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世界の救世主

魔人たちがこの世界に同調していったように、俺もまたこの世界に同調した。

さっきまでからは考えられないほどに力が溢れてくる。


そしてステータスにも変化があった。体力や魔力などは軒並み10倍に上がっている。

けれど、それ以上に名前や称号の変化に驚かされる。


―――――――――――――――――

名前:ハルヤ

性別:男

年齢:23

職業:勇者

状態:正常

称号:世界の救世主

―――――――――――――――――


俺の名字のセガワが消えてしまった。

この世界に来てから名字を持っている人が少なかったので名乗らないでいたら、ないものと判定されてしまったようだ。


本当にこの世界の住人となり、同時に前の世界の瀬川家と決別したかのようで、どこか寂しさを感じてしまう。


そして称号もこれまでの≪異世界からの救世主≫から≪世界の救世主≫と変わった。

お前は異世界の人間ではなく、この世界の人間だと伝えてくるような気がした。少しだけ、嬉しくなる。


そして【チートパック】の中にあった解放条件の分からなかったものが解放された。

恐らく条件は同調だったのだろう。それによって手に入れたスキルは【あなたの力】だった。


―――――――――――――――――

あなたの力:

あなたのことを能力に関係なく大切に思っている人の数だけステータスが向上する。

――――――――――――――――――


これが俺に与えられた固有スキル。

今まで俺が持っていた【固有スキル】は【チートパック】だけ。

だがそんな俺に、俺のための固有スキルが与えられた。


【あなたの力】はまさに、能力を通さずに俺のことを見て欲しいという俺の願いが具現化したようなものだった。意外と、この世界は願いってのが叶うのかもしれないな。


同調によって、俺は強くなった。いや、なりすぎな程に強くなった。

これなら・・・魔神にも勝てるはずだ。


今までよりもさらに圧倒的な力を手に入れた俺は魔神に相対する。


魔神には既に先ほどのような余裕はなさそうだ。今も険しい表情をしている。


「バカな・・・なぜそれほどまでの強さを・・・。」


なぜ・・・か。そりゃあ決まってるだろ。


「神はお前みたいな異物は何としても排除したいようだな。」


「なぜだ・・・なぜ人々の祈りを聞かないくせに、なぜ支配権を渡さぬのだ!!」


「知らねぇよ。だが、そういうもんなんだろ。自由にさせて、でも不自由も与えて。どっちかに振り切れることなく、何とか均衡を守っていく。世界の秩序を守るには、そういうバランスが必要なんだろ。」


俺には神の考えること何て分からん。だから適当に答えておく。


「・・・クソぉぉ!我こそが神であるのだ!神ならまだしも勇者程度に負ける我ではない!」


魔神はまたどこからか剣を出し攻めてきた。

同調によって体力も魔力もほとんど回復している俺はそのまま魔神の攻撃を受け止める。


先ほどまでとは違い、魔神の攻撃に脅威は一切感じない。

魔法も、不可視の斬撃も、どこからか飛んでくる剣も、何もかもがまるで止まっているようで、躱すのも簡単だ。


それに受け止めたところで大した重さも感じない。


「バ、バカな!・・・なぜだ!なぜ魔神である我が恐怖せねばならん!たかが勇者に!!」


「たかが勇者じゃねぇ。俺はチートな勇者なんだよ。」


「チートだと・・・?」


そうか。コイツはチートを知らねぇのか。そう言えば【チートパック】も見えていなかったみたいだしな。


「チートってのはな、不正だよ不正。この世界の秩序を飛び越えた、ルール違反なまでの強さなんだ。お前はまだまだこの世界の器に納まっているようだから、ルール違反な俺には勝てねぇんだよ。」


