アヴァロンでの日々
「このあたりにゃ?」
「かなぁ」
「それにしても広い街なのじゃ」
アヴァロンは広い。
第8地区だけでも他の国の街ひとつ分くらいはある。
それが外周だけでも9区画、少し小さいけど行政と商業合わせて4区、更に一回り小さい貴族街で2区。
なんでも外周第9地区……外周9区から外周1区まで大人の徒歩で丸1日かかるという。
「これ、移動大変なんじゃにゃいか?」
「なんか、地竜便っていうのを作ってるらしい」
飛空石を利用した大規模輸送用大型魔道具。
実物を見たことはないけど、錬金術師ギルドでちらっと見た記事を見るに列車って言葉が一番しっくりくる。
専用道路に置き、それを地竜に引かせることで都市内を高速で移動できるシステム。
まだまだ試験運用中で一般には解放されてないけど、国内移動も便利になるんじゃないだろうか。
「ほえー」
「なんだかすごい街だにゃ……」
錬金術師の本部を抱える国は伊達じゃないというべきか。
おじいちゃんの研究物を実用化させた帝国の錬金術もすごいと思ったけど、アルヴェリアはなんというか"一歩進んでる"。
「このへんはなんか、田舎?」
「ねー」
「長閑ね」
確かに緑が多くて、人気がなくて静かだ。
家屋は一軒家や2階建てのアパルトメントばかり。
ここに来る途中で衛兵の詰め所があったし……。
「菓子屋いこーぜ!」
「うん!」
「待ってよー!」
普人族の子どもが呑気に走って行く姿もある。
総合的に見て治安も良さそうだ。
「菓子屋、あるのじゃ?」
「やっぱりお菓子屋さんだったんだ!」
道中で妙にスフィが匂いを嗅いでると思えば、近くに子ども向けの焼菓子でも売ってる店があるらしい。
帰りで散策すればいいと思う。
「それより、早めに済ませないと宿探す時間なくなるかも」
「それもそうだにゃ、見て回るにゃ!」
「空いてるのってどれ?」
「そりゃー……どれにゃ?」
「空き物件って書かれてる看板があるやつ」
普通に住むだけなら適当なアパートでも借りればいいけど、できれば工房のついた家が欲しい。
最悪404アパートのパソコン部屋を工房にするって手もあるけど、余所から見た時に工房を持ってないと不審に思われる。
長く商売をやるなら、遺跡から発掘したって手は使えないし。
だから工房にできそうなスペースのある一軒家がいいんだけど……。
「アリス、このお家かわいい」
「機能性が無い」
スフィが指差すのはこじんまりとした、おとぎ話に出てきそうな小屋だ。
地球で言うところのデザイナー物件ってやつだ、ネットでネタにされてるのを見たことがある。
「にゃんか含みのある同意だったにゃ?」
「今のはわしでもわかったのじゃ」
「アリスちゃん、そういうとこ変に器用だよね」
察してるなら静かに汲み取ってほしい。
「かわいいのに……」
「眺めるだけならね」
こういうのは庭の離れとして使うのが精々だ。
「ふむ、ではあちらの屋敷はどうなのじゃ?」
「大きすぎ」
シャオが指差すのはでっかい住宅地の中でもひときわ大きな"お屋敷"だ。
建てられてから結構経っていそうだけど、子ども5人で使うには大きすぎる。
「おおかた破産した商人の使っていた屋敷だろうけど、縁起も悪い」
「なんでそんなのわかるにゃ?」
「ん」
見えている庭に置かれている家財、そこの表面に札みたいなものが貼られている。
「あれ、たぶん差し押さえ札。そんなのが貼られた家財が庭に出てるし、絶賛回収され中でしょ」
「あの、そもそも空き家の看板ないよ?」
フィリアの言う通り、空き家になっている最中であってまだ空き家じゃない。
「なんじゃ……あれならそこそこ広い部屋が使えると思ったのじゃが」
「変なところでお嬢様ぶるんじゃないにゃ」
「ぼくは狭いほうが落ち着く」
「スフィも」
「おまえらは寝床が広くてもひっついてるもんにゃ」
狼の習性なのか本能なのか、広々とした寝床よりも固まって寝るほうが落ち着くんだよね。
ひとりで仮眠室に居た時に安眠できなかったのも、たぶんそれが原因のひとつだ。
「じゃあ、あれとか?」
「……いい目の付け所」
次に物件に目をつけたのはフィリア。
住宅地の端の方だけど、納屋のようなものが併設された小さな1階建ての一軒家。
見た目は結構ボロいけど、庭もあるし修理すれば十分使える。
「……ボロすぎにゃいか?」
「ボロボロなのじゃ」
