プロローグ
初夏の陽気と聞き飽きた蝉の声が夏本番を感じさせる7月。
俺は、何をするでもなくただぼさぁっと自室の机の前に座っていた。
今思い返せば、こんなことをしていないでもっと現代科学のありがたさを味わっておけばよかった、
と後悔する。
俺は武弓飛鳥高校1年生。
得意教科は数学で苦手なのは英語。
中学の頃からバスケをしているが飛び抜けて上手い訳でもない。
家庭は貧しい訳でもなく物凄い名家なわけでもなかったが、
両親と3つ年上の兄と1つ年下の妹の5人で何不自由なく生活していた。
なんの取り柄もない平凡な高校生...だった。
そう、あの日から俺の人生は狂いだしていったのだ。
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西の山の裏に日が沈み、何ということもない一日が終わろうとしていた。
俺はいつものように夕飯を平らげ、いつものように床についた。
こんな日常がずっと続くと思っていた。
そして、こんな何気ない日常が好きだった。
目を閉じて数時間が経った。
俺は焦げ臭い匂いで起こされた。
目を覚ますとそこにはあたり一面の火の海が広がっていた。
後に聞いた話によると、夜中に放火があったらしい。
俺の家族は全員死亡が確認され、テレビでも取り上げられたそうだ。
体中が火に巻かれ、感覚が麻痺してもはや熱さも感じなくなっていた。
頭上から天井が焼け落ちてくる。
俺はその瞬間、死を悟った。
俺の意識はそこで途絶えた。
何時間が経ったのだろう。
気が付くと俺は見たことのない天井を見上げていた。