嘘じゃないぞ
街の人たちは救われた。残るはエリーだけ。最後になってしまって申し訳ないが、急ぎ部屋に入っていく。
「セイラ。きっとエリーは錯乱して色々言ってしまうと思うんだ。だから二人にしてもらってもいいかな?」
「うん!勇者様!お姉ちゃんを早く助けてあげてね!!」
セイラにまで暴言は枯れたらセイラも言ったエリーも気にしてしまうからな。セイラは素直に両親のところに戻っていった。
エリーを置かせてもらっていた部屋に入っていくと、そこには変わらずにうずくまるエリーがいた。
たった数時間。されど数時間。絶望・失望・渇望に苛まれ続けた時間は辛かったことだろう。
ごめんな遅くなって。
俺は聖装を解放する。部屋が光で満たされてもはや真っ白な空間にいるかのような状態になった。というか真っ白い空間になってねぇか?よく分からんがきっと聖装の特殊能力か何かだろう。
真っ白い空間はまるでこの世界に来る前に経験した空間のようで、不思議な感覚を抱かせられながらも、聖装の力なのかとても温かい気持ちになってくる。これならきっとエリーの心も救えるはずだ。
後はエリーが目さえ開けてくれればだが。
「エリー。目を開けてくれ。」
「・・・」
エリーは何も返事をしない。しょうがないのでエリーの肩を掴むとエリーがようやく反応した。
「やめて下さい!!」
うずくまったまま手を振り回し、俺の手を払いのけようとする。やはりセイラの両親と同じ反応だな。
「エリー。もう大丈夫だ。大丈夫だから顔を上げてくれ。」
「嫌です!放っておいてください!教皇領はすぐそこです!私の案内もいらないでしょう?!だから一人で行けば良いじゃないですか!」
「それは出来ない。こんな状態のエリーを放って行けるかよ。」
本当は力任せに顔を上げさせたい。だが目を開かせるには信頼する人からの語り掛けが必要である。さすがに力任せじゃ瞼は開かせられない。
この部屋は今、光で満ちている。目さえ開ければ光を見れるはずなんだ。
「大丈夫ですよハルヤさんなら!私なんていらないんです!!」
「いらないわけないだろ。」
「いらないですよ!だって【預言者】って言っても預言なんて一度も来てないじゃないですか!!!」
【預言者】と言いながら、この旅の間一回も預言は来ていない。そのことをエリーは気にするそぶりは見せなかったが。やっぱり気にしてたのか・・・。そりゃ気にするよな。
「それは・・・。」
「いつもそう!願っても願っても何も聞こえない!教会でだってどれだけ願っても聞こえなかった!そのせいでみんなに失望されて!今だってそう!ハルヤさんのためにって思っても何も聞こえなくて!ハルヤさんだって私に失望してるんでしょ?!」
陰ながらコイツも俺のためにと努力してくれていたんだな。苦しみの叫びだって言うのに嬉しくなってくる。
ただエリーに失望なんてするわけないだろ。
「そんなわけないだろ。エリーに失望なんてするわけがない。」
「どうせ嘘に決まってます!私なんていらないんですよ!【預言者】なのに神の声をまともに聞けないダメ預言者なんですよ!!意味ないんですよ私なんて!!」
「エリーはダメなんかじゃない!」
「本当はハルヤさんだって邪魔だと思ってるんでしょ?!今までの旅で何も役に立たなかったし、今もついてきたくせに泣き言いってって思ってるんでしょ?!どうせ私のことお荷物だって思ってるから私を置いて行こうとしたんでしょ?!」
そりゃ何度か置いて行こうとしたけどそれはお荷物だと考えたわけじゃない。ただただ心配だったからだ。俺がエリーにどれだけ励まされ、どれだけ助けられてきたことか。
「そんわけないだろ!ただ俺は心配で!」
「私はいらない人間なんです!!私は死んでも大丈夫なんです!世界にとって、死んでも大丈夫な存在なんです!!だから放っておいてください!このまま死んでしまえばいいんです!!」
かつてエリーは言っていた。死んでも大丈夫だって。その意味は死んでも天国で両親に会えるからだと。でも本当は、心の内では、死んでも大丈夫な程に自分は無価値な人間だと思っていたのかな。
「私にはもう生きる意味なんてないんです!頼みの綱だった【預言者】だって役立たず!もう私は無価値なんです!!」
表情には全く出さなかったが思いつめていたんだろうなきっと。いつも飄々としていたけれど、心の内では何も役に立てないと焦って不安になって。やっぱりコイツは俺と違って嘘が上手だ。
