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どうやって?

お待たせいたしました。第4章の始まりです。

思いがけないエリーの独白に、少しだけ二人の距離の接近を感じつつも、俺たちは今まで通り勇者と預言者として街に近づいていく。


エリーの過去を聞いていると、やはりこの世界は俺の知る社会とは別物であることを改めて感じる。


前の世界であればそもそも領主なんてものは存在しない。独裁政治は一応許されていないし、権力者の横暴なども許されないことである。エリーの父親がかばったと言っても状況的にはほとんど人を殺したと言って良い状況を作り出しておきながら、命の恩人にさらに罰金なんてことは、少なくとも前の世界ではあり得ないことだろう。

それにネットの広まった社会だったからな。横暴なことをすれば炎上は免れないし、社会的名誉の損失が大きければ権力の座から引きずり降ろされる可能性は高かっただろう。


そもそも血筋による座の相続なってものはなかったし。あってもシンボルになる程度であって、あれは領主とは違うだろう。


考えれば考えるほど胸糞悪い思いをするが、それでもエリーは力強く生きている。辛い過去があろうが「ふふふ」って笑えるんだ。今はこれ以上過去に突っ込むところではないだろう。



そんな考え事をしながら街に近づいていくと大きさにも改めて驚かされるが、それ以上に激闘の跡に驚かされる。

街の周辺はかなり荒らされているし、至る所に血痕が残り戦いの激しさを証明している。


もしかしたらまだ戦いの最中かもしれない。街を乗っ取られている可能性もある。

先の戦いで「同調」という存在を知ってしまったために空が晴れているという事では安心できない。


俺たちは戦闘の覚悟を持ちつつ街に近づいていく。



特にモンスターの襲撃などには会わずに門の前に来ることが出来た。

門の前まで来ると門番が10人ほど待機していることが分かった。モンスターとの戦いで警戒レベルが上がったのだろうか。流石に常時この人数という事はないだろう。


だが良い方向に考えればこれは街の防衛機能が生きているという事でもある。

少し安心しつつ俺たちは門番に話しかける。勇者の格好は目立つからサムエルさんからもらった冒険者の格好をしているので特に怪しまれることはないだろう。


「すみません。冒険者なのですがこの街には入れますか?」


「ん?この街までやってきたのか?モンスターに襲われなかったか?いずれにせよこの街は連日の魔人とかいう訳の分からない奴らとの戦いで疲弊していてな。街の中もかなり荒らされてはいるが入ることは可能だ。」


どうやら問題なく入れるようなので俺たちはギルドカードを見せて中に入れてもらう。

その際にここでの戦いについて聞いておく。


「そんなに激戦だったんですか?」


「あぁ。最初は魔人と名乗る牛みたいなやつと馬みたいなやつらがモンスターと共に襲って来てな。そいつらを何とか撃退して一息ついていたところに今度は大魔神と名乗る奴が襲って来てな・・・。ご覧の有様さ。」


門番は当たりを見ながら悲し気に呟いた。

ここに来る道中にはモンスターの死骸や人の死体も転がっていた。もしかしたら知り合いもその中にいたのかもしれない。そう伝えるような顔をしていた。


「魔人や大魔神は撃退できたのですか?」


「あぁ。この街には王がいるからな。防衛力はその辺の街とは桁違いなのさ。ただそれでも最後の大魔神という奴は強力でな・・・この国の五英傑の内二人が死んだよ。」


「五英傑・・・?」


「ん?なんだ五英傑を知らないのか?随分田舎から来たんだな。」


そんな有名人だったのか。田舎者丸出しで恥ずかしい。まぁ田舎というより別世界出身なんだが。


「無知なもんですみません。それで五英傑の方々が大魔神を倒したのですか?」


「あぁ、そうだ。五英傑の一人、英知と呼ばれる大魔法使いミュラン様が大魔法で大魔神を倒したのさ。ただその魔法を撃つための時間を稼ぐために豪傑のシルファ様が犠牲となり、大魔法の代償としてミュラン様もお亡くなりになられたのだ・・・。」


なるほど。やはり大魔神はそう簡単に倒せるレベルではないということだな。この世界で一番大きいレンダルフィア帝国の首都オンドモンドの防衛力を持ってすら耐えきるのが厳しいということは、何もなしじゃやはり厳しいという事だ。

サムエルさんたちも俺の魔道具でドーピングして何とか切り抜けられたというレベルだし。これは一刻も早く魔道具を配らなければならない。



俺がもう少し早く来れていたらということも考えてしまうが・・・。いや、そういうことは考えないようにするって決めたじゃないか。落ち込むな。前を向いて行こう。


「そうだったんですね・・・。ありがとうございます。」


お礼を言って俺たちは街の中に入っていく。



オンドモンドの街は首都という名にふさわしい街だった。大きい建物が至る所に建っているし人もとにかく多い。連日の激闘の跡だからか疲弊した顔をしている人が多いがそれでも街は賑やかである。

