教皇領パルリア
家で一晩を過ごした俺たちは、体調も万全な状態に回復した。
エリーもすっかり元気になったようで、朝ご飯を作ってくれている。
こんな日々が続けばいいのにな。
・・・おっと。ネガティブな考えに引き込まれそうになっちまった。体が万全でも心が落ち込むと十分な力を発揮できない。それに今から気負ってもしょうがない。俺はやる気を出すために腕を大きく広げて伸びをして、顔を叩いて気合を入れる。その光景を見てエリーは笑っている。
「ふふふ。ハルヤさんの調子が良さそうで安心しました。」
「あぁ、バッチリだ。・・・いよいよ教皇領だな。」
「そうですね。もしかして緊張してるんですか?」
「そりゃあ緊張するだろう。魔王がいるかもしれないんだぞ?」
「ふふふ。案外もういなくなっているかもしれませんよ?」
確かにその可能性は十分にある。でももしいなくなっていたら正直困ってしまう。これ以上魔王探しはしたくないし、残り時間が少なかったとしたら大変なことになりそうだし。
「・・・いなくなっている方が困るな。また魔王探しに行かなきゃいけないから。」
「確かにそうですね。じゃあ魔王に会えるといいですね。」
「そうだな。魔王に会えると・・・でも会いたくないなぁ。やっぱり怖いし。」
「でもいないよりはマシなのではないですか?」
「そりゃそうかもしれないけど・・・。」
「なので教皇領に行って魔王に会えたらラッキーだと思いましょう。そうすれば多少は教皇領に行くのも前向きに思えるでしょう?」
うーん。何だか丸め込まれている気がするんだが・・・でも確かに魔王に会えて良かったと思える状態で乗り込んでいった方が精神的にはマシな気もする。エリーのいう事も一理ある気がしてきた。
「そうだな。うん、そうしよう。魔王に会えたらラッキーなんだ。そう考えたらちょっと心も軽くなってきた気がする。ありがとなエリー。」
流石に最後の戦いになる可能性があるということでエリーも心なしか優しい気。こんな風に普通に励ましてくれるなんてな。
「ふふふ。ハルヤさんって・・・よく騙されやすいって言われません?」
やっぱりいつものエリーだわ。何が最後の戦いだよ。魔王なんてコイツの前哨戦だったわ。
「・・・魔王で終わりじゃないという事を思い出したわ。エリーがラスボスだったわ。」
「ふふふ。ではいつか勝負を仕掛けられるのを楽しみにお待ちしていますね。」
エリーとの軽い前哨戦を終えたところで朝ご飯を食べ、食べ終わったらいよいよ教皇領に向かって行く。
準備を済ませた俺たちは家を【アイテム】に収納し、そして俺はいつものように四つん這いになる。エリーが乗ったところで【浮遊】で空を飛んでいく。いつもの手順通りだな。
そのまま俺たちは教皇領パルリアを目指し出発した。
教皇領に向かう前に上空からクリーネの街を確認するが特に問題はなさそうで安心した。セイラのところにも顔を出したいものだが、今クリーネの街に寄れば色々な人に声をかけられたりしてまた時間がかかるだろう。
名残惜しいが魔王を倒せばまた来れるんだ。今はさっさと教皇領に向かって行こう。
俺たちはクリーネの街を越えて、教皇領に進んでいくべく海上に突入していく。
以前フォエフォ島に行く際に越えた海よりも北部に位置しているからか、風が冷たく感じてくる。
一応【風魔法】と【火魔法】を操り暖房みたいにしているがそれでもどことなく寒さを感じる。
これは北風の影響なのか、それとも頭の中の魔王が持ってくる寒気なのかは分からない。
だが頬に当たる冷たい風がどこか旅の終わりの緊張感を伝えてくるようだ。
朝のエリーとのやり取りで多少緊張がほぐれたと思っていたが、再び緊張感を持ち始めた俺にエリーが問いかけてくる。
「ハルヤさん。魔王を倒した後もこうやって乗っけてくれますか?」
魔王を倒した後、つまりは俺たちが【勇者】と【預言者】という使命から解放された後の関係性について考えているのだろう。それなら何の問題もないことは昨日確認しただろ。