・・・でもさっきからいらないいらないって。辛いのも苦しいのも分かる。三姉妹のせいでこうなっているのも分かる。だけど段々腹が立ってきた。
「ふざけんな・・・。俺がどれだけエリーに励まされてきたと思ってんだよ!どれだけ励まされたと思ってんだよ!!これ以上俺の大事なエリーの悪口言うんじゃねぇよ!エリーだって許さねぇぞ!!」
「な、何ですかそれ!!横暴です!!」
「うるせぇ!誰が何といおうと俺にはエリーが必要なんだよ!エリーが居なかったらそもそも世界救おうなんて思ってねぇよ!!!俺は、エリーがいるから、エリーがいる世界だから守ろうとしているだけだ!!」
「そんなわけないです!ハルヤさんはきっと勇者として使命を果たしていましたよきっと!」
「んなわけねぇだろ!俺はそんな善人じゃねぇし使命感も正義感もねぇ!この世界を救うなんてどうでもいいんだよ!要はエリーと一緒にいたかったから、預言者と勇者であり続ければ一緒にいられると思ったから旅に出ただけだ!」
これは慰めの言葉でも何でもなく単なる事実だ。一目見た時から俺はエリーに惹かれていた。そしてエリーが言った、【預言者】を押し付けられただけという一言で、俺はエリーに親しみを覚えていた。【勇者】とチートを与えられてしまったために、苦しんでいた俺の痛みに寄り添ってくれているようで嬉しかったんだ。
そこから始まった共同生活。たった一週間とはいえ一緒にリトラスの村で暮らした時間は、エリーとこれからもずっと一緒にいたいと思わせるには十分な時間だった。
勇者として旅をしているのも、確かに一方では世界を救わないといけないという重圧があったからだ。だがもっと深い部分での本音を言えば、ただエリーと一緒にいたかったからだ。【勇者】として旅立てば、【預言者】のエリーと一緒にいられると思ったから。
そしてエリーと一緒にいればいるほど、離れたくないという思いが強くなっていった。コイツのために、世界を救わないといけないと思うようになっていった。それでも世界を救うのは思ったよりも大変で、でもその度にエリーに何度も慰められて励まされて。また余計に離れたくないと思うようになって。
だから俺はずっと【勇者】と【預言者】という関係を利用していた。何度も確かめるように他人に紹介し続けた。
俺たちは【勇者】と【預言者】なんだって。だから一緒にいるべきなんだって。周りにも、そしてエリーにも言い聞かせるように言ってきた。ズルいと思われようが汚いと思われようが何だろうが、それが俺の本心なんだ。ただただ、エリーと一緒にいたかったんだ。
「そんなわけないです!ハルヤさんは優しいからきっと旅に出てましたよ!!そして勇者として活躍していたんです!」
「おぉおぉ何とでも言えよ!でも事実俺はエリーだから預言者だ何だ無視して受け入れたし、エリーといるのが楽しいから一緒に旅しているだけだ。エリーが居ない世界なんてどうでもいいんだよ。愛着もねぇしな。」
「な、なんてこと言うんですか!最低です!」
最低か。そりゃそうだよな。ただ一人の女に好かれたくて、ソイツと一緒にいたいから旅をして、ソイツと一緒にいたいから世界を救おうとしているようなもんだから。でも事実なんだからしょうがない。この際ぶちまけちまおう。
「最低だろうが何だろうが事実だからしょうがねぇだろ。そもそもエリーに預言者としての力なんて求めてねぇよ。エリーがいるだけでいいんだよ俺は。それで十分なの。エリーの声が、言葉が、存在があるだけで俺は十分力づけられてんだよ。だから勝手にいらねぇなんて判断するんじゃねぇよ!」
「じゃ、じゃあ預言者としての私はいらないってことじゃないですか?!」
「期待してねぇってだけでありゃ便利だと思うよ?でもなきゃないで何とでもなるってだけだ。俺が言いたいのはエリーという存在があればそれで十分で、【預言者】なんてのはただの肩書なだけでどうでも良いってことだよ。」
「・・・何ですかそれ。勇者なのに酷い言い草ですね。」
しょうがねぇだろ。別に勇者だからと言って性格までは変わらねぇんだから。
「勝手に周りが勇者にそうやって期待してるだけだろ。俺は勇者である前にただのハルヤという人間なんだ。残念ながら職業じゃ性格は変わらねぇんだよ。」
「・・・私は【預言者】になろうといっぱい努力しましたよ。それこそ性格だって変えようと。穏やかで優しくて勤勉な人になろうって。それでも肝心な【預言者】に裏切られたんです。もう期待もしたくないんです。・・・だから放っておいてください。もういいんです。」
