表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/97

ダメだったよ

互いに剣を構えるが、どちらも動かない。


一歩動けば戦闘が始まる。だがそれでも動けない。


向こうが何を考えているかは分からない。だが俺は正直言うとビビっている。


対峙して分かるアイツの強さ。奴の威圧感は強くなった俺ですら恐怖を感じるほどだ。これはスキルのものではなく、ただただ奴の強さがもたらすものなのだろう。


それでも、戦わないといけない。勝たないといけない。


アイツの言う理想は、確かに理想だった。


でも現実そんなにうまくいくはずがない。


魔人にだって嫌な奴がいたように、人間にだって嫌な奴がいて。

勇者だって利用しようとする奴もたくさんいるんだ。魔神のスキル付与を利用する奴だっていくらでもいるだろう。


たとえそいつらを粛正したところで、また新たな罪を犯す人間が出てくるだけだ。

結局いたちごっこで留まるところなんてねぇんだよ。


尽きぬ欲が人を狂わせ、世界全体を争いに導いていく。

それを無くすには、人間が人間でなくなるしかない。


もし魔神がその方向に舵を切ったら、それこそ人間は終わりだろう。

それに俺だって・・・力や権力にいつ魅了されるか分からない。


人間にだって、勇者にだって、魔神にだって、世界の支配なんて無理なんだよ。

だから俺は今ある秩序を守る。それが俺の役目であり、それ以上のものは考えない。


何たって、問題は全て後回しなのが俺だからな。

まずは目の前の問題を片づけてから、考えてやろう。



頭の中で気持ちを整理し、俺は魔神に攻撃をしかけていく。


俺の方がどうやら力は下みたいだからな。なら攻めて攻めて攻めまくるしかねぇ!


「お゛らぁぁぁぁぁぁ!!」


俺は出し惜しみせずに最初っから全力で立ち向かっていく。


どうやら【聖装解放】によって解放された聖剣は、俺に【聖剣術】というスキルをもたらしたようだ。


今まで使っていた【剣術】よりも鋭く、重たい一撃が繰出されていく。


「フン!!」


だがその一撃を魔王は難なく受け止める。そしてニヤリと笑った。


「ククク。こんなものか勇者よ?デカい口を叩いた割りにたいしたことないじゃあないか。」


「言ってろ。いいか、人間ってのはお前が思うよりもしぶてぇんだぜ?」


俺は【聖剣術】と同時に様々な魔法を繰出していく。


だが魔神には届かない。魔法が全て打ち消されていくのだ。

これはまるで・・・かつて戦った大魔人レッセイの魔法耐性みたいだ。

いや、それ以上か。魔法を耐えているというよりも、打ち消しているからな。


まさか奴はスキルを無効にするスキルを持っているのか?


「フン。我に魔法は効かんぞ?言っただろう?全てのスキルを知り、対策が出来るのだと。まぁその聖剣は我のスキルを飛び越えているようだがな。だが剣だけであれば対応など容易だ。」


そんなの反則だろうよ。

・・・ってことは奴に有効打を与えられそうなものは【聖剣術】だけってことか。まだ使ってない【聖魔法】ももしかしたら効くのかもしれねぇが。


だが・・・大技を打つのはかなり勇気がいる。


【聖剣術】は普通の剣術としても有効だが、恐らく大技も打ち出すことが出来る。

さっきからスキルがその感覚を伝えてくるからな。だが容易には使えないだろう。


【聖魔法】も同じだったが、【聖】のつくスキルにはレベルがない。

どうやら持てるだけの力をそのまま打ち出すようなスキルらしい。


【聖魔法】は全ての魔力。そして【聖剣術】は恐らく体力を用いるのだろう。

もし体力が尽きるほどの大技を使って魔神を倒せなかったら・・・その時は殺されて終わりだ。


でもそれしか手はねぇ。もう奥の手も何にも残っていない。


頼れるのは【聖剣術】と【聖魔法】だけ。この二つにすがるしかない。

己の体力と魔力の全てを用いる一度きりのチャンス。


その時を逃すわけにはいかない。絶対にだ。


俺はタイミングを見計らいつつ魔神と打ち合う。



だがここで魔神の様子が変わった。先ほどまでは防御に徹していた奴が今度は打って出てきたのだ。


「ククク。どうだ勇者よ。神の力は?」


魔神の攻撃は激しい。いや、激しすぎる。

至るところから魔法が飛んできて、さらに剣で俺に攻撃を続ける。


時折不可視の攻撃まで飛んできやがる。

さらには物まで操っていろんなところから剣が飛んできたり。


クソ!一体どれだけのスキルを持っているんだよ!


