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肉弾戦

なぜだ?!なぜ暗闇が覆っていない場所に魔人がいる?!何が起こっているんだ?!


これまでとあまりにも違う状況に混乱させられる。だが大魔人がいることは確かな事であり、何とかしないといけない。


そして大魔人は明らかにこっちに気が付いている。こちらを見てニヤリと笑って叫んだ。


「お前は強者だな?!降りて来いよ!そこから落とされたくなかったらな!!」


奴はスキルを無効にする技を持っている。それを使って落とす算段なのだろうか。でもこっちにはエリーがいるからな。連れていくのはあまりに危険すぎる。


「一対一の戦いを所望だろう?同行者を置いてくるからちょっと待ってろ!」


アイツは一対一に飢えているということだからな。エリーを置いてくるのぐらい見逃してくれるんじゃないかと思って言ってみた。


「そうかそうか!!わかってるじゃないか!!サッサと置いてきて派手に戦おうぜ!グハハハハ!」


やっぱり戦闘狂だな。あっさり許可が出た。まぁアイツにとってメリットしかないしな。一対一の戦いの方がやりやすい能力だし。


出来ればこのまま見なかったことにして逃げ出したい。でも流石にそんなことは出来ない。それに空が晴れている理由も気になるし。エリーを置いてアイツのところに戻ろう。



「というわけでエリー。あの大魔人は危険だ。スキルを使えなくするスキルを持っている。だからエリーを一度リーザスの街に置いていきたい。いいか?」


流石にあの大魔人との戦闘にエリーを連れていくわけにはいかない。エリーはリーザスの街に行きたくなさそうだったが緊急事態だ。安全策を取りたい。


「・・・分かりました。ハルヤさんもお気を付けくださいね。」


少し嫌そうだったが少しの時間だけだ。長時間滞在するわけではない。

俺はリーザスの街に向かう。



近かったこともあってあっという間にリーザスの街についたが、リーザスの街は思ったよりも寂れていた。何というか街全体に覇気がない雰囲気というか。もしかしてここも魔人に襲われたのだろうか?と思うほどだ。だがどこかが壊れているという様子もないし、街の人たちも普通に生活しているから非常事態ということではなさそうだ。


とりあえず魔人の気配はないから安全なはず。それにエリーも多少は戦えるし俺の魔道具も持たせている。あの大魔人の近くよりは安全だろう。


「ちゃちゃっと大魔人を倒してくるから、エリーはこの街で待っていてくれ。」


「ふふ。私のことはお気になさらず。生まれ故郷ですしのんびり情報収集でもして過ごしていますね。」


エリーはまるで気を遣うように静かに笑う。やっぱり嫌な思い出があるのかな。あんまり長居させるわけにはいかないな。サッサと倒してこよう。




俺は先ほどの大魔人のところに戻って来た。大魔人は先ほどから一歩も動いていないようだ。

俺は地上に降りて隠密を使いつつ近づいていく。出来れば奴が【肉弾戦】を使う前に勝負をつけてしまいたい。


奴の索敵の範囲は分からないが今はまだ距離がかなりある。ここから【メテオ】をぶち込もうと魔力を練った瞬間、魔力が霧散した。どうやら気が付かれてしまったようだ。流石に無理だったか。

諦めて俺は大魔人に近づいていく。


大魔人はニヤリと笑いながらこちらを見ている。良かった。不意打ちしようとしたけど怒ってはいないみたいだな。



「グハハハハ!!ようやく来たか!この世界の強者よ!!」


強者か。まぁ俺より強い奴は多分いないと思うし、強者ってことで良いだろう。



「待たせたな。俺がこの世界の強者だ。」


「いいぞ!!良いぞ!!その面構え!圧倒的強者のみが保有する面構えだ!!燃えてくるじゃねぇか!!グハハハハ!」


随分熱い奴だな。声もうるせぇし。静かな森の中なんだからもうちょっと静かに話せよ。



「お前はずっとこの場所にいたのか?」


「俺はずっとここに居たぜ!スキルを使うと同調が遅くなるからな!動かず強者を待っていた!だが同調も終わったようでこちらから出向こうと思ってたらまさかそのタイミングで強者が来るとはな!俺も運がいいぜ!!グハハハハ!」


「同調だと・・・?」


「そうだ!俺は異物ではなくこの世界に認められたものになったのさ!おかげで真の力を発揮できそうだ!グハハハハ!」


この世界に認められたものだと・・・?なんだそれは?!どういうことだ?!