「むしろそのためにやってんだよ。言わせんなよ恥ずかしい。」
「ふふふ。それを聞いて安心しました。存分に魔王を倒してください。」
「あぁ。さっさとぶっ倒してくるよ。」
ふっと肩の力が抜けた気がした。不思議な程コイツの声にはいつも励まされる。やっぱり必要だよエリーは。そんなことを心の中で呟いておく。
ちょっとだけ元気がでてきたところで、遠くに島が見え始めた。あれが教皇領だな。見ただけで分かるわ。
思ったよりも島は小さい。が思ったより異様な島だった。
まず真ん中に白を基調とした馬鹿でかい聖堂が建っている。その塔の頂上付近にはあの太陽みたいなマークがデカデカと記されていてここが教皇領であることを示している。
そして聖堂のその周りを囲むかのように等間隔に10本の塔が建てられ、島全体の統一感を現している。
一方で人が住めるような家などが建てられているのでただの宗教施設ではないようだ。どちらかというと城と城下町のようなものだろうか。だがやはり聖堂の存在感がありすぎて宗教色が強い。
そして流石は総本山といったところか、恐らく今まで見てきた街の中で一番街全体が整えられ、清潔感があるように見える。やっぱり金持ってんのかな宗教って。
そんなことを考えながらも、しっかりと来た目的に意識を向ける。
エリーが言っていたように既に魔王が居ない可能性もある。だから一応祈っておこう。宗教の総本山だしな。
魔王がいますように。
そう願いながら近づいていくが、もしかしたここに魔王はいないんじゃないかと感じさせられる。
というのも街にこれといった異変が一切ないのだ。街には普通に人が行き交っているし、建物などが破壊された雰囲気もない。まさにいつも通りといった感じだ。
だが、半年以上前に魔王がここに降り立っていたのだとしたらそれはおかしくないか?
なんだ?どうなっているんだ?
注意深く探してみたが見たところの異変は特に何もない。見てダメなら聞くしかないな。
俺たちは島に上陸していく。いきなり城まで行って魔王がいたりしたら大変だからとりあえず歩いて城に向かいつつ情報収集をしていこう。
地面に降り立ってみると改めて一つ一つの建物の大きさに目を奪われる。つい上ばかり見てしまいそうになるが、ここは情報収集のためと思い人がいないか探してみる。
すると街を歩いていた司祭の格好をした人がいたので話しかけてみる。この街は現在、大司教以上しかいないということだ。もしかしたら生活のために召使のような人たちはいるのかもしれないが、恐らくこの人は大司教以上の人だろう。服装がスゴイ豪華だからな。
「あの、すみません。」
俺が声をかけるとこちらを振り返り、俺たちをよく観察した後に驚いていた。
「ん?!あなたたちはどなたですか?!というかどこから来られたのですか?!今この街には大司教以上でなければ勝手には来られないのですよ?!」
「え?あぁすみません。けれど緊急事態なので上陸させてもらいました。俺は【勇者】のハルヤ。こっちは【預言者】のエリーです。この街が半年前に闇に包まれたと聞いてやってきました。」
「勇者に預言者?確かにここは半年程前に闇に包まれましたが、今は神の力によって晴らされたので問題ありませんよ。むしろここは神の確かな守りがありますから最も安全な場所だと言えるでしょう。」
え?神に守られた?マジで?
じゃあここに魔王はいないのか?どうなってるんだ?
突然現れた神という単語に頭が混乱する。ここに魔王が半年前に攻めてきたと考えていたから、まさか神がここを助けるなんてことは考えもしなかった。
だがあり得ない話でもないのか?
この世界に来る前の俺だったら「神の助けなんて」と一蹴していただろう。
ただ異世界からこの世界に飛ばされたという現実が神の実在性を訴えかけてくる。
そう考えると俺が来る前から神が介入していたという可能性もあるのか?