相変わらずうずくまるエリー。そんな状態のまま放置するわけなんかねぇだろ。だって俺は・・・
「嫌だよ。放ってなんかおくわけねぇだろ。」
「どうして?いなくたって大丈夫でしょう?ハルヤさんは私に信頼しているようですがそれはたまたま辛い時に私がいたからそう見えてるだけです。私よりも慰めや励ましを与えるのが上手な人はたくさんいます。だから私じゃなくたって大丈夫です。放っておいてください。」
「嫌だ。」
「どうして・・・。」
「だって好きだから。エリーがたまらなく好きだから。エリー以外は嫌なんだ。」
エリーがここまで自分の心情を吐露しているんだ。だったら俺だって言わなきゃフェアじゃない。俺はエリーが好きだから、エリーと一緒にいるために勇者をやってるんだ。ただそれだけなんだ。
「・・・嘘ですそんなの!そんなことあるわけない!私を励まそうとしている嘘なんでしょ?!」
「嘘じゃないぞ。」
「嘘に決まってます!」
「だったら確かめてみろよ。俺の嘘は分かりやすいんだろ?目が動いたり体が硬直したり。目を開いて確認してみろよ。」
そう言って俺はエリーの目の前に座り込む。言いたいことは言った。だから後はエリーが顔を上げるのを待つだけだ。
俺の言葉にエリーはうずくまったまま黙った。
長い長い沈黙の時が流れる。時間にしてどれぐらいなのかはわからない。
だが俺は告白まがいの言葉を言って、その返事を待っているかのような状況なわけで。しかも感覚的には割と玉砕覚悟なわけで。
沈黙の時間は果てしなく長く感じた。
そしてエリーは恐る恐る顔を上げて、目を開いた。
・・・あぁ。やっぱりコイツ可愛いなぁ。
近くでマジマジ見ると改めて思うわ。
「どうだ?本当だっただろう?」
「・・・ふふふ。弱っている女性につけこむように優しい言葉をかけて惚れさせる。流石は鞘の勇者ですね。」
・・・コイツはよくもまぁこの状況でそんなことを言えるもんだな。
だがそれでいい。それが俺が求めていたエリーなんだ。だから俺も言ってやろう。いつも通りに。
「うるせぇ!俺は鞘の勇者じゃねぇ!」
「ふふふ。先ほどの行為はまさに鞘の勇者の所業でありましょう。これでまた『鞘の勇者ハルヤの冒険譚』に新たな1ページが刻まれました。」
「恥ずかしいから書くんじゃねぇ!」
さっきまで弱っていたエリーが嘘のように、まるで水を得た魚のようにエリーの軽口は止まらない。
いつものように腹が立って・・・。いや、正直に言おう。いつものように楽しい時間が帰ってきた。
「ふふふ。愛する人のために世界を救う。いいですね。これは売れる予感がしてきました。ありがとうございますハルヤさん。」
「なぁ。せめてさっきの苦しい状況から救ってくれてありがとうを先に言えよ。」
「ふふふ。ハルヤさんと同じく私も恥ずかしがり屋なので。もう少し時間をくださいな。」
何が恥ずかしがり屋だ。分厚い面の皮のくせに。
としかめっ面をしているところに、エリーの言葉のストレートが飛んできた。
「ふふふ。ハルヤさん。私も好きですよハルヤさんのこと。勇者も預言者も関係なしに。」
じっと見つめながら言い放った。
・・・コイツはいつもこうだよな。俺をいじっていじっていじり倒した後に、俺を落ち込ませてから大事なことを言う。結局またエリーのペースに飲まれちまった。何だか悔しい。でも・・・その言葉は嬉しい。
「ふふふ。ハルヤさん、顔が真っ赤ですよ。」
「うるせぇ。お前のせいだよ。そういうのは普通もっとちゃんとしたタイミングで言うべきだろ。」
「ふふふ。さっきのタイミングが一番ハルヤさんの動揺を得られそうでしたので。」
もはや俺をいじることに執念すら感じるよ。・・・まぁいいけどさ。
今ばかりはこれも嬉しい瞬間だ。想像以上に嬉しい言葉をもらったからな。
「・・・ハルヤさん、ありがとうございました。私を救ってくれて。私を受け入れてくれて。」
「そう思うならちょっとはいじるのを控えろ。特にこういう場面では。」
「ふふふ。こういうところも好きだと理解しているのですが?」
「やめろ恥ずかしい!さっきのはアレだ・・・励ますための方便だ!」
「ふふふ。ハルヤさんはやっぱり嘘が下手ですね。」
エリーがいつも通りに戻った。それだけで十分だ。
本当は好きだなんて伝えるつもりはなかったんだがな。つい口が滑ってしまった。
おかげで余計に、魔王を倒すしかなくなった。
死ぬわけにはいかなくなった。




