逃走
エリーは無事に正気を取り戻した。
告白まがい、というかただの告白をかました俺の精神的には無事とは言い難いが。それでも起こった問題は解決した。気がかりなことはあるがそれは魔王を倒せば分かること。
だから後は魔王を倒すだけだ。
「さて、問題も解決したし、教皇領に向かいますか。」
俺はいよいよ魔王がいるかもしれない場所へ向かう覚悟を決めようとしているとエリーから待ったがかかった。
「・・・もう夜ですよ?」
そう言えばもう夜だったな・・・。それに三姉妹との戦いにこの街の救済にと精神的にも体力的にもかなり消耗している。
加えて俺は回復できたとしてもエリーの体力の消耗はかなり激しい。
ここは一端クリーネの街で休んでからにした方が良いだろうか・・・。
「ハルヤさん、急ぐ気持ちは分かりますが、今のままの状態で行ってもかえって危険だと思いますよ。随分体力を消耗しているようですし、なぜか落ち着きもなさそうですし。」
「そうだな・・・。確かに体力は消耗している。だが精神的な消耗のほとんどエリーのせいだろ。何を知らん顔してるんだ。」
「ふふふ。私のためにだなんて。ハルヤさんは随分大胆になられましたね。」
「ためになんて言ってねぇよ!エリーのせいだって言ってんだよ!!」
「ふふふ。ハルヤさんが恥ずかしがり屋なのは分かりましたから。皆まで言わなくとも大丈夫ですよ。」
「なんも分かってねぇだろ!」
ダメだ。これ以上話すと余計に疲れるだけだ。
それにエリーの言う事は一理ある。今のままの状態で行くのはかえって危険だろう。相手がただの魔人程度であれば問題ないが、相手は魔王の可能性もあるわけで。
はやる気持ちはあるがこういう時こそ落ち着くのが大事だ。
「流石にこれからパルリアに向かうのは厳しいか。・・・今日はここで少し体を休めよう。」
「それがいいと思います。少なくとも私はもう限界ですので・・・。」
エリーは今まで色々な負の感情に心が犯されていたからな。既に疲労困憊と言った感じだ。
街の人たちも元気は取り戻したものの体力の消耗は激しいようだし。
心がやられると体もやられていく。そのことが今回の出来事で示されたようだった。
「とりあえず空いている場所にまた【アイテム】から家を出すかね。セイラの家に長居するのも申し訳ないし。」
「あ、そう言えばセイラさんにまだお礼を言っていませんでした。彼女は何度も何度も励ましの声をかけてくださったのでお礼を言わなければなりません。」
そうか。俺がいないところでセイラもエリーを支えてくれていたんだな。俺からも礼を言っておこう。
俺たちは部屋から出て行くと、セイラ一家はリビングに座っていた。俺たちが出て行くと全員がこちらを向いた。両親が気まずそうな顔をしているのとは対照的にセイラはキラキラした目で笑いながらこっちを見ていた。その顔を見て両親が慌てて「やめなさい!」と言っている。・・・まさか。
「・・・もしかしてさ。今の声全部聞こえてたの?」
すると両親がテーブルにこすりつけるようにして頭を下げながら即座に謝罪してきた。
「申し訳ありません勇者様!外で待機しようと思ったのですが我々も疲れ果てていて、つい家の中で待機してしまったのです!」
「ただ私たちはそこまでは聞いていません!勇者様の愛の告白など何も聞いていませんので安心してください!」
「いや自分で愛の告白って言ってるじゃねぇか!」
・・・マジかよ。全部聞かれてたのかよ。そりゃ人ん家で叫びまくった俺たちが悪いんだけどさ。でもさ、そこは聞いていないフリで通してくれても良かったんじゃないのかな!
