野宿?
ゼロホン国とイッポン国はなぜか日本を建国するということで話が進んでいる。
まぁ、これに関してはもうどうでもいいか。作られるのはニホンであって日本じゃないし。
なんにせよ国が良い方向に行けばそれでいい。
「勇者殿。此度は国を魔人から救い、さらには両国をまとめ上げてくれたこと、真に感謝する!」
ジャイコフは既に王の貫禄がある。さっきまでラエラに殴られまくっていたとは思えないほどの威厳を感じさせる。いつもこうだったらカッコいいのに。
「気にすんな。まぁ建国つってもこれから調整だなんだと大変だろうけど頑張れよ。」
「ははは!先にある希望に向かう大変さというものは、何も苦しいものではない。むしろラエラと二人で過ごせるこれからを考えれば明るい未来しか想像できんよ。」
「それもそうか。まぁ何にせよ達者でな。」
「うむ。重ね重ね、此度は世話になった。して勇者殿はこれからどうするのだ?すぐに旅立つのか?」
これからか・・・。もちろん急ぐ必要はある。急がないと襲われる街が増えてしまうからな。
だが、今までよりも焦る気持ちは薄くなっているというのが本音である。
大魔人フッカから猶予が200日あることを知ってしまったからな。厳密にはあと197日だが。いずれにせよ半年以上は持つはずだ。だから魔王探しを急ぐ必要はそこまでないのかと思い始めている。
それに今日はもう夕方だ。これ以上の旅は危険だろう。だからこのあたりで一泊する予定である。
「今日はこの辺で一泊しようかなと思ってるよ。」
「そうか!であれば我が家に・・・と言いたいところではあるがな・・・。」
ジャイコフは返答を濁している。なんだ?ちょっと期待してたんだが行っちゃいけない理由があるのか?と考えているとラエラがコソッと補足してくれた。
「今はどちらかの国に行くというのは・・・正直あまり好ましくありません。勇者がどちらの国に泊まるかで揉める気がしまして。」
なるほど・・・確かにそうだな。どっちに泊まるかでちょっとしたいざこざが起こりそうだ。今は互いに戦闘の高揚感と共に仲良くやっているかもしれないが、いずれ「向こうではなくこの国を勇者は選んだ」と言って掘り起こされて揉める危険性もある。
ここは両国の未来のためだ。野宿だな。
「あ~なるほど。まぁ気にすんな。俺たちは野宿で大丈夫だ。対策もバッチリしてあるし。」
実はクフの街で野宿道具を調達してある。
と言ってもテントや寝袋というものではなく家ごとアイテムで収納してある。
まだ使ったことはないが多分大丈夫なはず。そのことを説明するとジャイコフとラエラは唖然としている。
「ゆ、勇者殿はどこまで便利なのだ・・・!」
「す、凄いわね・・・これは便利だわ・・・!」
いよいよラエラまで便利と言い始めた。ラエラだけは違うと信じていたのに!
まぁそろそろ俺も自分が便利だなと自覚しているからもう傷つくことはないがな。
「まぁそんなことだから、俺たちのことは心配するな。三日も戦争だ何だと大変だったんだ。俺たちのことは気にせず、両国の人たちも今日はゆっくり休ませてやれよ。」
「うむ・・・何から何まですまないな。この借りはいずれ返させてもらおう。」
「そうね。必ずニホンを立派な国にして、その時には勇者様をおもてなしさせてもらわないとね!」
「ははは!期待してるよ!俺の祖国の名前を取ったけど、あんまり重荷に考えるなよ?」
「いやむしろ重荷とさせてもらうよ。我々の国は長らく責任を回避してきたのだ。何かの信念に立つには勇者の冠はちょうど良い。」
「そうね。私たちも名ばかりの自由に生きてきたから、何かを背負うのは大事な事。勇者様の名前を存分に使わせてもらうわ!」
あまり気負わないで欲しいと思ったが、時には気負う事も大事なのかな。一般市民な俺には分からんが、人の上に立つ人のいう事だ。きっと間違ってはいないだろう。それにコイツラなら間違ってても何とかするだろう。
「そうかい。まぁ後のことは二人に任せる。いい国になるように、祈ってるよ。」
「うむ。ありがとう勇者殿。預言者殿。」
「二人も気を付けてね!」
そう言ってジャイコフとラエラは両国の人々の下へ帰って行った。
これから大変だろうけど、二人ならきっと大丈夫だ。信じて託す。サムエルさんもラエラのお父さんも似たようなことを言ってたしな。後は任せよう。
「ふふふ。ハルヤさんも段々と有名人になってきましたね。」
「何だか恥ずかしいけどな。それが国のためになるなら良いだろう。」
「いいじゃありませんか。魔王を倒して平和になった後に、きっと盛大に歓迎されますよ?」
「平和になってからか・・・魔王を倒せなかったらどうするんだよ。」
「ふふふ。魔王に倒される勇者の物語は読んだことがないもので想像できません。する気もありませんが。」
