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人たらし

【王の間】を出るとフィリップの前に片膝でかしずいている状況に戻って来た。

フィリップも偉そうにふんぞり返っている。


「勇者よ。我が国は全面的にお主に協力する。」


スゴイな。さっきまで冗談を言っていたとは思えないほど、王の威厳たっぷりな姿に戻っている。

俺も気を抜けないな。しっかりしよう。


「それではこちらに魔道具があります。これを各地に配って魔人たちへの対抗手段として用いてください。」


そう言って俺はあらかじめ用意していたものよりはかなり少なめに魔道具を出す。【アイテム】から出したので周囲の人は急に出てきたことにビックリしている。まぁ説明するのも面倒だからいいか。皇帝はあんまり驚いていないようだし。

俺はそのまま立って皇帝のところに渡しに行こうとした。だがその瞬間に皇帝が一つ咳ばらいをした。


・・・そうか。普通皇帝に直接渡しちゃマズイか。あぶねぇ。礼儀知らずと思われるところだった。

皇帝を見るとちょっと睨んでいるような気がする。いや、多分アレは笑いをこらえている表情かな。口元がちょっと動いているし。


俺が待っていると召使が魔道具の入ったアイテムバッグを取りに来たので渡しておく。

そして俺は魔道具を説明する。


「その中には各属性の魔法を込めた魔道具が入っています。どうしても素材がなかったものですから一回か二回使えば壊れるものばかりですが、それでも強力な魔法が使えますから魔人程度であれば大ダメージは与えられるはずです。」


「おぉ!あの魔人に対してもダメージを与えられるのか!」

「流石勇者様だ!私たちもこれで共に戦おう!」

「世界のために!全ての人々のために立ち上がろう!」


皇帝の話を聞いた後だからか、彼らの言葉がとんでもなく演技臭く見えてくる。いや実際に演技なのか。しかし皇帝の話を聞いてなかったらこういう一言一言も素直に喜んでいたんだろうな。

気を引き締めないと。


「それではよろしくお願いします。俺たちはあまり時間がありませんのですぐに旅立たねばなりません。」


「そうであるか。ならばすぐに行け。・・・この世界を、頼んだぞ。」


「承知いたしました。」


俺が出て行こうとすると周囲の人たちは驚きつつ止めようとしてくる。


「え?もう行かれてしまうのですか?!」

「魔道具を作るための素材ならたくさんありますからもう少し作っていただけませんか?」

「今日は一泊していった方がよろしいのでは?準備は既にできていますから!」


「いえ、時間がありません。すぐに出なければいけないのです。」


「大臣たちよ。その辺にしておけ。勇者の道行を阻んではならん。それがこの国の教訓だ。」


その言葉に周囲の人たちは流石に黙った。というか彼らは大臣だったんだな。

俺に魔道具を作って欲しい。もう少し仲良くしておきたい。そんな意思が見えてきてちょっとだけ嫌な思いをしたが、皇帝のおかげでさっさと出て行くことが出来た。


エリーも不思議そうな顔をしているが、フォエフォ島で【王の間】を経験したことのあるエリーは何かを察したのだろう。特に何も言わずについてきてくれる。


「それでは、失礼いたします。」


ちゃんと礼をしてから皇帝の間から出て行った。


俺たちはそのまま王城を出て行く。皇帝はこの国を信頼するなと言っていたがやはり本当だな。俺に対して追手が付けられている。勇者に対して追手とは・・・なめられたものだな。と思ったが、だいぶ熟練なようでこっちも気を張っていないと気が付かないほど精度の高い隠密を使っているようだ。


