光
三姉妹は倒した。だが奴らは最悪の置き土産を置いていった。
人々に刻まれた絶望・失望・渇望は文字通りその心に刻まれることとなった。
それを取り除くことが出来るのは三姉妹だけ。だがその三姉妹も既に倒してしまった。
・・・つまりはもう戻せないという事だ。
長女は最後に「絶望しろ」と言葉を残していった。そこには【絶望】のスキルは使われてはいなかった。だがこの状況が俺に絶望を与えてくる。
クリーネの街の人々は今も全員がうずくまっているのだろう。今もなお苦しみの中にあるということだ。そしてエリーまでも・・・。
でもあきらめちゃいけない。何か、何かスキルがあれば救えるかもしれない。
まだ希望は捨てちゃいけない。勇者が諦めたら・・・そんなの辛いじゃないか。
とにかくここで考えていても仕方がないので一度街に戻ってみることにした。
セイラの家に戻ると、セイラが喜びつつ迎えてくれた。その顔はもう大丈夫だと安心しきっているようだ。
だが俺はまだその顔をじっとは見られない。救える手段がまるで思いつかないからだ。
「勇者様!大丈夫だったの?!スゴイ音だったよ!」
「・・・あぁ。灯台に魔人がいたんだ。でも大丈夫だ。倒して来たから。」
「魔人・・・?何それ?モンスター?でも倒したってことはもう大丈夫なんだね!」
どうしよう。なんて言えばいいのか・・・。まだ救えるかどうかはわからない。
でもここで嘘を言っても出来なかったときになんて言えばいいのか・・・。
俺が答えに詰まっていると、セイラは何かを察したように泣きそうな顔をしだした。
「・・・もしかしてダメなの?もうお父さんもお母さんも治らないの?そんなの・・・そんなの嫌だよ!!ねぇ勇者様!お父さんとお母さんを治してよ!お願い!」
・・・そうだよな。こんな状態の両親をいつまでも見続けるのは辛いよな。
とにかく今は出来る限りのことをやってみよう。
「・・・あぁ。任せろって言っただろ。まだ方法が見つからないだけで出来ないわけじゃない。俺は諦めないぞ!」
何を弱気になっているんだ。そんなんじゃダメだ。何が何でも治してやるよ!
そう意気込んだ俺は様々な方法を模索した。
回復魔法はどうだ。催眠魔法はどうだ。元気を出すために歌唱は、笑いはどうだ。
顔を上げさせるために大きな音を上げたり。時空魔法で何とか時を戻せないかと模索したり。
まだ手に入れていないスキルがあるはずだ。人の心に干渉できる魔法はないかと模索したが・・・見つからなかった。
ならばと思い俺は時空魔法でひとっ飛びしてフォエフォ島に向かい、【聖女】であるラエラ姫を呼んできた。彼女なら何とかなるかもしれないと考えたからだ。
「皆さん、もう大丈夫ですよ。魔人は倒されました。安心して良いんです。」
ラエラも何度も語り掛けてくれた。時間をかけて何度も何度も。
でも街の人たちは全く相手にしない。
「うるさい!」
「一人にしてくれ!」
「近寄るな!」
そう叫びながら、時折悲痛の叫びを挙げながら、誰一人として心が愛に満たされることはなかった。
終いにはラエラも涙を流しながら言った。
「・・・私の言葉では誰一人その感情が動くことはありませんでした。」
相手の感情を読むのが上手いラエラだからこそ、全く効果がないという事も分かったのだろう。
謝罪をしながらラエラをフォエフォ島に送った。
【博愛】は人の心に干渉できるスキルで一番可能性が高いと考えていただけにショックも大きかった。気が付けばセイラも涙を流している。
・・・結局また振り出しに戻った。
それでも何かあるんじゃないかと何度も何度も挑戦した。だけど何一つ効果はなかった。
段々と焦ってくる。時間だとかそういうものを気にしているわけじゃない。
もう手の打ちようがないという考えが出てきそうなことに焦ってくるんだ。
まだ出来る。まだ勇者は、チートは可能性を秘めているはずだ。
何だって、どんなスキルだって手に入れられるんだ。だからきっと何かあるはずだ。
そうやって考え続ける。考え続ける限りはまだ終わりじゃないから。
終わりさえしなければ、希望を持ち続けられるから。
・・・だというのに考えても考えても何も出てこない。救えそうな方法が何一つ出てこない。そして一つの現実を俺に突きつけようとしてくる。
勇者は、チートは、力がある。とても強い。
でもそれだけで。ただそれだけで。
人の「心」は救えない。
一つ、また一つと手段を講じれば講じるほど、救えないという現実が近づいてくる。
・・・やめろよ。やめてくれよ。
「・・・勇者様・・・。」
さっきから結構な時間経っているからか、セイラも現実を直視し始めている。
救えないんじゃないか。もう二度と両親と話せないんじゃないか。
そんなことを想像しているかのように、ただただ悲しい顔をしている。
俺だって嫌だよ。こんな状態のままなんて。
俺だって嫌だよ。もうエリーと話せないなんて!
