踏み込んで
「お父さんが命の恩人・・・?」
それでなぜエリーとお母さんが街から嫌われ者になっていくのか。全く意味が分からない。
エリーは淡々とした口調で話を続けた。
「私の父はとても強く優しい人で冒険者をしていました。街の人からもその強さを信頼されていて色んな仕事を頼まれていたんです。」
エリーのお父さんって冒険者だったのか・・・。街の人からも信頼されていたということは、サムエルさんみたいな存在だったんだろうか。
「今から13年前になりますかね。今よりも若かった領主は今以上に傍若無人で、ある時狩りをしたいと気まぐれに言い出して道案内のために冒険者を募ったのです。」
今より傍若無人って・・・さっきのはアレでも落ち着いたほうだったのか?
「道案内というのはそのほとんどは若手が担当するものですが、領主の手伝いは馬車馬のように働かされるわりに手当もほとんどでませんでしたから誰も手を挙げませんでした。その結果人の良かった父が駆り出されることになったのです。」
・・・最悪な仕事だな。そんなの誰も引き受けなくて当然だ。エリーのお父さんは断り辛かったんだろうな。最後の砦みたいになってたんだろう。
「領主の付き人が少数と父だけという戦闘能力に欠けたメンバーではありましたが、父はとても強い人でしたから街の人たちも大丈夫だろうと高を括っていたのです。その結果悲劇が起きてしまいました・・・。」
エリーは淡々と。だが段々と声が小さくなってきた。話したくはないことなのだろう。でも、話してくれてるんだ。止めちゃいけない。
「ウッドベアーというそこそこの脅威のモンスターが突如として現れたのです。普段であれば対処できるはずのモンスターでしたが、領主もその付き人たちも突然のモンスターにパニックになり慌てふためいてしまったのです・・・。」
普段からモンスターに見慣れてない人からしたら熊一匹でもパニックになるわな。だから普通は対処できる人で固めて行動するはずなのに・・・少数でいった領主の落ち度は明らかだな。
「その結果父一人で全員を守りながら戦わなければならなくなって・・・。それでも善戦していたのですが、領主がしびれを切らして全員を置いて一人で逃げようと飛び出してしまいまして。・・・ウッドベアーは弱そうな領主が一人はぐれたのを好機と見て領主に狙いを定めてしまったのです。」
一人だけ逃げようって・・・そっちの方がかえって危ないだろ。あまりにも馬鹿な行動だ。だがあの領主ならやりかねない。
「虚を突かれた父は領主に迫るウッドベアーに対して身を挺して守るしかなく・・・。その結果領主の命を守れたのですが父は大けがを負ってしまいました。それでも深手を負いながら何とかウッドベアーを追い払ったのですが・・・父はその時の怪我が原因でその場で亡くなってしまったのです・・・。」
あの領主をかばって亡くなって。本当にやりきれないな。
「・・・そうだったのか。・・・辛かったな。」
「・・・本当に辛かったのはその後でした・・。」
父を亡くす以上に辛いこと?
