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ニホン

戦場は落ち着きを取り戻し終戦ムードになっている。

戦いは結局未然に防げたので終戦と言っていいのかは分からんが。とりあえず戦いは避けられたので良しとしよう。

何人か怪我人はいるが幸いなことに死者はいない。良かった。



俺たちが騒いでいると両国から二人の人間が現れた。

片方は平凡な顔立ちのいかにも普通なおじさん。もう片方は髭面で強面なおじさん。

できれば強面な人には絡まれたくないが、一体何の用だろうか。



「ジャイコフ!戦が起こった際、王子は館に滞在するという法律をなぜ破ったのだ?!」

「ラエラ!お前どうして戦場にやってきた!それに【博愛】とは何だ?!そんな力を持っていたのか?!」


どうやら互いの父親だったようだ。つまりは両国の王なのかな。二人して好き放題やってたからな。随分お怒りなようだ。


「父上!私は法を犯しましたがこれも国のためと判断したためです!」

「お父さん、私は【聖女】という職業なの。聖女には【博愛】という力があるからその力を使えば戦を止められると思ったから来たのよ。」



二人の父親は唖然とした表情をしている。これまで自分たちの子どものことをどれだけ把握していたのかは分からないが少なくとも戦場にいきなり現れるとは思っていなかったのだろう。


「ラエラよ。本当に【聖女】なのか?!だとしたらなぜ黙っていた!」


「言うも言わないも自由でしょ?私はジャイコフがそうしてたからそうしただけよ。」


ラエラは自分の父親に向かって自由だと述べた。王様も自分の国のルールだからな。そこには言及できないだろう。

だがラエラの言葉に反応したのはジャイコフの父親の方だった。


「な?!ジャイコフ、お前も何か隠しているのか?!」


「えぇ。・・・私は【王】の職業を賜っています。」


「お、王だと?!まさか・・・我が国に【王】が与えられたというのか?!」


「そうですね。異物とされ排除されるのを恐れて言いませんでしたが。【王】の力を使いラエラとは一年に一回密会をしていました。そのおかげで今回もこうして協力関係の下ここに来ることが出来たのです。」


「既に二人は知り合いだったのか?!な・・・なんという事だ。お前は一体いくつの犯罪を犯したか分かっているのか?!」


そうか。イッポン国からすればいくつもの犯罪を犯したことになるのか・・・。一年に一回だけしか会えないのに、それすらも犯罪となっちゃ大変だな。おかげで燃え上がったのかもしれないが。


「そうです。私は職業の黙秘にゼロホン国の姫との密会。今回のこともそうですしたくさんの犯罪を犯しました。それは国のためを思っての行動ですが、それでも現行のままであれば犯罪には変わりありません。どうしますか?処罰しますか?」


「そうだな。・・・私は必要と思い今まで法を遵守し続けてきた。だが、その結果が先ほどの民衆の嘆きである。・・・今この場でお主を処罰したいと願う者なの一人もおらんだろう。もちろん、私も含めてな。」


良かった・・・。どうやら処罰が下されるという事はなさそうだ。



「だがな・・・かといって何もなしという訳にはいかん。お主は【王】なのだろう?であればこれからは国を立派に率いてみせよ。今国民感情は非常に揺さぶられている。それをまとめ上げてみせよ。」


「父上・・・ありがとうございます。」


「それと・・・結婚についてだがな。ここで宣言したのだ。まとまるかどうかはお主の力次第だ。私は特に反対はせん。王としてこの国の限界を感じていたところであるしな・・。」


イッポン国は緩やかに衰退していると聞いていたが・・・やはり王も気にしてたんだな。ジャイコフと父親の方は問題なさそうだ。




「ラエラ!【聖女】ってのはどういうことだ?!自由とは言え父親にぐらい話すべきだろう?!」


「・・・【聖女】である自分が嫌いだったから黙ってたの。私が喋ればみんな愛想がよくなって問題も解決したことがあったでしょう?あれは全部【博愛】の力なのよ。その力が怖かったから話さなかったの。」


「素晴らしい能力じゃないか!そんな素晴らしい能力を閉ざしてしまうなんて勿体ないじゃないか!」


「強すぎる能力だから嫌なのよ!みんなが愛想良く接した相手は誰?ラエラ?それとも【聖女】?」


「どっちも同じだろう?!」


「違うわよ!みんなが見るのは【聖女】だけなのよ!誰も私自身なんて見なくなるのよ!そこにどんな私が居ようとも、総じて私を【博愛の聖女】と見なすのよ!人の自由な思想を奪うのよ?!それがどれだけ怖い事かどうしてわからないの?!」


