表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/97

クフの街

異世界に来て二日目。ようやく街道に出て森以外の景色を見ることができた。



「街道」と言っても土が踏み固められているだけだが、それでも思ったより広い道だった。



何だかんだ早足とはいえ森から2時間ぐらいで出られたのでそんなに遠いところではなかったようだ。


この2時間、魔物は1匹も倒していない。サムエルさんが全部気配察知でスルーしたからな。それが優しさなんだけど、今の俺にとってはエサを取り損ねたようで悲しくなる。


街道に出るとかなり遠くの方にだが街が見えた。


「お前さん結構目いいだろ?ならもうよく見えるんじゃねぇか?」


「はい。大きな街ですね。」


街と言ってもここからではほとんど街を覆う壁しか見えないが、その壁だけでもかなり大きい街であることが分かる。


それにいくつかの建物は街壁を越えて見ることができる。大きい建物も結構ありそうだ。



その近くには山も見えた。そこまで大きくはないようだが、街からもそこそこ近そうだ。


…山?少し違和感を感じるがきっとどうでもいいことだろう。




前の世界で住んでいた東京よりクフの街は当然小さいはず。ただ、こうして街と自然との境目がハッキリしている光景を見たことがなかったので想像以上に大きな街に見えた。


「なかなか大きいだろ?あれがクフの街だ。ここからなら歩いて30分ぐらいで着くだろう。ちなみに、お前さん身分を証明するものは何かあるか?」


「あるように見えます?」


「だと思ったよ。まぁ金払えば入れてくれるから、って金は持ってるか?」


「持ってるように見えます?」


「…今回は代わりに払ってやるよ。」



やっぱりサムエル親分だな。いや、もしかして神の使いなんじゃないだろうか?遅れてきたチュートリアルとか呼んだ方がいいかな?





街道を歩いていると馬車や人とすれ違うことがあった。


そこで気が付いたのだが、こちらの世界の人は普通に絹っぽい服を着ている。

もしかして俺が来ている麻の服ってこっちの世界での標準的な服じゃないのか?


流石に流行の最先端とは思わなかったが、明らかにみんな俺よりもいい服を着ている。




「サムエルさん、もしかして僕の服装って変ですか?」


「あ~まぁ変っちゃ変だが…そういう服装の奴もいるし、そこまで気にしなくても良いと思うぜ?」


サムエルさんが多少気まずそうに答えている。多分、優しいサムエルさんのことだ。「ボロい」とは言えなかったのだろう。



…つまり俺は、異世界に棒一本もって投げ出されたのではなく、異世界にオンボロな服を着せて棒一本で放り出されたわけだ。



0からのスタートだと思ったらマイナスからのスタートじゃねぇか!


せめてスウェットのままかこっちの標準装備で異世界に呼べよ!

サムエルさんがいなかったらどうなっていたことか。



心の中で今日何回目になるかわからない神への呪いを唱えた。


今日はグングンと神への信仰心が薄くなっている。教会での洗礼で挽回してほしいところだ。




街道を歩いていると時折道行く人がサムエルさんに挨拶をしている。


中には馬車から顔をだし「サムエルさん!」と声をかけている商人もいた。


商人たちもサムエルさんの顔を伺いながら商売の話をしている。その光景はサムエルさんの方が商人よりも目上であるように見えた。



そのことに突っ込んで聞いてみるとサムエルさんはちょっと恥ずかしそうに教えてくれた。


何でもサムエルさんが所属する「ドラゴンバスターズ」は有名な冒険者パーティーらしく、サムエルさん自身もかなりの知名度があるようだ。Aランク冒険者ってやっぱり凄いんだな。



というかすごいパーティー名だな。「ドラゴンバスターズ」って。

ドラゴンでも倒したのか。あるいは倒すのが目標なのか。



…ていうかこれはドラゴンがいるってことなのか?