クフの街ほど整然とした感じはなく雑多な感じなのだが、それでもなぜかどこもかしこも格式があるように見える。


これがこの世界で最も大きい街か。前の世界にはもっと大きかったり人も多い場所もあったけど、それらとは違う凄みを感じさせられつい圧倒されてしまったのかいつの間にか口を開けて呆然とあたりを見回していた。


そんな俺をエリーは何が面白いのか笑いながら見ている。


「・・・何見てんだよ。」


「ふふふ。ハルヤさんが口を開けて周りを見ていたのを他の人が楽しそうに見ていたもので。つられてしまいました。」


「え?周りの人も見てたの?!」


「ふふふ。大丈夫ですよ。私は少し遠くを歩いて無関係だという事をアピールしておきましたから。」


「何一人だけ避難してるんだよ!離れる前に止めろよ!」


「ふふふ。冗談ですよ。この街はハルヤさんのような方には見慣れているので本当に大丈夫ですよ。」


クソ。コイツは数年この街に住んでいたからな。自分のホームという感覚で何も知らない俺を小馬鹿にする気満々だ。コイツのペースに乗せられちゃだめだ。


「さて、そんじゃ皇帝のところに行きますかね。皇帝はどこにいるんだ?」


「皇帝はあのお城にいますよ。」


エリーが指さす方向には小さく城のてっぺんが見える。ここからちょっと距離がありそうだが問題ないだろう。あまり馬鹿にされる前にさっさと向かおう。


「そんじゃ、さっさと城に行くか。」


「行っても良いですが行ってどうするんですか?」


エリーはなぜか目的を聞いてくる。そんなもん答えは一つだろうに。なんでそんなこと聞いてくるんだ?


「え?行ってどうするって・・・そりゃ皇帝に会いに行くに決まってんだろ。」


「どうやって?」


「え?どうやって?」


「ふふふ。いきなり来た冒険者に皇帝がお会いするわけがないじゃないですか。」


「いや、でも俺はほら、勇者なわけだし。」


「ふふふ。ハルヤさんを勇者だと証明する物は何かあるんですか?」


証明する物?勇者を証明する物って・・・何だ?

今までは戦闘中のところに乗り込んで魔人たちを倒してたからその力が勇者の証明になってきたが・・・


「うーん。聖装じゃダメかな?最悪空に向けて魔法でもぶっ放せば力は証明できるし。」


「ふふふ。着飾ることは誰にでも出来ますし、魔法を使えば最悪敵襲と見なされて逮捕される可能性もありますよ?」


「グっ!というかギルド経由で話が来てるんじゃないか?ギルドカードを見せれば行けるんじゃ?」


「残念ながらハルヤさんが勇者だと証明する物がギルドカードだけだと時間がかかるかと。皇帝も暇じゃないですからね。会う人はかなり厳しい審査が必要です。その審査にかなり時間がとられて会うのにはかなりの時間がかかると思いますよ?」


ああ言えばこういう。いや、この場合は俺の甘い考えが全て指摘されると言った方がいいか。

だがこれ以上は何も思い浮かばん。というか詰んでるじゃねぇか。


「じゃあ待つしかないのか?!」


「ふふふ。私は多少この街に顔が効きますから大丈夫ですよ。」


「へ?」


「この街の大司教に長いことお世話になっていましたからその方経由で行けば可能性はあるかと。彼を通せば緊急事態として皇帝への迅速な謁見は可能だと思います。」


「・・・なぁエリー。」


「どうしました?」


「なんで俺に案を出し尽くさせてからそれを言った?」


「ふふふ。ハルヤさんが必死に、そして無駄に知恵を絞る姿が面白くてつい。」


コイツやっぱり俺を小馬鹿にする気満々だったな。いつか絶対に仕返ししてやる。

具体的には何も思い浮かばんがこれから必死に知恵を絞ってやるよ。今度は無駄にはしないぞ!


「なのでハルヤさん、私たちが向かうのはお城ではなくここから北東に進んだ先にある大聖堂です。そちらで大司教にお会いしましょう。」


「・・・分かった。」


「あら?随分警戒していますね?もしかして魔人が近づいてきましたか?」


「・・・俺の目の前に大魔神より厄介な人間がいる。」


「なるほど。人間ですか。争いは近ければ近い方が起きやすいとはこのことですね。ですがその目の前の人間はハルヤさんのプライド以外は傷つけないので放置して良いと思いますよ?」


「それが一番傷つけられたくないから厄介なんだよ!」


後で大司教に会ったらコイツを叱ってもらおう。アンタの教育が悪すぎると言って文句の一つ言ってもいいかもな。あ、でもそれで皇帝に会えなくなったら困るから全部が終わってから告げ口してやる。覚悟しとけよ。



現状エリーが魔王を差し置いて宿敵ランキングトップに躍り出たところで、エリーの案内に従い大聖堂まで行くことになった。

やはり広い街だけあってちょっと時間はかかったが無事にたどり着いた。


流石は首都の大聖堂だな。大きさが半端ない。

よくもまぁ機械もない世界でこんな大きな建物を作るよな。もしかして魔法で何とかなるものなんだろうか?