皇帝からの言葉があって良かった。この国を信頼していたら多分気を抜いて見逃してただろうな。


俺はエリーにすら何も告げずに黙って時空魔法で大聖堂まで向かって行くことにした。

エリーも俺が何も言わないまま魔法を使い、急に大聖堂に戻って来たから驚いている。


そして何よりも驚いているのはさっきまで机で本を読んでいたであろうリーフ司教だ。急に俺とエリーが部屋に現れたから驚いて本を持ったまま椅子から落ちてしまっている。


「・・・勇者よ、お主はワシを殺すつもりか?」


「・・・すまん。他の人に見られたくなかったから一番安全そうなここまで魔法で飛んできた。」

「ふふふ。何が何やらわかりませんが、ただいま帰りました。リーフ司教様。」


これだけの状況だというのにエリーは普通にただいまって言っているあたり、やはり肝が据わってるよな。流石の爺さんも面くらっている。


「え?あ、あぁエリー。おかえりじゃ。それでどうしたのじゃ?」


「さっき皇帝に会ってきた。そこでこの国についても色々と聞くことが出来てな。この国は信用ならんという事で、リーフ司教に頼みがあってやってきた。」


「・・・随分色々な話をしてきたのじゃな。それで何を頼みに来たのじゃ?」


俺はさっき皇帝の間で話したことをリーフ司教にも話した。ついでに教皇領が緊急事態であることも日数が限られている可能性があることも伝えておく。

爺さんもビックリしているがエリーもビックリしている。そう言えば何も説明していなかったな。


「・・・ふむ。そのようなことになっていたのか。・・・いつもであれば教皇からの言葉がそろそろ出てもおかしくないことであるがそれがなかったからのう。少し遅れているのかと思っていたが・・・そうではなかったようじゃの。」


「あぁ。下手したら教皇領にいた人々は既に亡くなっているかもしれない・・・。」


魔王や魔人に襲われたとあっては無事だという可能性はほとんどないだろう。

命があればとは願っているが・・・現実的には可能性は薄い。


「・・・そうなれば教会は一大事となるじゃろう。しかしそれはこの国にとっては美味しい状況じゃろうな。教会の勢力が落ちたところで支配して自分たちの傘下としたいとでも考えているところじゃろう。」


爺さんは悲しそうに呟く。自分たちの仲間の危機を喜ぶ誰かがいるというのは辛いものがあるよな。


「・・・宗教というものは非常に危険じゃ。信仰は時に人の理性を外させる。社会的におかしい事柄も信仰がそれを納得させてしまう。じゃから宗教は国と結びついてはならんのじゃ。じゃが国家からすればむしろ理性を外させるために宗教を手に入れたいと考えておる。人というのはどこまでも強欲なものじゃのう。」


そうだな。人はどこまでも強欲だ。結局何を手にしても不足を感じる。手に入れたいという欲望が強ければ強いほど、むしろ満たされていないという感情の幅が広がっていくものだ。


「・・・フィリップの奴が魔道具を私のところによこしてきた理由もよくわかるわい。奴はどこかでこの国を見限っておったからな。危険を察知したのじゃろう。」


全く持ってその通りだ。アイツは完全に国を見限っている。というかこの世界を見限っていると言えるかな。


「・・・ここはワシの力を見せる時じゃな。世界の危機のために、この魔道具を必ずや各地に配ろう。」


「・・・こんなこというのもアレだが、大丈夫か?」


流石に老人には負担だろう。素直に心配である。


「ホッホッホ!心配するな。ワシが直接運ぶわけじゃない。フィリップもワシの人脈に期待してお主をここに送ったのじゃろう。」


「爺さんってそんなに顔が効くのか?」


「皇帝に手紙を書いたのは誰じゃったかな?」


「・・・そういえばそうだったわ。あの手紙は確かに有効だった。ありがとな。」


あの手紙の力は絶大だった。何も後ろ盾のない俺がすんなり勇者と見なされたからな。爺さんのスキルの有用さから国家の中枢にまで人脈を広げているのだろう。


「ワシの持つスキルは人を素直にさせる力じゃ。その力は国家運営において有効なスキルと判断されてきた。故に皇帝にも大臣にも顔が効く。しかし今回ワシが使う人脈はそれではない。」


「違うのか?」


「当たり前じゃ。むしろそれを使わないようにフィリップはここに送り込んだのであろう?」


そうか。大臣とかに頼んだら結局のところ魔道具を国の物にされちゃうもんな。うっかりしてたわ。


「ワシの持つ人を素直にさせるスキルは【吐露】という。ワシはそのスキルを使いこの人生をかけて果たしてきたことは、人の素直な気持ちを吐露させ、そして全て受け入れ肯定することじゃ。どんなに汚いことを考えていようともどんなに醜くいことを考えていようともワシはその人を肯定してきた。」


