博愛
無事にドラゴンを召喚できたので俺たちはさっさと戦場に向かうことにする。
ただ一つ問題があった。
「このドラゴンが館にいきなり現れたら流石に驚くよな・・・。」
今俺たちは【王の間】という別次元空間にいる。そのため解除されたら館に急にドラゴンが出てくることになる。
もしかしたらドラゴンだけ【王の間】に残されるのかもしれないが、そうなったら王子だけでは【王の間】を使いづらくなるし俺の魔力も消費され続けるという別の問題が出てきてしまう。
「しょうがない。一回ドラゴンを倒すしかないか・・・。」
召喚獣は「戻れ」と念じても一切戻らない。過去に経験しているからな。
だから戻すためには倒すしかない。そのことが分からないエリーは疑問を投げかけてくる。
「ハルヤさん・・・普通に戻せばいいんじゃないですか?」
「いや。召喚獣は戻せないんだよ。何とも不便なスキルだよな。」
「え?そうなんですか?以前召喚術士に会ったことがありますが、普通に「戻れ」って命令したら戻ってましたけど。」
え?いや、まさかそんなはずはない。昔やっても出来なかったし。その召喚術士は何か特別なスキルを持っていたのか?一応確認のために俺はドラゴンに向かって「戻れ」と命令してみる。
「戻れ」
ドラゴンはあっさりと命令に従っていなくなった。
え?!なんで?!昔やってみても戻らなかったのに?!
俺は記憶を頼りに過去を振り返ってみるが、どうも思い出せん。もしかしてアレか?念じるんじゃなくて普通に口で言えば良かったのか?
そう言えば鳩に対して「戻れ」って念じただけでちゃんと命令した記憶がない。
「ふふふ。ハルヤさんは戻し方が分からなかったんですね。ホッとしました。」
「なんでホッとするんだ?」
「召喚したものをわざわざ倒して戻すのを楽しんでいる変質者なのかと疑ってしまいまして。」
「んなわけねぇだろ!!」
でも傍から見たら召喚獣を出しては倒してを繰り返し行う姿は狂気に見えたことだろう。
そう思うとジャイコフとラエラも若干ホッとしているように見えてきた。先ほどの俺の行動に引いていたのだろうか。
ダメだ。恥ずかしい。さっさとこの話題から切り替えよう。
「これ以上この話はなしだ。俺は変質者じゃない。分かったな?さぁこれで準備は整った。さっさと戦場に行こうじゃないか。時間もないことだし!」
この話はこれ以上引っ張りたくない。それになにより今は急ぐことが大事だ。両国がぶつかり合うまでに行かないと大変なことになってしまうから。無駄話をしている暇はない。
「私の【王の間】に時間経過hグフッ!!!」
「そうですね!勇者様の言う通り時間が惜しいです!サッサと向かいましょう!」
ジャイコフが何かを言いかけていた気がするが、ラエラが殴ったおかげで何も聞こえなかった。
ありがとうラエラ。あなたの優しさが心にしみるよ。
俺たちは【王の間】から出てすぐに館の外に出ていく。
イッポン国と違って何も対策をたてていないが普通に出ることが出来た。本当に誰が何をしようが自由なんだな。
「さて、準備はいいな?」
俺はドラゴンを再び召喚する。結構魔力を消費するが、まだまだ魔力には余裕がある。
魔力の回復速度も速いしな。使役中に魔力が尽きることはないだろう。
俺たちは全員でドラゴンに乗る。
きっと傍からみたら随分カッコいい絵になっているんじゃないだろうか。写真に撮っておきたいぐらいだ。
「勇者殿!預言者殿!ラエラ!此度の戦争を止めるために力を貸してくれ!」
外に出たからかジャイコフは王子としてふるまっている。仮面をつけるのが上手だな。
俺たちはドラゴンに乗って戦場に向かった。
にらみ合う両国。来た時と何ら変わりはない。
どちらが先に動くかと牽制し合っているようだ。
時折魔法が飛んだり矢が飛んだりしているがまだ本格的な戦には発展していない。
俺たちはドラゴンに乗って両国のにらみ合いの真ん中あたりに行くことにした。
流石に危険なのと動きがあった時に見やすいという理由から地面に降りることはしないが、それでも両国の人たちがこちらを見ることが出来るぐらいまで地面に近づいていく。
「イッポン国の者たちよ!ゼロホン国の者たちよ!聞くのだ!」