聞かれていたことに落ち込んでいるとセイラが優しく慰めてくれる。
「勇者様元気出して!とってもカッコ良かったよ!」
「・・・ありがとうセイラ。でもね、その慰めは方向性を間違えているよ。今は聞いていなかったって言ってほしかったんだ・・・。」
「・・・?でもとってもカッコ良かったよ?セイラもあんな風に言われたいって思ったもん!」
「セイラ!やめなさい!」
「そうよセイラ!人には触れて欲しくないこともあるのよ!」
「えー?!そうなの?!勇者様ごめんなさい・・・。」
かといって謝られても困る。今の俺はただただそっとしておいてほしいだけなのだ。
これ以上傷口に塩を塗らないでくれ。
「セイラさん。先ほどはありがとうございました。苦しい時にセイラさんの優しい声が聞こえてとても嬉しかったです。」
エリーは礼儀正しく礼を言っている。相変わらず猫を被るのがうまいな。
「元気になって良かったねお姉ちゃん!勇者様のお嫁様になるの?」
相変わらず直球だ。素直というか、子どもってやっぱりスゴイ。
「ふふふ。私にはわかりませんので勇者様に聞いてみてはいかがですか?」
「俺に振るんじゃねぇ!あ、そうだ!俺たちはこれから魔王を倒すための作戦会議をするから早く行かないといけないんだ!セイラ!そしてセイラのお父さんとお母さん!部屋使わせてくれてありがとな!三人仲良く過ごすんだぞ!じゃあな!」
そう言って俺はエリーの手を掴み足早にセイラ家を出て行く。これ以上ここにいるのは恥ずかしすぎる。
「え?!待ってよ勇者様ー!」
「ふふふ。続きはまた今度ですねセイラさん。」
外に飛び出していくと今度は街の人たちが俺を見つけては感謝の言葉を言ってくる。だが今はその一つ一つに対応するのも大変なので、俺はエリーを抱えて【浮遊】を使い街の外へと飛び出していく。みんなが俺たちに手を振っているのに対してエリーはのんびりと手を振り返している。コイツ限界とか言いながら割と元気じゃねぇかよ。
そして街の外に出たところで上昇し、近くの林の中に家を出せそうな場所がないかを探す。するとちょうど良さそうな場所があったのでそこに降りてさっさと【アイテム】から家を召喚した。
そのままエリーと共に家に入っていく。ここならもう安心だ。
「ふう。ここまでくればもう大丈夫だ。」
「ふふふ。ハルヤさんは恥ずかしがり屋ですね。そんなことでは立派な鞘の勇者にはなれませんよ?」
「別にならなくていいんだよ!それに恥ずかしかったわけじゃなくて街の人たちは疲労困憊で勇者の相手も大変だろうから気を使ってさっさと出てきてやっただけだ。」
「ふふふ。そうですか。お優しいんですね。」
エリーは白々しく返事をしながらそれ以上は追求してこない。コイツはいつも俺の精神の許容ギリギリを狙ってきやがる。駆け引き上手だな。修道女よりもギャンブラーとかの方が向いていそうだ。
とりあえずクリーネの街から逃走した。別に悪いことをしたわけじゃない。というかむしろ良い事をしたんだけど恥ずかしさと疲れがあったのでこれ以上関わるのは色々と限界だと判断しての逃走だ。いつか謝っておこう。
にしても今日も激動の一日だったな。というか魔人が来てからというもの毎日が激動だ。まだ一週間も経ってないってのに一年分ぐらい働かされた気分だよ。アルバイトしか働いたことはないけど。
そんなことを考えているとグーッとお腹が鳴った。
「ふふふ。ハルヤさん、お腹が空きましたね。何か作りましょうか?」
「いや、エリーも疲れてるだろう。余計な体力は使わずに、ここはあるものを食べよう」
エリーは作ろうとしてくれたが、流石にこれから料理するほどの体力は残っていない。エリーもだいぶキツそうだしな。
俺は【アイテム】から保存しておいたパンと肉を取り出す。やはり時間経過のない【アイテム】は便利すぎるな。改めてチートって便利だわ。
俺たちは会話もそこそこにすぐに飯を食い始める。想像以上に腹が減っていたのかあっという間に食べ終わった。思えば昼飯も食べずに動き続けていたからな。そりゃあ腹減るわな。
「ふぅ。旨かった。さて、サムエルさんにでも連絡するかな。」
俺は近況報告をしようと【アイテム】から魔道具を取り出しサムエルさんに連絡を取る。
するとサムエルさんはすぐに出た。
『おぉ!ハルヤか?!そっちはどうだ?順調か?』
俺はサムエルさんに今日起こった出来事を伝えておいた。
同調について、皇帝との話について、既に魔王は半年以上前から来ていたことについて。そしてこれから魔王がいるかもしれない教皇領パルリアに行くことについて。
サムエルさんは一つ一つの話に驚いていたが、全ての話を終えてからゆっくりと話し始めた。
『ハルヤ。お前さんはこれから最も危険かもしれねぇ相手の場所に行くんだな?』
「そうですね。場合によってはこれも最後の通話になるかもしれません。」
『馬鹿言うな。せめて死ぬのが確定したらその前にもう一度ぐらい電話しろ。』
戦闘中に出来る訳ねぇだろ。
というかなぜ俺が死なないように慰めるとか励ますとかそういう考えはないのか。これでもこっちは魔王が近いかと思うと結構ビビってるんだぞ?!
