エピローグ
最終回
あれからエリーと再会を喜んだ俺は、そのままクフの街に向かって行く。
その道中で、俺は勇者もチートも全て放棄したことを伝えた。使者には信じてるなんて言ったが、実はちょっと怖かった部分もあって「こんな俺でも受け入れてくれるか?」なんて変な伝え方をしてしまった。
だがエリーは笑った。
「そんなことで嫌いになる女だと思いましたか?ふふふ。」
これは純粋な笑顔ではない。多分、というか確実に怒っている。帰って来て早々ごめんと謝り倒すハメになった。何とか許してもらえたが、これから尻に敷かれる未来が確定した瞬間でもあるだろう。
話を聞けば、どうやらエリーは【預言】によってあの場所までいち早く来ていたらしい。改めて【預言】の効果はよく分からんな。
エリーは「やっぱり預言は私の幸せのためにあるみたいです。」なんて言ってるけど、もし本当にそんな能力なら【預言】なんて大層な名前つけるなよと思う。
「ハルヤ!テメェ!おせえじゃねぇか!待ちくたびれたぞ!」
そう言ってサムエルさんはクフの街に戻った俺を見つけるなりヘッドロックをかましつつ、頭をバシバシ叩いてきた。
純粋に痛い。こっちはレベルも1になってるんだ、手加減してほしい。
でも今はこの痛みが、帰って来たんだという事を伝えるようで嬉しくもなる。
サムエルさんたちドラゴンバスターズはあれからずっと待ってくれていたようで、温かく歓迎してくれた。もうチートでも勇者でもないことを伝えたが、「だから何だ」と変わらずに受け入れてくれた。
能力でも、スキルでもなく、ただのハルヤを見てくれた。そのことがただただ嬉しくて、やっぱりこの人たちは凄いなと改めて感心したものだ。
今回の魔神との戦いは世界各地に大きな被害を与えた。
既に崩壊してしまった街や村は少なくない。それでも魔神が討伐された際にほとんどの魔人がいなくなり最悪の事態は回避できたという場所も多い。
しかし同調した魔人は世界に残ってしまうようで、その対処には教会が名乗り出た。
魔神に与したということで信用が地に落ちかけていたが、リーフ司教がうまく俺たちの名前を用いつつ、魔道具を各地に届け対処させて対処していったことで何とか教会の威厳は守られたようだ。
リーフ司教の働きが認められたため一時期は彼を教皇に据えるという案も出されたそうだが、リーフ司教が堅く誇示したために頓挫したようだ。
同調した魔人の中には大魔人もいたようだが、俺の魔道具とサムエルさんたちドラゴンバスターズがドラゴンで援軍に駆け付けたため事なきを得たようだ。
おかげで「サヤノシリーズ」の名前が世界に広まることになった。もうすでにこれに関しては色々と諦めている。
教会は俺とエリーを聖人認定した。失墜した名誉を何とか取り戻したいという狙いがあるのは分かっていたが、それでも認定をそのまま受け入れた。
聖人認定されたおかげで俺たちは教会からの保護を受けることが出来た。これによって助かったのは、俺に既に能力がないということを告知してくれたことだ。
おかげで変なゴタゴタに巻き込まれることなく過ごすことができるようになったのは感謝している。
教会や教皇領の働きについての話はいつもフィリップが教えてくれる。
帰って来た俺はすぐにエリーと一緒にフィリップのところに向かった。
フィリップは「信じていたぞ」と涙ながらに語り、俺の現状を話すと「一人だけ普通になって羨ましい」と愚痴を吐いていた。思わず笑ってしまった。俺は力を失ったんだけどな。
俺は能力を失ったので関係も変わるかと思ったが特には変わらなかった。むしろ前以上に重たくなった気がする。
フィリップは俺たちがオンドモンド以外の街に住むことは絶対に嫌だと言って許してくれなかった。
でもまぁ、フィリップは信じて【断罪】してくれたわけで、彼をこれ以上悲しませたくはない。俺たちは結局オンドモンドの街に住むことになった。本当はリトラスの村に帰りたかったんだけどなぁ。
しかもフィリップは「皇帝の命令」と言って月に一度は城に顔を出せと言い始めた。まぁフィリップと話すのは別に嫌なものではないからいいんだけど。
ちなみに未だに大臣たちは気味が悪い。既に能力のない俺に利用価値などないだろうに、皇帝の友達という事でやたらめったらご丁寧に対応される。まぁ実害はないから良いんだけど。
リトラスの村とリーザスの街は勇者と預言者を生み出した場所ということで一大観光地になってしまった。
