絶望
本当に申し訳ありませんが、いつもの1.5倍近い分量があります。でも二つに分けると微妙なので一つにしました。頑張って読んで頂ければ幸いです。
セイナ、レイナ、アイナという名前の似通った三姉妹と対峙する。
これがテツが言っていた圧倒的な力を持った三姉妹ということだ。テツも強かったが本当に比べ物にならないくらい強い。
それに三人揃うと厄介というのは本当だな。それぞれに得意分野があり、弱点は互いに上手くカバーし合っている。
攻撃型のセイナ
防御型のレイナ
魔法型のアイナ
上手い事バラけている上に三位一体で能力も底上げしているのは厄介だ。
「どんな無駄な事を考えているの勇者ちゃん?」
「もしかしてイイことしたいの勇者君?」
「死ぬ前にいい夢みせてやろうか勇者よ?」
そしてもう一つ厄介なのが三人で話しかけてくるという事。誰か一人が代表して喋れよ。やかましくてしょうがない。
「あいにく俺は分析上手な奴が言うにはか弱い女の子がタイプらしくてな。お前らみたいな野蛮な奴らは興味がねぇんだよ。」
「酷いこと言うなぁ勇者ちゃんは。」
「もっと汚い言葉で罵倒して勇者君。」
「私はお前みたいな強者は好きだぞ勇者よ?」
ダメだ。コイツらはエリー以上に話が通じない。特に次女は酷い。
話していると気が抜けちまいそうだ。というか段々とアイツらを好きになりつつある。
っと・・・鑑定を使っていなかったらちょっと危なかったかもしれない。魅力を感じているという事はアイナが【魅了】を使ってきているということだろう。気を引き締め直すつもりで睨んでおく。
「あれ?私ってそんなに魅力がないかなぁ?」
「いいぞその眼。だがもっと汚いものを見るような眼をするんだ。」
「ふむ。姉上の【魅了】は通じないようだな。精神攻撃に対する耐性を持っているのか。」
やはりこの三人の内次女は放っておくことにして、気を付けないといけないのは三女だな。
冷静に戦局を見ている。本当であればコイツから倒したい。
「三姉妹。そろそろいいか?時間がないんでな。さっさと消えて欲しいんだが。」
こちらとしては時間もないところだし。サッサと終わらせたい。俺は剣を構え戦闘に備える。
「あら?勇者ちゃんはお急ぎのようね。」
「いよいよ戦いか。勇者の攻撃はどんなものなのだろうな。」
「ふむ。構えに無駄はなさそうだな。気を抜くなよ姉上たち。」
どうやら向こうは様子を見ているようだ。時間を稼ごうとしている感もあるしな。
ここは俺から打って出るしかなさそうだ。様子見がてら【光線】をぶっ放してみる。
距離にして10メートルほど。だが光の速度からしてみれば至近距離。
だが俺が撃った【光線】は奴らに当たることはなく、そのまま跳ね返ってきた。少し残念だが跳ね返ってくることは予想していたので難なくそれを回避する。やはり三女の反魔は突破できなかったようだ。
「やるじゃない勇者ちゃん。今代の勇者は魔法型?」
「アイナ!なぜ跳ね返すのだ!」
「ふむ。・・・思ったよりやるようだな。」
結構魔力込めたんだけどな。動揺すらしていない。予想していたとはいえ難なく跳ね返されたのでかえってこっちがちょっと動揺してしまう。
「・・・今のは挨拶代わりだよ。」
「フフフ。強がっちゃって。そういうところ、虐めたくなるわね。」
「ならばもっと強い攻撃を打てばよい。さぁ、来るのだ。」
「動揺を隠すのはもう少しうまくやれ勇者よ。」
やっぱり俺に嘘は似合わないんだなぁ。下手というか。もうちょっと上手く自分をコントロールしたいものだ。
「さぁ。次はこっちの番ね。」
「ふむ。私はずっと勇者の番で良いのだが。」
「お手並み拝見といこうか。」
突如三姉妹が動き出す。三人合わせての攻撃だ。クソ。三対一なんて卑怯じゃないか。
まず長女が剣を片手に襲い掛かる。やはり速い。それに重い。俺も剣で応戦していく。剣と剣がぶつかり合い互いににらみ合う。だが力はこちらの方が上。長女が少しだけ体制を崩す。
そこに攻撃を仕掛けようとすると今度は次女が割り込んでくる。ク。盾に剣が跳ね返されてかえってこっちの体制が崩される。そこに再び長女の剣が飛んでくる。
入れ替わるタイミングがバッチリだな。
オマケに一瞬でも隙を見せれば今度は魔法まで飛んできやがる。
三人での攻撃の練度が高すぎるだろ。
