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王の間にて

「ハルヤを・・・殺す?お主は何を言っておるのだ?冗談でも面白くないぞ?」


フィリップは俺を睨む。これが皇帝の威厳か、普通に怖い。


「冗談なんかじゃない。神からの【預言】が与えられた。・・・勇者は死ななければならないと。」


「馬鹿な!散々勇者を使っておいて、その勇者を殺すだと?!そんなふざけたことがまかり通るものか!」


そうだよな。ふざけたことだよな。でも、実際その預言は与えられているし、俺もそうだなって思うんだよ。


「俺はさ、異物なんだよ。」


「異物?」


「そもそも俺はこの世界の人間じゃない。異世界から送られて来たんだ。魔神を倒すためにな。そのために【チートパック】という、不正な強さが与えられた。だから魔神を倒した後、残った不正は取り除かないといけないんだよ。」


「神が不正をしたというのか?!ならば神が責任を取るべきであろう!なぜハルヤがその責任を負わされるのだ!」


俺は異世界から来たチートであり、チートは削除されるのが通常の対応なんだ。

だが、フィリップにとってはそんなことは関係のない事。納得できないのもしょうがないだろう。


「これはきっと、俺のためなんだ。強すぎる力を一個人が持てばどうなるか。それは勇者クライドに滅ぼされた国の血をひいているこの国ならよく分かるだろう?」


強すぎる力は敵となれば脅威だ。だからあの手この手で自分に取り込もうと考える。それが出来ないなら、いなくなって欲しいと願うものだろう。以前にこの国の汚さを語ったフィリップだからこそよく分かっているはずだ。



「・・・理屈は分からなくもない。だがなぜ・・・なぜ勇者が死なねばならん。そんなにも神は人間を信用していないのか?」


「さぁな。俺には神のことは分からない。ただ、選択の余地が残されてるのは信用している証でもあるのかもしれない。」


「選択の余地だと?何かあるのか?」


そうだ。これから行うことはまだ選択の余地がある。どうするのかは、この国の人間が決めていくことだ。



「現状誰も俺を力では殺せないし、俺も【不殺】によって自分を殺すことは出来ない。だから、俺を殺すためには【王】のもつ【断罪】を使うしかないんだ。」



―――――――――――――――――

断罪

自分が統治者であり、なおかつ自らの治める国内において10万人以上の自国の民が半径5キロ以内に集まることによって、一日に一回だけ発動可。

過半数の人間が対象者の処刑を希望する時、能力・スキルに関わらず対象者を一撃で殺すことが出来る。

―――――――――――――――――



「ま・・・まさか。何の罪も犯していないどころか、世界を救った勇者を、断罪するのか?」


「別に【断罪】は罪人だけに使えるものじゃないだろう?むしろ今回の場合は世界の罪を背負って死ぬと言った方が良いかな。」


「なぜ勇者が他人の罪まで背負わねばならんのだ!そんなものおかしいではないか!」


「だから選択の余地が残されていると言ってるんだ。世界が自分を信じるならば勇者を生かせばいい。だが、自分の罪深さを自覚するなら勇者を殺せばいい。不正を残すか消すかは、この国の人間に委ねられたんだ。」


勇者をちゃんと勇者として尊敬のうちに生かせるならば、不正でもうまく使えるならば処刑を希望しなければいい話。その後で何が起ころうとも責任は国民にもある。


反対に不正をうまく扱えないと思ったならば、勇者を処刑すればいいんだ。

どちらを選ぶかはこの世界の人間に託されている。



「馬鹿げている!誰が勇者の死を望むものか!」


「俺は勇者だが同時に不正で異物な存在なんだ。むしろそれが世界の為と分かれば国民だって納得するだろう。」


「ふざけるな!我すらも納得できていないのだ!国民もまた同じであろう!」


「フィリップは俺を知っているから死んでほしくないだけだろう?もし俺はフィリップとは何のつながりもないただの勇者だったらどうだ?魔神すらも殺せるほど強く、一国を簡単に強国にすることの出来る俺を野放しにするか?」


勇者が死ぬべきではないとフィリップは語っているが、それは俺に死んでほしくないだけだろう。

何も知らないただの勇者であれば、きっとフィリップはここまで反対していないはずだ。



「・・・そうだ。お主だからだ。勇者が死ぬかどうかなどどうでも良い。我はお主を殺したくないのだ!せっかく出来た友なのだぞ?!世界を守るよりも我はたった一人の友を守る方が大事である!!」


