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クリーネの街

俺たちは教皇領パルリアに向かって進んでいく。その場所はエリーが知っているという事なので道案内はエリーに任せる。


「ふふふ。いよいよ旅も大詰めですね。」


「そうだな。何があるかは分からないけど、謎の解明は近そうだし、大詰めと言っていいだろうな。」


「こうして【勇者】の救世物語もあと少しかと思うと心配になりますね。」


「・・・心配?寂しいとかじゃなくてか?」


なぜ心配になるのか。寂しいなら分かるけど・・・と思ったがよく考えたら寂しいもおかしいだろ。

世界が救われる喜びの瞬間が近づているとかそういう表現をするべきだ。


「えぇ。とても心配です。このままでは『鞘の勇者ハルヤの冒険譚』のページ数がそこまで多くはなさそうなんですよね。出来ればもう少しページ数を稼いで超大作にしたいところなのですが・・・。」


「・・・お前はもうちょっと世界の心配をしろ。」


「ふふふ。この期に及んでの心配はハルヤさんへの不安と同義ですから。いわばこれは信頼の表れですよ。」


「それでももう少し空気を読んでシビアな雰囲気にするとかそういうのがあるだろ?!」


「ふふふ。私はこういう時こそ緊張をほぐすことが大事だと思っておりますので。」


本当に最後になってもコイツはいつも通りである。正直言うと心強いと感じる部分もあるがなそれでも気を抜きすぎちゃダメだ。現金収入のことについてはいったん置いておいて魔王の方に心を向けておこう。


「そういえば教皇領パルリアってどんなところなんだ?」


「どういうところですか・・・正直私もあまりよくは知りません。行ったことがないもので。」


あれ?そうなのか?【預言者】なんて特別な存在なら教皇領まで行ったこともありそうなもんだがな。


「そうだったのか。てっきり行ったことがあるのかと思ってたわ。」


「ハルヤさんはリーフ司教から私の大聖堂でのことについて聞かれたんですよね?」


「・・・なんのことだ?」


エリーの大聖堂での扱いについては聞いていたがあんまりいい話じゃなかったから聞いていないことにする。自分の過去について他人から聞いていたってのもあまり気持ちのいいもんじゃないだろうしな。


「ふふふ。ハルヤさんはやっぱり嘘が下手ですね。背中がちょっと硬直しましたよ。」


だが残念ながら上手くいかなかった。


「・・・すまん。リーフ司教からエリーの過去について聞いちまった。」


なんで俺がぼかそうとしてるのに追求してくるかね。というか俺ってそんなに嘘が分かりやすいのだろうか?それともリーフ司教みたいにエリーも何か特別な能力を持っているんだろうか。


「ふふふ。私はリーフ司教のように特別な能力は持っていませんよ。」


「じゃあなんで俺の心の声が分かるんだ!」


「むしろハルヤさんが特別分かりやすいと言いますか。まぁいいじゃありませんか。嘘なんてついてもたまにしか良いことはありませんから。」


「たまにはあるのかよ。」


「ふふふ。たまにはあると私は思っています。」


リーフ司教はコイツが立派な修道女だったと言ってたが嘘なんじゃねぇか?

嘘を肯定するし人をいじり倒すし。あるいはコイツはずっと猫被ってたんだろうな。今度大聖堂の奴らにコイツの本性を伝えておこう。


「ふふふ。そう言えばなぜ私が教皇領に行ったことがないかの話でしたね。私は【預言者】と期待されていましたが、レンダルフィア帝国からすれば隠したいことだったようで。力が覚醒するまでは伝える必要はないと教皇領には伝えられていなかったんですよ。」