「ホラホラホラホラ!!もっと苦痛に満ちた良い顔しなさい勇者ちゃん!!」
長女はまるで人が変わったかのように暴力的になった。
一番俺への殺意が高いのがコイツだ。隙あらば俺の心臓や首などの急所を狙ってくる。
そこを守ろうとすると今度は別の場所に的確に攻撃が仕掛けられていく。戦い慣れているな。
そして奴の攻撃を食らうといつの間にか体力が奪われていく。恐らく【ドレイン】を発動しているのだろう。思ったよりもいやらしい。流石に狡猾だ。
何とか剣を防ぎつつ、魔法もいなしていく。
だが問題はコチラに攻撃する隙も方法も見当たらないという事だ。
「勇者君。もっと果敢に攻めてきたらどうだ。」
攻撃の隙というか方法が妨げられていくのは次女のせいだ。
コイツは常にこちらの攻撃に身構えている。というかそんなに痛みが欲しいんならその盾捨てちまえよ。何で自ら攻撃妨げといて攻撃を欲するんだよ。
異常者の考えることはよく分からん。
「・・・。」
そして不気味なのは三女だ。戦闘が始まって以来時折魔法を撃ち込んでは来るもののまるでこちらを品定めするかのようにジッと俺を見続けている。
状況分析をしているだけならいいんだが、終始無表情なのが気になる。
奴の作戦通りにいっているのだろうか。そろそろ表情の変化を見せて欲しいものだがな。
戦力はかなり拮抗している。割と押され気味だがそれでもまだ完全に押し負けているほどではない。
そしてこの状況は三姉妹が描いていたものとは違ったようだ。
「・・・やるじゃない勇者ちゃん。そういうのはちょっと嫌いだわ。」
「軽く振るっているように見えて随分重い攻撃をしてくるな勇者君。」
「・・・姉さんたち。勇者はまだまだ余裕そうよ。」
三姉妹としてはもっと圧倒できると考えていたのかもしれない。
だが想像以上に俺が粘るものだから驚いているようだ。
「・・・どういうこと。どうして勇者がここまで・・・。」
三女が初めて動揺を見せた。顔には表さないタイプか。だが動揺しているならここはつけ込むところだな。
「おいおいどうしたよ三姉妹。テツという大魔人から強いと聞いていたが大したことないじゃないか。」
あえて挑発してみる。実際に攻撃に対応できたおかげで口喧嘩する余裕もでてきた。
「・・・あなた既にテツを葬ったのね。」
「アイツは力自慢の脳筋だが簡単な相手ではないだろう。」
「やはり今代の勇者はおかしいわね。」
三姉妹はテツのことは一応知っていたらしい。他の魔人に興味ないタイプと思っていたけどそうじゃないんだな。
だがおかしいとは失礼だな。俺はむしろ最近の勇者からすれば一番まともだぞ。
「あんまり時間ないんでな。今度はこっちからいくぞ。」
そう言って俺は奴らに飛びかかっていく。
さっきまでは剣術と格闘術メインで戦っていたがここからはこちらの持てる全てを出していく。
せっかく向こうがビビっているんだ。ここで一気に蹴りをつけたい。
俺の剣術は例によって次女に防がれていく。だがそれでいい。
俺は剣術を使用しながら【並列処理】で魔法を同時に打ち出していく。
三女の反魔は怖いが、奴に対して撃たなければいいだけ。ここで俺は長女に向かって魔法を撃ちこみまくる。
その魔法は全て次女の【全体防御】の力によって次女が受けることになっていく。狙い通りだな。
とにかく盾役を倒すのが先決だ。次女の隙を作るには次女そのものではなく長女を叩いた方がいい。自分よりも人を守る方が難しいからな。
俺は攻撃の手を休めず剣と魔法で攻撃しまくっていく。俺はスキルさえ使えればこれぐらい戦えるんだなと改めて実感した。
思えば今までの大魔人との戦いは苦戦ばかりだった。レッセイとの戦いはまだレベルがそこまで上がっていなかったし戦闘経験もまるでなかったために苦戦した。
レイグルとの戦いは死人を使うという【不殺】との相性の悪さから多少苦戦した。
ピラクルは特殊な能力によって反転させられたから苦戦を強いられた。あれが一番ヤバかったかもな。ヒーローたちには感謝してもしきれない。
フッカもまた人に紛れ込まれたために多少時間はかかったが一対一にさえ持ち込めば問題なかった。
テツとの戦いで苦戦したのは肉弾戦に持ち込まれたからだ。スキルを使わずに戦闘を強いられた時には一気に動けなくなってしまったがそれでもステータスの高さから勝つことができた。