リトラスの村の人たちは突然のことに驚いているようだが、それでもたくましく金を稼ぎまくっているらしい。いつか街ぐらいの規模にするのが目標なのだとか。
リーザスの街は預言者を生み出した街という事で整理されることとなり、今までの悪行がバレてしまった領主は追放されることになった。
おかげでエリーは大歓迎で街に迎え入れられたのが、「やはり好きにはなれませんね」という一言で、以降リーザスの街に近づくことはなかった。
驚いたのはフォエフォ島だ。彼らは本当にニホンという国を建国した。
兼ねてから醸成されていた不満が一気に噴出したのか、新国家の設立は予想以上にスムーズにいったらしい。
まぁ法律だとかの制定には時間がかかるようだが、その辺は【王】のジャイコフと【聖女】のラエラが上手くやってくれると信じている。頑張れよ。
個人的にいつか日本食を作って欲しいものだ。あぁ、ニホン食か。たまに醤油とか味噌とかの味が恋しくなるんだよな。あとは何よりも米だよ米。そう言った物を作ってくれと言ったが、ジャイコフに「知らんものは作れん」と即座に却下された。クソ。そこは頑張ってくれよ。お前がマゾだってバラすぞと言ったら笑って「それも興奮するな」と言われた。無敵かよ。その後でラエラに叩かれていたが、相変わらず仲がいいな。ジャイコフを叩きつつ俺も一緒に睨まれた。何かに目覚めそうだからやめてくれ。
色々な場所をめぐっている道中でヒーローたちに出会った。相変わらずヒーローをやっているらしい。俺がすでに勇者ではないと伝え、レベルも初期化したと言ったら喧嘩を挑まれた。結果、俺が勝った。俺レベル1なんだけど。
ヒーローは笑いながら、「やはり私こそが底辺である」と笑っていた。逞しいな。やっぱりお前は俺にとってヒーローだよ。俺も頑張ろうと思えた。
ヒーローに会ってから他の場所はどうだろうかと思ってケートの街をのぞいてみた。俺にキレた爺さんに会うのは気まずいなぁと思いビクビクしながら街に行って見たが、会ってみれば爺さんはすっかり俺のことは忘れていた。何というか、喜んでいいのか悲しんでいいのか。
久しぶりに見たモレーヌさんはお美しいがもう過去の悲劇を繰り返してはならない。俺はデレデレしないように挨拶をした。なのにエリーに抓られた。解せぬ。
ウーディアの街には人が増えていた。どうやら各地で魔人に襲われた人々に住まいを提供していたらしい。そういえばウーディアの街は建物はほぼ無傷だからな。アマニは「同じ傷を持つ者同士、今は傷をなめ合っているところだ」と言っていた。いつかこの街がまた宝物であふれるといいな。
アンデーキアの街では兵士たちに囲まれて祝勝会が開かれた。ここの街の兵士たちって騒ぐのが好きだよな。そしてフェレディさんは相変わらず声がうるせぇ。
ここの領主には嫌われてるから見つからないように騒がないで欲しいと思っていたのだが、案の定彼らが騒ぐもんだから領主に見つかってしまった。結果、領主から歓待を受けた。なぜと思い後で聞いたら兵士が教えてくれた。なんでも「ウチの領主様、勇者に化け物って言ったらしいぞ。勇者とレンダルフィア帝国の皇帝って友達らしいから皇帝に直訴してみるか?」とフェレディさんがアホみたいな大声で噂話した効果だろうと言っていた。逞しいなここの兵士たちは。
クリーネの街に行くとセイラちゃん一家が迎えてくれた。
あんなことがあったというのに、親子仲良く過ごせているようだ。セイラちゃんは強いなぁ。
だが強いのではなくしたたかであることが分かった。なんとこの街では今「大魔人三姉妹と勇者」という劇が流行しているそうだ。その中にはご丁寧に俺の告白シーンまで組み込まれている。セイラが全て伝えてしまったらしい。両親がとてつもなく申し訳ない顔をしている横でセイラちゃんは自慢げに「スゴイでしょ?!私が教えたの!」と言っていた。
さらにはそれをエリーが大層気に入ってしまったために俺からは何も言えなくなってしまった。出来る限りこの街には今後近づかないようにしよう。そしてこの街からこの話が出て行かないようにお願いをしておく。
そんなこんなで、色々なところを回ってみた。その道中は俺のレベリングをしていた。
俺は既に勇者でもチートでもない。だけど神は俺だけのスキルを残してくれていた。
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勇者の抜け殻
世界を救った勇者の抜け殻。ちょっとだけ成長補正がつく
チートパック(弱)
言語適正:あらゆる人族が使う言語を理解、使用できる。
