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史実

一日休んだ俺たちはのんびり朝食を食べていた。


「サヤノハウスはやっぱり凄いですね。普通の家よりも住み心地が良かったです。」


「なんで早速サヤノシリーズを取り入れてるんだ。勇者ハウスとかハルヤハウスとかでいいだろ。」


「ふふふ。サヤノハウスの語呂が一番良かったもので。これはもうしょうがないことかと。」


「確かに語呂は良いけどさぁ・・・はぁ。」


エリーが作ってくれた朝ご飯を食べながら、机の上に広げた【地図】を見つつ今日一日の行程を確認する。



「今日はここから南東に向かいオンドモンドを目指していく。そう言えばエリーはオンドモンドは行ったことあるのか?」


「えぇ。しばらく住んでいたこともあります。元々オンドモンドの近くのリーザスという街に住んでいましたので。」


そう言ってエリーはオンドモンドとリーザスの街の場所を教えてくれた。どうやらオンドモンドに向かう途中で寄れそうな場所にある。



「せっかくならリーザスの街にも寄っていくか?道中にあるし。」


「いえ。魔人が襲ってきているようではありませんし、特に会いたい人もいませんので大丈夫です。」


「そうか。なら寄らなくていいか。」


「はい。」



自分の故郷のことだというのに、いつも笑っているエリーが何だか暗い顔をしているように感じる。あんまり話したくないのかな?


「あら?ふふふ。ハルヤさんもしかして私の過去に興味を持ちましたか?」


「は?いや暗い顔をしていたから何か言いたくないことがあるのかなって思っただけだ。特に興味とかはない。」


「ふふふ。あのサヤノシリーズの生みの親に興味を持たれて光栄です。」


「どっちかと言ったらサヤノシリーズの生みの親はそっちだろ!!」



いつものエリーだ。無理矢理いつもの雰囲気にしようとしている気がするが、それはつまり踏み込んでほしくないということだろう。

聞いてもしょうがないしな。俺は勇者であっても過去を変えることは出来ないし。現状で問題を抱えているなら手伝うことは出来るがそうでもないようだしな。


気になるけど聞かないでおく。



朝ご飯を食べ終わったので俺たちは移動しようと準備しているとドアをノックする音が鳴った。

出てみるとジャイコフとラエラ、その両親だろう人たちと両国の人がたくさん来ていた。

あまりの多さに面喰ってしまった。



「勇者殿、預言者殿。おはよう。昨日はなかったはずの建物が急に建っていたもので驚いたよ。何度言ったか分からないが、改めて勇者というのは凄まじいものであるな。」


「まぁな。勇者は器用なんで。それでどうしたんだ?こんな大勢で。」


「いやなに、この国を救ってくれた勇者殿たちを何の見送りもせずにはおられなくてな。一人で来ようと思ったらイッポン国の人たちに会って一緒に行くことになって。そしたらこの家の前でゼロホン国の人たちにも出会ってな。結局こんな大所帯になってしまった。用というものは特になくただ見送りに来ただけなんだがな。ははは!」


ただの見送りと言いながら外を見るとかなりの人数が来ている。パッと見ただけで数百人はいるんじゃないかと思えてくる。


「よくこんなに集まったな・・・。」


「それだけみんな感謝しているという事だ。ここはひとつ存分に見送られてくれ。」


何だよ存分に見送られるって。まぁ実際に恥ずかしさもあるからその言葉の意味はよく分かるが。

まぁいいか。これまで仲の悪かった両国が一緒に見送ってくれるのは嬉しいことだしな。

こちらも気持よく次の街に行くことができるってもんだ。


俺たちはサッサと準備をして家の外に出る。そして家を【アイテム】の中にしまう。


「おぉ!家が消えた!」

「勇者殿は家を召喚できるのか!」

「ドラゴンも家も召喚できるとは流石勇者だ!」



これは召喚したわけじゃないんだがな。本当の召喚はこれからだ。

移動のためにドラゴンを召喚しようかと魔力を練り始めたらエリーからまったがかかった。


「ハルヤさん、もしかしてドラゴンで移動するのですか?」


「あぁ・・・そのつもりだけどどうした?」


「いえ、ドラゴンを召喚し使役するのは結構な魔力を消費するのではないですか?」


「そりゃあそうだが・・・もしかしてまた【浮遊】で移動しろって言うのか?」


「そうですね。私はドラゴンで移動するよりハルヤさんの背中に乗る方が好きですから。」


・・・どうした。急な要求にまたしても面喰ってしまった。あまりエリーが好き嫌いを主張することは珍しい。なんだ。何か裏があるのか?コイツの狙いはなんだ?



「なるほど。勇者殿は人前であるからエリー殿を乗せるのが恥ずかしいのであるな?ならば気にせず乗せれば良い。それぐらいのことで我々の勇者殿と預言者殿への尊敬は変わらんよ。」


ジャイコフは盛大に勘違いをしている。俺は恥ずかしいから乗せたくないんじゃなくて、コイツに何か裏があるんじゃないかと疑っているから乗せたくないだけで・・・。それに四つん這いになってコイツを背中に乗せるのは結構屈辱的なんだ。