これまで俺が苦戦を強いられたのは状況的に不利になる場面が作り出されていたからだ。
だが今は違う。全てが万全な状況にある。万全の力が使えればスキルとステータスの差で圧倒できるのだ。
恐れていた【三位一体】によるステータスの向上だが、どうやらそれをもっても俺の方が上のようだしな。
「ク!痛いじゃない勇者ちゃん!」
「想像以上に痛いぞ勇者君。いいぞ。いいぞ。」
「・・・何よコレ!どうなってるのよ!姉さん!」
段々と三姉妹を押していく。少しずつ少しずつ次女にダメージを与えていく。まだ余裕そうではあるが。それでも自分の想像した状況とのあまりの違いにしびれを切らしたのか離れたところにいた三女が近づいてきた。長女に放たれる魔法を跳ね返すつもりなのだろう。
反魔は遠い場所からでは発動できないみたいだからな。次女と二人で防御態勢を構築するつもりなのだろう。
・・・ようやく来たか。これを待っていたんだ俺は。一番防御力の弱いお前を一番先に倒させてもらうよ。
俺は溜めに溜めた一撃を、剣術Lv.10のスキル【一刀両断】を三女に向かって放つ。
「グウウウゥゥゥ!!」
・・・だがその攻撃は次女が間に入ったことで次女が全てを受けることとなった。防御力がいくら高くても耐えきるのは難しいのだろう。
次女はダメージを負いながらも少し飛ばされる程度で耐えた。
それでも膝をついて息を切らしているということはかなりのダメージを与えたという事だ。
「レイナ!」
「姉さん!」
流石に他の二人も動揺している。だが心配する暇は与えねぇ。
俺は三女に向かって剣術で追撃にいく。狙うならお前からだ。
卑怯と言われようと何だろうと、一番倒しやすい奴を執拗に狙っていく。まずは三位一体を崩壊させてしまいたい。
だが長女はこちらの狙いを察したのだろう素早い動きで三女を捕まえつつ、吹っ飛ばされた次女の下に駆けて行った。
俺はなおも追撃する。この機を逃したくない。さっさと街を解放するんだ。
俺の追撃を長女が今度は受け止めた。次女の盾なしとあっては流石に攻撃を受けきることは難しいだろう。
さっきは三対一だから苦戦していただけだ。一対一なら負けない。俺の攻撃はどんどん熾烈なものとなっていく。
長女の顔が段々と苦し気な表情になっていく。さっきまでの余裕はもうなさそうだな。
だが時間を稼がれたせいで次女は三女の魔法によってだいぶ回復したみたいだ。厄介だな回復魔法は。
「・・・どうやら想像以上に強いみたいね勇者ちゃんは。腹立つわ。」
「流石にさっきのは快楽を飛び越えているな。身が持たん。」
「今代の勇者は異常だわ。聞いてた話は全て捨てた方が良い。」
さっきから想像以上とかずっと言っているが、どれぐらいを想像していたんだろうか。
・・ただまぁ何となく想像はつく。俺がただの勇者であればもっと弱かっただろう。それこそ本気で努力しまくってもここまで強くはなっていなかった。三姉妹の力であれば瞬殺できただろうな。
だが俺はチートだからな。勇者以上に高性能なチートを持っているとは奴らも考えていなかったのだろう。その結果アテが外れたというところか。
「お前らは想像以下だったよ。さぁ。さっさと終わりにしようぜ。」
煽りに煽りまくる。少しでも冷静さを欠いた決断をしてくれ。
三姉妹は顔を見合わせつつ何か作戦を練っているようだ。
だがそんな作戦会議の時間も取らせねぇよ。大魔人は油断すると何してくるか分からねぇからな。
勢いづいたまま俺は再びやつらに剣術と魔法を合わせつつ先ほどと同じように攻撃を仕掛けていく。
もう流石に三女は飛び込んではこない。また魔法でも仕掛けてくるかと思ったが先ほどまでの威力の攻撃はない。・・・何だ?奇妙な感じがする。
俺の嫌な予感が当たったのか三女が急に叫びだす。
「今よ!!!」
号令によって長女と次女が三女の下に駆けていく。
虚を突かれた俺は一瞬出遅れた。三人は揃ったところで叫びだす。
「「「トリニティブラスト」」」
その瞬間信じられないほどの魔力が膨れ上がる。
マズイ!!この攻撃を受ければ確実に致命傷を受ける。一瞬でそう感じさせる魔力であった。
だが何よりもマズいのは俺の背後にはクリーネの街があるということだ。
この攻撃を躱せば街一つ吹っ飛ばされるだろう。
だからこの魔法に対抗しないといけない。だが何だ?何で迎えればいいんだ?
