サムエル親分
「…はぁ?迷子って、こんなところでか?」
サムエルさんは見た感じさわやかなおじさんなのに、意外と渋い声だった。
落ち着いた雰囲気の声にちょっとホッとした。
「はい…。迷子です…。」
俺だって22歳にもなって「迷子です。」なんて言うと思ってなかったよ。
でもしょうがない。本当に迷子なんだから。というかそんじゃそこらの迷子よりも迷子だぞ。現在地どころか行くところも帰るところもわからねぇんだから。
「おいおい迷子って、見たところ大人じゃねぇか。それにかなり高い隠密で隠れてただろ?いかにも怪しいが、こんなところで何やってるんだ?」
そりゃあ疑いますよね。俺だったらこんなやつ絶対に信用しません。でもちゃんと理由があるんです。
「実は少し遠くの山でおじいちゃんと二人で暮らしていたんです。ただ、そのおじいちゃんが亡くなって一人になってしまったので、おじいちゃんからの遺言でもあった人里で暮らせ、というのを実行しようと思いまして。一念発起して山から出てきたところだったんですが、山以外の地理に疎いもので、どっちに行っていいのかと2日ほど歩いていたんです。いよいよどこなのかもわからないまま、今この状況になってしまいました。だから、迷子です。まごうことなき迷子です。あ、隠密は山暮らしでしたからね。相手から逃げたり獲物取るために鍛えてました。」
ふふふ、流石に異世界から来たなんて馬鹿正直に言うのは何があるかわからないからな。別の理由を作っておいた。
昨日から考えていたからかスラスラ言う事ができた。それに【隠密】の理由も今考えて適当に言ったが、まぁ大丈夫だろう。これで相手も信じてくれるはずだ。
サムエルさんはいよいよ険しい目でこちらを見ている。絶対信じてない。
いや、信じてくださいよ!本当なことは何一つないけどどうか信じてください!
こちらの必死な願いが通じたのかサムエルさんは少し力を抜いた。
「はぁ、事情を言いたくないみたいだな。」
「いや、ホントなんですって。」
「……ここから歩いて2日のところに山なんかねぇぞ?」
やっちまった。まさかここが平野だらけの土地だとは。何でわざわざ日にちまで行言ったんだ俺!そんなもん必要なかっただろ!
でも、もう突き通すしかない!!
「…山っていうのは人それぞれだと思うんですよね。ちょっとでも盛り上がってるところがあればそれはもう山なわけで。」
「無理があると思わないか?」
「僕は思いません!」
サムエルさんはため息をつきながら、しかし短剣を降ろして警戒を解いた。
「森で変な音がするから調べに来たが、とんでもないもんに出くわした気分だよ。まぁ困ってるんだったらしゃあねぇな。着いて来いよ。近くの街まで案内してやる。」
「ホントですか?!」
「嘘なんかつかねぇよ。どうせ見回りも終えようとしてたとこだし、俺もそこに帰るしな。」
なんだこの人!滅茶苦茶いい人じゃないか!でも、なんで急に警戒を解いたんだ?
「僕のいう事、信じてくれたんですか?」
「信じるわけねぇだろ。でもまぁ、人には言いたくない事情があるんだろ?それに俺をだますつもりならもっと上手く嘘をついてるはずだし、もっと同情できる理由をつくるはずだ。【隠密】も最後の方はブレてたからそこまで手練れとも思えねぇ。だからまぁ、危険じゃないだろうと判断しただけだ。」
サムエルさんはそう言って南の方向に歩き出した。俺もそれについていくことにした。
この人は多分、相当自分の腕に自信があるんだろう。こいつにやられるワケがないと考えているから、怪しい俺でも拾ってくれたんじゃなかろうか。
ステータスでも【暗殺】とか怖いスキルがあるけど、他には何か悪さをしてそうなスキルはない。きっと安心できるはずだ。
そもそも現状でこの人には戦っても勝てないから逆らうわけにもいかないし。
それに、なんだかんだ人に会えて嬉しすぎて、色々警戒はしているがすでにサムエルさんを信頼しきっている自分がいる。心の中で兄貴と呼ぶことにしよう。
「ところでお前さん、名前はなんて言うんだ?」
「あ、僕はハルヤです。兄貴のお名前を伺っても良いですか?」
ヤベっ。心の中の呼称が出てしまった。
「兄貴ってなんだ?お前んところじゃ誰でも兄貴って呼ぶのか?とりあえず街に行くならその呼び方はやめた方がいいぞ。ちなみに俺はサムエルだ。仲間は俺のことサムって呼んでるよ。」
よし、本名を教えてくれた。さっきから危うく知らないはずの名前を呼びそうになってたからな。これで安心だ。