そうだな。そんな物語がもし実際に起こっていたら今頃この世界は崩壊していただろう。
きっと大丈夫。物語と一緒だ。きっと・・・物語と。
一抹の不安が俺の中に起こってくるが、今は考えてもしょうがない。
「さて、今日はここで野宿だ。早速準備しよう。」
そう言って俺は【アイテム】から家を取り出す。
「ふふふ。随分立派な野宿ですね。」
「そうだな。というかこれはもう野宿というか定住というか・・・。」
何というかは分からんがゆっくり寝られるところがあるのはいいことだ。
俺たちはそのまま家の中に入る。そこで今日起こったことを確認していこう。
まずテーブルの上に【地図】を広げる。
するとサムエルさんたちが向かった場所に広がりつつあった暗闇が解かれていることが分かった。
良かった無事に魔人を倒すことが出来たみたいだ。
それに【地図】を見ていると暗闇が解かれている場所が増えているような気がした。
各地で善戦しているという事だろう。かえって広がっている場所もあるのかもしれないが、細かい部分では追い切れていないので何となくでしか判断できないが少なくとも暗闇は減っていっている。
良かった。
次にこれからのことを考えるが、俺たちだけで考えてもしょうがないのでサムエルさんに連絡を取ることにする。
向こうも恐らく魔人を撃退したあとのはずだ。ゆっくり話をできると思う。
俺はアイテムから【通信】が付与された魔道具を取り出してサムエルさんに連絡を取る。
通信のアイテムは片方が魔力を使うともう片方の魔道具が呼応する形になっている。つまりセットのものにしか効力はないが、それでも遠くにいる人と話せるのは便利だ。
俺は魔道具に魔力を込める。すでに随分遠くまで来たからか結構魔力を消費させられたが無事につなげることが出来た。少し待っていると向こうから声が聞こえてきた。
『こちらサムエルだ!聞こえるか?』
「こちらハルヤです。ちゃんと聞こえますよ。」
『おぉ!この魔道具はやっぱり高性能だな。音も随分綺麗じゃねぇか!』
「そうみたいですね。こちらも綺麗に聞こえます。」
音は割と綺麗に聞こえる。と言っても電話ほどきれいに聞こえるわけじゃないが。
あとサムエルさんの周囲がうるさいのかやたらと雑音が入ってくる。
「サムエルさん今どこにいるんですか?結構雑音がするんですけど?」
『あぁ。俺たちはあれからデルタの街に向かってすぐに魔人を討伐することが出来た。そんで次の日にさらに東に向かってシリヤルの街に行ったら今度は大魔人が居やがってよ。でもお前さんの魔道具を撃ちまくって何とか勝つことができた。おかげで今は祝勝会をしているところだ。』
なんと。魔人を二人も倒してたのか。それも片方は大魔人。よく無事だったな。
「魔人と大魔人ですか。大変でしたね。皆さん怪我はありませんか?」
『あぁ。俺たちは大丈夫だ。デルタの街も大した被害はなかった。だがシリヤルの街はかなりの損害があってな。攻めて来た大魔人が魔法使いでよ。極大魔法バンバン打ってきやがってかなり魔力と魔道具を消耗させられた。それでも物量作戦で押し切れたから良かったが・・・戦場となった場所はしばらく使い物にならねぇぐらいグチャグチャになったし巻き込まれた人もかなりいた。」
「そうですか・・・。」
戦いがあれば犠牲も出る。街は助けられても、そのことはどうしても避けられない。
『それでも街は生きているし俺たちも無事だ。まだまだ戦えるから安心しろよ。』
俺が落ち込んでいると思ったのかサムエルさんは励ますように大丈夫と言ってくれる。やっぱりサムエルさんのこういう気づかいに触れるとホッとする。
「それを聞いて安心しました。」
『それでお前さんは今どこにいるんだ?』
「俺たちはフォエフォ島にいます。」
『フォエフォ島?!そんな遠くまで行ってんのか?!』
俺はここに来るまでの道のりをサムエルさんに説明した。
ウーディア、ケート、ホラム、そして今いるフォエフォ島。大魔人二人に魔人が二人。そう考えると結構なハードスケジュールだな。ここでは戦争に巻き込まれそうになったし。
『はー。結構なペースで進んでるじゃねぇか。流石鞘の勇者だな。」
「まさかその呼び方を他の街で広めたりしてませんよね?」
『いいかハルヤ。鞘の勇者ってのは人々の希望なんだ。俺たちには鞘の勇者が付いているって言うと皆安心するんだ。こっちだってふざけて広めているわけじゃねぇ。必要だから広めたんだ。』
「【鞘の】ってのはいらなくないですか?勇者だけでいいんじゃないですか?」
『・・・なんだ?急に魔道具の調子が悪くなったか?あんまり聞こえなかった。ごめんごめん!そんでこれからどうするんだ?』
コイツ・・・!無理矢理話題を変えやがった!やっぱり面白がってるじゃねぇか!