うぉー見てみたい!!倒したいとかまでは流石に思わないが、遠目からで構わないので一目見てみたいなぁ。


やっぱり男の子は剣とドラゴンに憧れちゃうよね。


さっきまで呪っていただけではあるが神のことを考えていたからか、ついついドラゴンに会えますようにと神に願っていた。




そんなこんなでサムエルさんが時折道行く人に挨拶されるのを横目に見ながら、ようやくクフの街が眼前にまで迫ってきた。



近づくとその大きさに改めて驚く。街を覆う高さ5メートルほどの石造りの街壁がかなり遠くまで伸びている。


その街壁を囲むように堀が作られ、その中には水が流されている。まるで城だな。ただその規模が比べ物にならないが。


ここまで厳重にしているのはやはりモンスター対策なのだろうか。




堀に架けられた橋を渡ると街に入るための門がある。


馬車なども通れるようにするためか、かなり大きな門である。厳重そうな木の扉もつけられ、これが閉じられたら入ろうという気はなくしてしまうことだろう。


門には剣を腰に下げた門番もいて、街に入る人を審査している。


その光景に何だか入国審査を思い出すが、こちらは剣を持っているのでかなりの威圧感だ。




審査には何人かいたが5分ほど待つと自分たちの番になった。サムエルさんは門番に近づき声をかけた。


「よぉ。いつもご苦労さん。ちょっとこいつのことなんだが身分証がねぇみたいなんだ。身分は俺が証明するからよ。入れてやってくれねぇか。」


「サムエルさんが身分を証明するなら大丈夫ですが、規定ですから1000Gいただきます。それと賞罰の確認もさせて頂きますがよろしいですか?」


「あぁ、構わねぇ。」


そう言ってサムエルさんはバッグから財布のような袋を出し、中から人物が書かれた銀貨を一枚差し出した。そして門番はその銀貨を確認している。


あの銀貨一枚で1000Gなのかな?そもそも1000Gってどのくらいの価値なんだ?色々とわからんが街に行けばわかるだろう。


なんにせよ払ってくれるサムエルさんに感謝する。いつかちゃんと返そう。この人には誠実でありたいからな。



そして賞罰の確認ということでよく分からない水晶に手を置くように促された。特に悪いことはしていないが何となくドキドキする。


水晶に手を置くと青く光った。その色を見て門番は頷いている。どうやら問題はなさそうだ。良かった。


「はい、確認が終わりました。問題なしです。それではお通り下さい。」


「よし、じゃあ早速入ろうぜ。」


スタスタ中に入っていくサムエルさんに続き、俺も街に入っていく。




異世界で初めての街だ。



外国に観光に来たみたいな感覚を抱きながら、いやそれ以上に異世界であるという興奮から高揚感を抱えて街の中に入った。


クフの街は思ったよりも文明が発達しているように見える。想像以上に街並みが綺麗だ。


正直、汚かったり臭かったりという可能性を考慮していたから驚いた。



レンガ造りの家が並び窓にはガラスが埋め込まれている。その街中を広い道が走り、賑やかに人が行き来している。


道は曲がっていたりと入り組んではいるが街として見ると雑多な感じはあまり受けない。


広い道には時折馬車が通り街のせわしなさを強く感じさせる。


商売をしているところでは店先に商品が並び、見たこともないカラフルな野菜や果物が売られている。


街中にはいたるところで木や花が植えられ生活の余裕を見ることが出来た。


少し遠くを見れば鐘がついた石造りの大きな建物がある。恐らくあれが教会なのだろうか。



そして行き交う人を見ていると俺は興奮して叫びそうになった。


なんと獣人がいたのだ!顔がもう獣そのもの。体も毛がフサフサしている。


思ったよりも獣分が豊富だが、それでも人間以外の人種に俺は感動していた。



街道では出会えなかったからいないのかと思っていたが、やっぱり人種にも様々な種類がいるようだ!



これならエルフとかドワーフもいるのかなぁとワクワクが止まらなくなる。


流石異世界!これだよ異世界!夢にまで見た異世界だ!