兄貴って言っても特に変な反応はしないどころか、優しく教えてくれるあたり、やっぱりこの人いい人だな。今度からは親分って呼ぼう。
「なるほど。兄貴はやめた方がいいんですね。以後気を付けます。それにしてもサムエル親分ですか。いい名前ですね。」
「親分もやめろ!お前の呼び方は変なのばかりだな!もしかしてホントに山に住んでたのか?!とりあえず街では常識を身に着けることから始めろ!」
おっと、つい親分もでてしまったが、まぁ笑ってるから怒ってなさそうだしいいだろう。とりあえずだいぶ安心してきたので、こちらの世界の人間を知るためにサムエルさんを観察する。
身だしなみはいかにも戦う人って感じの格好だった。【鑑定】してみると随分良い装備をしていることがわかる。
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E.風のバンダナ++
敏捷+50、【風魔法】習熟度補正
E.毒のナイフ++
攻撃+120、攻撃時一定確率で相手を毒状態にする。
E.経験の腕輪++
獲得経験値上昇
E.大盗賊の服(上)+
防御+60、敏捷+80、【罠術、マッピング、暗殺、観察】習熟度補正
E.大盗賊の服(下)
防御+30、敏捷+80、【隠密、忍び足、加速、気配察知】習熟度補正
E.兎革のブーツ+++
敏捷+100、【加速、跳躍】習熟度補正
E.アイテムバック
直径2メートル以内の物に限り、100個までアイテムを入れられる。
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思ったよりもいい物つけてるな!これがこっちの普通なのか?
それともサムエルさんがかなり強いのか?
うーん。見た感じ強そうなんだけどなぁ。ステータスも【Aランク冒険者】だったし。上の方ってことだよね?Aから始まるとかじゃないよね?
これがこっちの世界では弱い方とかだったら、俺の【チートパック】って案外強くない可能性もあるからな。ちょっと不安になってきた。
俺がマジマジと観察していると、サムエルさんが怪訝な顔をしながら目の前を凝視している。
あれってもしかしてステータスボードを見てるのか?だとしたら、他人のステータスボードは見れないという事か。
そんなことを考えていると、サムエルさんは俺の方を向き、重たそうに口を開いた。
「なぁ…何やってるんだ?」
【鑑定】に夢中になっていたのでドキッとした。もしかしてじっくり見ていたのが気に障ったのだろうか。
「え、い、いや、何もしてないですよ?」
「何だ?気が付いてねぇのか?お前の目、すげー光ってたぞ?なにか魔法でもかけられてんのかと思ったけどステータスに変化はねぇし。」
……は?目が光ってる?!
え、もしかして、【鑑定】って目が光るの?
俺はサムエルさんに一つ聞いてみた。
「もしかして今、僕の目って光ってます?」
そう言いながら俺はサムエルさんをもう一度鑑定した。
すると、サムエルさんは言った。
「スゲー光ってるぞ。」
【鑑定】も割とポンコツスキルだな!
そろそろ神を呪ってもいいんじゃないだろうか?
いつか教会か寺か神社か神殿かモスクかわからんが燃やしてやる。
さて、【鑑定】を使うと目が光るという驚愕の事実に神への呪いを唱えながら、俺はどう言ったものかと考える。
頭をフル回転させたが、良い言い訳はなにも出てこない。
こういう時の対処法を俺は良く知っている。
開き直って正直に言うことだ。
「……実は物の情報を読み取る【鑑定】ってスキルがあるんです。それを使って、サムエルさんを見てました。まさか光るなんて知りませんでしたので、バレないと思って使ってしまいました。不快でしたよね。すみません…。」
すると、サムエルさんは声を低くしてさらに質問してきた。
「それは本当か?…ちなみに俺のことはどこまで見えるんだ?」
うわー完全に怒ってるじゃん。目が戦うモードになってるよ。ヤバい、俺の異世界旅はここで終了フラグが立っている。
いやー神様。異世界は救えなさそうです。次送る奴には「鑑定は目が光る」って教えた方が良いっすよ。
とりあえず俺はもう開き直ってサムエルさんに全てを伝えた。
「えーと、多分ステータスボードで見えてるものが全部見えてると思います。名前とか職業、能力とかスキルとか。後は装備品とか持ち物の能力とか。」
そういって、俺は証明としてサムエルさんのステータスに書いてあったことは伝えた。
するとサムエルさんは目を見開いた。
「スゲー…スゲー能力じゃねぇか!もしかしてモンスターとかの情報も見れるのか?!」
あれ?意外と好印象?