「フィリップ。そう言ってくれるのは嬉しいよ。だがお前なら分かるだろう?力をもった人間が周囲からどういう目で見られるか。どういう扱いを受けるか。俺はもうこの世界でまともに生きる未来は得られない。だから神は俺に「死」という救世を用意したんだ。・・・友のために、断罪を使ってほしい。」


死ぬのは俺のためでもあるんだ。世界の救いのためであると同時に、勇者からの解放でもあるんだ。



「・・・お前はズルい。残されるもののことを何も考えておらん。死は全ての終わり。二度と再会も果たせない関係の終わり。その虚無感、喪失感を我々に残し、一人で満足するのか?」


「俺は・・・俺に与えられた力を信じるんだ。最後の最後に俺には【選択】という能力が与えられた。何かを選べるんだ。何を選べるのかは分からないが、俺にはまだ生き残れる可能性があるかもしれないんだ。」


「生き返るだと?そんなもの聞いたことはない。死だけはスキルでも職業でもどうすることも出来んのだ。それだけはどうあがいても人間には乗り越えられんのだ。」


「・・・それでも、俺はチートだからさ。世界の理なんかぶっ壊して帰ってくるんだよ。俺なら・・・チートならそれが出来ると俺は信じている。」


死が終わりというのは当然だろう。・・・でもチートなら何とか出来るんじゃないか。

今はそんな可能性にすがるしかないんだ。


「・・・王というのはな、色々な選択肢を考え、様々なものに備える必要がなる。もしハルヤの【選択】とやらが仮に死後も使えたとして、悩ましい選択をもたらすものであったらどうするのだ?」


悩ましい選択?俺は考え込んでしまったどんなものが選択としてあげられるだろうか。

考えているとフィリップがため息をついて語りだす。


「・・・はぁ。お前は何も考えていないのか。やはりアホだな。それか馬鹿だ。大馬鹿者だ。」」


フィリップは俺をアホだの大馬鹿者だのと呼ぶ。それは俺が何も考えていないという事だけじゃなく、死を選ぼうとしていることも含めて、俺をそう呼ぶのだろう。


「例えばだな、お主は異世界からやってきたと言っていたな。もし、もしその【選択】によって生き返れるとして、どこで生きるかを【選択】出来るとすればどうする?生まれた世界か、それともこの世界か。」


・・・そうか。そういう【選択】の場合もあるのか。いや、むしろその【選択】の可能性は大いにあるのか?


前の世界と今の世界。俺はどっちで生きたい?


前の世界であれば、俺は異物ではなくなる。何の変哲もない、ただの22歳瀬川春也に戻るだけ。もしそこに戻れるならばどうする?


正直、エリーもフィリップもサムエルさんもいるこの世界の方が俺にとっては良い人間関係を築けた場所であり、魅力がある。



だけど、前の世界には家族がいる。それにそこまで深くはなくとも友達も何人もいる。

その世界にだって大切な関係性がある。そこから俺がいなくなったら・・・やっぱりみんな悲しむよな。


結局、どちらを【選択】しても誰かが悲しむ未来がある。それを俺は選ばないといけないのか?



それに仮に俺がこの世界に生き返ってきたところで、俺はどういう状態になるのか。

チートは、勇者はどうなるんだ?それを持っていたらまた同じ状況じゃないか。


それにもし全てがなくなって、また1からやり直しになって生きていけるか?というか1からやり直しってなんだ?


転生のような形でこの世界に生まれ直すとか?

エリーもフィリップもサムエルさんもいない世界に生まれることだってあるのか?



【選択】が何を選択させるのか分からない以上、選択肢の可能性はたくさん出てくる。


分からないことを信じて飛び込むのは勇気がいること。時にそれは愚かなことでもある。



でも、それしか俺には残されていない。いや、そっちの方が良い未来が開けるはず。

なぜなら【預言】が言っているからだ。



「死ななければならない。そういう【預言】があったんだ。だから俺は死ななきゃいけない。でもそれは、そうした方がいいからというものだと俺も信じている。どんな未来が待っているのかは分からない。だけど、俺はその【預言】を信じるんだ。」


「・・・その【預言】は確かなのか?」


その問いにはエリーが答えた。


「フィリップ様。私から説明させていただきます。魔神が倒されたのと恐らくほぼ同時に、私に「勇者は死ななければならない」という【預言】が与えられました。私に【預言】が与えられたのは二回だけ。一度目は勇者ハルヤに会えというもの。そして二度目が今回でした。」


「なんと、二度しか与えられていないのか。神も随分怠惰なものだな。」


「それでも、一度目の預言に従って行ったところで私はハルヤさんに出会う事が出来ました。その出会いはまさに私に救いをもたらすものでした。だから、今回の預言もきっと、私に良いものをもたらすものだと信じているんです。」


