わって木彫りやぬいぐるみが作られ人気となっておった」
元から精霊との親和性が高いラオフェンでも雪の精霊の人気が浸透するのは早かったらしい。
「どう考えても目立ちまくる気がするのじゃが」
「気のせいじゃないね、きっと」
あの子達には悪いけど、できるだけ庭の奥まったところに移動して貰うことになりそうだ。
何はともあれ……寒くなってきた秋の入り、登校日を目前にしてぼくたちの家に新しい同居人が増えた。
閑話な感じなのでここで




