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今『は』無職です。

さっきのサムエルさんカッコよかったなー。


パークウルフに一瞬で近づき、喉を掻っ切るサムエルさんの姿を思い出す。


俺もいつかあんなこと出来るのかな。


まぁ、ステータスの差を何とかしないと無理かもな。そのためにはどんだけレベルを上げなきゃいけないのか…。はぁ。


気落ちしていると、サムエルさんが慰めるかのように語り掛けてきた。



「あ~俺は盗賊系だからああいった雑魚を手早く倒すのは慣れてるんだよ。そういえばお前さんはなんの職業なんだ?言いたくなかったらいいんだがよ。」



【無職】という響きが俺の自尊心を傷つけるので本当は言いたくはないが、隠す必要もないだろうし正直に言った。



「今は無職です」


ちなみにこの「今『は』無職」の『は』には俺のなけなしのプライドが込められている。ちゃんといずれ働くという意思の表れだ。



「あ?!なんだお前さん、洗礼受けてないのか?!」


「え?洗礼?受けてないですけど。」


「な?!……おいおいおい、嘘だろ?!【鑑定】以上にそっちの方が驚きだ。…お前さんも大変だったんだな。」


なぜか分からないが【無職】であるという事は大変なことらしい。ただ、憐れんだ目で見ないでほしい。【無職】であるという現実が心にくるものがあるから。




【無職】であり洗礼を受けていない俺は職業について教えてもらった。


何でもこの世界ではほぼ全ての人が7歳になると教会で洗礼を受けて職業に就くらしい。

それより前に職業に就いてしまうと、体が満足に出来上がっていないうちにスキルを覚えて体力や魔力を使い切ってしまい危険な状態になるためだそうだ。


なるほど。俺が衝撃波を使って死にかけたようなものか。確かに子どもだったらLv.の低いスキル技でも大変なことになるのかもしれないな。




職業はたくさんあるが自分では選べない。大きく分けると、戦闘に適した【戦闘職】、生活に適した【生活職】に分かれているようだ。稀に特殊な職に就く人がいるようでそれらは【固有職】と呼ばれている。


そして与えられた職業によってステータスの上昇幅や取得スキルが変わっていく。



【戦闘職】の職業は以下の通りだ。


―――――――――――――――――

【戦士系】体力、筋力、防御が極めて上がりやすく、魔力、知力は極めて上がりにくい。


【魔法系】魔力、知力が極めて上がりやすく、体力、筋力、防御は極めて上がりにくい。


【僧侶系】魔力と知力が上がりやすく、他は平均的。


【武道系】体力、筋力、敏捷が上がりやすく、魔力、知力は上がりにくい。


【盗賊系】敏捷が極めて上がりやすく、他は平均的

―――――――――――――――――


それぞれ系統があってその中で分類されていくらしい。


戦士系は剣使いや槍使い、盾使いとか。魔法系は水魔法使いや風魔法使いとか。


ただ、それは得意になるというだけで他のものが覚えられないということではない。




一方で【生活職】には商人や農夫や大工、鍛冶師や錬金術師や薬師など生活必需品や戦闘用品を扱う者から、踊り子や詩人、役者などの娯楽職、考古学者や軍事学者といった研究職など色々な職業があるらしい。


そういった職業はステータスの伸び率も若干違うが戦闘職ほど特徴的ではない。ただ、それぞれに有益なスキルを手に入れられるようだ。




【固有職】はそれらに分類されない職業だが、様々なものがあるそうだ。特に王族には【王】の固有職を持った人が就くことがあるらしく【統治】や【戦況理解】などの固有スキルを覚えるらしい。さらに【王】という職業は遺伝する可能性が極めて高く、故に王族は王族足りえるのだとか。