そうか。ラエラの【博愛】は強制的にラエラを柔和な人物として見なすようになるものだ。言うなればラエラを柔和というフィルターを通して見るようになると言うのに等しい。

それは、とても怖いものだろうな。その痛みはちょっとだけ分かる。



俺も【勇者】という肩書だけで判断されると悲しくなる。

自分が【勇者】だから褒めてくれる。讃えてくれる。でもそれは【勇者】を見ているのであって俺自身を見ているわけじゃない。


俺にはよく分かるが・・・父親には分からないようだ。



「そんなことはない!私はいつもラエラを見ている!【博愛】の力など関係なしに!」


「お父さんだって一緒よ!私が話せばいつも笑顔になって愛情深くなって!結局私を【博愛】越しに見ていたのよ!」


ラエラの悲痛な叫びが響く。誰も分かってくれない。理解してくれない。

そんな感情が渦巻いているようだ。




「・・・馬鹿にするな。・・・父親を馬鹿にするな!!!」


ラエラのお父さんの激怒した声がよく響いた。でもそれは不思議なもので、まるで【博愛】の力がのっているかのように温かいものに感じた。



「博愛だ?柔和だ?そんなもの関係なしに娘を愛する!父親ってのはそういうもんなんだ!ラエラはその力をいつ手に入れた?!7歳の洗礼の時からだろう?!だがな、私は生まれてからずっとラエラを愛してきた!」


突然の父親の独白にラエラは驚いて目を見開いている。


「ラエラが心優しいが故に他者の気持ちを塗り替えたくないという気持ちは理解した。だがな、だからと言って完全に支配できるなど、人の感情はそんなに容易いものではない!娘への愛情はどんなものであっても支配できないのだ!たとえ【聖女の博愛】であってもな!」


娘への愛の宣言はこちらまで気恥ずかしくなるほど直球だ。


「ラエラ!お前は【博愛】の力を手に入れて愛を知った気になっているが何も分かっとらん!自分への愛をどうして素直に受け入れない?!何でも【博愛】越しに考えているのはラエラ自身ではないか?!」


「そ、そんなこと・・・!」


「そんなことはある!お前が段々と話さなくなってからも周囲の人々はどれだけお前を大切に思っていたか、それが分からぬ訳ではないだろう?!」


「確かにそうかもしれないけど・・・。」


「お前は先ほど言っただろう。間違えたら認め、直す。お前は人に愛を語りながらも、愛のことを知らない。そんなスキルなんかじゃ持てないような深い愛を私はお前に注いできた。そのことをお前はまだ気が付いていないだけだ。」


父親からの言葉にいよいよラエラは反論できなくなってきたのか黙っている。


「・・・私が悲しいのはな、話してくれなかったからではない。そんな大きな力をラエラ一人に抱え込ませてしまったことに悲しんでいるのだ。」


「お父さん・・・ごめんなさい。」


ラエラはいつの間にか泣いていた。

今まで【聖女】のことを黙って抱えていたが、隠し事ってのは辛いもんだ。全部吐き出せたおかげかラエラの表情は泣きじゃくってはいるがどこかスッキリしたように見える。



「良いのだ。これからの人生でそのことに気が付けばいい。だが間違えても誰かの愛を【博愛】のせいにしてはならん。それは間違いなくお前の人生を不幸にする。」


「・・・うん。わかった。」


人間は簡単には支配できない。大魔人フッカに対して俺が思ったことであるが・・・本当にそうだな。そのことをフォエフォ島で何度も突きつけられた気分だ。



「王子ジャイコフよ!!」


突然ラエラのお父さんはジャイコフを呼んだ。ジャイコフもあまりに突然で驚いている。


「は、はい!」


「娘はまだ愛が何であるかを知らん未熟な【聖女】だ。だからお主がこの娘に愛をしっかり教えてやってくれ。頼んだぞ!!」


「は、はい!!」


「お父さん・・・。」


「ラエラ。お前の人生はこれから恋を知り、愛を知るのだろう。語るばかりではない自分に向けられた愛にもしっかり目を向けなさい。そのことの中で今日言ったことの意味と出会えるはずだ。しっかりと探しなさい。」