なるほど。いつか切り札になる可能性もあると考えて教皇領には伝えていなかったのか。

確かにあの国は教皇領も敵対視していたしな。大司教も買収していたようだし。あり得る話だな。


「なので私は教皇領はおろか、他の地域や国の教会の人にも伝えられていませんでしたから、おかげであの国を出た後は自由に活動しやすかったですよ。」


そういう訳で行ったことがなかったのか。納得したわ。あの国がやりそうなもんだ。

もうこの際だ。疑問に思ったことは何でも聞いてしまおう。エリーもそこまで気にしていないみたいだし。


「・・・そう言えばどうして大聖堂から逃げ出したんだ?」


「ふふふ。若気の至りですかね。自由を求めて飛び出してしまいました。」


「何だそれ。エリーにもそんな時期があったんだな。」


「私はか弱い普通の女の子ですから当然あるに決まっているじゃありませんか。ふふふ。」


「か弱い女の子は魔王を前にして本の執筆のことなんて気にしねぇよ。」


「これは失礼しました。本好きの女の子に訂正しておきます。わざわざか弱いと言わなくとも本好きと言えばか弱さをどことなく表現できますしね。うっかりしていました。」


「そういうことじゃねぇよ!こんだけ肝の据わった人間がか弱いわけねぇだろって言ってんだよ!」


ああ言えばこう言うを発動するエリーであるが流石にか弱いは看破できない。コイツが弱いとあっては強い人間なんていないことになる。


「ふふふ。ハルヤさんの背中もだいぶ緊張がほぐれてきたようで、これなら安心して戦えそうですね。」


「・・・エリーってさ。緊張をほぐすためと言えば何でも丸く納まると思ってねぇか?」


「ふふふ。バレましたか。今後は別の言い訳を考えておきますね。」


今まで緊張をほぐすためとかリラックスのためとか言ってたが結局はコイツが遊びてぇだけじゃねぇか!無性に腹が立ってくる。魔王を倒した後はコイツだな。俺の救いのためにコイツとはいずれ戦わないといけない。


「あ、街が見えた。あれがクリーネか?」


「ふふふ。私は普通の女の子なのでまだ何も見えません。ですが恐らくこの辺にある街となるとクリーネだと思います。」


そう言えば俺は視力も上昇しているんだった。つい俺基準で物事を考えてしまったな。

いずれにせよ教皇領パルリアが近づいてきた。教皇領パルリアは小さな島国で面積はそこまで大きいわけじゃない。そのため物資などは全て外から調達している。その窓口になっているのが港街のクリーネだ。その街が遠くにだがぼんやり見えてきたということは、教皇領もだいぶ近くに来たというわけだ。


いよいよだなと思っていたら、エリーがぼんやり呟いた。


「・・・でもこんな風にお話しするのももう少しで終わりなんですね。そう考えると寂しくなってきます。」


さっきは執筆への心配をかたっていたくせに。結局は寂しいんかい。ちょっとだけ可愛げを感じたがコイツは厄介な敵なんだ。心を許しちゃいけない。

それに旅が終わってからだって一緒に空は飛べるだろう。


・・・そう言いかけたが言葉が上手く出てこない。

世界を救えるのか。救った後どうなるのか。そう考えると安易に未来を答えられない俺がいる。


言葉に詰まっているとエリーが再びぼんやり呟いた。


「ハルヤさんの四つん這いが見られないとなると寂しいですね。」


「・・・魔王の次はお前だ。いつか膝をつかせてやるからな。」


照れ隠しのようにつぶやくエリー。俺も本音を隠して乗っかっておく。


さて、クリーネの街ももうすぐだ。だが今回は寄るつもりはない。

一応空は晴れているが同調した魔人がいる可能性もあるからな。上空から様子だけ見て通り過ぎようと思った。


だが、街の上空に差し掛かったところで異変が起こった。


体にじゃない。心に異変が起こった。


動機が激しくなる。心が苦しくなる。絶望感。失望感。

苦しい。悲しい。辛い。死にたい。死への渇望が襲い掛かる。


何だこれ?どうしたんだ俺は?


だが苦しいのは俺だけじゃなかった。叫び声が背中から聞こえた。


「いやああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」



エリーがうずくまっているのが分かる。背中を強く握りながら頭を背中にこすりつけている。

エリーも同じように心に異変が起こっているのだろう。


おかしい。何かがおかしい。そう感じつつ、冷静に心を落ち着かせようと深呼吸をする。


そのまま少し経つとだいぶ心が落ち着いてきた。恐らく何かが仕掛けられている。

だが俺は【全耐性】を持っているからか何とか耐えることが出来たんじゃないだろうか。

じゃないと俺とエリーとの間でここまで差が出るとは考えにくい。


エリーは依然として全く落ち着きを取り戻せていない。さっきから叫んだり泣いたりしながら今もまだ俺の背中の上でうずくまっている。出てくる言葉も「嫌」ばかりだ。


クソ!一体何がどうなってんだ!