「それを我にも信じろと?」


「【預言】は私の未来を良くしてくれるもの。私はそう解釈しています。私は何よりもハルヤさんと過ごす未来を願っています。神はその未来を叶えるために、勇者の死を伝えたのだと思っています。」


「・・・預言か。眉唾物だがな。」


フィリップは訝し気な顔をしている。やはり【預言】を信じるというのは無理があるのか。フィリップはどうしてもその意思を曲げようとはしない。


だが、【断罪】が使えなければ死ぬことは難しいだろう。


それでも【断罪】を使えるのはフィリップだけではない。フォエフォ島のジャイコフも使う事が出来る。だがイッポン国に10万人の国民がいるだろうか。俺が見た限りでは恐らくいない。


仮に両国が合併してニホンが出来るとしたら10万は越すかもしれないが・・・果たしていつになることか。


だからフィリップを説得するしかない。だが上手い説得の仕方が思い浮かばない。



俺が悩んでいるとエリーがフィリップに笑いながら語り始めた。


「ふふふ。ではこう考えてはいかがですか?ハルヤさんがもし帰って来なかったら、私たちが会いに行くというのは?死んだ先には天国があると言いますから、天国まで追いかけていきましょう?」


え?それって後追いするってこと?そんな物騒なもん提案すんじゃねぇよ!

フィリップも考え込んでいる。・・・って何を考え込む必要がある?そんなもん却下だろ。


そう思っていたらフィリップは急に笑い出した。


「・・・フッ。そうか、そういう考えもあるのか。なるほど。それはいい。幸い我は既にこの世界に未練など何もない。心の備えはすぐに整うであろう。」


え?納得すんの?後追いに?


「ふふふ。私も同じです。ですから死んでも大丈夫なのですよ。」


「おい!二人とも何を言ってるんだ?!死ぬなんて言うなよ!」


流石に後追いなんてしてほしくない。世界を救うためにやるのに二人が死んでしまったら意味がない。だから止めようと考えたが、二人から仲良くツッコまれた。


「それはそっくりそのまま返させていただきます。」

「ふむ。全くその通りだな。じゃあお前が死ぬのをやめろ。」


「な・・・!それはズルいじゃないか!」


「ふふふ。ハルヤさんが言っているのはこういうことなのですよ?私たちの辛さが分かるでしょう?」

「そうだ。だからハルヤは我々の命もかけて死に向かうのだということを自覚しろ。」


・・・そうか。大事な人が死ぬかもしれないと考えるのは、確かに辛い。

ちょっと考えるだけで胸が張り裂けそうになる。そんなことを俺は提案しているんだな。


改めて、申し訳なく思う。ただ、それでも後追いは酷いじゃないか。


「確かにそうかもしれないけど。三人分の命って重てぇよ。」


「今まで散々世界の人間の命を持ってきたのですから、私たち二人分ぐらい軽いものでしょう?」


それとこれとはハッキリいって全く違う。知らない誰かの命と知っている人の命。残念ながら同じ重さではない。エリーのお父さんとは違って、俺は命の価値を計ってしまうからな。


「お前ら二人の命は、ハッキリ言って他の人間の命よりも重たいんだよ。」


「ハルヤは正直であるな。だがそう言ってくれて嬉しく思うぞ。我々の命は重たいか。であればやはり生きて帰って来なければならぬな。」


・・・はぁ。なんで説得するつもりがいつの間にか俺が説得されてるんだよ。

もうこうなったら、何が何でも生きて帰ってくるしかないな。


「もとよりそのつもりだよ。何が何でも生きて帰って来てやるよ。何たって俺はチートだからな。」


「よかろう。お主を信じようではないか。我は神ではなく、友を信じる。お主であれば必ず帰って来れる。そう信じて、待っておるぞ。」


「あぁ。・・・ということは【断罪】を使ってくれるのか?」


「・・・ふむ。明日だ。明日この国で勇者の祝勝会を開くつもりであった。そこであれば10万は軽く集められるだろう。だが、その時に国民がどのような決断をするかは分からんがな。」


「・・・それでいいよ。もし生かしてくれるってんなら、その先でせいぜいあがいて生きていくよ。」


「ハハハハ!その時はせいぜい利用されぬよう我が国に見つからんように生きることだな。ただし我も連れて行けよ。一人ではつまらんからな。」


「ふふふ。では三人で逃避行しましょうか。ハルヤさんの暴走も二人であれば止められるかもしれません。」



やめろよ。そんな楽しそうな話すんじゃねぇ。死ぬのがますます怖くなるだろ。

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