「お父さん・・・ありがとう・・・。」


ラエラは泣きじゃくっている。【博愛】でありながら、実は自分が一番愛に飢えていたのかもな。そういう意味では今回のことを経て本当の聖女になっていくのかもしれない。



「ゼロホン国の王よ。婚約を認めてくれてありがとう。」

「こっちこそイッポン国の王よ。娘を受け入れてくれてありがとうよ。」


父親同士であり王同士、この二人が握手をしながら互いを受け入れ合う姿は両国にとって新しい一歩の始まりであるのだろう。

そんな場面に水を差すように民衆から一言飛び込んできた。



「それで二人はどっちの国に住むんだ?」



どっちの国に住むのか・・・。それはややこしい問題かもしれない。

こちらの世界の常識では男性の家庭に女性が入るものだが・・・とはいえ王子と姫だ。そう簡単なことではない。


「やっぱりイッポン国じゃないか?王子だし。」

「でもイッポン国にゼロホン国の姫が来るのは法律的にどうなんだ?」

「ゼロホン国に婿入りするのか?自由でいいかもしれねぇな!」

「でも相手は王子だぞ?それに向こうの【王】を奪うみたいでマズイだろ!」


「どうするんだ?!」

「どっちだ?!」



民衆がザワザワする中、一際異質な声が飛び込んできた。



「「ニホンだ!!」」



この場に似つかわしくない、だが俺にとって懐かしい名称が飛び込んできた。驚いて声の方向を見ると、初めに気絶させた二人の兵士がそこにいた。


「今回俺たちを救ってくれた勇者の祖国は”ニホン”って言うんだ!」

「だから我々もそれにあやかって”ニホン”という新しい国を作るのだ!」

「自由であって不自由な国を一から作るんだ!」

「不自由であって自由な国を0から作るのだ!」


「「2つの国が合わさって”ニホン”を作るんだ!」」



全く新しい提案に皆が驚いている。しかし今の混乱状態にあってその提案はどこか好意的に受け入れられている。


「新しい国・・・か。いいのかもしれねぇ。」

「2本か・・・今の俺たちにピッタリじゃないか?!」

「自由で不自由な国を!」

「不自由で自由な国だ!」


「「おおおおぉぉぉぉ!!」」



なぜか民衆は”ニホン”に前向きである。

そういう意味の日本じゃないんだけど・・・日本を理想郷みたいに言われるのもなんだかしっくりこないし・・・。

驚くジャイコフが確認するかのように問いかけてくる。



「勇者殿!お主は”ニホン”出身であるというのは本当であるか?!そんな国があるのか?!」


「いや・・・この世界じゃない別の世界にある国なんだけど・・・それに二本という意味じゃくて・・。」


「なんと誠であるのか?!それに別の世界の国だと?!な、ならば我々はその国から名前を頂いてもいいのか?!この世界ではかぶらないということか?!」


「かぶりはしないだろうけど・・・それに俺に命名を拒否する権利もないし勝手にすればいいけど・・・二本って意味じゃなくて・・・。」


「おぉ!勇者殿から許可がでたぞ!!今から我々は新しい国家”ニホン”を作っていくのだ!ゼロホン国とイッポン国が手を取り合い、自由で不自由で、不自由で自由な国を作っていくのだ!!」


「おおおおぉぉぉぉ!!!」


「その道は険しいかもしれん!私たちは極端な道を歩んだからこそ分裂していった!しかし、だからこそ我々は互いの良い部分を知っている!互いに補い合い、新しい道を歩んでいくのだ!」


「「「おおおおぉぉぉぉ!!!」」」




・・・もはや止められる雰囲気ではなくなってきた。もういいか。どうせ日本のことなんて誰もわかりゃしないし。この勢いを止めるのも忍びない。


【王】の威力もすさまじいな。新しい国家を作るなんてトンでもな提案なのにすでに民衆の心を掌握している。これが【統治】の威力なのだろうか。


いずれにせよ、良い国になるといいな。



「ふふふ。ハルヤさんの故郷が出来ましたね。」


「全然違うけどな。」


「いいではありませんか。名前だけでも故郷になるわけですから。それに私たちからすればおとぎ話のような国の名前を取るのですから縁起もいいですし。」


「おとぎ話ねぇ。そんなに良いものじゃなかったけどな。」


あまり日本で良い思い出もないし。



「ふふふ。じゃあこちらの世界の”ニホン”がおとぎ話のような国になるといいですね。」





・・・そうだな。おとぎ話は必ず「めでたし めでたし」で終わるもんだ。


きっとこの国もめでたしめでたしになるはずだ。


何たって日出ずる国なんだから。太陽が昇るように光が差し込んでくるはずだ。

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