あなたの力:
あなたのことを能力に関係なく大切に思っている人の数だけステータスが向上する。
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これが俺に与えられた力。前に比べればとてつもなく弱くなったものだ。
でも、これでも十分に強力なもの。これなら、この世界の人たちと、肩を並べて切磋琢磨できるんじゃないかと思っている。
ちなみにエリーも俺の【チートパック】によって得た経験値はなくなったしまったようだ。
ただ自分で倒した魔物とか魔人とかに関しては経験値が残ったようで、道中で何度か戦闘を繰り返していたおかげで普通に上位冒険者ぐらいの力を持っている。
とりあえずコイツに追いつくのが今のところの目標だな。
現状足手まといにしかなってないけど。
「ふふふ。これまではハルヤさんに助けられてばかりでしたから、これからは助ける番ですね。」
何言ってんだよ。これまでも十分助けられてきたってのに。
世界各地で色々なことが起こった。だけど勇者が世界を救ってくれた。その喜びは俺が思っていたよりも大きいものだったようだ。
魔人たちの侵攻によって世界の50分の1の村や街が崩壊したと聞いている。人口もかなり減ってしまった。俺の見えていないところで、本当に苦しい場所がたくさんあったんだ。
そのことに申し訳なさもある。誰が何といおうと、責任はやはり感じてしまう。
それでも生き残った者たちが必ずまた再建してくれる。
その希望は、勇者が世界を救ってくれたから持つことが出来るようになったんだ。
そのことをちょっとだけ誇らしく思いながらも、過去の栄光にばかりすがるのではなく、弱くなった自分でどうやって生きていくかに頭を悩ませる日々である。
そんなこんなで、いつの間にか10年も経っていた。
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「ママ!絵本読んで!!」
「さっき読んだでしょう?何回同じ絵本を読むの?」
「だって好きなんだもん!」
全くこの子は・・・何回私に同じ話を読ませる気かしら。もうここまで来たらさっさと字を覚えて自分で読んで欲しい。
「しょうがないわねぇ。今日はもうこれでおしまいだからね?」
「じゃあ一気に五回読んで!」
「はぁ。賢いんだかズルいんだか。一回しか読まないからね?それ以上言うなら一回も読まないわよ?」
「えー。わかった・・・。」
ふぅ。ようやく引き下がった。私もこの物語は好きだけど、だからと言って何度も同じものを読み返したくはない。この絵本自体は私が書いたものではないけど、この原作は私が書いたものなわけで、ちょっとだけ恥ずかしさもある。
それでも、娘が喜ぶなら読んであげたくなるのが親の性分だ。
「むかーしむかし、あるところに、一人の青年が居ました。
彼は何の力も持たない青年でした。けれど、ある時神様に呼ばれて別の世界にやってきました。
・・・・
・・・
・・
こうして、鞘の勇者は魔神を倒して、預言者と末永く幸せに暮らしたのでした。
めでたしめでたし。」
――パチパチパチパチ
「満足した?」
「もう一回!」
興奮した娘は笑顔でもう一回とせがんでくる。その顔を見るとまた読みたくなるが、あまり読みすぎて興奮しても寝れなくなるだけ。
ここは娘のためを思って終わりにしよう。
「だめよ。これ以上は遅くなっちゃうから、また明日にしましょう。」
「えーなんでー。ママだってこのお話し好きなんでしょ?」
「そうね。ママもこの話はとーっても好きよ。でも楽しいことは明日にとっておくことも大事よ?そうすれば明日が楽しみになるでしょう?」
「うーん。でもいつまた魔人が襲ってくるかわからないよ?だから楽しいことは今日やっておいた方がいいよ!」
相変わらず・・・この口のうまさは誰に似たのか。いや、絶対に私のせいだな。
あまり彼を言葉で追い詰めるのはやめておこう。この子が真似しても困るし。
「魔人はもういないの。何たって鞘の勇者が助けてくれたんだから。だからもう大丈夫。安心して寝ましょうね。」
「えー。じゃあ明日はたくさん読んでくれる?」
「そうね。じゃあ明日はお父さんに読んでもらいましょう!」
「うん!そうだね!でもお父さん恥ずかしいって言って全然読んでくれないよ?」
「ふふふ。そこは任せなさい。お母さんが言えばすぐに読んでくれるから。」
「そうなの?!じゃあ明日お父さんに読んでもらう!おやすみなさい!」
