イクサロイド ノブ
──ピンポーン!
「後藤さーん!!」
一人ツイスターをしながらカップラーメンを啜っていると、外から宅配の声が聞こえてきた。
「おっ! オセクスが帰ってきたか!!」
急いで玄関のドアを開けると、そこには宅配のお兄さんが飛び切りの笑顔で立っていた。
「あ、後藤さんですね!? ハンコかサインか行ってきますのチューをお願いします」
「は?」
コイツはとち狂ってるのかと冷ややかな眼差しを送りつつ、適当なサインで宅配のお兄さんに帰って頂く。
「毎度ありがとう御座いまーす!」
「…………」
玄関に置かれた大きめの段ボール。中身は今世間でまことしやかに囁かれているセクサロイドである。先日修理に出してようやく戻ってきたのだ。
パーフェクトに俺好みな体型と性格のセクサロイドを、調教に調教に調教に調教を重ねて調教した、超!パーフェクトセクサロイド!! その名も──オセクス!!
しかーし……調教のし過ぎで思考回路がショートしてしまってな……まさかメーカーさんに怒られるとは思ってなかったぞい。
(性なる)好奇心が旺盛過ぎて健全な男子としては、やらざるを得なかったのだ。仕方なかろう?
「う、相変わらず重いな……」
普段運動しないメタボチックな俺にとって、段ボール一つでも中々の重労働でハードワークなのだ。
「へへ、どれどれ。早速オセクス様に御降臨頂くとするか…………」
自分好みの体を注文できるセクサロイドサービスは、密かなブームメントとなっており、流行りに敏感な今時B♂Yは皆、そのビッグウェーブに乗りまくってやりまくっている。仕方なかろう?
──パカッ
そして、段ボールを開けると、そこにはプリンセスな手品師もビックリなイリュージョンなポーズで、鎧兜を纏ったヒゲのオヤジが入っていた。
「……誰? あ、うん、なんかどっかで見たことある顔だな……」
確か歴史の教科書で……あ! 織田さん家の信長クンだ!!
「#fuok4545/R-17.99TiNP……『イクサロイド ノブ』起動開始……戦じゃーーーー!!!!」
──ブォォォォ!!!!
「──!?」
かなり気合の入った挨拶と突然鳴り出したホラ貝音に、俺は度肝を抜かれた! オヤジは箱から「ぬんっ!」と飛び出ると、俺の部屋をジロジロと見回し始めた。
むっちり巨乳のオセクスが入っていると思ったら、妙なオヤジがinしてやがるとは……!! 何故こうなったのかは分からないが、これはない!
「……ウソやろ?」
慌てて箱の中をチェックする。
「!」
メーカーから一緒に送られてきた書類には、とんでもない事が書かれていた……。
【なんか、あちこち壊れてて直しきれないから、それまで代わりの奴で何とかしててちょー】
「いやいやいやいや! 代わりって言っても流石にやらかし過ぎだろ!? だいたい何とかってなんだよ! 何ともしよーがねぇぞ!?」
「おい小僧! さっきから何をブツブツとのたまっておるのだ!?」
後ろでちょっとしたミステイクが、俺を見ている。
「……よし、お前については飯の続きを終わらせてから考えるとする」
俺は今の今まで放置していたカップラーメンに手を着けた。すると、イクサロイド野郎のノブが俺の箸を横から奪いやがった。
「……戦の気配がする」
「……は?」
──ガチャ!!
「まーくん!!」
「あ、ユリ姉」
一人暮らしの狼の家に土足で上がり込んできたのは、×つ年上のユリ姉だった。幼い頃から近所に住んでいる人で、俺が一人暮らしを始めてからも、こうやってちょくちょく遊びにやってくる奇特な人だ。
「この織田信長は?」
「淫乱セクサロイドの代わり」
「……ちょっと何言ってるか分からない」
「……俺も」
二人の間に、気まずい空気が流れる。
「それより! 近所のスーパーでタイムサービスがあるから手伝って!!」
ユリ姉がその場駆け足で俺を急かす。頼むから靴は脱いで欲しい。さっきから砂が部屋に散らかってる。
「戦じゃな?」
「そう! 主婦の戦場よ!」
メラメラと燃えるユリ姉に抗う術など端から持ち合わせていない俺は、近所のスーパーへとお供せざるを得なかった……。
「ここが戦場か……」
「コイツ……要る?」
「お一人様一つまでなの」
「あ、そう……」
俺とユリ姉とイクサロイドのノブが既に人でごった返しているスーパーへと足を踏み入れた。
「ただ今より! タイムサービスを開始致します! 本日は豚肉1kgがなんと100円です!! お一人様一つまでですので、早い者勝ちとなっております!!」
丁度店内ではタイムサービスが始まった所であり、ワゴンの周りには凄まじい人集りが出来ていた。
「いざ……出陣じゃー!!!!」
──ブォォォォ!!!!
