くたばれ
大魔人テツを倒した俺はエリーを迎えに行くためにリーザスの街に向かって行く。
疲れはあるが回復魔法のおかげで体力はだいぶ回復した。
魔力はほとんど使ってなかったしな。あるのは精神的疲労だけだし問題ないだろう。
【浮遊】を使いさっさとリーザスの街に行く。近くだからすぐに到着した。
外にはいないようなのでエリーは街中に入っていったということだろう。中に行くかな。
俺は門番にギルドカードを見せてエリーについて聞いてみる。
「すみません、ここにエリーという人は来ましたか?」
「あぁ?エリーだぁ?あぁ~ポプラのとこの娘のエリーか?久しぶりに会ったが随分美人になってたぞ。へへ。エリーならさっき街中にいったけどどこに行ったかは分からねぇなぁ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
エリーのお母さんはポプラって言うのかな?お父さんの名前じゃないよな?可愛い名前だし。
しかし随分柄の悪い門番だな。エリーは確かに美人ではあるが・・・それをそんな直球に言うかね?ニヤニヤしてて何か印象も悪いし。サッサと街中に行こう。
街中に入っていくとやはり先ほど受けた印象とそこまで変わらずに寂れた印象を受ける。街の人たちみんな元気がないような状態だ。何があったんだろうか。
ただ門番も特に異常な感じは出してなかったし、魔人が襲ってきたわけではなさそうだが・・・。
俺は街中を歩きながら何人かに声をかけエリーについて聞いてみる。
だが皆知らないようだった。アイツどこに行ったんだよ。こんなことならエリーにも通信の魔道具を持たせておくべきだったな。
諦めずに声をかけ続けると一人からようやく情報が出てきた。
「エリー?エリーなら領主様のところに連れていかれたよ。あのでっかい建物があるだろう?アレが領主様の館だ。」
ようやく見つかってホッとしたが・・・領主の館か。それに連れていかれたってのは何だか不穏な空気があるな。
俺は礼を言ってさっさと領主館に向かう。
街全体が寂れた雰囲気だってのに領主館はやたらと豪勢だ。まるで全てが吸い上げられたかのように、ここだけが際立って豪華である。嫌な感じだな。
俺は領主館の門番に勇者であること。そしてエリーについて聞いてみる。
少し待たされたが中から使いが出てきて俺を中に招き入れてくれた。
屋敷の中も外から見た印象と同じでやはり豪華だった。
高級そうな絵画に壺にシャンデリアみたいな魔道具に。俺からすれば悪趣味に見えてしまう。
それに金色ばかりで目に悪い。どうして金持ちって金色が好きかねぇ。
一番大きな扉が付けられた部屋に案内された。使いがノックし勇者の来訪を告げると、中にいた別の使いが扉を開けてくれる。
部屋の中には後姿しか見えないがエリーがいた。椅子に座っている。
そしてその奥にはガラの悪そうな青色の髪のおじさんが座っていた。明らかにあれが領主だろう。
気配察知には屋根裏に一人と隣の部屋に五人潜んでいるのが分かる。明らかに何か企んでいるのだろう。まぁ実力行使ならどうとでもなる。それこそエリー一人でも大丈夫そうだ。
「おぉ!お前が勇者か!とりあえずそこに座れ。」
お前って言われたのは初めてだな。ここまでナチュラルに見下されるといっそのこと清々しい。
「さて、ここに来たという事は大魔人を無事に討伐したという事だな?」
エリーから話を聞いていたみたいだな。既に大魔人のことは知っていたようだ。
「え?えぇ。大魔人テツという者がいましたが無事に討伐しました。」
「そうかそうか。まぁ勇者であれば当然であるな。」
いや結構苦戦したんだが・・・。勇者なら当然とか言われると腹が立つな。感謝もねぇし。
「して、これから魔人は襲ってくるのか?もう大丈夫なのか?」
「とりあえず大魔人は倒しましたが魔人はいつどこから襲ってくるかは分かりません。なので安全とは言い切れません。」
「何だと?では危険もあるということか?」
「えぇ。ですからそのために私の作った魔道具を各街に配っています。これを使って魔人が襲ってきた際は撃退してください。数人で魔力を込めれば強力な魔法を放てるはずです。」
そう言って俺は渋々アイテムバッグを出す。コイツは嫌いだがこの街だけ差別するわけにもいかないしな。住民に罪はないし。
俺が出したアイテムバッグを使いの者が取りに来る。すぐ近くなんだからテメェで来いよと言ってやりたいが我慢だ。
俺はアイテムバッグを渡しつつ中身を説明する。
「ほう?随分いい魔道具じゃないか。受け取らせてもらおう。」
なんで上から目線なんだよ。腹立つなぁ。
「して勇者よ。実は厄介なことがもう一つあってな。魔人は襲ってこないが、この街はこれまで北西に位置するフォエフォ島というところから資源を調達していたのだ。その物流が途絶えてしまってな。取りに行ってくれないか?」
・・・はぁ?