「はぁ・・・。ほどほどにしてくださいね。それでこれからなんですが、魔人から一つ情報を手に入れました。魔人たちは侵略する者もいれば留まる者もいます。その狙いは時間稼ぎなんです。」
『時間稼ぎだぁ?』
「えぇ。どうやら魔王は既にこの世界に来て何らかの細工をしているようです。その細工が完了するまでに要する日にちは200日。つまりそれまでに魔王を探し出して倒さなければいけません。」
『なるほど・・・。ということは後半年ちょっとってところか。思ったよりも時間があるな』
「そうですね。あまり悠長に構えてはいられませんが、それでも今日明日世界が終わるという事はなさそうなのでちょっと安心しました。」
『となるとここは魔王探しよりも各地の安全を優先した方が良さそうだな・・・。よし。ハルヤは今フォエフォ島だろ?そこから南東に行った先に、レンダルフィア帝国の首都オンドモンドがある。そこで皇帝に協力を申請しに行ってもらえるか?』
「皇帝にですか?」
レンダルフィア帝国はこの世界の常識に疎い俺でも聞いたことがある。この世界で最も大きな領土を持ち、最も経済的に豊かで、最も強い軍隊を保持している帝国だ。ハッキリ言ってどの国もレンダルフィア帝国には歯が立たない。そこの皇帝となるとつまりこの世界のトップという事だ。
『あぁ。時間稼ぎしてるってことは魔王は隠れてる可能性がある。そうなると探すのには情報が必要だ。それに魔人の攻勢もまだ収まってはいねぇ。今はまだよくても今後抵抗できずに滅びていく国家も出てくる可能性がある。そうなるとお前さんの魔道具を配ることが先決だろう。』
「なるほど・・・。だから人手を借りるために帝国ですか。」
『あぁ。あそこの国には石の勇者の墓もある。勇者に対してある程度の尊敬は持っているはずだ。お前さんが行けば対応してくれるだろう。』
皇帝かぁ・・・。王でも緊張しちゃうのに、一番大きい国の皇帝とか。小心者の俺にはちょっと荷が重い気がする。でも行かないわけにはいかないか・・・。
「わかりました。皇帝に会いに行こうと思います。」
『おぉ。そうしてくれ。俺たちも協力者を募りながら、次は北東にあるフィリップの街を目指す予定だ。その道中で魔人も探していくよ。』
「わかりました。サムエルさんもドラゴンバスターズの皆さんも、気を付けてくださいね。」
『あぁ。お前さんも気を付けろよ。嬢ちゃんにもよろしくな。じゃあな。』
サムエルさんとの通話が終わった。何だかんだ一日中魔人と戦い気を張り続けていたからかサムエルさんの声を聞いて凄くホッとした。
「ふふふ。サムエルさんたちも無事で良かったですね。」
「そうだな。被害を受けた街もあったが、それでも少しでも救えたなら良かったよ。」
「ハルヤ印の魔道具も大活躍ですね。サヤノシリーズとしていずれ売り出しますか?」
「そこはハルヤシリーズでいいだろ?!」
「ふふふ。それでは勇者だというのが分からないじゃないですか。」
「サヤノでも分かんねぇよ!」
「そこを分からせるために今みんな一生懸命に広めているのではないですか。」
「ハルヤの方を広めろよ!!」
不思議なもんで、こういうやり取りでも何だかんだ落ち着いてしまう。やっぱり日常ってのは大事だ。
早く日常を取り戻さないとな。
「”これを見につければあなたもモテモテ”をキャッチコピーにして売り出しましょう。」
「いいからもう寝ろよ!!」
こんな日常も・・・やっぱりちょっとメンドくさいわ。




