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大歓声

魔神を倒した俺たちは、オンドモンドの街に向かうことにした。

本当なら転移ですぐに移動することが出来る。


でも何だか名残惜しくて、結局いつものように【浮遊】で行くことにした。



・・・やっぱり死にたくない。そういう思いが、オンドモンドに向かう俺の足を少しでも遅らせようとしてくる。



「ハルヤさん、ずっと背中がこわばっていますよ。」


「そりゃそうだろう。これから死ななきゃいけねぇんだぞ?」


「あら?死んでも大丈夫と言ったじゃありませんか。帰ってくるということでありましょう?なら有言実行してくださいませ勇者様。」


久々に勇者様って言われたな・・・何だか言葉に棘がある気がする。


「もしかして怒ってる?」


「ふふふ。とんでもない。私は勇者様を信じておりますので。」


勇者様なんてほとんど言ってこなかっただろ。その笑いが怖いんだが・・・。


でもまぁ、それでもいつもの調子で話しかけてくれるのは、コイツの精一杯の優しさなんだろう。



【浮遊】でのんびりと飛んでいく。死ななければならないそうだが、明確な時間は決まってはいない。


だから先を急ぐ必要もない。だけど魔神が倒されたことを伝えないといけないし、何よりもあまりのんびりしてクライドみたいな悲惨な末路なんて迎えたくない。



「ハルヤさん、クリーネの街には寄らないのですか?」


「あぁ。行ったら後ろ髪を引かれる思いに駆られそうだから。このままオンドモンドに直行しよう。」


「・・・私としては後ろ髪を引かれても良いですよ?」


「・・・心が揺れ動きそうだな。」


「ふふふ。私なりの抵抗です。」


抵抗か。随分な抵抗だな。それこそ、下手に泣かれたり暴れられたりするよりも、静かに悲しまれた方が辛いものがある。


何だか辛気臭いに空気になってしまった。と思ったらエリーが急に語りだした。


「最後は勇者の死によって世界が救われていく。『鞘の勇者ハルヤの冒険譚』は感動のフィナーレを迎えられそうです。・・・ただ困ったことが一つあるんですよね。」


「困ったこと?」


「えぇ。ハルヤさんが昨日まさかの愛の告白を致しましたので、そのシーンを入れるかどうかですね。流石に私も自分のことである手前恥ずかしくて。ふふふ。」


「入れるなそんなもん!!というか書くな!!」


コイツは本気で書きかねない。というか嬉々として書きそうだ。今のうちに抵抗しておかないと。


「それともここは大胆にも冒険譚ではなく恋愛物語として描くべきでしょうか?そちらの方が需要も大きそうですし・・・。」


「恋愛物語ではねぇよ。というか史実として残すんじゃなかったのか?というかそもそも書くなよ。」


「ふふふ。思い出はしっかりと残しておきませんと。」


「思い出は思い出として自分の内に留めておけ。」


「それではいつか忘れてしまう事もあるかもしれません。私はよく忘れてしまうので誰かに覚えてもらうために他の方々にも読んでもらうのです。」


「自分の中で覚えられる分だけ覚えてればそれでいいじゃねぇか。」


「それでは良くありません。思い出は一つでも多い方が良いんですよ。特に亡くなった誰かとの思い出は。あればあるほど悲しくもなりますが、それでもあればあるほど寂しさは薄くなりますので。」


・・・そうか。両親を亡くしてきたエリーだからこその言葉だな。エリーなりに今のこの状況をしっかりと考えているのか。


「それに亡くなった人を知っている人が多ければ多いほど思い出も共有できますし、慰め合えるんですよ?だからハルヤさんとの思い出がなくなってしまわないようにしっかりと書き残すんです。そして老後のために出版するんです。」


「・・・最後の部分はいらなかったな。書き起こす時には削除しとけよ、冷めるから。」


「ふふふ。しっかりと悲しみを享受するためには落ち着いた時間が必要ですので。そのためにはお金は必要ですから今から備えておくことは大事でしょう。」


「・・・悲しみを紛らわすために忙しさも必要だぞ。」


前の世界では葬式の後には忙しい事後処理がたくさんあると聞いたことがある。それは忙しさで死という現実から目を逸らさせるためなんだとか。それも一つの合理的な悲しみへの対処法だろう。


「なるほど、そういう考えもありますね。ではその時間を執筆作業に当てましょう。」


「余計に悲しくなるだろ。」


「ふふふ。では生きて帰ってきてください。」


コイツは本当にたくましいな。色々な意味で。

俺も負けてはいられないな。怖いけど。でも必ず何とかなる。そう信じていくしかない。


あまり辛気臭い感じにならないように、いつもの調子を保ちながら空を飛んでいく。




気が付けばあっという間にオンドモンドに着いてしまった。楽しい時間というのはあっという間だな。


門に近づいていくと門番が俺たちを見つけて中に連絡している。勇者と預言者だって分かったのかな?