・・・ふぅ。ようやく今日も寝てくれた。
毎晩毎晩、寝かしつけるのも大変だ。と言ってもこの子は毎日外で遊んで帰ってくるから、何だかんだすぐに寝入ってくれるからまだ楽なのかな。
可愛い我が子の寝顔を見つつ、私はそっとリビングに行く。
「ん?サリーはもう寝たのか?」
「えぇ。絵本を読んだらぐっすり寝たわよ。」
「またあの絵本か・・・。どうにかして捨てられないかな・・・。」
「ふふふ。そんなことしたら一生口聞いてくれないんじゃないかしら?」
「それは困る!でも恥ずかしいし。」
この人は何年経っても相変わらずの恥ずかしがり屋。そこもまた魅力なのだけど。
いい加減慣れてもいいんじゃないだろうか。
「ちなみに、明日はあなたがサリーに絵本を読んであげてね?」
「えぇ?!明日はサムエルさんの訓練があるから無理だって!絶対厳しい訓練させられるんだから!」
そう言えば明日はサムエルさんが来るんだった。サムエルさんはだいぶ高齢になったというのに相変わらず元気で、おまけに彼をいっぱしの冒険者にすべく毎回熱心に指導してくれる。
でもしょうがない。生き返ったと思ったら職業が【盗賊】になった彼をサムエルさんが放っておくわけがない。
オマケに彼ったら「憧れてたから多分神が与えてくれた」なんて私に言うもんだから、当然のようにサムエルさんに告げ口したらより厳しくなってしまったそうだ。でも私は悪くない。サムエルさん、隠していたけどもの凄く喜んでいたし。
「残念ながらもうサリーに約束しちゃったのよ。それとも、私が『史実 鞘の勇者ハルヤの冒険譚』を読んだ方がいいかしら?」
「やめろ!あんな主観交じりの文章を読ませるな!というかエリーがあんな本書いたからこんな絵本まで生まれちゃったんだぞ?!」
「ふふふ。しょうがないじゃない。あなたが帰ってくるまでの一ヵ月暇だったからつい。」
「だからってあんなにたくさんの人に広めなくてもいいだろう!」
「あら?あなたが言ったのよ?忙しい方がいいって。その言葉に従って頑張ったのにその言い草は酷いんじゃないかしら?ふふふ。」
この人はいつまでたっても変わらないなぁ。
「明日は頑張ってね、勇者様。」
「やめろ!俺はもう勇者じゃない!ただのハルヤなんだ!」
そうね。あなたはただのハルヤさん。
あなたは勇者でもチートでもないけど、変わらずに、いつまでも私の特別な人。
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鞘の勇者ハルヤは全ての能力を放棄することと引き換えに、かつて自らがこの世界に呼び出された初めの場所で生き返った。
生き返った鞘の勇者ハルヤは、かつて共に旅をした預言者エリーと共に平穏に暮らし天寿を全うした。子宝にも恵まれ、最期まで幸せな生涯を送った。
鞘の勇者ハルヤの活躍は彼が処刑された後、瞬く間に世界に広がった。以後、数十年にわたり剣を鞘に納めて戦う者が続出した。
鞘の勇者ハルヤはその剣を抜くことはなかった。その理由は聖剣は魔神以外に効果がなかったためであるのだが、それでも人々は鞘の勇者にあやかろうと鞘のまま戦う人が続出したのだ。
それは姿を真似るだけのものではなかった。鞘の勇者は、「暴力がなくなった世界」を「平和な世界」と当時の皇帝フィリップ1世に語ったと言われている。
その思想に感銘を受けた人々が剣を鞘に納めたまま戦うようになり、瞬く間に鞘の勇者の平和思想が広まっていったのだ。
鞘の勇者は世界を圧倒的な力で救ったのと同時に、豊かさとは何かを伝えた。
レベルが高い事、ステータスが高い事、それすなわち豊かであるという事ではない。
その心が満たされて初めて豊かであるのだ。
そのことを、鞘の勇者が全てを捨てた後、預言者エリーと共に最期まで幸せに暮らしたことが示していると言って良いだろう。
鞘の勇者ハルヤの精神を受け取った者たちが、今日もまた、世界に優しさを届けていく。
『史実 鞘の勇者ハルヤの冒険譚』
著者:預言者エリー 最終章著:サリー
最後までお読みいただきありがとうございました。
皆さんが読んでくださったことで、私の頭の中の妄想でしかなかったものが、一つの物語として昇華していったのだと思います。本当にありがとうございました。
細かいことは活動報告に書きました。そちらも読んでいただければとても嬉しいのですが、いずれにせよここでこの物語は終わりです。
またいずれ、皆さんに読んでいただけるような作品をお届けすることが出来ればと願っています。
では、また。