そんなもん勇者に頼むなよ。テメェでやれよ。それにフォエフォ島からの資源って・・・もしかしてゼロホン国の人身売買の相手ってここなのか?
「・・・フォエフォ島は既に魔人の領域から解放しましたからその内に流通も回復するでしょう。残念ながらそこまでの協力は出来ません。」
「おぉ、既に問題を解決しておったか。であれば放っておけば良いか。それとな・・・実は南西のピルトスという街とこの街は長らく戦争状態にあってな。かの街は悪辣な人身売買を行っている故に成敗が必要だと思い戦っているのだ。勇者も協力してくれるか?」
・・・はぁ?次から次に何だよコイツ。勇者を何だと思ってるんだよ。
何で人の戦争に手を貸さないといけないんだよ。するわけねぇだろ。それに人身売買を行ってるってのはてめぇじゃねぇのか?
「そういったことは出来ません。目的は魔王の討伐で時間もありません。それに私は【不殺】というスキルで人には攻撃できませんので。残念ながらお役には立たないかと。」
我慢。我慢。ここはエリーの生まれ故郷でもあるんだ。流石に暴れまわるわけにはいかない。
エリーも心配そうな顔をしているように見えるが安心しろ。そんなに簡単にはキレないよ。
「【不殺】だぁ?勇者というのも案外使えないのだな。」
コイツは多分潜ませている奴らがいるから気が大きくなっているのだろう。随分と勇者も舐められたものだな。
俺は自分に我慢我慢と言い聞かせながら、そろそろ我慢する意味があるのかと考え始めた。
「まぁいい。アイテムを作る才能はあるようだしな。先ほどのアイテムだが他の街に配る用もあるのだろう?持っているアイテムを全て出せ。」
はぁ・・・?
「ん?聞こえぬのか?全て出せと言っているのだ。」
「聞こえていますが他にも配らないといけないので。」
「そんなものは行った先でまた作れば良かろう。街の安全のために必要なのだ。ここは私の街であり今ここでの全ての決定権は私にある。危険も多いと私が判断したのだ。そのために出せと言っているのだからサッサと出すのだ。」
何なんだコイツ。全部断ったら今度は所持品を全てよこせと来たか。ここまで身勝手な人間は初めて見た。気を抜くと殴りそうだ。
「これは世界を救うために作ったものであり時間も資源もかかるのでここで全てを出すわけにはいきません。」
「ふむ・・・。そうか。ならば良かろう。おい!!」
領主の一声と共に5人の柄の悪そうな奴らが入って来た。
そして同時に屋根裏に隠密を使って潜んでいた奴がエリーの喉元に剣を突き出している。
「勇者を捕まえろ!奴は人に対しては抵抗できない!」
そう言ってやつらは俺を拘束する。なるほどね。自分の体で捕まえれば引きはがせなくなると考えたわけね。なるほどなるほど。機転が利くじゃないか。
「分かっているだろう?動けばエリーを殺す。それに抵抗も出来ないのだろう?おとなしくアイテムを置いていけ。それとエリーはこの街の住人だ。エリーも置いて行ってもらおう。」
・・・。人間ってのはこんなにも汚いものなんだな。
俺はコイツらのためにさっきまで大魔人との死闘を繰り広げていたと考えると悲しくなる。
よっぽど、大魔人テツの方が気の良い奴だったよ。
そりゃ人間にもいい奴も悪い奴もいるということは分かっていた。でもそれを目の前で見せつけられると本当にやるせなくなる。
コイツらの方が魔人よりも悪影響が大きいんじゃないだろうか。
「へへへ。エリー、久しぶりにあったが随分綺麗になったじゃねぇか?」
「覚えてるか?俺だよ俺。デーブだよ。前々からお前のこと狙ってたんだけどよぉ。どっかに行っちまったから残念に思ってたんだ。見つかって良かったぜ。」
「領主様?後でエリーを借りていいですか?俺たちも楽しませてくださいよ。」
やつらはエリーをまるで品物を見るかのように見ている。
「あぁ。後で貸してやろう。だがまずは私が楽しんでからな。」
そしてこの領主の一言が一番頭にきた。他人の悲しみなんて何も考えない。ただ自分だけが満たされればそれでいい。そんな考え方、魔人たちと何も変わらないじゃないか。
コイツ自体にも腹が立つし、こんな奴のためにも勇者をしなければならないのかと思うと余計に腹が立つ。
・・・そうか。エリーが帰ってきたくなかったのはこういう理由だったんだな。よく分かったよ。
こんなやつらに会いたくもないわな。すまなかったな連れてきちゃって。