吐露か・・・。感情の奥深くにあるものを語らせる能力と言ったところか。


「人はな、素直に話すのを思ったよりも恐れている。そこを引き出し、かつ受け入れる。と言っても誰彼構わず使ってきたわけじゃないがの。人と時は選んで使ってきた。そのおかげでワシは人たらしの異名を受けるまでの名カウンセラーとなったのじゃ。ホッホッホ。」


人たらしか。やり方はちょっとあくどい気がするが、それによって助けられた人がいるんだ。否定するべきことではないだろう。


「その人脈を使って各地に配ってやるわい。安心して任せればよい。」


「ありがとよ爺さん。めちゃくちゃ頼もしいよ。」


「良いのじゃ。その代わり、エリーを頼んだぞ。ついでに世界も。」


「あぁ。ってふつう逆だろ。」


「ワシにとってはその順番で合っておるわい。」


どんだけエリーが好きなんだよこの爺さんは。

ただまぁこの愛情には過去にエリーを一人にさせてしまったという懺悔も入っているのかな。


「そんじゃ、行ってくるよ。」

「リーフ司教様。行ってまいります。」


「あぁ、気を付けていくのじゃぞ、エリー。」


「・・・おい爺さん、俺は?」


「お主は大丈夫じゃ。死んでも死なないタイプじゃろう。」


「いねぇよそんなタイプは!そういうところもエリーにそっくりだな!!」


「おぉ!エリーに似ておるとは。何という誉め言葉じゃ!気分が良いぞ!ちょっとぐらい無事を祈ってやるわい!」


「生きて帰って来て文句言ってやるからな!覚えてろよ!」


そう言って俺たちはオンドモンドの街の外まで時空魔法で出て行った。



さて、教皇領まで行くかな。何がいるかは分からないが、恐らくこの状況に詳しい誰かがいるはずだ。もし魔王がそこに居ればこの旅も終わりなのかもしれない。


・・・だが向かうにあたって一つだけ不安がある。それはエリーについてだ。

向こうには魔王がいる可能性がある。そうなるとエリーにとっては危険な場所だ。果たして連れて行っていいものなのだろうか・・・。


「ふふふ。ハルヤさん、随分皇帝と仲良くなられたのですね。」


「あぁ。【王】と【勇者】で通ずる悩みがあってな。そのおかげで仲良くなれたよ。」


「なるほど。【王の間】で逢引きしていたのですね。どうりで私のしらない情報がたくさんあったわけです。」


「逢引きじゃねぇよ!謁見だ謁見。それに有益な情報を得られたからな。今から教皇領に向かう。・・・ただそこは危険な可能性が非常に高い。だから・・・。」


「ふふふ。まさか私はここで置いてけぼりですか?」


「・・・今までよりもずっと危険だぞ?」


「ふふふ。危険かどうかなんてそんなことを気にするなら最初からついてきていませんよ。」


・・・やっぱりエリーはついてくる気満々だ。

守り切れないんじゃないかという不安もある。でも、誰かが一緒についてきてくれるのは心強い。戦力ではないかもしれないが、それでも嬉しい。


エリーだって力もついてきたし、それに何より【預言者】なんだ。きっと大丈夫なはずだ。


「・・・分かった。一緒に行こう。」


「ふふふ。そこは格好よく「一緒に死んでくれ!」とか言えばいいじゃありませんか。」


「そうか。じゃあ・・・って死ぬ気はねぇよ!生きて帰るんだ!」


「ふふふ。そうですか。では一緒に帰ってきましょう。」


「・・・あぁ。そうだな!」



いよいよ核心に近づいていく。散々苦しめられたからな、魔王をぶっ飛ばして鬱憤を晴らしてやろうかね。



俺たちは教皇領に向かうため【浮遊】を使い空を飛んでいく。

そのためにまた四つん這いになる。これから死地に向かうかもしれねぇってのに、最後の最後まで締まらねぇなぁ。

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