人間ってのはさ
突如として聖剣が光り姿が変わった。
これまでも煌めいていた刀身だったが、その煌めきはより一層増して、さらに赤みがかった刀身に様変わりした。
俺も驚いたが、バールード神の驚きはそれ以上だった。
始めてアイツの笑みが消えた。
「なんだその剣は?」
奴は困惑しているようだ・・・もしかしてこの剣に【鑑定】が効いていないのか?
とりあえず俺も聖剣を【鑑定】してみるとなぜか俺の方では【鑑定】することが出来た。
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【解放されし勇者の聖剣】
神が遣える勇者に送る剣。勇者しか使うことは出来ない。
その見た目は、魔神に恐怖を与える。勇者と魔神以外には刀身が見えない。魔神にのみダメージを与えることが出来る剣であり、魔神以外には鞘に入れて攻撃することで聖剣術の補正を得られダメージを与えられる。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
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「魔神・・・だと?」
その一言で、奴の眉が上がった。どうやら当たっているようだな。
「・・・ククク。なるほど。どうやら勇者は我には見えぬスキルを持っているようだな。【鑑定】もいくら探してもステータス欄に見えないしな。やはり神に特別なスキルを付与されたという事か。」
見えないスキル・・・【聖剣解放】が見えないのか?それに【鑑定】まで?
まさかコイツは俺の【チートパック】が見えてないのか?それなら【鑑定】が見えてないというのも合点がいく。
なぜ見えないのかは分からない。
・・・だがこれが「責任とれ」という俺の叫びへの神の答えなのかもしれない。
神は既に敵が魔神であることを想定していた。
だから俺に【チートパック】を与えたんだ。そうじゃなきゃ【聖装解放】はそもそもおかしい。
本来であればこのスキルは【勇者】の職業が与えるものでなければおかしい。【勇者】にしか【聖装】は使えないわけだし。
それが【チートパック】に入っていること自体がおかしかったんだ。
それはつまり、神はあらかじめ魔神を想定して俺に【チートパック】を与えたという事だ。
いわば【チートパック】は【勇者】をアップグレードさせるためのものというところかな。
相手が魔神であり、多くの大魔人を従えているから、俺をチートな勇者として送ったのだろう。
確かに俺が望んだチートだった。けれど神もまた「チートに生きてくれ」と願ったんだ。
全てはこの時のために、俺は【チート】で【勇者】だったんだ。
「ククク。まさか我が魔神であることがバレるとはな。だがまぁ嘘はついていなかっただろう?我が神であることには変わりはない。」
そうだな。神であることは確かなわけだし。嘘はついちゃいねぇな。
相手の動揺を誘う事ができたからか、俺にも少し余裕がでてきた。
「・・・そもそもどうしてお前が魔神になってるんだよ。魔王だったんじゃないのか?」
奴はさっき魔王はいたと言っていた。つまりここに来た当初は魔王だったのが魔神になったということだろう。
「ククク。まぁ良い。どうせお主は死ぬ運命にあるのだからな。教えてやろう。」
死ぬ運命ね。そりゃあ生きてりゃいつかは死ぬさ。でもお前に殺されるつもりはないがな。
「我々魔の者が住んでいた異界は既に限界であった。世界は混沌と化し、どうすることも出来なかった。あの世界には既に力がなかった。そのため我の【超越】の力を用い、世界を越えてやってくることとなった。」
おいおい、まさか身の内話から始めるとは予想外だった。魔神って意外とお喋りなのか。
しかし【超越】か。文字通り世界を超越する力を持ってるってことか。それで俺を元の世界に送ろうとしたのかな。
「だが【超越】では我一人しか来ることは出来ん。そのため我は神になり、【超越】の力を進化させねばならなかった。」
・・・スキルって進化できんのか。いや、奴らは魔人から大魔人に進化したりするし、その辺の影響からできるのだろうか。
「我はこの世界に来るまでは魔王であった。それが異界の限界であった。だが力に満ちたこの世界に来たこと、そしてこの世界の人間に神と認められたために我は神となることができたのだ。王の位を持つものへの信仰が満ちる時、その者は神となる。この場所は元々信仰心の強い者たちの集まる場所。そこが我への信仰で満ちたおかげで我は神となることが出来たのだよ。」
「・・・どうやってここの人たちに信仰させたんだ?」
別の神を信仰している人間に別の者を神と思わせるのは簡単なことじゃない。
それも全員をとなれば不可能に近い。信仰を植え付ける魔法でもあるのだろうか。
「簡単なことだ。我はスキルを与えたのさ。この世界の人間はスキルに何よりも強い魅力を感じ、そしてそれは神の領域と考えていた。そこをついてやればいとも簡単であったよ。」
「・・・スキルを与える?そんなことが出来るのか?」
「ククク。出来ないと思うだろう?だから我は神として崇められているのだよ。」
スキルを与えることが出来る?確かに自分にスキルが付与されれば・・・いやそんな簡単に信仰を変えるものか?
