期待と失望
リーフ司教によって外に取り残された俺はしょうがないので勝手にドアから入ることにした。
鍵でもかかってるかと思ったが普通に開いていた。何だかんだ入れるつもりだったのかな。
娘を取られる親の気持ちというか孫を取られるおじいちゃんの気持ちなのかはわからんが、拗ねた老人に可愛げは感じない。
まぁ気持ちは理解できなくはないからこちらが大人になって対応してやろう。
「む?なんだ勝手に入って来たのか。」
嫌な顔をしながら迎え入れられたが我慢だ我慢。こちらが大人になるんだ。
「えぇ、鍵が開いていましたので入らせていただきました。緊急事態ですのでご了承ください。」
「ふん。いっちょ前に礼儀だけは身に着けているようだが、そんなもんでは騙されんぞ。エリーは勇者と言っていたがワシは信じないぞ。」
「そうですか。では信じてもらえるように努力しましょう。」
そう言って俺は聖装に着替える。この神々しい装備はきっと気が付いてくれるだろう。と期待したが老人は気が付かない。
「む?なんの手品か?随分良さそうな装備をしているがそれでエリーをだましたのか?」
「(これは神から与えられた聖装でしてこちらが証明になるかと思いまして。)おいおいジジイ。老化で目が見えないのか?」
・・・やべっ。思ってることと言おうとしていた事を間違えた。
こちらが焦っているとリーフ司教は目を丸くしながらこちらを見て、ニヤリと笑った。
「ホッホッホ!本性を現しおったな!」
「(大変失礼しました!思ってもいないことがつい口に出てしまいまして。)本当の事を言って何が悪い。」
え?あれ?また間違えて喋っちまった!というか明らかにおかしくないか?俺ってこんなに正直だったっけ?
「ホッホッホ!こりゃ傑作じゃわい!!」
「ふふふ。リーフ司教様。遊ぶのはその辺にしていただけませんか?」
エリーがリーフ司教をたしなめる。やはりこのジジイが何かやってたのか。
「(あなたが何かされたのですか?)おいクソジジイ。何しやがった。」
まただ。また心の中で思ってることを喋ってしまう。絶対にコイツが何かやっただろう。
「ホッホッホ!ワシのスキルでな。ちょいと正直に話してもらっただけじゃ。ワシ相手に嘘は通じんぞ。」
「・・・なるほどな。じゃあもう礼儀もクソもねぇか。気にしなくていいなら楽ってもんだ。」
「ふむ。だからと言ってここまで開き直る奴も珍しいがのう。普通ならもう少し焦るものじゃが。」
「別に隠さないといけないこともないしな。」
「なるほどのう。お主が勇者というのはどうやら本当のようじゃな。そしてエリーも預言者としての力に開眼したという事か。随分たくましくなったようだしのう。」
最初は偏屈な頑固ジジイと思ったが割と物分かりの良いジジイだった。まぁ司教様と言われている人だしな。周りからの信頼も厚いみたいだしエリーのこと以外ではまともな人なんだろう。
「それでエリーと勇者ハルヤとやらは何しにここに来たのじゃ?」
「司教様。私たちはこの世界の危機のために勇者ハルヤが作った魔道具を配り歩いています。ただどうしても人手や物資が必要ですので、皇帝のお力を借りたいと考えています。そこでリーフ司教様にお繋ぎ頂ければと思いまして。」
「なるほどのう。フィリップの奴につなぐことぐらいは出来るが・・・。」
「爺さん。俺からも説明させてくれ。今世界は危機的状況に立たされている。」
そう言って俺は司教にこの世界で起こっていることを説明した。
各地で起こっている戦いの激しさはこの街の激戦からも予測していたようだが、事の重大さを改めて実感したようだ。
「ふむ・・・。であればワシからフィリップに手紙を書いてやろう。恐らく今日の内に会えるはずじゃ。」
「リーフ司教様、ありがとうございます。」
「よいよい。可愛いエリーと世界の為じゃ。」
「ナチュラルに俺を外すんじゃねぇよ。」
「む?お主は・・・誰じゃったかのう。老化が激しくてな。」
クソジジイめ。さっき老化のこと言ったから恨んでやがるな。
流石エリーの上司なだけはある。一つ一つのジャブが中々鋭い。
「してエリーよ。この大聖堂の者も久々にお主に会いたいと願う者もおるじゃろう。少し顔でも見せに行ってあげなさい。その間にワシはフィリップへの手紙を書いておくから。あぁ、勇者はちと残ってくれ。」
「はい。ありがとうございますリーフ司教様。」
そう言ってエリーは部屋から出て行った。何で俺だけ残されたんだ?まさか説教でも始まるのか・・・?