「父はあの領主をかばって亡くなったのですが、領主から私たち母娘に対しては何も補填がないどころか危険にさらされたと言って領主から罵声を浴びせられさらに罰金まで課されたのです。」
「はあ?!」
何だよそれ!自分を守ってくれた人の家族に罵声を浴びせて罰金までって・・・狂ってるだろ。
「それに・・・街の人たちは領主のことが大嫌いでしたから、命を懸けて守った父に対して「なぜあの時見殺しにしなかったのか」「せっかくのチャンスだったのに」と言って父の死を無駄死にどころか迷惑とまで・・・。」
「な、何だよそれ!酷すぎるじゃないか!」
人間って・・・ここまで酷くなれるんだな。
「・・・その結果私たち母娘はあの街での居場所を失いました。幸いなことに私に【預言】のスキルが与えられたおかげで帝国の首都に引き取られたためあの街から逃れることは出来ましたけどね。」
「・・・辛かったな。」
「・・・えぇ。とても辛かったです。」
過去を思い出しているのか、その時の辛さがよみがえっているのかは分からないが、場に沈黙が流れた。俺も返す言葉が見つからない。想像以上に辛い話で何と言っていいか分からない。
数分の沈黙の後、口を開いたのはエリーだった。
「・・・ねぇハルヤさん。」
「なんだ?」
「父は・・・無駄死にだったのでしょうか?」
今までずっと葛藤していたのだろう。父の死は何だったのかと。エリーは涙を流しながら俺に問いかける。
俺は・・・正直答えが分からない。あの領主を見ていたら確かにその時に殺してしまえば良かったのにと思う気持ちもない分けじゃない。そういう意味では無駄死にと言った街の人の気持ちは分からないわけじゃない。
でもやっぱり街の人たちの対応も許せない。
エリーのお父さんが無駄死にかどうかなんて分からない。だがそもそも、そんなこと考えるべきことじゃないんだろう。
「俺たちには命の価値も死の価値も測れないし、測ろうとすること自体間違ってる。」
「・・・そうですね。」
「あぁ。ただこれだけは分かる。お前のお父さんは本当に心優しい人だったんだ。」
「・・・そうでしょうか。」
「そうに決まってる。俺はな、さっきちょっと会っただけの領主に対して、こんな奴守るべき存在じゃないって思ったよ。もしあいつが窮地に陥っても俺は絶対に助けない。どんなに懇願されても今の俺だったら見放すだろう。」
「・・・そうですか。」
「でもエリーのお父さんは違ったんだ。助ける価値があるかどうかなんて考えない。ただただ、誰かを守るっている倫理に基づいて領主を助けたんだ。」
「・・・。」
「それは簡単なことじゃない。俺たちは結局助けることの価値を考える。助けることが良いかどうかをどっかで考える。勝手に、相手の命の価値を考える。でもエリーのお父さんはそんなことしなかった。むしろ自分に悪いことをする奴でも助けたんだ。そんなの、本当に優しくないと出来ないことだろ。」
「・・・そうですかね。」
「そうなんだよ。困ってるから助ける。危ないから助ける。そこに理由や意味を見出さずに行うことは難しいことだ。でもそれをエリーのお父さんは実際に果たしたんだ。優しい人じゃないはずがないだろう。」
「・・・それでも、無駄死にと呼ばれてしまいました。」
「だから価値を考えるべきじゃないんだ。エリーのお父さんはそんな価値なんて考えずに行動したんだ。そこにある純粋な優しさをエリーが受け入れないでどうするんだ。」
「・・・私は・・・受け入れられていなかったんですね。」
「責めることじゃないだろ。辛く苦しいことを受け入れるのも簡単じゃない。受け入れるのにも時間がかかる。でもやっぱりエリーのお父さんの行動をエリー自身にも受け入れて欲しいって俺は思うぞ。」
エリーのお父さんの死は無駄死になんかじゃない。むしろ価値なんて測れない。受け入れるべきは、ただただ純粋な優しさを持っていたということだけだ。じゃないと・・・辛すぎるからな。
答えのない問題を解き続けるのはあまりにも辛い。だからそこから解放されて欲しいと願ってしまう。
「それにエリーが言ったんだろ?死んでも大丈夫だって。」
「それは・・・。」
「死んでも大丈夫なんだ。エリーのお父さんも天国でお母さんと再開してきっと仲良く暮らしてる。それなのに生きている俺たちが死がああだこうだと考えてもしょうがないだろ。」
