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異物

「エリー・・・。」


エリーはボロボロと涙を流しながら、悲し気な表情を浮かべている。

とてもじゃないが、魔神を倒して世界が救われたということを喜んでいる顔じゃない。


「・・・エリー。【預言】があったんだろう?」


「・・・。」


エリーは何も答えない。ただただ俯いている。

ここはこっちから言ってやるのが優しさかな。


「・・・俺は、死ななきゃいけないんだろう?」


その言葉にエリーはハッと頭を上げ、どうして知っているのかという顔でこちらを見ている。その顔で全てが分かっちゃうよ。まるで俺みたいじゃないか。


そうか。エリーはいつもこんな風に俺の嘘を見破ってたのかもな。


「・・・どうして。」


「何となく、そうかなぁって思ってたから。」



俺はずっと、自分がいずれ死ななきゃいけないんじゃないかと感じていた。


直感のような、使命感のような、何というべきかは分からないが、死ななきゃならないと感じていた。




理由は、俺がこの世界における異物だからだ。


チートな勇者のそのあまりにも圧倒的な力は、もはや異物と表現するべきだろう。


現在の俺は同調に加えて、魔神を倒したことでレベルも1万を超えている。


みんながレベル30だ40だと騒いでいる世界で、俺だけレベル1万だ。明らかに異常で、それはもうこの世界における異物と言っていいだろう。


だがその異物は、世界を救うためには必要だった。


魔神という世界に乗り込んできた異物を倒すためには、異物をぶつけるしかなかった。


故に異物である俺がこの世界に存在することが許された。


だが魔神が居なくなった今、取り残された俺はこの世界にとって強すぎる存在であり、ただの異物となった。


あまりにも強すぎる力。それは世界の秩序を壊すもの。


だから世界は強すぎる異物は排除する。魔神を排除したように。【勇者】という異物も・・・。



そのことに気が付かされたのは、アンデーキオの街で4人の勇者の話を読んだからだ。

あの4人の結末が、それを物語っているようだった。


一人目のクライドは生き残ったばかりに、その力を世界中から求められ、取り合いになり、最後は【聖魔法】を放ち怒りの内に一つの国家を滅亡させ、自身も死んでいった。


最悪の死に方と言っていいだろう。まさに、【勇者】という異物を放置したが故の惨劇だ。



二人目のマクグラスは最後のドラゴンとの戦いの中で死んだ。

そのおかげで、誰も彼の力を取り合うなんてことはなく、人々は勇者を讃えた。



三人目のピッパプは、死をもって世界を救った。

まるでその死を用いることが初めから決められていたかのように、予定されていたかのように死んだ。また人々は勇者を讃えた。



四人目の石の勇者は、世界を救った後に、意思の消滅を語った。突然起こったことではなく、決まっていることだと言って消滅した。そしてまた人々は勇者を讃えた。



つまり、死んだ勇者だけが、その後の世界で讃えられている。

さらにピッパプと石の勇者には、あらかじめ死が備えられていた。


そのことが俺に嫌な考えをもたらした。

勇者には、救った後の世界で過ごすことが許されてはいないんじゃないだろうかと。


勇者の死までが、救世の一部なんじゃないかと。



アンデーキオの街にいた時はそのことは考えなかった。

けれども旅路が終わりに向かって行く中で、段々とその思いは強くなっていった。


どうしてそんなことを考えたのかは分からない。俺は別に察しの良い方でも頭の良い方でもない。

けれど、そうなんじゃないかと思うようになっていった。


多分それは【勇者】の職業が伝えるものなんじゃないかと思っている。


石の勇者にもどうやら自身の消滅のことは伝えられていたようだし。ピッパプも死ぬために戦場に出てきたようなものだったし。


もしかしたら最初から4人全員に伝えられていたのかもしれない。死ぬべきだって。


そしてそこに反抗したらどうなるかを、勇者クライドは示したのかもしれない。



俺だって死にたくはない。でもそれが世界のためなんだって思わされてしまう。


それに今となっては【勇者】という職業がステータスでもそのことを伝えてくる。


―――――――――――――――――

【勇者】

神と契約した、勇ましい者

全てのステータス上昇値に補正

全てのスキル上昇値に補正

この世界を救うことによって、特殊スキルが解放される。

―――――――――――――――――


世界を救えば、特殊スキルが解放されると書いてある。


・・・だけど未だに何のスキルも解放されていない。


それはつまり、魔神を倒したのにも拘わらず、まだ世界を救えていないということ。


最後の大仕事、「勇者の死」をもって、救済が完了するという事を示しているんじゃないだろうか。



そのことをエリーに説明すると、エリーは取り乱して声を荒げた。


「・・・どうして。どうしてハルヤさんが死なないといけないんですか?!魔王を倒して、世界を救ったんだから!それで終わりでいいじゃないですか!!」


「あそこにいたのは魔王じゃなくて魔神だった。」


「魔神?だからどうしたって言うんですか?!」


「魔神はそれこそ神のごとく強い奴でさ。何とか最後は俺がこの世界に同調したことにで勝つことが出来たが、かなり危険な存在だった。」


「そんな危険な相手だったんですか・・・でもそれが何の関係があるんですか?」


「俺はそんな危険な奴に勝ったんだ。そんな奴に勝てる俺が・・・どれだけ危険な存在かという事もわかるだろう?」


「それは・・・でも・・・!」


エリーはまた泣きそうな顔をする。言っている意味が分かるからこそ、余計に悲しいんだろう。


エリーってこんなにも感情的になるんだな。いつもの余裕そうな表情が、今は全く見られない。