他にも【木登り名人】【馬の気持ち】などあまりにもピンポイントすぎる職業になることもあるらしい。



【木登り名人】とか【馬の気持ち】なんてもう職業じゃねぇだろ。そんな職業になったら目も当てられん。


そう思っていたが、【木登り名人】は高いところでの大工仕事に大活躍だったらしいし、【馬の気持ち】の人は馬の気持ちを理解する能力が非常に高く、彼の育てた軍馬は非常に優秀だったらしい。



何が活きるかはわからないもんだな。



職業とはあくまでも自分の得意な分野を示すものでしかなく、だからと言ってその職業に就かない人もいる。調理師が兵士になることもあれば、剣使いが商人をやることもあるそうだ。


ある程度自分の道を示してくれるが、努力次第では好きな道も歩めると。中々いい社会な気がする。



ただ、いずれにせよ【無職】の場合ステータスの伸びやスキル取得も時間がかかってしまう。だから洗礼を受けるというのが一般的なようだ。



つまり俺のステータスの低さは【無職】のせいだと言えよう。



これから洗礼を受ければステータスの伸び率も変わっていくのかもしれない。そう思うとワクワクしてくるが、一方で俺は今まで何のためにレベルを上げていたのかと悲しくなった。



と落ち込んでいたが救いもあった。


職業を手に入れた際には、ステータスはその時のレベルに応じて振りなおされるらしい。なのでまた1からやり直しという事はないようだ。素晴らしい救済システムだ。


ただまぁ、大体の人は7歳で洗礼を受けるからレベル1のことが多いそうだ。

稀に10歳を超えて受ける人もいるがそれはよほど特別な事情でもない限りないらしい。



だから大人になっても【無職】の俺は相当におかしい存在だったのだ。そりゃサムエルさんも驚くわな。



ただまぁこれから職業を手に入れればいいんだ。幸いにも洗礼は何歳でも受けられるらしいからな。


むしろ俺は職業を手に入れた瞬間に爆発的に能力が上昇する可能性を秘めているというわけで、それはそれで楽しそうだ。



「お、中々いい顔になったじゃねぇか。教会で何か良い職業が与えられるといいな。今まで上げられなかったスキルLv.の時間を取り返すのはちょっと大変だが、それでも今よりは動きやすくなるだろ。もし盗賊系になったら俺が色々と教えてやるからよ。頼っていいぜ。」



あぁ、なんていい人なのだろうか。盗賊にあまり魅力は感じていないが、もしなったとしたらサムエルさんを頼ることにしよう。





「そもそもお前さんは街に行って何かしたいこととかあるのか?」



街に向かって歩いていると、そもそもなことをサムエルさんに聞かれた。



うーむ。予定という予定は特にないし、そもそもなんで自分がこの世界に来たのかもわからない。手掛かりは≪異世界からの救世主≫という称号と、ここに来た時に聞こえた「頼んだ」という声だけだ。


俺はこれから何をすればいいのかわからない。

何も目標がないのだ。だからこう答えるしかなかった。




「とりあえず、自分探しですかね。」




一度言ってみたかった。「自分探し」。


前の世界では「自分探ししてる」とか言っている友達を、「何言ってるんだよ」といじっていたが、正直ちょっとカッコいいなと思っていた。


そして今の俺は状況的にこの言葉を何の引け目もなくいう事が出来る。


だって、自分がなぜここに来ているのか分からないし、この世界における俺は何なのかがわからないから。そういう意味では「自分探し」で間違いない。


この言葉を何の引け目なく言えたことに俺は歓喜していた。




「つまり、洗礼を受けて職業に就くってことか?」



違うんだよ!そういうことじゃないんだよ!


「いやいや!全然違いますよ!自分は何者なのか、どんな人間なのか。そういうのを探すってことですよ!」


「どんな人間かって、んなもんステータス見りゃわかるじゃねぇか。」


「そういう自分ではなく、ステータスでは見られない自分の性格とか性質とか、そういうのを探すんですよ!」


この人は何もわかってないな。自分を探すカッコよさを。



「で、それ知って何になるんだ?」



え?何になるのか?