「え、えぇ。モンスターの能力も見れますけど…。」
「本当か?!お前、とんでもないスキル持ってるんだな!だとしたらこれは良いぞ…!なぁ、ここで助けたよしみだ!もし街に行った後に予定がないんだったら、……あぁ、1回だけって必ず約束するから俺と仲間の手伝いをしてくれねぇか?」
は?【鑑定】を何かに使うのか?正直、あんまり利用されるのは好きじゃないんだけど…まぁサムエルさんの頼みだし、1回だけって約束してくれてるから聞いてもいいかもな。
「まぁ、悪いことじゃないのであれば1回ぐらい良いですけど…。」
「本当か?!よし、これを聞いたらあいつらも喜ぶぞ~!!そうと決まればさっさと街に戻ろうぜ!あ、ただその鑑定はあんまり街中で使わない方がいいぞ。目が光って怪しいからな。ましてやステータスが分かるなんてスキルは貴重だ。嫉妬されたり、貴族や商人にいいように使われるかもしれねぇ。」
サムエルさんは俺に注意しながら、本当に早足で歩きだした。
つられて俺も歩き出す。とりあえず【鑑定】で見たことを怒られなくて良かった。人生終了まで考えたからな。ホッとしたわ。
ていうか貴族とかいるのか。ちょっと関わりたくないな。注意しよう。
急ぐサムエルさんと早足で街に戻りながら色々な話をした。【鑑定】で装備品のことをほめると、驚いたことにサムエルさん自身は装備品の能力をそこまで詳細には知らなかったらしい。
「これそんなに良い装備だったのか!ダニエルんとこで買っといて良かったわー!レベルの上りも良い気がしてたけど、滅茶苦茶使えるじゃねぇか!」
こっちとしては装備品の能力を知らないことに驚いた。
何でもこの世界では【名称識別】のスキルを持った人が物の名前を教えてくれるらしい。それと鍛冶師は自分で作ったものの能力を何となくわかるらしく、能力の紹介は鍛冶師からの情報のみになると言う。
あるいは商人の【目利き】というスキルで物の良し悪しがわかるらしい。値段はその【目利き】でつけられていく。
つまり、それらを持っていない人は装備の詳細はそこまでわからないのだ。だから詐欺が横行しているという。装備品を買う時は信用できる鍛冶師や商人から直接買わないといけないらしい。
割とハードだな。異世界。
【鑑定】をポンコツスキルとか言ってすみませんでした。素晴らしい能力です。神様ありがとうございます。燃やすとか言ったのは一時の勘違いです。人間の過ちをお赦し下さい。
鑑定をきっかけに、サムエルさんは俺を危険人物扱いしなくなったように感じる。
それもそうか。目が光る鑑定を何の躊躇もなく使うやつだ。アホとしか思えないよな。そんなやつが何か企んでるとは思えなくなったのだろう。
すっかり打ち解けたサムエルさんと道中で話していると、興味深い情報も出てきた。
そもそもサムエルさんは、昨日街道を通っている際に森で大きな音がしたのが気になったのでその様子を見に来たらしい。
昨日の朝っていうと、ちょうど俺が異世界に来たぐらいだろうか?
特に何かした覚えはないが俺はそんな音を聞いていないから、もしかしたら俺が来た時に激しい音でも鳴ったんだろうか?
あ、あれか?あの竜巻か?だとしたら俺のせいだわ。ごめんなさい。
とりあえず数時間森を散策したが、特に異変はなかったので帰ろうとしているところで、俺に出くわしたらしい。
近づいたらなぜか頭を抱えているから、最初は悪魔か何かかと警戒したらしい。悪魔いるのかなこの世界。
ただ、話してみた感じ危害は加えそうにないし、ただのアホだと分かったと言われた。割と失礼な人だな。否定できねぇけど。
サムエルさん自身のことを聞くと、サムエルさんはギルドのAランク冒険者で、冒険者ギルドでもトップランカーだということだ。
つまりサムエルさんはかなりすごい人だという。
とりあえずサムエルさんが使いっ走りじゃなくて良かった。あの能力で下の方とか言われたら結構へこんでたからな。
そして何よりもギルドだギルド。まさに異世界の定番だ。
やっぱり異世界に行ったら冒険者になるのは定番だよね。そんで目指すはSランク冒険者だ!
