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陰府

最終章。今日のは長めです。これ含めて後三話で終わります。

真っ白い空間だったところに、突然一人の人が出てきた。


その人の見た目は子どものようにも青年のようにも老人のようにも見える。目の錯覚かと思ったが、何度見てもわからない。何だこれ?俺の目は大丈夫か?


あまりにも分からない状況に、もしかしてこの人が神なのだろうかという思いが強くなる。

俺が考えていると向こうから話しかけてきた。


「瀬川晴也君。ご苦労様。よく世界を救ってくれたね。」


瀬川晴也か。久しぶりに言われたな。あ、いや魔神にも言われたか。

そう考えるとコイツの見た目は魔神にも似ている気がする・・・やはり神なのか?


「え?あ、いやあの・・・どういたしまして。」


「困惑しているようだから説明してあげよう。私は神に仕える使者だ。そして今君は死と生のはざまにある場所にいる。」


「使者?死と生のはざま?」


言っている意味が分からないが、とりあえずこの人は神ではないらしい。


「使者というのは元々は地上で生きていた者が、死んだ後に神に仕えることとなった者たちだね。その役目は君の世界風に言えば受付係と言ったところだろうか。そう捉えてくれて問題はないよ。」


受付係か。なんか神を期待していただけにちょっと肩透かしを食らってしまう。


「ふふ。君は分かりやすいね。神じゃなくて残念だったかい?」


「え?!あ、いえ・・・ごめんなさい!」


マズイ、顔に出ていたのか。その辺は死んでも相変わらずなんだな。


「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。別に君を罰するという事もないし、そもそもここはそういう場所ではないからね。」


「場所?そう言えば死と生のはざまってのは何ですか?」


「そのままの意味さ。ここは死へも向かう事が出来るし、生へも向かう事が出来る場所という事だ。僕はその受付をしているのであって、君をどちらへも案内することができるよ。」


死へも生へも案内できる・・・ということはやっぱり生き返ることが出来るのか?!

とにかく今は俺の精神安定のためにその情報がすぐに欲しい。


「俺は元の世界に生き返れるんですか?!」


「・・・残念ながら君はもう元の世界には戻れないよ。」



・・・え?・・・戻れない?



「何も力を持たない君に、元の世界に戻る方法はない。申し訳ないがそれは諦めてくれ。」


俺はもう・・・エリーに会えないのか・・・?



「・・・何だよそれ。なんだよそれ!じゃあ俺はもうエリーに会えないってのかよ!!」




「ん?」




「え?」




俺の問いに使者は首をかしげ、何か考え事をしている。


「・・・あぁ!すまないすまない!どうやら言葉の行き違いがあったようだ。君の言う元の世界というのは、勇者として遣わされたあの世界のことかい?」


「それ以外に何があるんだよ?」


「いや、元の世界と言ったからつい君が生まれ育った世界のことかと思ってしまってね。そうか、君はあの世界に同調していたからもうあの世界を自分の世界と思っていたんだね。」


・・・そういうことか。確かに元の世界と言えば俺が元いた地球という可能性もあるか。

というかそっちの方が長く生きていたわけだし元の世界という意味に当てはまるか。


「ということは、俺はエリーにもう一度会えるのか?生きて帰れるのか?」


「あぁ。【預言者】のいる世界であれば戻ることはできるよ。」


良かったー!もう戻れないかもしれないという不安があったからそのことが確認できてとにかく安心した!


そう思うと落ち着いてきた。

そして落ち着いてくるとおかしなことに気が付いた。


「ちょっと待ってくれ。俺はあの、元いた、生まれ育った世界では死んだことになってるのか?」


「そうだね。君はあの世界では既に死んでいるよ。」


「一体どうやって死んだんだ?俺はてっきりスマホをいじっている時に急にあの世界に連れて行かれたから、召喚されたとかそういうもんだと思ってたんだ。でも、いなくなったわけじゃなくて死んだことになってるのか?」


俺は召喚されたとばかり思っていたから、死んだと言われると驚く。



「ふむ。そう言えば君は自覚がなかったんだな。正確に言うと、君がスマートフォンをいじっている時には既に死んでいたよ。」


「・・・え?」


「さらに言えば君が死んだのは3月22日。つまり君がスマートフォンをいじっていた4日前になるね。」


え?あの時には既に死んでた?というか4日前?え?どういうことだ?