「貴様のように大量のスキルを持っている者にはこの感情はわからんだろうな。だが事実、ここの人間はスキルに飢えていたのだ。どれだけ努力しても手に入らない力。どれだけ祈っても手に入れられない力。故に諦めていたそれが、いざ自分のものに出来るとあっては、その相手を信仰するようになるのだ。」
・・・ここは教会の総本山だってのにな。そんなに簡単に寝返ってしまうのか。
「神は職業とスキルという才能を与えてきた。だがそれは全く理不尽に与えるものである。なぜ望む力が手に入れられんのだ?なぜ努力で塗り替えられんのだ?この世界の神は全ての人を平等に扱ってはおらんのだぞ?そんな理不尽な世界、変えてしかるべきであろう。」
確かに、この世界は職業とスキルに縛られている。それはどんなにもがいたって変えることはできない。
「だから私は変えてやろうと語り、実際にスキルを付与し力を示したのだ。そしてここの人間は各々に与えられた新たな力に魅了され、我を神と認め信仰したのだ。その人々の信仰が、我は神としたのだよ。」
神が信仰を生み出すのではなく、信仰が神を生み出したのか。何とも現実的な信仰だこと。
「神はな。人が生み出すのだ。人の願いが生み出すのだ。故に我が神となることは何らおかしなことではない。」
人が神を生み出す。確かにそうなのかもしれん。前の世界では俺もそう思っていた。
あんなもん人間が作り出した虚像だと。
だが、一方で否定したい俺もいる。
俺は別に信仰者でも何でもない。神など信じたこともなかった。
けれど、じゃあこの世界を救うために俺をここに送ったのは?チートを与えたのは?
この世界を救おうとしているのは誰なのか?
見たことも聞いたこともねぇけどさ。でもやっぱりいるんじゃねぇかな真の神ってのは。
お前みたいな紛い物とは違ってさ。
「ククク。随分反抗的な目であるな。勇者よ。どうだ?我と一緒に来ぬか?」
「・・・はぁ?行く訳ねぇだろ。」
「なぜだ?我を倒して何になる?我は確かにこの世界を支配しようとしている。だがそれは今の神になり変わってこの世界を良くしてやろうとしているのだぞ?何もこの世界の人間を殺し尽くそうなどとは考えておらん。」
・・・殺すつもりはないとか言いながら、魔人に襲われて悲惨な目に遭った場所はある。
だが同時に、なぜ人間を殺さなかったのかと思える状況で放置していた大魔人もいた。殺しつくすつもりは本当にないのかもしれない。
「我はむしろ助けてやるのだ。この理不尽な世界から、職業とスキルに縛られた世界から。いわばこれは解放である。この理不尽な世界に何の魅力がある?努力が、願いが、報われる世界こそ素晴らしき世界であろう?」
・・・言葉に詰まった。
職業とスキルから解放されるならば、良い世界のように思ってしまったからだ。
もし努力すればスキルが手に入れられるなら?もし願えば職業が与えられるなら?
とても良い世界のように思ってしまったんだ。
「この世界は歪んでいる。だから我は修正しようとしているのだ。それは何もおかしなことではなく、むしろ今までの神の怠慢を尻拭いしてやるものだ。だから勇者はより良い世界のために協力してしかるべきであろう?それともお主は神の奴隷か何かなのか?」
「奴隷ではねぇな。」
「ならば何を迷う必要がある?この世界への愛着か?勇者という高みに登ったが故に他者の力の向上が恐ろしいのか?何がお前をこの世界の現状維持へと向かわせるのだ。」
・・・何が俺を勇者に駆り出すのか。その答えは俺の中にあるのだろうか。
思えば流されるように勇者を始めた。魔人が襲ってきて、そこから守ったと思ったらミトばあちゃんが死んで。
その時にみんなが良い死に方が出来るようにって思ったのと同時に、勇者という重圧から逃れるようにして勇者を始めて。
そこにエリーと一緒にいたいという理由もあって俺は勇者を始めたんだ。
このままの世界を維持するため、という理由で来たわけではない。
ましてや魔神の口ぶりからしてこの世界の人間を殺しつくすというわけでもなさそうだ。
むしろ本当にこの世界を作り変える気なのかもしれん。
ならば魔神の誘いを断る理由は何だ?むしろ受けちゃいけない理由は何だ?