「どうした勇者よ。もう反応すら出来なくなったか。」


「・・・うるせぇよ。何の技でテメェを倒そうか考えてただけだ。震えて待ってろ。」


「フン。まだ余裕そうだな。ならばもう少し力を入れてやろうか。」


そう言って魔神の攻撃は本当に力が増した。

いよいよこちらも回復魔法を使いながら、反撃どころか耐えるので精いっぱいになってきた。


・・・強すぎる。


「ククク。勇者よ。どうした?もう終わりか?」


・・・ダメだ。あまりにも強すぎる。

心が折れそうだ。本当なら今にも終わりにしてしまいたい。


「どうだ?我と共に来る気になったか?」


このタイミングでそんなことを聞かれたら、つい頷いちまいそうだ。


「・・・フハハ。揺れておるな。だが既に貴様は殺すと決めておる。神は一度決めたことは覆さぬのだよ。それに貴様の珍妙なスキルも気になるところであるしな。」


そうか。魔神は気が変わらねぇのか。そりゃ残念だ。


「良い事を教えてやろう。我がなぜ全てのスキルを知り、使えるのか。それはな、殺した奴のスキルを奪えるからだ。先ほどまでは貴様も生かしてやろうと考えていたが、我と戦える可能性のあるスキルを持っているそうだからな。この際奪っておいてやろう。」


なるほどね。どうりで色んなスキルを持っているわけだ。でもだったら全てのスキルを知ってるわけじゃねぇだろ。嘘つきめ。


「・・・そうかい。それを聞いて安心したよ。これで心置きなく殺せるじゃねぇか。」


「ククク。強がりもここまで来ると美しく見えてくるな。あぁそうだ。我はもう一つ手に入れたい力があったのを忘れておったよ。」


手に入れたい力?つまりはスキルか?


「【預言】だよ【預言】。あれもまだ持ってはおらぬからな。神と繋がるスキルは真に貴重だ。貴様のスキルと【預言者】のスキル。我がありがたく頂戴してやろう。」


・・・その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何かが弾けた。

コイツはつまりエリーも殺そうとしているという事だ。


俺は今まで自分を殺そうとする奴には特に何も思わなかった。

だが大切な誰かを襲うと聞いては、我慢できなかった。


「・・・魔神よ。やっぱりテメェはここで殺さなきゃなんねぇな。世界のためなんざどうでもいい。俺のこともどうでもいい。だがエリーに手を出すテメェは、絶対に生かさねぇ。」


折れそうな心が一瞬でどこかにいった。

絶対に負けられない。絶対に、コイツを止める。


俺は魔力を練り上げる。そして力を溜めていく。


「ほう?貴様は世界の危機には大して動じなかったくせに、あの預言者のためであれば怒るのだな。これは面白い。」


魔神はこちらの様子を見つつ、ニヤリと笑った。

アイツは恐らく俺が仕掛けようとしているものに気が付いている。


だが、止めようともしねぇ。つまりは耐えられると判断したという事だ。

ならその上を行ってやろうじゃねぇか。


俺の持てる力の全てをこの一撃に込めてやるよ!!


「俺は・・・俺の大切なものを守るために戦ってるんだ!勇者だからじゃねぇ!チートだからじゃねぇ!守るもののために戦ってるんだ!!」


聖剣が光る。まるで魔神という闇を切り裂くべく、光ったようだった。

俺は聖剣を構え魔神に突進する。


「う゛おぉぉぉぉぉ!!!」


渾身の力を込めた聖剣の一撃は、いくら魔神と言えども容易に受け止められるものではなかった。

魔神の剣を砕き、魔神の体に大きな切り傷を付けた。


そこに俺は魔力を全て込めた【聖魔法】を放つ。


「くたばれぇぇぇぇぇぇ!!!」


近距離から魔神に向かって一直線に放たれた【聖魔法】を、魔神はその体で受け止めた。


「ぐぉぉぉぉぉぉ!!」


魔神は初めて苦悶の表情を浮かべ大声を挙げた。


そして・・・魔神は【聖魔法】を上空へと跳ね返した。

俺が放った【聖魔法】は聖堂に穴を開け、そのまま空に消えていった。



「・・・ククク。ハハハ!ハーッハッハッハ!これが、これが【聖魔法】か!かつての魔王を倒したという【聖魔法】も我の力の前には無意味!!そして貴様が初めて見せた【聖剣術】も我には効かぬ!!勇者よ!これが神の力だ!今こそ魔の者が世界を支配する時がやって来たのだ!!」