「君は3月22日に心筋梗塞によって街中で突然死した。場所が悪くて発見が遅くなってね。周りの人も懸命に処置してくれたんだけど、生き返ることは出来なかった。だが君の魂は現世にしがみついてしまってね。魂だけが生き続ける状態になってしまったんだ。」


え?心筋梗塞で死んだ?魂だけ?突然のことに頭が混乱してくる。


「待ってくれよ!俺はそのあたりの日は普通に生活してたし・・・それに俺はあの前の日には卒業式にも出てたんだぞ?!」


「魂だけの存在は非常にあやふやだからね。卒業式だって断片的にしか覚えていないだろう?」


「・・・いや、それでも友達と会話してたし死んでたなんておかしいじゃないか!」


「ふむ。だとしたらそれは君がいなくても成立する会話だったんじゃないかい?偶然にも君が会話に入れていたようになっていただけで、恐らく友達には君の声は聞こえていないはずだ。」


どういうことだ?え?・・・じゃあ俺はもうあの時には死んでいたのか?!


「魂だけになっていた君を神は保護したんだ。特別になりたいという願いと、ちょうど別の世界に危機が訪れていたのとが合致してね。無理矢理あの世界に引っ張っていったのさ。」


頭がこんがらがってくる。じゃあ俺はたまたま丁度よく魂だけの状態だったから連れてこられたってことか?


「どうしても信じられないというのなら見せてあげようか?ここは死と生のはざまであり、全ての世界に繋がっているし、全ての過去と繋がっている。だから見せてあげられるよ?君の死んだ時、葬式の時、その後の時を見せてあげようか?」


・・・自分の葬式って。そのことを想像した時に、悲しむ人の顔が思い浮かんだ。

流石に・・・見たくはない。俺の顔だけで使者は察してくれたようだ。


「・・・そりゃあ見たくないよね。それでいい。自分が死んだ後の映像なんて、生きた人間には耐えられない。しかし皮肉なものだ。君は最後まで特別になりたいと願っていたけど、若くして死を迎えた君の存在は確かに特別なものとなったことだろう。」


そうだろう。22歳で死んでしまう奴はこの世にはそこまで多くはない。

俺だって誰かの死に接したのは小さいころにおばあちゃんが亡くなった時ぐらいで、友達が死んだという経験は当然なかった。


もしそんなことに出会っていたら、俺はソイツと大して仲良くなかったとしても、特別に覚え続けることになっただろう。


「葬儀には200人も集まったそうだよ。高齢者の葬儀ではこうはいかないね。若くしての死だったから周りも元気だったからここまで集まったんだろう。君の葬儀ではご両親も泣いていたし、君の友達も泣いていたよ。」


そうか・・・。みんな泣いていたのか。あまりにも突然な悲しい出来事って、想像以上に悲しくなるもんだもんな。


ましてや死という出来事は、二度と会えないという現実を見せてくる。そこに初めて触れると、思ったよりも大きい喪失感に悲しくなるんだろう。


でも・・・そんな話はもう聞きたくない。



「・・・もういいよ。死んだときの話はそれぐらいで。」


「そうかい。でも覚えておくように。君はあの世界で何の特別にもなれていないと感じていたようだけど、君は十分に誰かの特別な存在だった。それを実感できていなかっただけで、君は確かに特別な存在だった。そのことを忘れて欲しくなくてね、つい語ってしまったよ。」


特別になりたいと思っていたけれど、既に特別だったか。


そうだよな。例えば両親にとって、たとえば友達にとって、俺は特別な存在だったんだ。

何の力もないかもしれない。だけどその存在だけで特別だったんだ。


当たり前にそこにいるから特別だと感じないだけで、いなくなって分かる大切さというものがある。

いなくなったから特別なんじゃなくて、いなくなるまで中々気が付けないんだ。


・・・俺も生きてる内には気が付けなかったしなぁ。



「そのことをしっかり覚えて、生き返るように。」



・・・ごめんな父さん母さん。みんな。本当に申し訳ないことをした。

本当に・・・ごめんなさい。



「・・・色々と悔やんでいるようだね。でも、悔やむのであれば次の人生でそのことを生かせばいい。後悔はどうしても避けられない。だから、後悔と出会ったなら、それを携えて、強く生るべきだろう。」