すると中から筋骨隆々のおじさんが出てきた。さっきの門番よりは年齢を重ねていそうだから、もしかして偉い人が出てきたという事だろうか。


「あなた方は勇者ハルヤ様と預言者エリー様ですね?」


やはりすでに俺たちのことは知らされていたようだ。自己紹介の手間が省けたな。


「えぇそうです。魔王を倒してきたのを報告するためにやってきました。」


「おぉ!やはりそうでしたか!すでに各地から魔人がいなくなったとの連絡が入っております!そのため勇者様が魔王を倒したのだと国中で噂しておりました!」


既に知られていたのか。この国の情報網は凄いな。きっといろんなところに情報の網を張っているからそういった変化もすぐに知らされるのだろう。


「勇者様!どうぞ中にお入り下さい!すでに城の方には勇者様が来られたと魔道具で連絡を入れてありますので、そのままお城に行っていただいても構いません。」


「そうなんですね。ありがとうございます。」


「こちらこそ、世界を救って下さりありがとうございます!!」


そう言って門番が俺に頭を下げてくる。中にいた門番たちも俺たちの方を笑顔で見つめている。


みんな勇者という存在に、魔王が倒されたという情報に、まるでおとぎ話でも聞いているかのように楽しんでいる感じだ。


それにオンドモンドは実際に魔人の侵略も経験しているしな。

勝利というものをより実感していることだろう。




俺たちは街中を進んでいく。既に門番が大声を挙げたせいで人から人に伝言ゲームのようにして魔王の討伐と勇者の帰還が伝えられていった。


「勇者様ありがとうーーー!!」

「世界を救ってくれてありがとうーーー!!」


その声は最初は遠巻きからかけられていたが、段々と子どもやら何やらが押し寄せてきてもみくちゃにされるほど人が集まって来た。感謝はありがたいが面倒だな・・・。


俺はさっさとエリーを捕まえて【浮遊】で街を飛んでいく。


「おぉぉぉぉ!!勇者様が飛んだ!!」

「スゴイスゴーイ!!」

「勇者様ぁぁ!!!ありがとうーーーー!!」


みんな飛んでいる俺たちに向かって手を振ってくれている。

俺も手を振り返しつつ、いつの間にか起こっていた「勇者」コールを受けながら城に向かって行く。


耳をつんざくような大歓声はやはり嬉しいもの。ここまでの大きな歓声は前の世界じゃ当然経験がなかったからな。何だか照れる。


同時に、名誉を求めてしまう人の気持ちも何となく分かってしまう。

こんな気持ちのいいものを、簡単には手放せないよな。



俺たちが城に着くとすぐに門番が対応してくれた。

あらかじめ話が通っているとやっぱり楽だな。顔パスで入ることが出来た。



城に入ると前回と同じ召使が俺たちを皇帝の間まで案内してくれる。


その間に城にいた人たちからも歓声を浴びる。街の人たちの声とは違いこちらは大人しめだが、それでも喜びの声をぶつけられるとこっちまで嬉しくなるな。



扉の前までやってきた。やっぱりこういう場所は緊張するなぁ。

偉い人たちがいる場所だし、俺を騙そうとする人たちがいる場所だし、これから死が待っているかと思うと緊張も普段以上だ。



扉が開けられていく。すると笑顔の大臣たちが揃っていて、その中心にはこれまた笑顔の皇帝が座っていた。


危うく「フィリップ!」と叫びそうになったが相手は皇帝だからな。

膝をついて報告をする。


「この度、教皇領に潜んでいた魔神を倒し帰還いたしました!」


「うむ。大義であった。顔を上げよ。」


顔を上げると満面の笑みを浮かべるフィリップの顔がある。


・・・フィリップ、【王の間】を使ってくれ。俺はそう願いつつ悲し気な顔を浮かべる。悲しい顔を浮かべれば異変に気が付いてくれると思ったからだ。


するとフィリップはこちらの意図に気がついたのか【王の間】のために魔力を練り上げる。


数秒の時間の後、【王の間】にやってくることが出来た。



「・・・フィリップ、ありがとう。気が付いてくれて。」


「気にするな。しかし【預言者】も一緒で良かったのか?もの凄い顔で主張しておったので連れてきたが。」


え?と思い振り返ると【王の間】にエリーも一緒にいた。なぜ?


「ふふふ。私がいると何か困るのですか?やはり秘密の逢引きを・・・。」


「ちげぇよ!・・・まぁエリーが居ても問題ないからいいか。」


俺たちのやり取りを初めて見た皇帝は笑っている。


「ハハハハ!勇者と預言者というのは仲が良いのだな!驚いたぞ!」


「ふふふ。先日愛の告白を受けたばかりの仲でしかありませんよ。」


「テメェ!なんてことをバラしやがる!!」


「ハハハハ!想像以上に仲が良いのだな。何にせよ。よくぞ無事に帰って来た。心配したぞ。」


そう言ってフィリップは優しい笑みで迎えてくれた。

唯一の友達だからな。心配してくれていたんだろう。


「無事に魔神を倒して来たよ。魔王から進化してて大変だったけど、まぁ何とかなった。」


「なんと・・・魔王ではなく魔神だったのか。それでも倒してくるとは大したものだな。既にこの国にも各地から魔人がいなくなったと連絡が入っておったから倒したことは推測がついておったが。それでも無事かどうかは分からなかったからな。安心したよ。」


「心配かけたな。」


「気にするな。友を心配することも悪くないものだ。」


相変わらず、友に対しての対応が若干メンヘラ気質だよな。

おかげで今からお願いするのがちょっと怖い。


「それで、これから国を挙げて祝勝会をしようと思うがどうだろうか?それともまだ勇者としての働きがあるのか?」


「・・・あぁ、勇者の働きがまだあるんだ。そのためにフィリップにお願いがあって来たんだ。」


「我に?なんだ?勇者が何を願うのだ?」



「フィリップにしか出来ないことだ。・・・俺を、殺してくれ。」

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