「まさか・・・それで空が晴れているのか?!」


「グハハハハ!どうやら同調した魔人に会ったのは初めてのようだな!!魔界とは違う空模様になったのは同調した証だ!俺は今この世界の住人としてここに存在している!!」


・・・あまりにも突然の情報に頭が混乱してきた。

これまでは魔人が暗闇を広げきることがこの世界を支配することだと考えていたが・・・同調することが目的なのか?そのための時間稼ぎなのか?でもだとしたらなぜ他の魔人たちは攻撃を仕掛けていたんだ?目的が分からない。整理する時間が欲しいがこの大魔人は待ってくれなさそうだ。



「さぁさぁさぁ!!早速戦おうじゃねぇか!!」


奴は目を見開いて興奮を抑えきれないという表情をしている。まるでエサを前に出された動物のように今にも涎を垂らしそうな勢いだ。戦闘狂ってやっぱり狂ってるんだな。


奴はエサに飛びつくように勢いよく俺に飛びかかってきた。

だが俺はいつものようには動けず、全くの素人のように体を動かすしか出来ない。

おかげで奴のパンチを腹に食らってしまった。いてぇ。


「グハハハハ!今この場所ではスキルは使えなくなっている!!存分に殴り合いをしようじゃねぇか!!」


「お前の能力は知ってるよ。だから遠くから魔法で攻撃しようとしたんだがな。」


「何?!俺のスキルに気が付いていたのか!それでも近づいてくるとはよっぽどの強者ということか!!気に入ったぞ!!」


奴の攻撃は熾烈さを増していく。俺はそれを受けつつ反撃を繰出すがへっぴり腰もいいところだろう。

スキルが使えないせいでいつもみたいに剣が振れない。クソっ。厄介なスキルだな。



「グハハハハ!強者よ!!スキルがなくては存分に動けぬか?!スキルばかりに頼っているからそんなことになるのだ!!」


悔しいがコイツの言う通りだな。スキルに支配されている世界とはいえ、スキルだけに頼りすぎたせいか、スキルがない状態での体の動かし方が分からない。


俺は何をするにもすぐにスキルを手に入れられる。それは同時に何をするにもスキルの補正を受けることになるということだ。つまりスキルの補正がない状態での体の動かし方を何も知らない。


前の世界の俺と同じような状況になっているという事だ。だが剣なんて前の世界で持ったこともないし、戦いの際の体の使い方も分からない。


それでも今までスキルを使って振っていた影響か、少しだけ体が覚えている。その経験を頼りに剣で応戦するが・・・やっぱりへっぴり腰のままだな。



「グハハハハ!お前がこれまで鍛えてきたのは己ではなくスキルでしかなかったのだ!己を鍛えねば意味がないぞ!」


うるせぇよ。そもそもスキルどころか俺は何も鍛えてなんかいない。全部もらったもんでしかない。



「グハハハハ!努力の方向性を間違えているのだよ人間は!!己の力を鍛えることこそが最も強くなるという事なのだ!!」


そもそも努力すらしてねぇよ。俺はチートだからな。

努力だなんだと語る相手を間違えたな。



「さっきからうるせぇんだよ!耳がキンキンするわ!!静かに戦えねぇのかよ!」


「何を言う!戦いに言葉は付き物であろう!!肉体と肉体でぶつかり、言葉と言葉でまたぶつかるのだ!!グハハハハ!」



うるさいな!近くで大声出してんじゃねぇよ!