もういい。コイツらは守るべき存在じゃない。
「くたばれ、クズが。」
俺は手加減に手加減をして拘束している奴らをぶん殴る。
エリーに剣を突きつけている奴は魔法で吹っ飛ばす。
「・・・な?!人には攻撃できないんじゃなかったのか?」
「・・・テメェらみたいなやつらを神は人とは認めてねぇってことだよ。」
本当は死なない程度に手加減しているから攻撃出来るだけだ。
でも殺せることにした方が脅すにはちょうどいい。
俺はまだ意識のある奴らを全員ぶん殴る。
さっき大魔人相手にたくさん殴ってきたからな。ちょうどいい練習になった。
それにコイツら俺を拘束するついてに殴りまくって来たからな。全く痛くなかったが腹が立ったから仕返しだ。
あっという間に部屋の中にいたごろつきどもは倒し終えた。
残ったのは領主だけだ。
「や、やめろ!貴様は勇者だろう?!こんなことをして良いと思ってるのか?!」
「俺は勇者なんでね。世の中の悪は倒さなきゃいけないんだ。」」
「や、やめろ!わ、私が悪かった!悪かったからその手を止めるんだ!」
「悪かったという自覚があるんだな?」
「あるとも!あるから許してくれ!」
「残念だ。自他ともに認める悪い奴は成敗しなくちゃな。俺、勇者なんで。」
「や、やめろぉぉぉぉ!!!」
俺は手加減に手加減を加えて領主にゲンコツをかます。
その一発で領主はのびてしまった。随分弱っちいな。起きてるうちに後2・3発殴ってやりたかったんだが残念だ。
「・・・ハルヤさん。ありがとうございます。」
「むしろすまなかったな。この街に連れてきちゃって。」
「・・・ふふ。いいんですよ。おかげでスッキリしましたから。」
「そっか。さて、さっさとここから出ますかね。」
「そうですね。あ、ちょっと待ってもらっていいですか。」
そう言ってエリーは領主の所に行って一発蹴りを入れた。
結構な力で蹴ったからかな。領主からも「うっ!」という声があがった。
「ふふふ。積年の恨みを多少晴らせました。復讐は良いものを生みませんのでこれぐらいにしましょう。」
「そうか。・・・さ、今度こそ出ますかね。」
俺とエリーは領主の館から出て行く。使いの者たちは色々と焦っているがこれ以上俺たちを刺激したくないのだろう。全員が無関心を装っているので俺たちも気にせず外に出て行く。
そのまま街からも出て行くことにした。なぜかみんな遠巻きに俺たちを見ては避けていくので居心地が悪いしな。領主のこともあったし胸糞悪い思いばかりするので早く出て行くのが良いだろう。
門までやってくると門番は驚いた顔をしながらも俺たちを無言で通してくれた。
どうやらコイツも事情を知っていたようにも思えるが、殴っちゃまずいか。気に入らないという理由で暴力を振るっていたら俺も魔人と変わらなくなってしまう。
そのまま俺たちは街から出て【浮遊】を使いオンドモンドに向かっていく。
「ふふふ。ハルヤさん、改めてありがとうございました。」
「気にすんなよ。俺もイライラしてたからな。スッキリしたよ。」
「先ほどの姿はさらわれた姫を助けるヒーローのようでカッコよかったです。流石は鞘の勇者ですね。こうやって女性を落とすのですね。ふふふ。」
「エリーは姫じゃないし俺は鞘の勇者じゃねぇ!」
「ふふふ。そろそろ観念した方がいいのではありませんか?」
「うるせぇ。諦めが悪いのも勇者の特徴なんだよ。」
エリーとのいつもの会話。でもエリーはいつもより強く俺の背中を握っている。
きっと怖かったんだろう。きっと辛かったんだろう。嫌な過去を思い出していたのかもしれない。レベルは上がったかもしれないが、それでも心まで強くなるわけじゃない。そんなことを強く背中を握る手が俺に伝えてくる。
踏み込まない。そう決めている。でもそれは果たしてエリーにとって良いことなのか。
怖い時、辛い時、踏み込んできてくれる誰かの声は嬉しいものだ。
エリーもそれを待っているような気がして、俺は気が付けばエリーに尋ねていた。
「・・・エリー。リーザスの街はエリーを避けているようだった。過去に何かあったのか?」
リーザスの人々は俺たちを遠巻きに見て避けていた。でもそれはエリーを避けているように見えた。
「・・・私と母はあの街では嫌われていましたから。」
「・・・どうして?」
「父があの領主の命の恩人だからです。」