クフの街がもたらした感動は想像以上だった。

俺がよく異世界物の小説を読みながら思い描いていた中世の時代、それにピッタリと当てはまる。いや、それ以上に賑やかで、綺麗で、華やかで、ワクワクする街並みだった。



家が、道が、人が、馬車が、今まで生きてきた世界とはあまりに違う一つ一つの物が、俺に感動を運んでくる。



呆然としながら口を開けて街を歩いている俺はさも田舎者に見えたことだろう。サムエルさんが笑いながら俺を見ている。


「ハハハ!やっぱり驚いたか。中々すごい街だろ?」


「はい。ここまで大きくて立派な街だとは思っていませんでした。すごいですね…。――ハっ!田舎者感丸出しですね。恥ずかしい。」


「この街に初めて来たやつは大抵驚くからな。お前さんみたいな反応をするやつもよく見るから何も恥ずかしいことじゃねぇよ。俺ももちろん初めは驚いたしな。」



サムエルさんはフォローしてくれるがそれでも恥ずかしいものは恥ずかしい。前の世界に比べりゃ大したことないだろう、と低く見積もっていたこともあって余計に恥ずかしい。



「ちなみにサムエルさんはいつからこの町にいるんですか?」


「俺か?俺が初めて来たのは15歳のころだったな。その頃はお前さんよりもはしゃいでたぜ。仲間と一緒に「スゲースゲーって」騒いで、街の人に「うるせぇ!」って怒られたのは今でも覚えてるよ。」



そうやって笑いながら失敗談を語るサムエルさんのフォローで元気を回復した俺は、そもそも街に来て何をするかも決めていなかったことを思い出した。


「そういえば、僕ってこれからどうすればいいんですかね?」


「そういえばお前さんはこれからどうするかも決めてなかったんだな。うーん…とりあえず、教会で洗礼を受けに行くか。そんでギルドに登録するのが一番いいだろう。ギルドに登録すりゃ身分証代わりにもなるし。金はかかるけど、俺が払っといてやるよ。」



なるほど。確かに生活の基盤どころか、身分を証明する物すらないのはマズイよな。それに【無職】な大人という、前の世界だったら多少は存在していたそれは、この世界では明らかな異端だ。早めに解消した方がいいだろう。


ただ、それを解消するためにまたサムエルさんに貸しを作ることになる。ここまでしてもらっていいのだろうか?


「ありがたいですけど、さっきの入場料も含めてそんなに借りてもいいんでしょうか?」


「気にすんな。と言いたいところだがよ、正直に言うとお前さんの【鑑定】目当てだな。それ使って調べてほしいことがあるんだ。もちろん強制じゃねぇ。嫌だったら断ってくれて構わねぇし、断っても金返せとは言わねぇから安心しろ」



なるほど、打算的な優しさだったわけか。むしろそっちの方がかえって安心する。



「分かりました。ちなみに何を調べるんですか?」


「あ~確かにそうだな。お前さんに調べてほしいのは、あるモンスターについて調べてほしいんだ。そのモンスター一匹だけでいい。それで今までの分の貸しもチャラでいいし、なんなら金も追加で当然払う。」


モンスターを鑑定するってことはこれから倒す予定なんだろうか。

あまり危険なことはしたくないが…サムエルさんも一回だけって念を押しているし、ここは今後のためにも受けといた方がいいだろう。何を【鑑定】するのかにもよるが。


「なるほど。割の良さそうな依頼ですが、それだけのモンスターってことですよね。」


「確かにそいつは強いモンスターだが、そんなに近づいても襲っては来ねぇ。それに道中は当然、俺が守るからよ。」


「ちなみに、どんなモンスターなんですか?」






「ドラゴンだ。レッドドラゴンっていう、火属性のドラゴンだ。」







…ドラゴンを一目見たいという願いが素晴らしい早さで叶うという事か。


こんな願いだけ叶えてんじゃねぇよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