とにかくエリーが振り落とされないように気を付けながら一端クリーネの街に降りていく。

このままエリーを放っておくわけにはいかないのでどこか適当な宿か教会辺りに寝かせてやりたいところだ。エリーはうずくまって動かないのでしょうがなく抱き上げて運んでいく。


すると段々と街全体がおかしいことに気が付かされる。まず門から入ろうとしたのだが門に人が全くいない。門番がいないなんて初めてで随分不用心だなと思ってしまった。


だがそれは不用心と言うよりも街全体の異変だったのだろう。街中を歩いていくと完全におかしいことに気が付いた。

そもそも出歩いている人が一人もいないのだ。そんなこと通常の街であり得るはずがない。


とりあえず誰かいないかと気配を探ってみるとほとんどの人は家の中にいるようだ。

たまに道端にいる人もいたので話しかけようと見てみるとエリーと同じようにうずくまっていた。既に憔悴しきった顔をしている。こちらから話しかけても何も返って来ない。むしろ驚かせてしまうのか余計に叫ばれるばかりだ。


街に誰も歩いていない。いてもうずくまっている人ばかり。恐らく家の中にいる人たちもうずくまっているんじゃないだろうか。

やはりこの状態は街全体に及ぼされているもののようだ。いつからこうなっているのかは分からないが、街全体に仕掛けられた何らかの魔法の影響を俺とエリーも街の上を通り過ぎようとした際に食らってしまったという事だろう。


・・・一体どうなってるんだ。何が何だか分からないと考えていると一人の女の子が立っているのに気が付いた。

向こうもこちらに気が付いたようだ。驚いた顔をしている。


「・・・お兄さんは怖くないの?私が怖くない?!」


「え?あ、あぁ。俺は怖くない。」


「本当?!本当に怖くない?!」


何だ?執拗に聞いてくるな?もしかしてこの子が何かしたのか?

でも全くそんな気配は感じないが。


「あぁ。大丈夫だ。怖くない。というかこの街は一体どうなってるんだ?」


一応身構えつつ聞き返す。もしかしたらこの子が魔人かもしれないと考え鑑定もしてみる。


―――――――――――――――――

名前:セリヤ

性別:女

年齢:7

職業:僧侶

状態:不安

称号:なし

レベル:2

体力:10

魔力:12

筋力:5

防御:4

敏捷:4

知力:8


スキル:

【共通スキル】杖術Lv.1、回復魔法Lv.1

【固有スキル】不屈


不屈

何があっても心が折れない。


―――――――――――――――――


普通の女の子だな。魔人とか疑って申し訳ないと思っていると、女の子は俺が普通の対応をしてくるから安心したのか泣き出した。


「・・・グス。うわぁぁぁぁぁん!!」


そのまま俺に抱き着いてくる。俺はエリーを抱きかかえているので対応できない。女の子は俺に抱き着いて腹に顔をうずめているせいで動けない。


状況から考えるに、この子の【不屈】が作用してこの子だけは心が折れていない状況になっているんじゃないだろうか。街の人たちがみんなこんな状態になってしまったから一人で怖かったのかなとか考える。


そう考えると離すのも忍びないので女の子が落ち着くまで泣かせてやろう。

時間があるわけじゃないが流石にこの状態の女の子に無理をさせるわけにはいかない。



10分ほど経つと女の子も落ち着いたのかようやく顔を話した。


「ごめんなさい。怖くってつい。」


「いいんだ。気にすんな。それで何があったんだ?」


「・・・今から四日前に急に空が暗くなったの!その時も怖かったんだけど一昨日空が青空に戻ったの。何だったんだろうねってお母さんと話してたら急にすごく怖くなったの。でもお母さんはもっと怖かったみたいで叫んでうずくまって・・・。誰か呼ばなきゃと思って外に行ったんだけどみんなお母さんと同じで叫びながらうずくまってて・・・。もうどうしたらいいか分かんなくて・・・。」


女の子は話しながらまた泣き始めている。訳が分からない状況で誰も助けを呼べない状況で辛かっただろうな。魔王の前にこの街を何とかしないといけないな。


しかし二日前に空が晴れたか・・・つまりは同調したという事だ。しかも二日で同調したという事はあの大魔テツより早くに同調を完了したという事だ。器用な奴なのか強い奴なのか。分からんが気を引き締めた方がいいだろう。


「・・・怖かったな。でも大丈夫だ安心しろ。俺の名前は勇者ハルヤ。俺が来たからにはもう大丈夫だ。」


俺が勇者と名乗ると女の子は目を見開いた。


「勇者・・・勇者様なの?!スゴイスゴイ!街の人たち治してくれるの?!」


「あぁ大丈夫だ。安心しろ。なんたって勇者は世界一強いからな。」


「・・・良かったぁ。」


女の子は安心したのかさらに泣き出した。

・・・怖かったよな。寂しかったよな。


だけど安心しろ。どこの魔人だか知らないが俺がぶっ飛ばしてくるからよ。

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