いきなり絡まれるテンプレもあるのかなーとかワクワクしながら話を聞いていると、サムエルさんはこれから向かう街の情報を教えてくれた。
「これから向かうのはクフの街だな。人口5万人くらいのかなり大きい街だ。お前さんがもし【鑑定】を使うんだったら働き先なんて腐るほどあるだろ。ただまぁ、利用される可能性は高いから気をつけろよ。仮にお前さんがそこで冒険者やるってんだったら俺が口きいてやるよ。結構顔が効くからよ。」
「ホントですか親分?!」
「だから親分はやめろって。お前の育ったところはホントに変な言葉遣いだな。街でバカにされても知らねぇぞ?」
とか言いながら、サムエルさんは笑っていることから何だかんだ親分を気に入っているんじゃなかろうか。何にせよ、やっぱりいい人だな。
しばらく歩いていると前方にモンスターの気配があった。距離にして1キロほどあるだろうか。
そこからしばらく歩くと、サムエルさんもどうやら気が付いたようだ。
「…あれは多分フォレストウルフだな。」
「フォレストウルフ?初めて聞きました。」
「なんだ?山に住んでたのにフォレストウルフ見たことないのか。随分のんびりした山だったんだな。」
もう嘘と気づいているだろうに、完全に俺をいじってきている。
「そうなんですか?うちには出ませんでしたねー。山であって森じゃないんで。」
「随分平和な設定の山だな。俺も住みたいぐらいだわ。まぁ、雑魚だからちょっくら倒してくるかね。お前さんはここで待ってろ。」
フォレストウルフかぁ。倒して経験値欲しかったなー!
と思ってるとサムエルさんは思案顔で何か考え事をしている。
「…なぁ、さっきの【鑑定】なんだがよ。疑ってるわけじゃないんだが、ちょっとあのフォレストウルフにも使ってみてくれねぇか?ちゃんと金も払うからよ。」
あぁ、なるほど【鑑定】の能力を知りたかったのね。
「助けてもらってるんで、これぐらいは別にタダでいいですよ。」
わざわざ金を払うなんて誠実な人だと思うが、かえってそれが金をもらうのを申し訳なく思わせるので、タダで了承した。実際こっちもタダで助けてもらってるからな。
俺はすぐ200メートルぐらい先にいるフォレストウルフを鑑定する。
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パークウルフ
森に生息する狼。穏やかな性格をしているが、近づいたり攻撃したりすると狂暴性が途端に増し、鋭い爪と牙で攻撃してくる。肉を好んで食べるが、木の実も食べる。
ペットにするには難しい。食べられるが、あまり美味しくはない。
体力:53
魔力:10
筋力:31
防御:15
俊敏:45
知力:10
【共有スキル】風魔法Lv.1
加速Lv.2、嗅覚補正Lv.3
―――――――――――――――――
「あれ?フォレストウルフじゃないですね?」
思わず声が出た。サムエルさん見間違えてやがる。さっきアホと言われた仕返しにアホと言ってやろうかとニヤニヤしていると、サムエルさんが謝りだした。
「すまねぇ!【鑑定】のスキルを見たことがなかったから、ついモンスターにも本当に使えるのか試しちまった!」
サムエルさんは本当に申し訳なさそうに謝ってきた。
「パークウルフはフォレストウルフに見た目は似てるんだが、近づかねぇと中々判別し辛いんだ。これも見ただけで分かんのかなって、つい魔がさして試しちまった。本当にすまねぇ。」
まぁ確かによくわからないスキルなら試すのは悪いことじゃないだろう。それに俺の初めての異世界での知り合いだ。サムエルさんに悪い感情を抱くことはなかった。
「いいですよこれぐらい。それで、この情報は合ってますかね?」
「あぁ、恐らく合ってるだろう。今まで戦ってきたパークウルフは大体こんなもんだった。にしてもここからでも鑑定できるのか。それに情報も正確だし。やっぱりスゲースキルだな!」
サムエルさんは大はしゃぎだ。
ただ、一つ気がかりなのは、今のサムエルさんの大声でパークウルフが完全にこちらに気が付いてにらみつけてるということだ。
「あー完全に向こうさんも気が付いてるみたいだな。パークウルフならちょっと離れりゃやり過ごせたんだが、まぁいいか。どうせ雑魚だしちょっくら行ってくるかな。」
そう言って動き出したサムエルさんはあっという間にパークウルフの目の前までいき、短剣で喉を切り裂いた。
その一撃でパークウルフは息を引き取った。お見事。
あまりにも鮮やかな流れに、俺は思わず拍手していた。
「よせやい。照れるじゃねぇか。」
まんざらでもない顔で笑うサムエルさんだった。
やっぱり「親分」ってのが似合うんだよなこの人。