「・・・エリーは随分たくましくなったのう。これもお主の力か?」
「あぁ。俺の【パーティー】という能力でエリーにも経験値が注がれている。その力で強くなった。」
「そうではない。そうではないのじゃ。エリーは、人として強くなりつつあるという事じゃ。」
人として?正直言うと最初にあったころから何か変わった気はしないが・・・。
「・・・その辺に関しては俺はよく分からん。俺は力があるけど、人の心を救うことは出来ないからな。ただエリーはリーザスの街の領主に蹴り入れてきたから本人にとっては一つの壁を越えたのかもしれないな。」
あの蹴りは中々痛快なものだった。後で仕返しとかないといいけど・・・今のエリーなら返り討ちに出来るから大丈夫か。
「そうか!あのリーザスの街の領主を足蹴に!ホッホッホ!これは愉快じゃな。」
爺さんも恐らくリーザスの街でのことを知っていたのだろう。あの領主が蹴られたことを喜んでいるようだ。
「・・・してハルヤよ。あの子は・・・預言者としての力に覚醒したのか?」
爺さんは弱弱しそうに俺に問いかけてきた。さっきの威勢が嘘みたいだな。
エリーの力の覚醒か・・・。どうなんだろう。前の状態を知らないから何とも言えない。
「覚醒が何なのかは分からないが、少なくともエリーは預言の力で俺のところに来たぞ。ただその後は一度も預言を受け取ってはいないが。」
「おぉ!!エリーに預言が与えられたのか!!それはめでたいことじゃ!!しかしその後は一度も受け取っていないとは・・・どういうことだ?」
「んなこと俺にも分からねぇよ。ただエリーは俺に会ってから一度も預言をもらってないと思うぞ。本人が隠してなければだけど。」
「・・・なんと。・・・まったく預言というものはよく分からないものじゃな。」
どうやら爺さんたちも預言については何も分かっていなかったようだ。
エリーは預言者という肩書を持ってはいるが、預言者らしい活動をしているところを見たことがない。
本音を言えばこれから行く先を教えてくれるとかそういうのを期待していただけに肩透かしを食らっていた部分もある。だがそれでエリーを責めるのは筋違いだから胸にしまっていたが。
「ここに居た頃は預言者として何か力を使っていたのか?」
「いや・・・エリーに預言が与えられたことは一度たりともなかった。そのせいでエリーはここを半ば追い出されるようにして出て行ったのだよ。」
一度たりともか・・・正直それは予想していなかった。
しかし追い出されるってのは一体どういうことだよ。不穏な言葉につい眉をしかめてしまった。
「勘違いするな。我々が追い出したわけでも国が追い出したわけでもない。事実としてはエリーが逃げ出しただけじゃ。じゃが、追い出したも同然と言えよう・・・。」
爺さんはまるで懺悔をするようにエリーの過去について教えてくれた。
「エリーが初めて来たのはあの子がまだ7歳の時じゃった。リーザスの街での端末は知っておるな?」
「あぁ・・・胸糞悪い話だったがな。」
「リーザスの街で悲劇に見舞われたエリーだったが【預言】というこれまで聞いたこともないスキルを手に入れた。その内容は「神の声を聞ける」というものでな。そのことを知ったエリーは教会に直談判したのだよ。私は神の声を聞けるスキルを手に入れたと。」
なるほど。有益なスキルをアピールして保護してもらおうと考えたという事か。
とても7歳の女の子がやるようなことじゃないと思うが、必死だったんだろうな。
「その話は私のところにまで来てな。私の前には嘘はつけないから真偽を確かめるために私が派遣されたのじゃ。エリーは本当に【預言】というスキルを保持していることが分かり、この大聖堂で保護することになった。」
そのおかげであのクソみたいな街から逃げられたからな。良い判断だったんだろう。
「だがのう「神の声を聞ける」とあって我々は過度に期待してしまったのじゃ。いつか何か良い知らせを告げてくれるはずだと、来る日も来る日もエリーに神の声を聞くことを求め続けた。」
まぁ神の声を聞けるなんてスキルは期待しちゃうよな。