「勇者様と預言者様は仲良しなのですね。このような方々が世界に与えられて本当にうれしく思います。」


ラエラも慈愛を込めたまなざしでこちらを見ている。やめろ。この移動手段に恐らく愛情的なものは含まれていない。勘違いしないでほしい。


どうしよう。今更ドラゴンで行くと言い出せない雰囲気になってきた。

みんな見送りに来てるしあまり長居するわけにもいかないし。

・・・しょうがないからここはエリーを背中に乗せるか。


エリーを乗せるためには四つん這いにならないといけない。

屈辱である。何度経験しようとも屈辱である。それに今は衆人環視もある。いつも以上に屈辱だ。

それでも俺はしょうがないと気持ちを押し殺して四つん這いになる。



・・・なぜかジャイコフから羨望のまなざしを向けられている気がする。

四つん這いになっているから足元しか見えないが、ラエラがジャイコフの足を踏んでいるから俺の気のせいではなかったようだ。


「ふふふ。ハルヤさん、いつもありがとうございます。」


うるせぇ。本当に感謝してるんだったらこんな格好させるなよ。せめてみんなの前でぐらいドラゴンで出発して後から乗り換えてもよかったじゃないか。


複雑な感情を抱きながら俺は【浮遊】を使い空を飛ぶ。



「では皆さん!俺たちは次の街に向かいます!また魔人が襲ってきた時は両国で協力してください!」


「任せろ!我々は手を組むという目標を共に掲げたのだ!今この島を落とせるものは何もいないだろう!だから安心したまえ!」

「必ず”ニホン”を作るから、勇者様と預言者様もいつか遊びに来てね!!」




こうして俺は両国の人たちに見送られながらオンドモンドに向かうことにした。




道中はまた長い時間海の上を飛ばなければならない。やっぱり海の上はちょっと怖い。

ドラゴンに乗りたい気持ちが再び沸き起こる。


「なぁ・・・なんで俺の上の方が良かったんだ?」


「ハルヤさんは下に敷かれる方が好きだというのに人前で恥ずかしがっているようでしたので、それを察知して提案したのです。出来るパートナーがいて良かったですね。ふふふ。」


「そんなこと俺がいつ言ったよ!俺はマゾじゃないぞ?!」


「あら?『史実 鞘の勇者ハルヤ』にはそう書いてあったのですが・・・。」


「それはてめぇの日記じゃねぇか!お前の主観を書き込むなよ!!」


「それは失礼しました。ハルヤさんはサディスティックだと訂正しておきますね。」


「なんで極端な答えしかないんだよ!ノーマルでいいじゃないか!というかそういう情報はいらねぇよ!」


俺をジャイコフと同類にしないでほしい。俺は普通だ。勇者だけどその辺は普通なのだ。

ただでさえ「鞘」という変なあだ名が付けられているんだ。これ以上変なものを混ぜないで欲しい。



「知ってますかハルヤさん。物語の主人公は何らかの異質なものを持っていることが魅力につながるのです。」


「それは物語の話だろ?『史実』には関係ねぇだろ。」


「多くの人が認めればそれが『史実』になるのです。」


「・・・ねつ造するってのか?!」


「ふふふ。失礼ですね。作者の分析と呼んでください。」


「作者の前に本人が否定してるんだよ!!」



俺の叫び声が何もない海一面の景色にこだまする。

もうコイツ落としてやろうか。一度くらい間違って落としてもいいだろ。事故だと言えば言い逃れできるだろうし。


「ふふふ。ハルヤさん。もし私を落としたらそれこそありもしないことを『史実』にしますからね。」


「もしかして心を読むスキルをお持ちで?」


「ふふふ。そんなスキルはありません。ただの分析です。でも私の分析は正確だという事をお分かりいただけましたか?」


確かに合ってたが・・・合ってたけど色々と認めたくない。なんで勇者なのに預言者に脅されなきゃいけないんだ。

俺が最強のはずなのに・・・くそ。コイツがもしかして魔王なんじゃねぇか?

もしかしてそうなのかもしれない。コイツの言動はいつも怪しいし。いつかコッソリ【鑑定】してやる。





俺たちは結局【浮遊】で海を越えた。陸地まで来ると安心する。

海はきれいだが底が見えないからな。底が見えないというのは恐怖を感じるから抜け出せてホッとした。



そろそろエリーの出身地であるリーザスの街が近づいてきている。だがエリーから寄らなくていいと言われたからな。素通りでいいだろう。




・・・そう考えていたが少しばかり事情が変わった。

リーザスの街の近くの森の中から異常な気配を察知した。




・・・なんだ?モンスターか?

いやでもこの気配の多きさは大魔人級だ。



危険な気配を察知した俺はその場所に向かって行く。

隠密を使いつつその場所の上空に向かうとソイツはいた。



遠くからでも気配に引っかかるほど膨大な気配を感じる。むしろ垂れ流しているようだ。

まるで訪ねてくる強者を待つかのようにソイツはそこでジッとしていた。


俺はとっさに【鑑定】を使った。やはり大魔人で合っていたようだ。



―――――――――――――――――――――

名前:テツ

岩石大魔人

全身が岩石で出来た魔人。ただただ強者との戦いを望む戦闘狂。スキルによる戦いではなく肉体を用いての戦いを好む。弱者との戦いにはまるで興味がない。戦いのために生き、戦いの中で死んでいきたいと常に願っている。


状態:正常


体力:40175

魔力:20

筋力:20615

防御:17398

敏捷:8529

知力:510



【共通スキル】なし


【固有スキル】索敵、タイマン、戦闘狂、肉弾戦

索敵

自分よりステータスが高い相手を見つけるのが上手くなる。


タイマン

一対一の場面で力が上昇する。


戦闘狂

自分の体力を消費し攻撃の威力を上乗せする。


肉弾戦

一定時間、自分の共通スキルを使えなくすることを代償に、相手のスキルを使えなくする。

―――――――――――――――――――――




・・・なぜ・・・なぜ大魔人がここにいる?





空はこんなにも晴れているのに。

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