ノブが人集りへと単騎突入を仕掛ける。
「おー頑張れー」
俺は適当に手を振った。
「どきなさい!!」
──ゲシッ!
しかしノブはあっという間にオバチャンに弾き返され、尻餅をついてしまった。
「人生50年……」
「おいおいこんな所で死ぬな死ぬな」
俺はノブを起こし、再び立ち向かわせる。
「イクサロイドとやらの力を見せてやれ」
「暴力はいかんでござる」
「暴虐の化身みたいな姿で何を言うかコイツ……」
どうやらイクサロイドとやらは見掛け倒しのようなので、俺は仕方なく凄まじい勢いで荒れ狂う人の海の中へと突入を決める事にした。
「鉄砲隊、三段に構えよ!!」
「はいはい、お前は一番後ろで踊ってろ」
俺はラグビーの選手の如く凄まじい勢いで隙間へと体をねじ込み、中へと侵入を開始した!
グイグイと体を捻じ込んでいき、ついにワゴンに手が届きそうな場所へと陣取る事が出来た。
「あと……少し……!」
しかし、ワゴンの前に三人のオッサンが陣取っており、肉を取ることが出来そうで出来ないでいた。
「ふふん。貴様にこの肉はやらん……!!」
「この肉は我々が全て頂くのだ!」
「そう、我ら小早川三兄弟が──!!」
変なオッサンが腰に手を当てワゴンの前でアホムーブメントをぶっかましている。営業妨害か?
「おいノブ、お前の仲間か?」
「知らぬ。だが任せよ」
ノブは気合で人混みへと紛れると、小早川三兄弟とやらに何かを渡し戻ってきた。
「何したんだ?」
「平蜘蛛を渡したのだ」
「……平蜘蛛?」
「これくらいの、小さい何かじゃ」
と、ノブは手で小さい何かを指し示した。
「……で?」
「きっと今頃奴らは平蜘蛛をケツにしまっておる。故に平蜘蛛には爆破機能を付けた。後はボタン一つで本能寺の如く吹き飛ぶぞい!」
「……本能寺って吹き飛んでたっけ?」
ワゴンの方を見ると、最前列で小早川三兄弟が青ざめていた。どうやら本当にケツに入れたらしい。アホ?
「兄者! ワシはまだ死にとうない!!」
「ワシもじゃたわけ!!」
「何故近所のスーパーで爆死せねばならないのか!!」
小早川三兄弟が酷く狼狽えている。
「兄者ーーーー!!!!」
……
…………
………………
「あー!! もう無理!! 書けん!!!!」
──ダッ!
「あ! 先生が逃げたぞ! 捕まえろ!!」
机に縛り付けていたしいたけ先生が、スルリと縄を抜けて駆けだした! しかし直ぐに部下が捕まえ、今度は椅子に番線で縛り付ける。
「うおぉぉぉぉ!!!! もう書けない!!!! 書けないぞーーーーー!!!!」
「編集長! しいたけ先生狂っちまいましたぜ!?」
「ったく……医者へ連れてけ。でもってケツに注射でも打ってもらえ!」
「へい」
「うおぉぉぉぉ!!!! 止めろ止めろ止めろ止めろーーーー!!!!」
ガラガラと運ばれる先生に手を振り、俺はスマホを取り出した。
「あ、もしもし? そうそう、あなたに話し掛けてるんですよ? 画面の向こうのあなたにね」
「あー待って待って、ブラウザバックしないで聞いてよ。この話を書いていたしいたけ先生が、途中で狂っちまったもんだからさ、今代わりの先生を探してるんでさ。どうだい? 代わりに書いてくれやしませんかねぇ?」
「なーに……ちょいとアホ臭い話にしていてさえ貰えれば、代わりに書いてもバレやしませんって……」
「え? やってくれる? そう、そいつはありがたい。それじゃあ続きを頼みましたよ。ハッピーエンドでもバッドエンドでもあなたのお好きにどうぞ…………では、あっしは暫しコンビニで立ち読みでもしてますぜ……」
「頼みましたぜ? 先生……?」