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チャンス

爺さんはあの後熱心に手紙を書き始めた。

俺はただその後ろ姿を見るだけだ。正直暇だがたまには暇を楽しむのもいいだろう。ボーっと部屋の中を見回している。


部屋の中には本がたくさん並べられている。紙の貴重な時代によくもまぁここまで本を集めたな。

一冊一冊が分厚いから冊数としてはそこまでではないが、それでも部屋の壁中に本が並べられている光景は圧巻だ。


背に書かれたタイトルは「神の救済」とか「教会の歴史」とかそういうものが多く、少しばかり興味がそそられる。だがさすがに本を読んでいる暇はなさそうだ。

今はタイトルだけを見つめつつ時間を過ごすこととする。


のんびりしていると、部屋をノックする音が響き、エリーが入って来た。


「リーフ司教様。皆様に挨拶することが出来ました。ありがとうございます。」


「ホッホッホ!それは良かったのう。ちょうど今フィリップへの手紙を書き終わったところじゃ。これを持っていきなさい。」


爺さんはエリーに羊皮紙を渡している。それがあれば皇帝に会えるのかな。


「リーフ司教様、ありがとうございます。他の方々に聞かせていただきましたが、大変心配してくださったようで、長くご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」


「ホッホッホ!無事であればそれで良い。老人などいつも死の心配をしておるからな。心配するのは慣れっ子じゃよ。」


「ふふふ。ありがとうございます。今度は堂々と出て行きますね。」


「そうしなさい。そして今度もまた堂々と帰ってきなさい。この場所は君をいつでも歓迎する。安心して行きなさい。」


「はい。リーフ司教様もお体ご自愛ください。」


「ホッホッホ!ワシはまだまだ長生きする予定じゃからのう。心配事も一つなくなって、より長生きできるじゃろう。後はお主たちが世界さえ救ってくれれば問題ない。」


「ふふふ。これは責任重大ですね。ハルヤさん。」


「爺さんのためじゃないが、世界ぐらい救って来てやるよ。」


「可愛げのない奴じゃのう。ちなみにお主は帰って来ても歓迎しないからの。覚悟しておくように。」


何だよ。さっきまで良い話してたくせに途端に態度を変えやがって。やっぱりエリーの教育はコイツがやったな。いじり方がよく似ている。


「魔王の首持って堂々と帰って来てやるからよ。せいぜい長生きしろよ爺さん。」


「ふん!お主に言われんでも長生きしてやるわい。そっちこそ魔王に首を取られんようにな。」


嫌味を言いつつ、何だかんだ心配はしてくれているんだろう。きっと爺さんも本当はエリーを送り出したくないんだろうな。それでも世界のためと思って送り出してくれているんだ。