「かわいくない」
3人の感想は順当なところではあるけどね。
「リフォームすればいい」
「リフォームって、おぬしら大工仕事なんてできるのじゃ?」
「あたしは出来にゃい」
「スフィも」
そりゃ大工仕事できるメンバーは居ないけど、重要なことを忘れてる。
「ぼくは錬金術師、建築技術はないけど補強と修理くらいはできる。あと建築学部から人を引っ張れる」
「……そんな事もできるのじゃな」
「たまに忘れかけるけど、錬金術師ってすげーんだにゃ……」
万能とまでは言わないけど、人よりも出来ることが多いのが錬金術師だ。
1から家を建てろと言われても困るけど、既に建っている家を直せっていうならなんとでもなるのだ。
「第一候補で、次いこ」
「おー!」
日も傾いてきたし、ひとまず目星だけでもつけて回るためぼくたちは住宅街を歩き回った。
家探しの話は漫画や動画で見たことがあるけれど、こっちには不動産屋みたいにリストを作って丁寧に案内してくれる店はない。
自分で目星をつけ、仲介してもらった上で持ち主と交渉しなきゃいけないのだ。
扱い的には国が保有している土地で、居住権の譲渡や貸し借りって形式になるらしい。
そのせいで不動産系は商売としては使いにくいのだそうだ、居住権を得るにあたって役所の審査が必要だから。
審査については正規の錬金術師ってだけでほぼパスできるのが幸いだった。
■
「暗くなってきちゃったね」
「もう日暮れにゃ」
時折奇異の目を向けられつつ、物件探しは終わりの時間となった。
山側から昇った太陽が港の方へ沈んでいく。
「外周1区の高台から見ると、海の向こうに沈んでいく夕日が綺麗なんだって」
「ほー」
地図的には北海だけど、波も穏やかで夏場は海水浴にも適してるらしい。
その代わり冬場は流氷も流れ着くそうだけど、もう時期は過ぎている。
今はまだ海風が冷たそうだし、暖かくなったらみんなで遊びに行きたい。
結局パナディアやシーラングでは海遊びできなかったし。
「あっちこっちに立ってる棒が光ってきたにゃ」
「やっぱり、アヴァロンって明るいね」
「魔道具の照明が潤沢」
ノーチェの言う『あっちこっちの棒』っていうのは、いわゆる街灯のたぐいだ。
魔術式の光度計でも組み込まれてるのかな、エネルギー源はなんだろう。
気になるけど流石に分解するわけにもいかない。
「構造調べてみたい」
「よーしスフィ、絶対にあの棒に近づくにゃよ」
「わかってる!」
「やらないって」
飛竜船のときもそうだけど、ぼくをなんだと思ってるんだ。
調べるならギルドの資料室で調べるって。
「いい匂いなのじゃ」
「ごはんの匂いだ」
たしか、山から引いた綺麗な水の流れる上水道が街中に張り巡らされてるんだっけ。
水が使いやすいので、自宅で料理をする人も多いみたいだ。
もちろん外周区に到るまで下水だって完備されている。
大通りを馬車が行き交ってるのに道が綺麗で匂いがほぼないのも、それが理由らしい。
おかげで夕暮れの風に乗って流れてくる料理の匂いが胃を刺激する。
「アヴァロン料理は煮込むものが多いんだって」
「へー」
「夕飯はそれにするにゃ、屋台の串焼きばっかで今までと代わり映えがないにゃ」
「たしかに」
せっかくアヴァロンに来たのに、こっちに来てから食べたのは外周8区の安めの串焼きばっかりだ。
宿のセキュリティ的に覗かれる不安があるから404アパートも使えてないし。
「お風呂も入りたいよねー」
「私も……」
特にスフィとフィリアはお風呂を使えないことに不満を感じている。
水が豊富だから身体や髪の毛を拭くくらいなら、あちこちの水場で気楽にやれるんだけどね。
できれば早く住む家を見つけたいところだけど……。
「めぼしい物件はいくつかあったけど、決め手にかけるんだよね」
歩き回った結果として、フィリアが見つけた物件以外にもいくつか目ぼしい家はあった。
ただ奥まった場所すぎたり、よく見るとボロ過ぎて建て直したほうが早かったりと、問題がある場所も多かった。
そういった家を除外してリストアップして、仲介してもらわないといけない。
「やっぱ、暫くは宿暮らしになりそう」
「んじゃせめて良い宿探すにゃ!」
「おー!」
みんなにあまり不便をかけたくない。
やっぱり錬金術師ギルドから仕事貰うかなぁ。
みんなが街中を駆け回る依頼受けるなら、どうせ待機時間は暇だし。