・・・ハハ。

・・・ダメだ。これは勝てないわ。


もう魔力も体力もねぇ。すっからかんだ。

でもこの際残りの魔力も体力も気にするもんでもないか。


俺の全ての体力と魔力を一点に込めた技で奴には致命傷すら与えられていない。



遠い・・・遠すぎる。力の差があまりにもありすぎる。


力を全て使い果たした俺は、その場に大の字になって寝転がった。



「ククク。勇者よ。もう終わりか?」


・・・終わりだよ。もう何もねぇよ。

それに答える元気すらねぇよ。


「勇者よ。貴様の一撃は中々良かったぞ?それに人間の汚さを語る貴様の姿も好感を持った。むしろ我は貴様から学ばせてもらったよ。この世界の人間は、首輪をつけて飼いならした方が良いとな。」


・・・コイツは人間を強制的に支配するつもりはねぇとか言っていたが、どうやら本当は支配する気満々だったみたいだな。さっきまでは演技だったってことかい。騙されたよ。俺ってやっぱり騙されやすいのかな。


「三日後に我の全ての同調が完了する。その時、我は神の座をこの世界の神から奪い、真の神と成り代わる。既にそのための力はたまり切った。後はこの世界の者たちの信仰が試される時だ。我の天啓がこの世界全てに伝えられる。そこで我に従わなかった者は全て殺す。人間たちの選択の時がこれからやってくるのだ。」


・・・それが時間稼ぎだったというわけか。ていうかコイツはこれだけの力を示しながらまだ同調しきってなかったのか。



「勇者よ。その時にはしっかりと貴様の雄姿も語っておいてやろう。神にたてついた勇者の末路と題してな。」


きっとそのことは世界に不安をもたらすだろうな。

勇者ならって期待をすべて打ち砕く。期待が打ち砕かれると辛いもんだ。


・・・すまねぇなぁ。世界のみんな。守れなかったわ。



「魔王と勇者は、魔王が負けた。だが魔神と勇者では、魔神の方が上だったようだな。」



・・・何だか笑えて来るよ。

最後の最後になって気が付かされちまった。


俺が戦うのは俺が守りたい誰かのためだって思ってたけど、意外にも最後になって世界のことを考えている。

思ったよりも、世界を守ろうって考えていたのかもしれねぇ。


案外、俺もこの世界の住人になっていたのかもな。


なんで最後にそんなことに気が付かされちまうんだよ。おかげで申し訳なさがでてくるじゃねぇか。

死ぬときぐらい、スッキリ死なせてほしいもんだ。


それに、エリーも悲しませちまうなぁ。

あの時好きだなんて言わなければ、いやもっと前から親密にならなければ、死ぬ間際にアイツの悲しむ顔なんて想像しなくて良かったのかな。



「ククク。今から勇者の死を伝えられる世界の者たちの反応が楽しみであるな。どれだけの人間が我に従うのか。」



あぁ、そう言えばサムエルさんにも死ぬのが分かったら一声かけろって言われてたっけ。

・・・やっぱり無理に決まってるじゃねぇか。


魔力もねぇし。もう腕もあがらねぇよ。

すまねぇなぁ親分。



「全ては我への信仰のため、勇者という題材、存分に使わせてもらうぞ。」



死ぬと分かると不思議なもんで、いろんな人の顔が浮かんでくる。

リトラスの村の人たち元気かな。

ウーディアの街の人たちは復興作業頑張ってるかな。

ケートの街の福祉施設は上手くいったかな。

ヒーローたちは元気かな。

フォエフォ島は、ニホンになるのかな。

フィリップにはなぜ死ぬのかと怒られそうだ。

クリーネの街にももう一度行くはずだったのに。



みんな、守れなくてごめんな。

世界の人たち、本当にすまねぇ。



「さて、勇者。終わりにしようか。」



俺、ダメだったよ。やっぱり俺は、特別にはなれなかったみたいだ。



魔神が一歩、また一歩と近づいてくる。


・・・だが魔神が俺の下にたどり着く前に、俺の体が突然光りだし、魔神が驚きの声を挙げた。


「・・・な?!なんだ?!」



――ドクン。



・・・なんだ?身体が熱い。



――ドクン



・・・何かが俺の中で沸き上がる。



――ドクン



・・・これは、この力は何だ?


「勇者よ!貴様何をしている?!



――ドクン



・・・俺だって分からねぇ。だが確かに力がみなぎる。

不思議な程に力強く、そして驚くほどに心が温かくなる力が、沸き起こってくる。



そして、鼓動が収まる時、光は当たり全体を包み込むほどに大きくなった。

その光は一瞬だった。だがその光が収まった時、俺の力は今までよりも何倍にもなっていることに気が付いた。


・・・何だこれは?どうなっている?


「・・・バ、バカな。バカなバカなバカな!!」


恐ろしいほどの力が沸き起こる。まるで今まで抑えられた力がようやく目覚めたかのように。


「貴様・・・!!」


そうか。そうだった。



「まさか貴様・・・同調したというのか!!」



俺も魔人たちと同じ、よそ者だったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