「・・・ふざけんなよ。」
「勇者様・・・?」
「・・・ふざけんなよ。何が勇者だよ。何がチートだよ。これじゃ何の意味もねぇじゃねぇか!!」
ついに俺は叫びだしてしまった。心の不安を、恐れを、内に留められなくなった。
「勇者だろ!チートだろ!何でもありだろうよ!人の心を救う何かがあるんだろう?なぁ??そういうスキルがあるんだろう?もう俺には思いつかねぇからよ!だから何かやってくれよ!お願いだよ!!勇者だろ!!チートだろ!!」
叫びはやがて懇願に変わっていく。
「頼むよ・・・。お願いだよ!もう俺にはどうしようもねぇんだよ!!でも見捨てたくなんかないんだよ!!頼むよ!!この街の人を!!エリーを!!助けてくれよ!!」
神に願うかのように。いやもっと具体的に、神が与えた自分の中にある【勇者】と【チート】に語り掛ける。
「お願いだ!!助けてくれよぉぉぉぉ!!」
俺の懇願が静寂な街に響き渡る。叫びの余韻が消えた後に訪れる沈黙。
まるでその沈黙が、世界からの回答のように思えた。
・・・だが、違った。
突如、一つの光が生まれた。
俺の願いがまるで聞き届けられたかのように、あたり一帯に光が放たれた。
その光は俺の身に着けていた聖装から放たれていた。
「・・・何だ?これは?」
急に光りだした聖装。だがそこから放たれた光はとても温かく、まるで希望と愛に満たされるように感じる。いや実際にさっきまで焦りと不安と恐れに満たされていた俺の心が不思議な程に安らいでいる。・・・まさかこれは聖装の力なのか?
俺は聖装を鑑定してみる。
―――――――――――――――――
【解放されし勇者の剣(鞘)】
神が遣えし勇者に送る剣の鞘。勇者しか使うことはできない。
鞘から発せられる光は見た者が持つ負の感情を打ち砕く。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
【解放されし勇者の鎧(上)】
神が遣えし勇者に送る鎧。勇者しか使うことはできない。
鎧から発せられる光は見た者に希望を刻む。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
【解放されし勇者の鎧(下)】
神が遣えし勇者に送る鎧。勇者しか使うことはできない。
鎧から発せられる光は見た者に愛を刻む。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
【解放されし勇者の靴】
神が遣えし勇者に送る靴。勇者しか使うことはできない。
勇者と勇者を慕う者の険しい道のりを支える。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
―――――――――――――――――
解放されし?これはつまり今まではその力が解放されていなかったという事か?一体どういうことだ・・・。
だが検証は後だ。今はこの状況を打破できるかどうかを試すのが先だ。
「セイラ!この光が見えるか?!」
確認しようとしたが、セイラは顔を背け目をつむっている。どうやらこの光が相当眩しいようで、確認できないようだ。なぜ俺は光の中でも見えるのにセイラは見えないのかは分からない。だが考えても仕方がない。
とりあえず光を見えるようにするため【浮遊】で高い場所まで浮かび上がり距離を取った。
するとセイラは見やすくなったのか、今度こそ両の目を見開いて聖装から発された光を見ている。
「・・・スゴイ・・・綺麗。それに何だかあったかい・・・。これなら・・・これならお父さんとお母さんも!っ!今呼んでくるね!!」
そう言ってセイラは家の中に飛び込んで、一人ずつ両親を引きずり出してきた。
二人は引きずり出された先でなおもうずくまっている。
「お父さん!お母さん!あれを見て!!」
セイラは二人を急かすように背中を叩きながらこちらを指さしている。
だが両親は顔を上げないまま、手でセイラを追い払おうとしている。
「やめろ!!叩くな!!」
「やめてよ!!触らないで!!」
二人は相変わらずうずくまったままで顔を上げる気配はない。
「お父さん!お母さん!大丈夫だから!ほら見て!」
セイラは強引に顔を上げさせる。だがそれでも二人は力強くうずくまっている。そこは流石に大人と子ども。力の差があるのだろう。
だが俺が介入してもまぶしすぎて見えなくなってしまうんだよな。どうしたものか。
すると力任せに顔を上げさせようとしてくるセイラに嫌気がさしたのか両親が叫びだした。