「どうして・・・使命ばかり与えて・・・大して喜びも与えないくせに。なのにどうして死だけは用意するの・・・?ねぇどうして神様?どうしてそんな酷いことをするの?」


「エリー・・・。」


「ハルヤさんは生きたくないんですか?魔神を倒して、せっかくこれから自由に生きられるっていうのに!生きたくないんですか?!」


「・・・俺だって生きたいよ。エリーと一緒に生きたいよ。」


「じゃあどうしてそんなに平然としているんですか!!」


どうしてだろうな。そう考えた時、不意に一つの言葉が出てきた。



「・・・死んでも、大丈夫。」



エリーが何度も語ってくれた「死んでも大丈夫。」。なぜだかそんな言葉が出てきた。


「それはこういう時に使う言葉ではありません!それは、死という恐怖を取り除くために使った言葉です!!決してハルヤさんが死んでもいいなんて言葉ではありません!!」


「それでも、俺はそんな気がするんだ。・・・確証はないけど。」


「もしかして何かがあるんですか?」


「・・・魔神を倒してレベルが1万を超えたおかげで【チートパック】の最後のスキルが解放された。そこで【選択】というスキルが与えられたんだ。」


―――――――――――――――――

選択:

一度だけ選択することが出来る。

―――――――――――――――――


「これは使おうと思っても一切使えない。つまり今は使う状況じゃないという事だ。だから、もしかしたら死んだときに使えるんじゃないかって・・・。」


あまりにもあやふやな説明で、正直死んだ後に使うものなのかは分からない。

だけどもしかしたら「死ぬ」か「生きる」かを選択できるんじゃないかと思ったんだ。


「そんな使えるかどうかわからないスキルだけを頼るんですか・・・?そんなのあまりにも危険じゃないですか!もし何も使えずにハルヤさんまでいなくなったら・・・私は・・・。」


エリーは今にも泣き崩れそうだ。エリーはきっと、もう誰にもいなくなってほしくないんだろう。


両親が死んで以来、誰にも頼れなかったエリーだから、俺が居なくなった時の悲しみを想像しやすく、その悲しみの大きさに今から不安になっているんだ。


「俺だって怖いよ。エリーがいるから、余計に死にたくないって思うよ。」


「なら死ななくたっていいじゃないですか!ハルヤさんの力が誰かに利用されるって言うんだったらどこかに逃げればいいじゃないですか!ひっそりと暮らせばいいじゃないですか!私も一緒に行きます!二人で一緒に暮らしましょう!!」


ひっそりか。エリーと二人きりならそれもいいのかもな。でもやっぱり無理だろう。


「・・・俺にはその自信がない。」


「自信?」


「俺は魔神との戦闘中、同調で強くなった時、相手より強いと分かった途端気が強くなった。力ってのは・・・人を変えてしまうんだ。俺はいずれこの力を使いたいと思ってしまう。それこそ、リトラスの村で、名誉が欲しいと願った時のように・・・。」


「そんなことない!ハルヤさんはそんな人じゃない!!」


「・・・そんなことあるよ。俺はきっと特別であることに飢えていく。元々そういう奴なんだ。それに周りの奴らも勇者を放ってはおかない。人間ってのは罪深いもんなんだよ。」


魔神に語ったように、人間ってのは罪深い。だから俺みたいな異物は・・・平穏には生きられないんだ。


「どうして・・・そんなの酷すぎる・・・。」


その言葉を最後に、しばらく沈黙の時間が続いた。




「・・・はぁ。」


俺があまりにも折れないもんだから、エリーはまるで全てを悟ったかのように脱力し、ため息をついた。


「・・・ハルヤさんの決意は堅いんですね。」


「そうだな。」


俺の決意を確かめた後、エリーは力なく呟いた。


「・・・分かりました。私はハルヤさんの決断に従います。」


「いいのか?」


「本音を言えば嫌です。心配です。不安です。怖いです。・・・でも、喧嘩別れでサヨナラなんて絶対に嫌ですから。それに、私はハルヤさんの心を支えると決めたんです。・・・死に向かうハルヤさんを一人ぼっちにさせるわけにはいきません。」


エリーは涙を流しながらもそう言ってくれた。本当はもっと反対されて、最悪死ぬ時まで怒りっぱなしなのかと思っていた。


だけどそんな別れは嫌だった。だからそんな風に肯定してくれるのは、これから死に向かう気持ちを少しだけ軽くしてくれる。


「それに・・・私は【預言】を信じることにしたんです。」


「【預言】を信じる?どういうことだ?」


「私にあった【預言】はたった2回だけ。1回目の【預言】がハルヤさんと出会わせてくれました。その【預言】が私にとっては大きな喜びをもたらすもので、私を救ってくれたんです。だから2回目の今も、きっと救ってくれるって・・・そう信じることにしたんです。」


・・・エリーは絞り出すような声で言ってくれた。

最後に「じゃないと苦しいから。」と小さな小さな声で言ったのは、きっと聞こえないように言ったんだろう。聞こえなかったことにしておくよ。


俺が【チート】を信じるようにエリーも【預言】を信じる。

俺たちを苦しめた使命に、今はすがるしかないんだ。



「エリー。ありがとう。」


「・・・死ぬことを受け入れてありがとうと言われるのは、何だかおかしなことですね。」


「それでも、ありがとうだ。」


「・・・ふふふ。今まで受けたありがとうの中で、一番うれしくないありがとうですね。」


辛辣だな。でも、正直だな。

そう言ってくれるのは嬉しくもあり悲しくもある。エリーを悲しませたくはなかったな。



「それで、これからどうするんですか?」


「あぁ。この世界で唯一の友達に会いに行こうかなって。」


「唯一の友達?どなたですか?」


「皇帝フィリップだ。アイツにお願い事があるんだよ。」



このお願いは、フィリップじゃないと叶えられないからな。

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