「なのでここは問題ありません。というよりも大司教でもないあなた方がここに居る方が大問題です。勇者と預言者ということですが信ぴょう性もありませんしね。今すぐに出て行った方がいいでしょう。」
そう言って相手は俺たちを追い出そうとする。それにさっきこの人が大声で驚いたせいで他の大司教以上だろう豪勢な格好をした人やら召使のような恰好をした人たちもやってきてしまった。何だか追い出されそうな雰囲気だ。ただもうちょっと情報が欲しい所なんだが・・・。
するとやってきた人たちの中から一人が大声を挙げた。
「エリー?!まさかエリーなのか?!」
そちらの方を向くと小太りな男がこちらを見つつ驚いた顔をして立っていた。
「バルダス大司教様?!」
どうやらエリーはその相手を知っていたようだ。
というかバルダス大司教?つまりはフィリップが言っていたレンダルフィア帝国の大聖堂の大司教か。
エリーの【預言者】の力を使わせようと躍起になっていたとも言われていたな。それに帝国に買収されていたとも。
話を聞いたところで勝手に名誉や権力を欲するタイプのいやらしい人間を想像していたが、見た目もいやらしさに満ちたものだった。エリーもあまり相手をしたくはないだろうけど、ここは知り合いだしエリーに任せよう。
「エリー?!なぜここにいるのだ?!この場所は大司教以上は来られないのだぞ?!」
「バルダス大司教様。私に「勇者のところに行け」という預言が降りました。それ以来私は今ここに居る彼【勇者】のハルヤさんと行動を共にしています。6日前からこの世界が魔人たちに侵略され世界各国で被害が出ているのです。その被害を食い止めるために行動をしていましたら、半年程前にこの場所が闇に包まれたという情報を手に入れました。」
エリーが淡々と大司教バルダスに説明をしていく。バルダスからすれば期待していたエリーに預言が降ったということは嬉しい事だろうけど・・・バルダスの顔は訝しむ顔つきに変わっていく。
「魔人は姿を表す際、必ず空が闇に包まれます。そのため教皇領を襲った闇もまた何か関連があると考え調べに来ました。」
「・・・なるほど。そうだったのか。だがここを調べる必要はないだろう。なぜならここは今神の御守りがある場所だからな。我々の信仰の故にここには神が与えられたのだ。」
「・・・それは一体どういうことなのでしょうか?神が何らかの力を用いて直接介入されたのですか?」
「フハハ!以前の私であれば同じように驚いていただろう。神が直接に介入してくるはずなどないと。だが事実ここには神の御守りがあるのだよ。バールード神の御守りがな。」
「・・・え?」
エリーが驚いたような表情を浮かべ固まった。どうした?何か不都合なことがあったのか?
「バールード神が来られたことによってここは最も強い守りが与えられた場所。故にここを調査する必要も、勇者の救済も必要ないのだよ。それにエリー。君の【預言】ももう必要ないのだ。なぜなら今私たちは神の声を直接聞ける立場になったのだからな!」
バルダス大司教はエリーを不要と言い放った。散々期待してエリーにプレッシャーかけ続けたくせに、必要なくなったらすぐに捨てる。やっぱりコイツは嫌な奴だな。
「バールード神は何と私たちの目の前に直接来てくださったのだ!神が直接だぞ?!これ以上に嬉しいことはない!私たちの信仰心がまさに報われたのだよ!フハハハ!」
固まっていたエリーだったがハッと気が付きすぐに俺の方を向いて言った。
「ハルヤさん!今すぐ浮遊で上空に逃げましょう!」
エリーが焦った表情で浮遊を促すので俺はすぐにエリーを掴み空に逃げていく。
「あ!コラ!何処に行くんだ!降りてこい!」
下でバルダス大司教が騒いでいるが無視でいいのだろうか。というか今の会話から何が分かったんだ?
「どうしたんだエリー?何があった?」
「・・・そうかハルヤさんは知らないんですものね。すみません。」
「そうだな。俺には常識がないからな。」
「いえ、そんなことは・・・。」
いつものように常識がないいじりをしないものだからついコチラから言ってしまった。俺も毒されているのかもしれない。だがそんな会心の自虐をエリーに否定された。調子が狂うな。なんかあったのか?暢気に会話する俺とは対照的に、エリーは真剣な表情でつぶやいた。
「さっきのバルダス大司教の様子、そしてそれを止める気も見せなかった他の方々の様子は明らかに異常です。」
「どうしてだ?」
「・・・私たちが信仰している神の名はアードナイルです。決してバールードなどという名前ではありませんし、そのような呼び方聞いたこともありません。」
「え?」
「つまり別の者がこの教皇領で神の座に君臨しているという事です。」
・・・なるほど。つまりソイツが魔王かもしれないってことね。
ラッキーじゃん。魔王に会えそうだ。