【複合魔法】か?だが三人分の魔法に対抗できるのか。それに【トリニティブラスト】と言っていた。恐らく三人で撃つ特殊な魔法なのだろう。単に魔法三発分ではないはずだ!
クソ!やはり隠し玉を持っていやがったのか!!
嫌だいやだ。死にたくない死にたくない!危険は犯したくない!
でも誰かを死なせたくない!危険にさらさせたくない!
・・・だからこれを使うしかない!
使ったことないけど。でもきっと撃てるはず。必ず撃てるはず。
奥義はそっちだけのもんじゃねぇ。こっちも切り札は用意してある。
それでもかつて勇者クライドが命を落とした魔法だ。簡単には練習できなかった。
使うしかないという状況に追い込まれるまでは手を出しなくなかった。
初めての魔法。だから威力が低い可能性もある。でも賭けるにはこれしかねぇ。
今はやるしかない。
「クソガァァァァァァァ!!!」
俺は渾身の魔力を用いて【聖魔法】を放つ。まず無事に撃てたようで安心した。
そして威力の心配も、俺の魔力を根こそぎこの魔法に持っていかれているという事は強力な魔法であるという事だ。心配は杞憂であった。
相手の【トリニティブラスト】と俺の【聖魔法】がぶつかる。その衝撃で灯台の壁は既に吹っ飛んでいる。近隣に被害がないといいが。
俺たちの魔法はどちらが一方的に強いという事もない。均衡を保ったまま互いに押し返そうと魔法が行ったり来たりしている。
「なんで?!どうしてトリニティブラストが?!」
三女の驚く声もよく分かる。こっちからしてもこんだけ根こそぎ魔力を持っていかれているのに跳ね返せねぇのは驚かされるよ。どんだけ強いんだよそっちの魔法は。
だがここまで来たら根比べだ。アイツらと俺。三対一。
でも純粋な三対一じゃねぇぞ。
そっちはその背中に魔王というお守りを持っている。
だがこっちは背中に全人類の命を背負ってるんだ。
そっちからしたら負けてもいい戦いだろう。
でもこっちは勝つしかねぇ戦いなんだよ。
背負ってる重さが違うんだよ。だから根比べじゃ負けるわけがねぇんだよ!!!
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
雄たけびと共に俺は最後の気力を振り絞る。
俺自身のために。全人類のために。背負った責任が俺を支える。
これまで重いだけだと思っていたその責任が俺を支えている。それはとても力強いものだった。
「いやああああああああ!!!」
誰の叫びかは分からないが、散々クリーネの街の人々を叫ばせた三姉妹は、自らの叫ぶと共に消滅した。
・・・良かった。・・・無事に勝てた。
ホッと一息つきながらも、まだ戦いは完全には終わっていない。
一人まだ生き残っているみたいだからな。
「・・・まさか。負けるとはね。」
長女のセイラだけが生き残ったようだ。と言っても両腕は既に垂れ下がり、足も片方が変な方向に曲がっている。オマケに全身血だらけとあってはこれ以上の戦闘は不可能だろう。
「俺もまさかこんなに苦しめられるとは思わなかったよ。」
「・・・あなたは何者?ただの勇者じゃないようね。」
「言うわけねぇだろ。テメェらに何一つ語ってやんねぇよ。」
かつて大魔人に何も情報を喋ってもらえなかったからな。そのせいでここに来るまでに時間を使っちまったんだ。今度はこっちが情報を話さない番だ。
「・・・フフフ。そう。ならいいわ。そうだ、一つ面白いことを教えてあげる。」
「お前らの面白いは信用ならねぇよ。」
「・・・いいえ。とても面白いわよ。・・・私たち三人の能力は絶望・失望・渇望を人に刻むもの。この意味わかる?」
「は?そのままの意味だろ?」
何を言ってるんだコイツは。そんなこと鑑定で既に分かってるよ。
「フフフ。・・・その顔は何も分かってないわね。与えたんじゃなくて、心に刻んだの。刺青のようにね。・・・そしてそれを取り除けるのは私たちだけ。そしてその私たちは死んでいく。つまり・・・もう取り除くことは出来ないのよ。あなたのせいでね。」
・・・何だって?
「いい顔ね。ざまぁみろ。お前も一緒に絶望しろ。」
そう言ってセイナは自ら命を絶った。