「【預言】のスキルを保持していたことは教会の人間だけでなく皇帝も知っておった。そのせいで期待はとても大きいものとエリーは感じておったじゃろう。しかし私がいるから嘘をつくことも出来ん。エリーは来る日も来る日も祈り続け、神の声を聞こうと必死になっていた。それでも何も聞こえんかったのじゃ・・・。」
周りからの期待に応えようと必死になっても聞こえず。早く聞かなければという焦りは段々と不安になっていったことだろうに。
「エリーは修道女としては立派な子じゃった。明るく優しく、穏やかで勤勉で、文句のつけようもなかった。だがいかんせん、彼女への期待は大きすぎた。普通であれば褒められる人間じゃったはずが過度に期待しすぎたせいで、期待が失望へと跳ね返っていきおった。」
勝手に期待して、勝手に失望する。まぁエリーからアピールしたわけだから失望するのもしょうがないのかもしれないが。やりきれないな。
「ここでは立派な修道女としての尊敬を受けてはいたが、行政の人間からすれば期待が跳ね返った結果、無能の烙印を押されるようになっていったのじゃ。そしていつの間にかエリーは腫物のような存在になってしまったのじゃ。」
エリーがどれだけ素晴らしい人間であろうとも、【預言】が使えなければ意味がないという事か。
「エリーは13歳のころに母を亡くしてからは私しか頼るべき存在がいないようなものじゃったのだ。だがエリーはそんな気持ちを一切見せなかったのでな。私は【預言】が使えなくとも彼女が立派な修道女になったと安心して、エリーを残して退職してしまったのじゃ。」
爺さんは今にも泣き崩れそうな表情をしながら語っている。エリーを一人残して退職したことを後悔していたのだろう。
「後から聞いた話だが、今の大司教はエリーの預言者としての力を諦めきれなかったようでな。何度もエリーの【預言】を求め続けたらしい。大司教の期待は神への信仰から来ているが故に悪気はなかったのじゃろう。だがエリーにはその期待は重すぎたのじゃ。その結果、今から二年前にエリーは飛び出していなくなってしまったのじゃ。」
あのエリーでも耐えられなかったのか。いやむしろ真面目に取り組んでいたからこそ、期待に応えられないことが苦しかったのかな。
「飛び出したエリーをしばらく探したのじゃがな。結局見つけることは出来んかった。悲しみ嘆いているエリーの姿ばかり想像しながらこの二年間を過ごしてきたのじゃ。だから今日再びエリーに会えたことは本当に嬉しかった。」
きっと後悔しっぱなしの二年間だったことだろう。きっと今も心の内ではエリーへの謝罪を抱えているのかもしれない。そんな顔をしている。だから俺も水に流してやろう。
「エリーはここに居た頃からよく笑う子じゃった。だがワシには全く笑っているようには見えんかった。きっと心から笑っていたわけではなかったのじゃろう。だが今のエリーは心の底から笑っているように見えた。それだけでお主は私にとって、勇者そのものなのじゃよ。」
「さっきまであんなに辛辣だったくせに急にどうしたよ。」
「ホッホッホ!さっきはエリーに会えた嬉しさで取り乱しておったのじゃ。すまんかったな。」
「まぁ気にしてないから別に構わないけどよ。」
エリーへの愛情ゆえの行動だ。こっちもそこまで悪い気はしてなかったしな。
「・・・勇者ハルヤよ。エリーの預言者としての力はそこまで大きくはないのかもしれん。あのスキルについては我々も全く分からなかった。だが、彼女を見捨てないでほしい。あの子はもう十分傷ついた。そろそろ幸せになるべきなのじゃ。」
「そんなこと言われなくても分かってるよ。それに元からエリーに預言者としての力なんて期待していない。神の預言なんてなくたって俺は勇者だからな。どうとでもなる。」
「ほう?」
「でもエリーがいないと俺は今ここには立っていない。勇者なんて多分やってない。どこかで必ずくじけていた。アイツは預言者としての力がなくたって、立派に俺の相棒としてやってるよ。だから心配すんなよ。」
その言葉を聞いて爺さんはホッとしたようだ。まるで娘を託す父親のように俺に頭を下げてきた。
「勇者ハルヤよ。エリーを頼む。」
「任せとけ。」
・・・ただ、幸せに出来るかは分からんがな。
爺さんはどうやらスキルを使っていなかったようだ。
最後の最後は、嘘ついちまったな。