「やめろと言っているだろう!!もう関わらないでくれ!!」
「いい加減私に触らないで!!どっか行きなさいよ!!」
「もう疲れたんだ!家族を守るなんてまっぴらなんだ!もうお前は娘でも何でもない!どっか行け!」
「あなたを産んでから毎日大変なのよ!!もう私を、母親から解放して!!」
とんでもない罵声が聞こえてくる。
まさか・・・この状態になった人はそんな感じになってしまうのか?ただ無言でうずくまるだけかと思っていたが。こういう反応もするのか・・・。
これは8歳のセイラには辛すぎる。
ちょっと強引だが俺が力づくでこっちを見させようか。
そう思ったが、セイラはくじけずにまた二人に話しかけている。これも【不屈】のなせる業なのか。
「お父さん!お母さん!お願いだからあっちを見て!いつもの優しい二人に戻って!」
「やめろ!お前なんかもう娘じゃない!!どっか行け!」
「やめなさい!あんたなんかもう娘じゃないわよ!!どっか行きなさい!」
両親からの執拗な罵声にセイラは今にも泣きだしそうに、だがそれでも言葉を絞り出していく。
「・・・お父さん。いつもセイラ大好きっていって頭をなでてくれたよね?お母さん、いつも行ってらっしゃいって言ってぎゅーっとしてくれたよね?私はお父さんとお母さんの娘で良かったよ?私は二人に迷惑いっぱいかけちゃったかもしれないけど、これからもっと良い子になるから。だからお願い・・・あの光を見て・・・。」
・・・絞り出されたその声は、今にもセイラ自身が崩れ落ちそうに思えるほど弱弱しいものだった。
だがその声が二人に響いたのか。それとも親として今にも泣きそうなセイラを助けないといけないという本能が働いたのか。
ゆっくりと、恐る恐る二人は顔を上げていく。そして光が彼らに差し込んだ。
「あ・・・あぁ!あぁぁぁぁ!!」
「・・・セイラ・・・セイラ!セイラ!私の愛しいセイラ!!」
両親はすぐにセイラを抱きしめた。
「さっきのは違うのだ!!確かに疲れることはあったが家族のために頑張れるのは本当に幸せだった!!私は本当にセイラを愛している!!本当に大事な娘だよ!!」
「セイラ!!あなたが生まれてから大変なこともあったけど、それでも毎日幸せよ!!本当に本当に幸せなのよ!!」
「・・・うん!うん!ちゃんと分かってるよ!!お父さんもお母さんも大好きだよ!!」
セイラもまた力いっぱい両親を抱きしめている。
さっきのは辛かっただろうな。それでも・・・セイラは両親を信じたんだ。本当に強い子だ。
・・・もう大丈夫そうだな。心に刻まれた絶望・失望・渇望は取り除かれて、無事に愛と希望で埋め尽くされたようだ。
だがまだ街の人々は解放されていない。
いつまでも見ていたいほどに美しい場面ではあるが急がせてもらおうと三人に呼びかける。
「感動の再開のところ悪いんだが、街の人たちにこの光を見るように手伝ってあげてくれ!!」
「あ!勇者様!ありがとう!みんなに伝えてくるね!!」
「おぉ!あれが勇者様か!!まさに救世主だ・・・。」
「急いでみんなに伝えましょう!!早くしないと!!」
そう言って三人は一人また一人と街の人たちを引きずり出して光を見せていく。
すると次々に解放されて、今度は解放された人たちがまた別の誰かを助けていく。
それでも街全体の人が光を見るまでには数時間がかかり、気が付けばもう既に夜になっていた。
だが全ての人が光を見終わったのだろう。セイラから声がかかった。
「勇者様!降りてきて!!」
もう終わったのかな?と思い言われた通りそのまま降りようとしたがセイラがまたまぶしい顔をしたので一度光を納めることにした。
恐らくさっきのは【聖装解放】の力だ。ボロッちい装備から聖装になったのがそのスキルの効果かと思っていたがどうやら違ったらしい。どういうことなのかはよく分からんが、いずれにせよスキルであれば意識して使えばまた使えるはずだ。
「勇者様!街の人たちはみんな元に戻ったよ!!・・・でも・・・」
「どうした?」
「エリーお姉ちゃんが出てこないの。何度も引っ張りだそうと思ったんだけどすごい力で誰も持ち上げられないの・・・。」
そう言えばエリーは俺の【パーティー】のおかげでとんでもなくレベルが上がってるからな。そんじゃそこらの人間じゃアイツに力では勝てないだろう。
ここは俺が出るところかな。元よりアイツを助けるのは俺の役目だ。
「そうか。じゃあ俺が行くよ。」
「うん!お姉ちゃんも早く助けてあげて!!」
「あぁ。任せろよ。」
待ってろエリー。今助けてやるから。