「勇者よ。よく考えるのだ。どちらの方が、よりこの世界の人間のためになるのか。お主はよく考える人間であるようだしな。聡明なお主であれば分かるであろう?」
「・・・。」
「この世界を変えるのだ。より素晴らしき世界を、皆が平等に願った自分になれる未来を作り出すのだ。」
皆が平等で、素晴らしい世界か。
「魔人によって既に襲われた者どももいるだろう。だが最初は衝突を繰り返すもの。大事なのはそこから新しい秩序を再構成することである。我は何も魔人を優遇などせん。この世界の者たちも含めて全ての者のためのより良い世界を神として作ってやろうとしているのだ。悪い話ではなかろう?」
コイツの言葉が言っている世界は、ちょっとは良い世界な気がしてきた。
・・・でもコイツはやっぱり神じゃあねぇなぁ。
「・・・そんな世界、出来る訳ねぇだろ。」
「何?」
「お前さ、神とか言いながらも所詮は魔神だな。考えが浅はかで笑えて来るよ。」
結局コイツは自分の頭の中の理想像しか語ってない。そんなもん出来る訳ねぇだろ。
「人間ってのはな、もっと汚くて醜いもんなんだよ。与えられたスキルが手に入る?それで与えられて満たされて喜んで満足すると思ってんのか?そんなもん最初しか喜ばねぇんだよ。」
【チートパック】が与えられた俺のように、最初はそのスキルを願い与えられたとしても、結局は心の底から満たされるなんてことはない。
「人間ってのはもっと欲深いんだ。スキルなんかじゃ満足しねぇ。そんなもん与えられても、次はまた別の何かを望むんだよ。」
与えられても結局は理想ほど満たされなくて、次はもっと良い状態を望むようになる。
「俺が前にいた世界はな、職業やスキルなんてものは定められていなかった。いうなれば全員が平等だ。でもそこでも結局不平等が生まれていった。生まれた時から、育っていく中から、理不尽にも不平等を経験したやつもいた。」
理不尽さはコチラの世界の方が強いかもしれない。でも前の世界にだって確かに理不尽としか思えないようなことはあった。
「でもな、生まれも育ちも真っ当だったにもかかわらず、不平等を嘆く奴もいた。特別な何かが欲しいと願った奴もいた。俺みたいにな。」
俺は別に不遇だったわけでも何か辛い体験をしたわけでもなかった。
それでも不平等だとどこかで嘆いて、特別になりたいと願った。
「そんな俺がこの世界に来て特別な立場になって今度はまた願うんだよ。普通になりてぇって。わがままだろう?でも人間なんてそんなもんなんだよ。」
果ての無い欲求。人間が持っているそれを満たそうなんて、神にだって出来ねぇんだ。
欲求を消さない限り人間は求め続ける。けれど、欲求がなくなったら、それはもう人間じゃないだろう。
「お前の言う理想郷は、人間を信頼しすぎだな。人間はそんなに綺麗でも素直でも優しくもねぇ。」
「ククク。まさか勇者に人間の汚さを語られるとはな。」
「それでもな、満たされるものがあるんだよ。つい最近な、一人の人間に愛情を語られた。それが嬉しくて、初めてあんなに心が満たされたよ。結局、スキルや職業なんて関係のない、人間からの愛で満たされたんだから不思議なもんだよな。」
「随分と青臭い話じゃないか。」
「うるせぇよ。さっきまで青臭い理想郷を語ってたのはどこのどいつだ。」
「ククク。魔神の考えを青臭いと言い切るか。」
「俺はこの世界の平和のために遣わされた。それはこの世界をより良くするためじゃねぇ。あくまでもこの世界の今ある秩序を守るためだ。それ以上のものにするためじゃねぇんだよ。だから魔神よ。お前の理想を叶えさせるわけにはいかねぇな。」
「・・・理想か。だが我は我の理想を現実にする。それが出来てこそ神であろう。」
「俺は人間の汚さも含んだこの世界を守る。そしてお前が神じゃねぇってことを証明してやるよ。」
俺は剣を構える。
魔神もまた剣をどこからか出してきた。
今、最後の戦いが始まっていく。