そうだ。俺にはまだあの世界に戻った後の人生がある・・・。


「・・・俺はこれからどうなるんだ?」


「そうだったね。まず君は生き返ることが出来る。それは勇者の力によるものだ。ステータスを確認してご覧。」


そう言われたのでステータスを確認する。ここでもちゃんと確認は出来るんだな。

【勇者】の欄に新しいスキルが追加されていた。


―――――――――――――――――

蘇生:

一度だけ使用可能。職業【勇者】の消失、並びに全てのステータスが初期状態となることを条件に蘇生することが出来る。

―――――――――――――――――



「蘇生・・・。勇者の職業を捨て、ということは俺は勇者ではなくなるということか?」


「そうだね。君はもう勇者ではなくなるし、ついでにレベルもスキルも全て消えてなくなる。つまりは一から人生をやり直すという事だ。その状態であれば蘇生することが許されるんだ。」


・・・なるほど。全てを捨てて復活するのか。

でもまぁ確かに強いまま復活してもまた元に戻るだけだしな。名残惜しいけど、いっそのこと捨ててしまった方がいいのかもしれない。名残惜しいけど。



「ちなみに、この【蘇生】は未だに誰も使用していないそうだ。クライドは人間に愛想が尽きて蘇生に価値を見出さなかったし、マクグラスも疲れたからもういいと言っていたようだ。」


「あとの二人は?明らかに死が用意されていたけど。」


「彼らにもまた死が伝えられていた。でも彼らは特に誰かと親密にはなっていなかったからね。他の二人も同じだけど、特に世界で生きることに興味がなかったみたいだよ。」


そういえば4人の物語には勇者以外の登場人物の名前は登場していなかった。相棒というか、パートナーというか、そういう人は与えられなかったんだな。


「だから4人はこれを使わなかった。もし君が使うなら、あの世界においては初めて生き返った人になるね。」


初めてかぁ。歴史に名を刻んでしまうのか。でもまぁ今更か。どうせエリーが俺の冒険譚を書くらしいしな。もう名前は残ってしまっているんだ。この際、何を書かれようが関係ねぇか。



「死についてもやはり勇者の職業が伝えるものなのか?」


旅の道中、不思議な程に勇者は死ななければならないという思考に導かれていった。あれはやはり【勇者】がもたらしたものなのだろうか?


「うーん。そうと言えばそうと言えるし、違うと言えば違うとも言えるね。あの世界において、勇者が最後に死ぬのは、いわば常識として定着してしまっているんだよ。」


「ん?どういうことだ?」


「常識というのはね、人が作り出すものと考えられている。ただ、人には依らずに世界にも常識を構成する力があるんだ。その力が、勇者は死ななければならないという常識を、勇者に植え付けるようになってしまったんだよ。」


・・・ダメだ。話を聞いてもサッパリわからん。常識を作り出す力?どういうことだ?


「あぁ。そうか。そうだったね。君の中にはこういう考えはないかもしれないが、世界というのもまた生きているんだよ。だからおかしなものに対しては取りのぞこうとする働きを見せる。その一つが勇者は死ぬべきという常識を植え付けることなんだよね。」


世界が生きている?つまり世界の自己防衛システムみたいなものが作動した結果、勇者は死へと誘導されていくという事か?