そんなことを考えながら見上げているとまた「ふふふ。」という声が聞こえてきた。

恥ずかしくなったので俺はさっさと口を閉じて大聖堂の入り口に向かう。


ドアを開けると一人の修道女がいた。普通に受付に座っている。

この世界に来てから教会に何度か足を運んでいるが、やはり前の世界では全く縁のなかった場所だから未だに慣れない。ちょっと緊張する。だがエリーは勝手知ったる仲なのだろうか普通に話しかけている。


「アンヌさん。お久しぶりです、リーザスの街のエリーです。」


「あら?エリーさん?随分前に街を旅立って以来ですね。・・・今日はどうされましたか?」


「えぇ。大司教様に用事があって来たのですが、どちらにおられますか?」


「大司教様?今年は50年に一度の大聖教年ですから半年前に教皇領に行かれましたよ?ご存じありませんでしたか?」


大聖教年?なんだそれ?初めて聞いた言葉だ。

俺が知らない言葉だったがエリーは知っていたのだろう。とても驚いている。


「え?!そうですか。今年が聖教年でしたか・・・それは困りましたね・・・。」


「もしよろしければ今リーフ司教様がおられますから司教様のところに行かれてはいかがですか?」


「リーフ司教様がおられるのですか?ご退任されたはずでは?」


「大聖教年で大司教様がご不在ですからね。その代わりに一年限定で復帰されたのです。」


「であれば司教様にお伺いしてよろしいでしょうか?」


「えぁ。分かりました。では今お繋ぎいたしますね。」


そう言ってアンヌと呼ばれていた修道女は奥に行った。多分司教のところに行ったのだろう。


「ハルヤさん申し訳ありません。今年は大聖教年だったことをすっかり忘れていました。大司教はご不在なようです。」


「なぁ。その大聖教年ってのは何なんだ?」


「大聖教年というのは50年に一度、全ての大司教以上の方が教皇領に集合し神への祈りを一年を通して捧げるんです。それと同時に自分たちの教義を再確認、あるいは修正するための会議も開かれる重要な一年なんです。」


なるほど。前の世界でいう公会議みたいなもんかな?


「でもリーフ司教様がおられて良かったです。大司教様よりも皇帝に顔が効きますし、私も昔随分良くしていただいたので。」


「そうだったのか。なるほど。エリーが昔世話になったのか。」


ならばエリーの教育を担当したという事か?よし、あとで文句言ってやろう。


「ふふふ。とても私を溺愛して下さった方なので、あまり私の悪口は言わないでくださいね。面倒なことになるので。」


・・・前言撤回だ。ここはグッとこらえてエリーを褒めておこう。面倒事は回避だ回避。それが大人の生き方だ。



「エリーさん。リーフ司教がお会いになるそうですので奥の部屋にどうぞ。」


「ありがとうございます。」


アンヌさんが戻って来て俺たちを案内してくれた。


大聖堂の中は石造りで重厚な雰囲気を持っている。

至る所にある絵画は光がモチーフにされていてその光が何らかの救済を表しているという事はよく分かる。ただ前の世界のように人の形をしていたりとかはない。

そう言えばこっちの宗教について何も知らないことに気が付いた。時間がある時にでもエリーに聞いてみようかな。


興味深くあたりを見回しつつ、俺たちはアンヌさんの案内のままに奥の部屋の前まで来た。

アンヌさんがノックをしたが中から返事が返ってくることはなかった。

しばらく待っても出てこない。何やってるんだ?


と思っていると勢いよくドアが開いた。中から杖をついた老人が出てきてそのままエリーに抱き着いた。


「おぉ!!エリーよ!よく帰ってきおった!随分大人になったのぉ!!」


「し、司教様。ただいま帰りました。ただ抱き着くのはやめて下さい。もう子どもじゃないので。」


「いやなに。エリーは血は繋がっていないがワシにとっていつまでも大事な子どもじゃよ。抱き着く権利がある。むしろこれは親の義務である。愛情表現の一つであり教育でもあるのじゃ・・・ん?お主は?」


老人は色々な言葉をまくしたてながらエリーを抱きしめつつこちらの存在に気が付いた。

ちょっと司教のイメージとは違うがそれでも司教だしな。偉い人のはずだからちゃんと挨拶しとこう。


「俺は勇者ハルヤです。エリーにはいつもお世話になってます。」


俺の挨拶に目を見開きつつ、老人はエリーをそっと室内に招き、ドアを閉めながら俺に言い放った。


「帰れ。ワシの可愛いエリーはやらん。」



そして扉は閉じられた。

沈黙の中で俺とアンヌさんだけが呆然としたまま扉の前に立っている。



「ねぇアンヌさん。」


「ど、どうしましたか?」


「あれが司教で間違いないですか?」


「え、えぇ。エリーを特別可愛いがっていましたので久しぶりに会えてちょっとおかしくなっていましたが・・・。普段はとても穏やかな素晴らしい方なのですよ?」


「・・・あれぶん殴ったら流石に不味いですか?」


「さ、流石に勇者様でもそれは看破できません。どうか穏やかにお願いします。」



はぁ。確かにこれじゃエリーの悪口言ったら面倒なことになるな・・・。

いや既に十分面倒になってるか。

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