嫌味の一つや二つは受け取って行こう。


「じゃあな爺さん。ちょっくら皇帝のところに行ってくるよ。」

「リーフ司教様、行ってきます。」


「あぁ。二人とも気を付けてな。」


最後の最後は、良い爺さんとして送り出してくれた。

俺たちは爺さんからの手紙を持って皇帝のいる城に向かって行くことにした。



「そう言えばハルヤさん、リーフ司教様とは何を話していたんですか?」


あまり過去のことを聞いていたと答えるのもどうかと思うので、ここは濁しておこう。


「エリーの倒し方を聞いてた。」


「ふふふ。それで何か教えてくれましたか?」


「有効なものは何もなかったな。時間がなくて聞ききれなかった。だからまた聞きに来ないといけなくなっちまった。」


「ふふふ。そうでしたか。」


「あぁ。だから今度はゆっくり話せるときに来ようかな。」


「そうですか。じゃあ頑張って世界を救わないといけませんね。ふふふ。」


あの場所は、あの人たちは、エリーを大事に思っている人たちだ。

だからその人たちも含めて守らないといけない。そしてまた帰って来ないといけない。

今度はゆっくり再開を喜べるように。



段々と城に近づいていく。

思えば前の世界では西方式の城ってあんまり見たことがなかったな。

だから実際に目の前で見ると不思議な感動を覚える。


高くそびえたつ城壁と塔。真っ白に塗られた壁。頂点には国家の紋章なのだろうか分からないが旗が立っている。

遠くで見るのと近くで見るのとでは迫力がまるで違う。ちょっと皇帝に会うのに緊張してきた。


だがエリーに馬鹿にされるからな。余裕そうな顔をしつつ流し目程度に城を見る。

正直もっとマジマジみたいんだけどな。それはまた今度一人で来て存分に楽しもう。



城の門には当然のように門番がいて俺たちは止められることとなった。


「何者だ。」


「私は勇者ハルヤ。おしてこちらは預言者のエリーです。緊急事態のため皇帝に謁見を願いにやってきました。ここにリーフ司教様の手紙がありますのでご査収ください。」


「な、勇者と預言者だと?!ちょっと待っていろ!すぐ中に連絡を取る!」


そう言って受け取った門番は別の門番に番を任せて城の中に連絡に行った。

俺たちはボーっと待つ。流石に待つ以外に選択肢はないからな。


「ふふふ。リーフ司教様の手紙があって良かったですね。」


「そうだな。魔法をぶっ放す必要がなくて良かったよ。」


「ふふふ。実力行使で入ろうとするハルヤさんも見てみたかったですけどね。」


「やめろ。物騒なことを言うなよ。」


門番がいるんだろ。あまり変な事言って怪しまれたくない。

別に怪しい者じゃないから大丈夫なんだが、それでもどう見られるかは気にしてしまう。


「ちなみに私は魔法を放つよりもドラゴンを召喚して城に乗り込むのが一番手っ取り早いと思いましたけどね。」


「そんな無駄な事考えてたのか。」


「ふふふ。無駄を楽しんでこそ人生は豊かになるのですよ。」


「まるでさっきの俺に対する嫌味みたいだな。」


「ふふふ。この無駄な時間も一緒に楽しみましょう。」


待つ時間も楽しむって考えは良いな。その楽しみ方に問題はあるが。


しばらく待っていると先ほどの門番が帰って来た。ついでに何か偉そうな人も一緒に着いてきている。


「おぉ!!あなた方が勇者様と預言者様ですか!!話はリーフ司教の手紙で聞きました。司教が言うのであれば間違いないでしょう。どうぞこちらへお越しください。」


そう言って俺たちは中に通された。先ほどの門番も敬礼をして俺たちを見送ってくれる。

勇者という肩書への尊敬があるのだろう。好待遇で迎え入れられた。



城の中に入ると荘厳さに面喰ってしまう。赤い絨毯が敷かれ、絵画や花が飾られた城内はとても煌びやかだ。シャンデリアのようなものも点けられていて光が美しく映えている。

前の世界であればこういう場所はあくまでも作り物だった。だがこの世界ではこの場所で人が生きて生活をしている。

これぞまさしく皇帝のいる場所って感じだな。今までの行った領主館がちっぽけに思えてくるよ。


俺たちは案内をされながら上の階に上がっていく。

前の世界であればエレベーターが欲しいものと思う場面であるが、機械があるとこの風景が壊れてしまうと思うと、今は自分で階段を上がっていくのも楽しく感じてくる。不思議なもんだな。