「その常識は勇者という職業に強く結合しているものだが、同様に世界の人々の根底にも同じ常識が流れている。だから最後も、勇者の処刑に賛同したのだろうね。」


そうか・・・世界がそう導いたという事か。俺だけじゃなくて、民衆も巻き込んで。

散々エリーに常識がないって言われたけど、俺にも常識があったんだな。非常識な内容だけど。



「そう言えば、君のチートもあの世界にとっては不正なものという扱いだったからね。おかげで生き辛かっただろう?」


「そういえばそうだな。ビックリするぐらい生き辛かった。」


「あの虚無感や異物感もまた、世界が創る常識から逸脱したものに対する強い反作用という感じかな。だから異物感が強くなるのさ。それに同調した後にその思いはさらに強くなっただろう?世界からの干渉が大きくなった証拠だね。」


あの異常なまでの虚無感と異物感はそういうことだったのか。確かに想像以上に悩んでいたように感じる。それに同調してからはそのことが当たり前のように思うようになっていた。


世界が生きているか・・・。あまりにも突拍子もない話だが、こんな不思議な場所で不思議な人に語られるとそうなのかなと思わされる。



「だが、世界にそのような拒否反応があろうとも、神は君を送る必要があった。それはあの魔神を見れば分かっただろう?」


「そうだな。確かにチートがないとヤバかった・・・。でもさぁ、神が直接倒すとかそういうのは出来ないの?」


つい思ったんだよ。こんなんなら神が直接倒せばいいじゃんって。


「それは出来ない。神は世界で起こっていることに関してはほとんど関与しない。せいぜいが君のような存在を送るという行為ぐらいで、その後のことに関しては関与しないんだよ。」


「でもそうしたら世界が崩壊してたかもしれないんだぞ?神が直接出てくれば守れたかもしれないじゃないか。」


「確かにそうかもしれないね。でも神は直接世界には干渉しない。そうでなければそこに住む者の自由が全くない世界になってしまうだろう?」


そうなのか?うーん。確かに神があまり干渉しすぎるのも人間の自由意思を奪うのかもしれないが。



「だから君にチートパックを渡して送るぐらいがせいぜいなのさ。神は例外を作らない。神が例外を作ればたくさんの世界が歪になってしまうからね。数多の世界を巻き込んだ秩序の崩壊が起こるぐらいなら、世界一つを見放した方がいいのさ。」


そう言われると途端に神が冷たいもののように感じてしまう。


「でもまぁ、神は君を送れば大丈夫と把握していたんだろう。だから、神としては今回の結果は想像通りなのさ。君も魔神を倒せてよかった。それ以上を望むのは傲慢さ。」


傲慢か・・・。確かに世界は守られたしそれでいいのかもしれないが・・・でも被害に遭った人もいる。理不尽に感じてしまう。


「・・・どこか理不尽に感じちゃうんだよな。」


「そうだね。世界で生きている者からすれば神は理不尽に映るだろう。でも、死というのは終わりじゃない。君が今いるここだって一応死後の世界だ。死んだ後の人々にもしっかりと救済は残されている。」


「救済?」


「おっと、これ以上は本当に死なないと話せないね。死後のことは話しちゃいけない約束なんだ。」


「気になるところで止めるなよ。」


「ふふ。なら死ぬかい?」


「いえ、それはやめておきます。」


「それがいい。」


使者は愉快に笑っている。クソ。こっちに気になる情報だけ渡しやがって・・・。

それでもまぁ、死後に救済があると思えば、少しだけ救えなかった人たちへの懺悔が減るな。少しだけだけど。


俺はついでと言わんばかりに気になることをこの際聞いてしまおうと使者に質問する。


「そう言えばあの魔神ってなんなんだ?」


「あー、アレは元使者だったものだね。彼が【超越】の力を使って天界から地上の世界に飛び出しちゃってね。」


「なるほど・・・。どうりで同調とかそういうのに詳しかったのか。」


「そうだね。彼はあの後、世界に同調し、世界自身に侵略し、世界を乗っ取るつもりだったらしいね。」


「へー。そんなこと考えてたのか。」


「ただ君によって殺されてしまったからね。その夢は叶わなかったし、それにもう天界で生きることも敵わないだろう。」


なるほどなぁ。

さて次は何を聞こうかと悩んでいるところに、使者からストップがかかった。



「これ以上はそろそろやめにしておこう。君にいらないことを話して、蘇生できない状態になっても困るからね。」


ルールを破ったらそんなことになるのかよ。でもそれって俺じゃなくて使者のせいじゃないのか?



「それでは大事な話をしようか。君の【選択】についてだ。」

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