「・・・。」
「エリーのお父さんは優しい人だった。それも果てしなく優しい人だった。それでいいじゃないか。」
そこまでしか今の俺たちには考えられない。それ以上考えても答えは出ない。
だからそのままにしておくことも時には大切だと思うんだ。
「・・・父はよく私をおんぶしてくれていたんです。その背中に守られている気がしていつも安心した気持ちを頂いていました。優しくおぶってくれる温かさが本当に好きだったんです。」
「そうだったのか。」
「だから私は今ハルヤさんの背中に乗せてもらうことがとても好きなんです。あの時と同じように背中に守られている気がして。温かい気持ちになるんです。」
なるほど。だからフォエフォ島を出る時も乗りたがったのか。俺と父親を重ねてたのかな。
「ふふふ。恥ずかしかったもので誤魔化しながら伝えましたけどね。・・・ハルヤさん、ありがとうございます。」
「気にすんなよ。背中に乗せるぐらいなんも辛いことじゃないしな。」
「いえ・・・そのことではなく父を優しい人と言ってくれて。」
「それは思ったことを言っただけだ。」
俺は本当に思ったことを言っただけだ。エリーのお父さんは優しい人だ。悪い奴のためにも命を懸けられる。それは本当に凄いことだ。
「それでも嬉しかったんです。みんな父を攻めるばかり。いつの間にか私まで父を攻めそうになっていました。でもやっぱり父のことが好きでしたからそんな感情を持ってしまう自分も嫌になっていたんです。そこにハルヤさんが優しい人って言ってくれて、とっても嬉しかったんです。」
「そうかい・・・そりゃどういたしまして。」
「ふふふ。ハルヤさんも優しい人ですよ。」
「俺は領主を見殺しにする奴だぞ?」
「ふふふ。きっとハルヤさんもその場にいたら同じことをしていますよ。ハルヤさんは父に似ていますから。」
いや、俺はきっと守らない。あんな奴を助けるほど善人にはなれない。まぁ命を懸ける場面もないかもしれないが。
「俺がエリーのお父さんに似ているのか?」
「えぇ。生前母はよく言っていました。お父さんは強くて優しいけど女好きなのが玉に瑕だって。そんなところもそっくりです。」
「・・・なぁ。この話の流れでそういうこと言うかな?」
「ふふふ。私にとっては嬉しいことなので。」
「俺は全然嬉しくない!!」
エリーの気持ちも落ち着いたのか。さっきまで強く背中を握っていた手はいつの間にか緩んでいた。
俺をからかうエリーも帰って来てるしな。もう大丈夫そうだ。
いつものようにやんややんやと言い合いながら空の旅を続けていく。
エリーを背中に乗せることも、コイツが気に入っていると分かったら、いつもより気持ちのいい空旅になった。何だかんだ俺も気に入ってるのかもな。
「ハルヤさん。見えてきましたよ。オンドモンドの街が。」
目の前に広がるのは馬鹿でかい街だった。
クフの街も大きいと思ったがそれ以上だ。どれぐらい大きいのか端を見ることも出来ないから分からないが、相当な大きさだ。
アレがオンドモンドが。あそこに皇帝がいるのか。
悪いことしに行くわけじゃないんだが、やっぱり緊張してくるな。
「ふふふ。背中から緊張が伝わってきますね。あ、そう言えば父は小心者でもあったようです。そういうところも似ていますね。」
「だから嬉しくないって言ってるだろ!」
「ふふふ。そうですね。似ているだけで別物です。だからハルヤさんは・・・いなくならないでくださいね。」
「・・・あぁ。」
・・・言葉に詰まってしまった。俺だっていなくなりたくはない。でも未来がどうなるかはわからない。相手は魔王だ。何があるか分からないからな。
少しずつ魔王に近づきながら、旅の終わりも近づいてきた気がしてきた。
これにて3章は終わりです。ここまでお読みいただきありがとうございます。
評価・ブックマークを入れてくださった方々、本当に励みになりました。ありがとうございます。
またストックが尽きかけてきましたので少しお休みさせていただきます。次回の更新予定日は1月7日(木)です。
物語はあと1章+αで終わる予定ですので最後までお付き合いいただければ幸いです。
それでは皆様、良いお年をお迎えください。