「バカな・・・我は世界を【超越】した神なのだぞ・・・。」


「行儀正しくルールに則って【超越】なんてしてる内は、世界の理からは外れてねぇんだよ。だから、俺みたいなチートに覆されるんだ。」


俺は聖剣で魔神を押し返す。もう怖さはない。


自分の方が強いと分かると口も軽くなる。やっぱり強いと人間気が大きくなるんだな。


さっきまでへこたれていたのが嘘みたいに強気になる。

やっぱり力ってのは・・・怖いもんだな。


「クソ・・・クソクソクソ!我を愚弄しおって!我は理を越えた超越者!貴様のようなものに負けるわけにはいかんのだ!!」


魔神はそれでも諦めない。だがな、お前はもう俺の相手じゃないんだ。


俺のあまりにも圧倒的な強さに、終始余裕を見せていた魔神の心が折れていくように、顔も段々と険しくなっている。



「さて、魔神よ。そろそろ終わりにしようか。」


「・・・我は負けん!我は負けんぞ化け物め!!」


化け物ね。俺もそう思うよ。チートってやっぱり、化け物なんだよ。


俺は力を溜める。

魔神も諦めてはいないのか、迎え撃とうと力を溜めている。


この一撃。この一撃で、この短くも長かった俺の旅路は終わる。

全ての終わりのために、俺は駆ける。



「う゛おおおおぉぉぉぉ!!!」

「あ゛ああああぁぁぁぁ!!!」



両者の剣がぶつかる。


しかし力の差は歴然だった。


聖剣はいとも容易く魔神の剣を弾き飛ばし、そのまま魔神の体を傷つける。そして魔神は吹き飛ばされて聖壇に突っ込んでいった。



後を追うようにして聖壇に近づいていくと、ボロボロになった聖壇の中で倒れ伏す魔神を発見した。


辛うじてまだ息はあるようだ。だが圧倒的な力の差を見せつけられた魔神は呆然とただ天井を見つめている。


「・・・我は・・・負けるのか?」


「みたいだな。」


「チートか。我よりもお前の方がよっぽど異物であろう・・・。」


「・・・そう思うよ。」


「良いのか?我が死ねば貴様のその力は、より異物として扱われるぞ?」


そうだな。きっとそうだろう。今までは魔王という明確な敵がいたからこそ目をつむってきたこの強さは、敵対者が居なくなった瞬間に、ただの異物となっていく。


対立する者がいなければ、味方として見れなくなったこの強さは、ただの凶器にしか見えないだろうな。


「・・・そんなもんは、後から考えるよ。」


分からないことに今から脅えてもしょうがない。今はとにかく、目の前の問題だけを考える。


世界に同調しても、名前が変わっても、称号が変わっても、俺は俺であることには変わりない。

面倒くさがりで後回しな性格まで変わるわけじゃねぇんだ。


「・・・貴様のこれからを・・・苦しむ未来を楽しみにしているよ。」


「うるせぇよ。楽しみながら死ぬんじゃねぇ。もうちょっと絶望しとけ。」


「・・・ククク。・・・神に絶望は似合わん。我は最後まで・・・神として死んでいくのだ・・・。」


その言葉を魔神の最後の言葉と判断した俺は、その胸に聖剣を突き刺した。


その時、聖剣から光が放たれた。


まるで魔神の死を伝えるように、世界に光をもたらすかのように、輝く聖剣が全ての終わりを告げていると感じた。



恐らくこれで、全てが終わった。



そう思うと感慨深いものがある。

たった一週間。されど、この一週間は長かった。色々な苦しみや悲しみもあったけど、喜びも嬉しさもたくさんあった。


それがようやく終わったのだとホッとした。


そんなこと考えつつ感傷に浸っていると、【アイテム】の中に入れてある魔道具に反応があった。

サムエルさんと通話用に持っていたものだった。



『ハルヤ!魔王を倒したのか?!」


魔王じゃなくて魔神だったけど。説明は後ででいいだろう。何でこんなに早く通話できたんだ?