「ささ、勇者様、預言者様。こちらの部屋に皇帝がおられますのでどうぞお通り下さい。」


そう言って俺たちは重厚な扉の前に立たされた。自分で開ける必要もないようで、扉の前にいる召使が扉を開け、皇帝の間に通されていく。


しかし凄いなリーフ司教の手紙の威力と勇者という肩書の力は。

何だか偉くなったような気分にさせられてちょっとだけ気持ちがいい。


俺たちが中に入っていくと、大勢の人たちの出迎えられた。そこまで大きな声ではないが歓声のような声が挙がっている。

そして中央には椅子に座った皇帝の姿があった。


冠だ。初めて見たよ冠かぶってる人。しかも金ぴかの杖まで持ってるし。

これぞ皇帝と言った姿だ。まるで絵本の中から飛び出して来たかのような見た目に興奮してくる。


でも流石にここで騒ぐわけにはいかない。俺は顔を作りつつ片膝をついて挨拶をする。


「勇者ハルヤと預言者のエリーです。この度は世界の緊急事態のためレンダルフィア帝国の力をお借りしたく、参上いたしました。」


「うむ。顔を上げよ。」


皇帝の一言を待って俺たちは顔を上げる。


皇帝は一言で言えばクールな青年だった。

正直もうちょっとおじさんを想像していただけにビックリした。若くして皇帝になれるんだな。


俺たちが顔を上げると周囲の人たちがザワザワしだした。


「あれが今代の勇者か。」

「これで世界が救われる。」

「今回は人の形をしているんだな。安心したよ。」


今までの勇者の歴史のせいで、勇者は種族どころか生物かどうかすら分からない状態だからな。今代の勇者が人間というだけでかなり安心するのだろう。

願わくば歴史を知らないでいれくれと願っていたがどうやら知っていたようだ。さすが大帝国の国家の中枢にいる人物たちだな。博識だ。余計な知識をいれやがってとも思うが。


「勇者よ。今世界はどのような状況になっておるのだ?」


「今世界は魔王に乗っ取られようとしています。」


そう言って俺は今世界で起こっていること、そしてこれからの状況のために協力が必要であることを説明した。

周囲の人々はやはり飛び出してくる「魔王」や「魔人」という言葉に反応し、滅亡した街があることを知らされると悲しそうな顔や不安な顔を浮かべている。


既にオンドモンドの街も襲われているしな。その毒牙が他の街にも向かっていることは想像していただろうが、実際にそのことが伝えられると不安も大きくなるよな。


「・・・ふむ。そうであるか。世界の危機故、協力せねばならんな。レンダルフィア帝国は世界一の国家である。世界の救済のために最大限に助力しよう。」


「ありがとうございます。」


良かった。無事に協力を得られそうだ。

ホッと一息ついていると周りからも声が挙がって来た。


「今こそ私たちが他国を救済する時ですね。」

「勇者殿と力を合わせて世界を救おうじゃないか。」

「勇者殿がいれば我々も魔王軍に臆する必要はない!」


周りから上がる声はどれも共に戦うという意思を見せてくれる。

勇者に丸投げにするのではなく、共に戦うと言ってくれるとやはり嬉しいものがある。


こういうところがレンダルフィア帝国が世界一の国になった理由なのかもな。

それに過去の歴史を知っているという事も大きいのかもしれない。


過去に勇者クライドは国家との関係性が壊れた結果、一つの国家を破壊した。

その恐怖か反省かは分からないが、勇者に協力しようという意思があるのだろう。


ついつい笑顔になっていると、皇帝が魔力を溜め始めていることが分かった。恐らくこの周りの人間は気が付いていない。【気配察知】のLv.が高い俺だけが気が付いているようだ。


この状況はあの時と似ている・・・つまりあれは【王の間】か?


俺は少し身構えつつ、王の魔法の発動を待つ。



俺の考えは的中し気が付けば例のあの空間に俺と皇帝が二人きりで立っていた。


ただジャイコフの時のように質素な家という感じではない。


もっと無機質で、何にもない空間に連れてこられた。

椅子も机も何もない。ただただ地面と壁があるだけの空間に連れてこられた。



「勇者よ。驚いたかな?心配するな、危険はない。ここは私が作り出した【王の間】だ。ここであれば二人きりで話せると思い招かせてもらったよ。」


「そこまで驚いてはいませんよ。既に経験がありますので。」


「・・・何だと?【王】のスキルを知っているのか?」


皇帝は睨みながら俺を見ている。何だ?すごい驚きようだな。そんなに【王】って珍しいのか?


「え、えぇ。既に会ったことがあります。」


「何と・・・私以外に【王】が存在していたのか・・・。勇者よ、そのことはくれぐれもこの国では言ってはならんぞ?」


「え?あ、はい。分かりました。ですが何故ですか?」


「【王】という職業は国力を上げる才に富みすぎている。そのため他国からすれば【王】という存在は脅威そのもの。だから【王】がいると分かればすぐに討伐されることがあるのだよ。」


「な、なるほど。ならば言う訳にはいきませんね。」


危ない危ない。ジャイコフの命が狙われるところだったのか。これは言うべきにはいかないな。

というくイッポン国の奴らは大丈夫なのか。ジャイコフは堂々と宣言していたけど他国に漏れたら狙われちゃんじゃないか?

何だか心配になってくる。アイツはアホなところもあるからな。


そんなことを考えている俺を、皇帝は品定めでもするかのようにじっくり見ている。


「ふむ。やはり勇者は善人であるのか。正義感があると言った方が良いか。それでいて素直で危なかったしい存在でもあるな。」


「いえ、私はそこまで善人でも正義感があるわけではありません。それに素直でもなく、ただ無知なだけですので。危なっかしいのはそうかもしれませんが。」


「私は自分の目で判断したものを優先しているのでな。お主の自己評価など信用せんよ。」


「はぁ。そうですか。」


確かにちょっと謙遜している部分もあるが、そこまでハッキリと信用しないと言われるかねぇ。

ざっくばらんな性格というか。ただあまり偉そうな感じではないから不思議な人でもある。


「さて、お主をここに呼んだのはお主に忠告せねばならぬと感じたからだ。ハッキリ言おう。この国をあまり信用するな。」


「へ・・・?」


「だから信用するなと言っているのだ。」


信用するなって・・・あんたの国じゃないのかよ。


「それは、どうしてですか?」


「この国がなぜ世界で最も強い大帝国になったか分かるか?」


「・・・国民の努力のたまもの?」

と適当に答えたものの正直分からん。レンダルフィア帝国の名前は聞いたことがあるがその実情とかは何も勉強してきてないんだよな。


「ハッハッハ!まぁそれも一つの正解であろう。だが私が考える答えではない。この国が最も大きい理由は単純だ。強いからだ。そしてその強さを存分に振るってきたからだ。」


「強いから・・・。」


「そうだ。戦争に戦争を重ね、侵略し領土を奪い物資を奪い。国をさらに強くして支配を増やし、さらに他国を潰していく。その結果として我が国は最も大きな国になったのだ。」


・・・戦争か。まぁ一番大きくするには確かにそうなるわな。

結局領土を手に入れるにはそこにいる者たちを追い出すか支配するか、あるいは殺すしかない。


「我が国は世界一大きな国となった。だが未だに満足はしていない。常に次の獲物を探し求めている。そこに、この世界の危機の訪れ、そして勇者の来訪が起こった。そのことをこの国の中枢にいる者たちはどう考えたと思う?」


「・・・分かりません。」


「世界の危機と勇者の来訪。これを聞いてある者はこう言ったのだ。「チャンスだ」とな。」



・・・え?チャンス?

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