もういい。コイツの相手をするのにゴチャゴチャ考えるのはやめだ。



そもそも俺はこれまでの人生のほとんどは戦う人生を送っていない。

剣だって使ったこともないし誰かと殺し合いなんてしたことも当然ない。



でも、小さい頃の記憶でしかないが喧嘩ぐらいはしたことがある。

あれは確か近所の同級生の悪ガキが公園で遊んでいた時に俺のゲームを勝手に持ち帰ろうとした時だった。

「返せよ」って言っても返そうとしない悪ガキ相手に俺はムキになって殴りかかったんだ。

傍から見たら殴るというより叩くという表現の方が良いぐらいに可愛らしいものだっただろう。それでも当時の俺には精一杯の力を込めて殴った。


結局悪ガキは口だけの奴で、ちょっと殴ったら泣きながらゲームを返して来た。

その後は親に滅茶苦茶怒られてそれ以来誰かに手を挙げるなんてことは一切なくなったが。


あれが前の世界の俺の最初で最後の戦闘経験だ。



今考えればとってもちっぽけな戦いだった。でもあの時の感情は確かに覚えている。

俺だって戦えるんだなんて、ちょっとした自信を持ったことは覚えている。



あの時と今は全然違う。

でも、あの時と今は同じなんだ。



今起こっているのは戦いなんかじゃない。

もっと純粋でもっと素直な。


ただの喧嘩なんだ。


だから俺がやるべきことは剣をどうやって使うか、どんな戦術を考えるかじゃない。



自分の力をただ存分に振り回すだけだ。



「グハハハハ!どうしたのだ強者よ!剣を捨ててしまうのか?!」


俺は握っていた剣を放り投げた。

そもそも剣なんて使えないんだ。だったら剣に頼っててもしょうがねぇ。


「あぁそうだよ。お前とは戦いなんて出来っこねぇからな。」


「ほう?諦めるというのか?」


「は?ちげぇよ馬鹿が。今からやるのは戦いじゃねぇ。ただの喧嘩だよ喧嘩。自分の中にある暴力をただただ振り回すだけの子どもの喧嘩だ。」


「グハハハハ!なるほど面白い!!存分に喧嘩しようじゃないか強者よ!!」



俺は本能に従って大魔人を殴る。相手が殴ってこようが知ったことか。俺は力任せに殴る。蹴る。さらには噛付いたり、絞め技を使ったり。戦術なんてものは何もないただの暴力を解放していく。


相手は岩石大魔人という名前通り体中岩に覆われている。おかげで殴るとその堅さのせいでこっちまで痛くなる。


それでもこっちの方が攻撃も防御も上なんだ。俺はお構いなしに殴り続ける。



大魔人も大魔人で俺からの子どものような攻撃方法とはいえ高いステータスから繰り出される攻撃に多少ひるんでいる。段々と俺の攻撃を避け切れずにまともに食らい顔をしかめることもあった。