うーん?異世界から来た、という理由を抜きにした場合、自分探しをして何になるんだろうか。


前の世界では、俺は自分が諦めやすい性格であることを知った。

そしてそれを知ったことで思ったことは、その自分でどう幸せになるかだった。

つまり自分を知ることで現状を把握し、そこからどう生きるかを考えることができたというわけだ。


そのためより良く生きるために自分探しが必要という事だ!



「より良く生きるためです!」


「はぁ?」


「自分を知り、その自分でどう良く生きられるかを検証するためなのですよ。」


「なるほどなぁ。それこそステータス見りゃ分かる気がするが…。まぁ、要はお前さんこの先の予定は何もないってことだな?」



あ、サムエルさんがちょっとめんどくさそうな対応になった。ひどい。



「とりあえずこの先の予定は確かに何もありませんね。」



「だったら、とりあえずクフの街で日銭稼いで生活したらどうだ?お前さんは【隠密】も使えるみたいだしちょっとはレベルも上がってんだろ?無職でそこまで出来るなら洗礼受けりゃもっと強くなるだろうし、冒険者としてはとりあえずやっていけるだろ。何もやることないなら、とりあえず冒険者に登録したらどうだ?」



冒険者かぁ。響きだけでワクワクしちゃうね。でも、ちょっと懸念もある。



「冒険者ですかぁ。正直憧れてますけど、危なくないですかね?」



危ないことはあまりしたくない。せっかくチートで何でもできるんだ。わざわざ危ないことをしなくても活躍できる場所はあるだろう。出来れば安全に生きたい。



「そりゃあ危険な依頼もあるが、ものによっては安全な依頼もあるんだぜ?物探しとか、大工の手伝いとか。冒険者っつっても要は何でも屋だからな。日銭稼ぐにはちょうどいいんだよ。」



何でも屋かぁ。冒険者は憧れるが、何でも屋と言われるとちょっと憧れとは違ってくるんだが。



「モンスターと戦うのが嫌なら逃げりゃいいじゃねぇか。お前さんには【鑑定】もあるんだ。戦わずに相手の強さ見極められるんだから無理しなきゃ大丈夫だろ。それに、何の後ろ盾もなけりゃ日銭稼ぐのは冒険者ギルドを通すのが一番早いんだぜ。」



そういわれれば確かにそうだな。【鑑定】なら戦う前から危険かどうかわかるんだ。これは確かにかなり安全に行動できるだろう。



それに現状ではサムエルさんが言うように、何の後ろ盾もない俺に職業選択の自由はないのかもしれない。


そもそも素性すらよくわからないのだ。そんなの雇うところあまりないだろう。もしかしたら冒険者ぐらいなのかもしれない。



「お前さんがどうしても冒険者をやりたくないってんなら止めねぇが、冒険者は割と自由が効くし、拘束されることはほとんどねぇ。誰かの下に属したくないと思ってても、ちゃんと個人の意思は守られるし、強く支配されるわけじゃねぇからその辺は安心できるぜ。」



サムエルさんは俺が冒険者をやりたくない理由を、誰かに支配されることを嫌がっていると思ったようだ。正直そんな感覚は全然持ってない。ただ、これ以上突っ込まれるといずれ自分についての素性でボロがでそうだから話を合わせておこう。



「そうなんですね。なら安全そうですね。とりあえずクフの街に行って、冒険者で生活費を稼ぎながら今後のことについて考えてみたいと思います。」


「それが良いだろう。まぁ、何にせよ職業次第なところもあるがな。良い職業だといいな。」


「はい!そうですね。」



ずっと思っていたが、サムエルさんは本当に俺のことを思ってくれている。


森で棒一本持ってるだけの怪しい奴相手によく優しくしてくれるな。

面倒見がいいというのはこういう人のことを言うのだろう。




「さて、長々と話しているうちに街道が見えてきたぜ!クフの街ももうすぐだ!」



そういうとようやく森の出口が見えてきた。


ようやく俺の異世界での地盤が出来上がりそうだ。


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