「そうですね。たった今倒しました。でもなぜ?」


『そうか!良かった!無事に勝てたんだな!今戦っていた魔人がなぜか突然「魔王様!!」って叫びながら消えたんだよ!もしかしたらと思ってな!』


なるほど。【超越】で連れてこられた魔人たちは魔神が死んだらいなくなるのか。


「そうだったんですね。安心しました。とりあえずまた後でゆっくり連絡します!」


『おぉ!俺たちはお前が勝ったことを伝えてくるからよ!また夜にでも連絡してくれ!!』


そう言ってサムエルさんからの通話が切れた。



魔神がいなくなると魔人もいなくなる。それは良いことを聞けた。

だが同調していた魔人とかはどうなるんだろう?と思ったが、それを考えるのは後で良いだろう。


今はとにかく・・・エリーに会いたい。



多くの教皇や大司教たちに襲われているだろうエリーのことが心配になって、俺はすぐに聖堂を後にして後ろの扉から出て行く。


だが扉から出ようとすると中々開かなかった。押してもビクともしない。

先を急ぎたいので心の中で謝りつつ、蹴り破ることにした。


すると分かったのだが、恐らくエリーは扉を【土魔法】で埋めていたらしい。

オマケに進んでいった先は氷まで張られているし。何としても通さんという強い意志を感じてくる。中々賢いな。


さらに色々と揉めたのであろう戦闘の跡が残っている。中々激しい戦闘が行われていたのだろうことが分かった。


無事だと良いんだが・・・。


戦闘の後を追いながら進んでいくと、声が聞こえてきた。


「なぜだ!私の力が消えたぞ!」

「まさか神がやられたのか?!」

「バールード神様!どこに行ってしまわれたのですか?」


恐らく、魔神がやられたことで自分たちに付与された力が消えてしまったのだろう。それは予想外だった。魔人だけじゃなくスキルまで消えちゃうのか。


ぬか喜びになってしまって申し訳ない。いや、あの人たちに謝罪するのはおかしいか。

魔神に与したんだ。知らなかったとはいえ、同情することではない。


エリーを探していると気配に反応があった。

この感じは無事みたいだな。良かった。


早くエリーに会いたい一心でエリーのいるところに向かって行く。


すると三階にあった大きな部屋の一室の前にエリーがいた。

どうやら何人かを閉じ込めて土魔法でふさいでいたらしい。相変わらず賢い。



エリーは俺を見つけると、安心した顔で笑った。


「ハルヤさん!!」


そう叫んだ次の瞬間。


エリーが悲しい顔をした。



・・・・そうか。やっぱりそうか。

何だかその顔で全てを察してしまった。【預言】があったんだろう?


思えばずっと引っかかっていたんだ。そうなんじゃねぇかなって。

でもまさかそんな分けないだろうとも思ってたんだよ。


でもその不安は拭いきれなくて。そして段々と大きくなっていって。


にしてもこんなにすぐに伝えなくてもいいじゃねぇか。

それにエリーを通さなくて良いだろう。


もっとさ、喜びの余韻に浸る時間をくれてもいいじゃねぇか。


あ、でもそれだと余計に嫌になっちまうか。


将来のこととか考えて、これからどうしようかなんて考えて楽しみにしちゃうもんな。



「ハルヤさん・・・。」



こめんな。もしかしたらそうなんじゃねぇかと思ってたから、エリーへの好意やら何やらも全て伏せておこうと思ってた。


エリーともなるべく親密にならないようにって思ってた。

だけど我慢できなくてさ。昨日はつい言っちゃったんだよね。


そのせいで悲しみも大きくなっちまうな。

本当にごめんな。



「ハルヤさん・・・。」



エリーは苦悶の表情で俺を見つめる。


言おうか言わないでおくかを、どう伝えればいいのか。そんなことを悩む表情を浮かべている。


でもまぁ、その顔だけで全て伝わるから別に言わなくていいよ。


言うのも辛いもんな。


なぁ、エリー。



俺は死ななきゃいけないんだろ?

明日は8・12・15時と計三話投稿します。

その三話は本筋の時間軸としては一切進みませんし、物語の本文にも影響のない箇所なので、あまり皆様にお待たせしても申し訳ないと思い一日で投稿することにしました。ご了承ください。

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