俺だって、戦えるんだ。

ステータスに守られているとはいえ、スキルという鎧をはがされた俺だって戦えるんだ。



喧嘩は段々と泥仕合になって来た。二人とも泥だらけで文字通りの泥仕合でもある。

奴のパンチが飛んでくる。俺はそれを寸でのところで躱しつつ蹴りを入れる。


奴はその蹴りを受けつつ足を掴み強引に俺を投げる。

俺は投げられるのを覚悟しつつ空いているもう片方の足で奴の顔面に蹴りを入れておく。相手にダメージを与えられたが同時に俺は投げ飛ばされた。



投げ飛ばされたあと大魔人は俺に追撃の蹴りを食らわせようとしてくるがそれを転がって躱し体制を立て直す。

今度は俺が力任せに大魔人の腹にタックル。高い敏捷も相まって奴を押し倒す。そのままマウントをとり大魔人を殴る。殴る。


大魔神も力任せに俺を掴み引き倒そうとする。そこに追撃の頭突きをかます。正直痛い。それでもお互い様だ。顔から血が流れているみたいだが止まるわけにはいかない。


大魔人は力任せに俺の下から抜け出すがだいぶ息も上がってきている。

でも不思議と楽しそうだ。



「はぁはぁ。いいな!!良いぞ!!肉弾戦で俺をここまで追い詰めるとはな!!グハハハハ!痛いぞ!!苦しいぞ!!血がたぎるぞおおおおぉぉぉ!!!」


「うるせぇよ。岩のテメェに血なんか通ってないだろ。」


「グハハハハ!口も強いじゃないか強者よ!!」




大魔人は興奮したように叫んでいる。


アイツも俺も既にだいぶ体力を消耗している。それでも互いに大技なんてものは使えない。

スキルも使えないしな。生身の人間の戦いなんて結局こんなもんだ。



俺たちはなお泥仕合を続けていく。殴って蹴って。投げて締めて噛んで。

もう互いに戦う技術なんてものはない。気力と気力のぶつかり合い。まさに肉弾戦。



その決着が近いことは互いに気が付いていた。

互いにもう限界が近づいている。俺は全身血だらけで、顔は腫れあがり、腕をあげるのもきつくなってきた。

大魔人も息を荒げて既に腕はダランと垂れ下がっている。少しでも体力を温存したいのだろういよいよ声すら出さなくなった。



次で決まる。そんな雰囲気が両者の間に生まれた。

・・・沈黙が流れる。


敵のはずなのに、互いに息を合わせるかのように、タイミングを計っている。

いくぞ。

来いよ。


何の声も発さずに、そんなやり取りが今行われた。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!」



互いに振り上げた腕から放たれた一撃が両者の顔面に当たる。

頭が破裂したんじゃないかと思うぐらいに重たい一撃を食らった俺はそのまま吹っ飛ばされた。

同時に奴も吹っ飛ばされている。



大魔人の一撃で少しだけ意識が飛びかけた。何かスキルを使ったんじゃないかと疑うぐらい重たい一撃だったが、それでも俺は生きている。


足をプルプルさせながら立ち上がると倒れ伏す大魔人がいた。

どうやら起き上がれないようだ。それと同時に体に力が戻ってきたように感じた。


この感覚。どうやら【肉弾戦】のスキルが解除されたようだな。

すぐに回復魔法を使おうかと思ったが・・・無粋だな。


とどめの一撃を刺すぐらいの体力はある。剣術も使えるしな。

俺は放り投げた剣を回収し大魔人に近づいていく。



「・・・俺の完勝だな。大魔人。」


「グハハハハ・・・完敗だ、強者よ。」


「勝ったよしみに教えてくれ。お前ら魔人の目的はこの世界に同調することなのか?」


「俺たちの目標はあくまでもこの世界の支配だ・・・。同調はそのための手段に過ぎん・・・。」


「同調することによって力が解放されるのか?」


「この世界で十全に動くにはこの世界に自らの体を合わせねばならない・・・。そのための同調だ・・・。」


なるほどね。大魔人の中でもやたらとステータスが高いと思ったがそういう事だったのか。それにこれまで魔人のスキルは全員3つしか持っていなかったのにコイツは4つ持っていた。解放されたという事なのだろうか。それともコイツが特別なだけなのか。


「魔人の同調にはどれぐらいの時間がかかる?」


「・・・さぁな。だが俺は同調を優先した結果、三日で完了した。器用な奴ならもっと早いかもしれないな・・・。」


ということは昨日確認した時点で暗闇が晴れていたところの中には魔人が同調して空が晴れた状態になった場所もあるということか。クソ。厄介ごとが一つ増えたじゃねぇか。


「魔王の居場所を知っているか?」


「さぁな・・・俺には分からん。魔王様は格上の存在だ。俺に何か伝えられるという事もないだろう・・・。」


「大魔人なのにか?」


「大魔人と言ってもその数は100人ほどいる・・・。その中で最も強かった三つ子姉妹以外には情報をまるで話されなかった・・・。故に俺は何も知らんよ。」


三つ子姉妹・・・そいつらが幹部という事かな。新たな情報が手に入ったな。


「時間稼ぎが200日というのは本当か?」


「他の大魔人からも聞きだしていたのか・・・。あぁそれは事実だ。魔王様は200日必要だと言っていた・・・。」


「何のための200日なんだ?」


「そこまでは知らん・・・。それ以上は何も話されなかった・・・。」


200日という時間で何をしようとしているのか。未だに目的が分からない。

今回はそこに同調なんて新しいことまで起こってしまった。常に魔王に先行されているようで腹が立つ。


「そうか・・・。他には何か情報は持ってないのか?」


「特にはないな・・・。ただ三つ子は三人揃うと厄介だぞ・・・。そして魔王様はそれよりもさらに強い。心してかかれよ強者よ・・・。」


「忠告ありがとよ。それと言ってなかったが俺は強者じゃねぇ。勇者だ。」


その一言に大魔人テツは目を見開き、そして笑った。


「・・・!グハハハハ・・・そうか勇者だったか。どうりで強いわけだ・・・。勇者に倒されるのもまた粋なものだな。悪くない。」


「・・・こっちも大魔人との戦いも悪くなかったよ。」


「・・・そうか。・・・勇者よ、頼む。」


「・・・あぁ。分かった。」


先ほどまで殴り合っていたせいかな。コイツが何を望んでいるのか。「頼む」の一言で分かってしまった。


俺は大魔人の体に剣を突き刺した。その一撃で大魔人は息の根を引き取った。



戦いは終わった。俺はすぐに回復魔法を使い一息する。スキルに頼り切るのもいかがなものかとも考えさせられたけど、やっぱり魔法って便利だわ。



魔王に三姉妹。強敵がいることは分かったが、相手の陣容も少しつかめてきた。

それに同調に時間稼ぎという目的も見えてきた。



少しずつ、戦いは終わりに向かっている。




そのことが少しだけ寂しく感じたのは先ほどの戦闘狂のせいだろう。

俺も少し煽られちまったのかな。一息ついて落ち着かせてからエリーを迎えに行くかね。




あばよ大魔人テツ。せめて地獄にでも行って毎日戦いに明け暮れる楽しい日々を過ごしてくれ。

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