「普通ここは死なないように励ましません?」
『ハハハ!お前を励ますのは俺の役目じゃねぇ。そういうのは嬢ちゃんに任せるよ。俺はお前が魔王を倒すと信じて、街の奴らに戦いの終わりが近いことを告げる役目だ。」
「俺が負けたらホラ吹き野郎になりますよ?」
『そりゃあ困るな。じゃあ俺たちは一蓮托生だ。俺のために勝てよ。』
「世界のために勝ってきます。」
『ハハハ!まぁその分なら大丈夫だろ。こっちも特に問題はねぇ。今日も魔人を二人倒しているからな。お前の魔道具は相変わらず優秀だぜ。だから街のやつらのことは俺たちに任せて、お前は存分に暴れてこい。』
心配するな・・・か。そうだな。俺はこの期に及んでまで急がないといけないと考えていた。それは一人でも犠牲者が少なくなるようにと考えてのことだ。
だが俺は全能じゃない。人間なのであって疲れもするし腹も減る。万全の状態を維持し続けることは出来ないから、急ぎたくても限界がある。だがそれでも休むことにうしろめたさを感じてしまう。
そんな俺に対してサムエルさんは任せろと言ってくれる。世界のことは、世界全員で考えるべき。だから抱え込むなと。暗にそう言ってくれているようだ。
だから俺は万全の状態で魔王に向かって行く。そのための備えのために、今日は休まないとな。
「サムエルさん・・・ありがとうございます。さっさと魔王を倒して世界を救ってきます。」
『気負うなよ。・・・あぁ、そう言えば一つ確認したいことがあったんだ。』
「なんですか?」
『・・・もしよ、もしお前さんが死んだらってのを考えちまったんだよ。』
・・・サムエルさんでもそんなネガティブなことを考えるんだな。
なんて物騒なこと考えるんだよと思ったけど、相手は魔王とあっては考えてもしょうがないか。
サムエルさんも俺のことを何だかんだ心配してくれているんだなと思った。
思ったけどすぐにぶち壊された。
『そうなった時によ・・・俺ってほら、お前さんがこの世界に来て初めて会った人間なわけで、つまりは保護者に一番近いだろ?・・・相続財産って俺のもんになるのか?』
「・・・それって今聞かないといけないことですか?」
『馬鹿野郎!お前の魔道具ってすげぇ効果なんだぞ!その分価値もかなり高ぇんだ!これ売ったら俺はもう老後を心配する必要もなくなるんだぞ?!』
「・・・うるせぇよ!テメェの老後の心配する前に世界と俺の心配をしろ!!あとテメェには1ゴールドたりとも入んねぇように手紙書いとくからな!くたばれサムエル!」
『ハハハハハ!なんてな。冗談だ。どの道お前が死んだら世界が終わりだ。老後なんて考えられねぇからな。そうならねぇように生きて帰ってこい!じゃあな!』
そう言ってサムエルさんとの通話は終わった。最後の最後まであの人らしいというか。
憎たらしさも残していくところなんかは絶妙だな。おかげで絶対に生きて帰って来てぶん殴ってやろうと思えたよ。
「ふふふ。サムエルさんも酷いお方ですね。財産は私のものだというのに。」
ついでにコイツも同罪だ。
「・・・てめぇにも1ゴールドたりとも渡さねぇ。というか死なねぇ。俺は絶対に死なねぇ!!」
サムエルさんとエリー。それに出会ってきたたくさんの人たちのために。
その人たちの笑顔のために。俺は死ぬわけにはいかない。
世界がなんだ。国がなんだ。そんなことはどうでもいい。
俺は俺の守りたいもののために戦うんだ。そう考えたら、少しだけ肩の荷が降りた気分だ。
「ふふふ。では死なないでください。そちらの方が私は嬉しいので。」
「あぁ。魔王になんかやられてたまるかよ。」
魔王に殺されてなるものか。そんな死に方は嫌だ。
勇者は魔王に勝つ。それが当然のシナリオなんだよ。