ジャイコフの声が周囲に響き渡る。ちなみに【音魔法】Lv.5の【ビッグボイス】を使用しているので恐らくこの辺一帯にいる全ての人に声が届いているはずだ。
「私はイッポン国王子のジャイコフ!そしてここにはゼロホン国の姫ラエラ!さらに勇者ハルヤと預言者エリーがいる!」
俺たちの声で両国の人たちがザワザワし始めた。突然のドラゴンの来訪に王子や姫、そして勇者と預言者という存在に驚いたようだ。
「今この国は魔人の魔法によって互いの嫉妬の心が敵意に変えられている!我々が戦っている今はまさに魔人によってもたらされたものに過ぎん!我々が戦うべきは両国ではない!諸悪の根源である魔人と戦うべきなのだ!」
ジャイコフの大音量の訴えは確かに耳に届いているはずだ。だが両国の人たちの反応は良くない。
「何をやっているのだ王子!魔人よりも今はにっくきゼロホン国を倒すべきだ!」
「魔人だとぉ?!んなもんどうでもいいんだよ!イッポン国を倒してから考えりゃいいじゃねぇか!」
全く聞き耳持たずって感じだな。まぁこの辺は予想できていた。今の感じでは魔人の動きはなさそうだな。やはりラエラに頼むしかない。
「ラエラ。危険かもしれないが、任せていいか?」
「もちろんです。私はそのために来たのですから。」
ラエラは人々の前に立った。
その顔はどこか不安げで、だが深い慈愛が見える気がした。
「皆さん。私はゼロホン国の姫ラエラです。私は今皆さんを襲っている敵意の波に心を痛めています。」
ラエラの語り掛けはとても優しいものだった。
突然のラエラの声に両国の民が驚いている。だが驚きはゼロホン国の方が大きいようだ。
「姫さんって喋れたのか・・・?」
「あの無口な姫さんが喋ってるぞ!」
「俺は姫さんの声を初めて聞いたよ・・・。美しい声だなぁ。」
ゼロホン国の人々はどうやらラエラの声を聞いたことがなかったようだ。なぜだ?
「ジャイコフ、どうしてラエラの声をゼロホン国の人々は聞いたことがなかったんだ?」
「あぁラエラの【博愛】というのは話せば話すほど相手の心を動かしてしまう能力だ。愛に生きられるようになるとは聞こえはいいが、要は洗脳に近いからな。ラエラは自分の力の大きさを恐れ、あまり話したがらないのだ。そのためゼロホン国では「無口の姫」で通っているはずだ。」
「なるほど・・・だからさっき王子は止めようとしてたのか。」
「うむ。ラエラも自分が【聖女】であることはほとんど誰にも話していない。混乱も大きいだろう。故に危険だと思ったが・・・それでもラエラは立ち上がったのだ。今は見守らねばな。」
王子はとても温かい目でラエラを見守っている。王子を殴りまくって気の強い人なのかと思ったが、スキルの制約を自分に課したからこそ王子にだけは甘えてああなっていたのかもな。
何にせよ。今は王子の言う通りラエラの頑張りを見守ろう。
「私たちはよりよく生きられるように、互いに自分たちの信念を持って生きてきました。それはとても素晴らしいものであり、そこにある喜びを私たちは受け取ってきたことでしょう。その素晴らしさを誇り、相手の国よりも自らの国が優れいてると考えてきました。」
これだけ歪な両国の信念だ。果たしてそこに喜びはあったのだろうか。実際のところは分からない。それでも相手の所よりは優れていると考えたくなるものだろう。近ければよりそうなる。
「けれど同時に私たちは互いの国を羨んでもきました。もっと自由に、もっと不自由に。わがままに。真面目に。もっと豊かに生きたいと願い続けた私たちだからこそ互いを羨んでもきたのです。」
そうだ。この両国は正反対であるが似ているんだ。互いに良く生きられるようにと願い、その結果が両極端になっただけで。根本にあるものは同じなんだ。
「今私たちはその羨んだ心を魔人に手によって敵意に変えられてしまっています。そのことが、私たちが互いに認め合っていたことをも示しています。」
元々あった敵意。それは嫉妬だ。嫉妬がいつの間にか敵意に変わっていく。それはよくあることと言っていいだろう。でも結局、嫉妬をしているということは相手を認めているという事でもある。
「私たちは長い間敵対してきました。近くにいたからこそ、相手をよく知っていたからこそ敵対してきたのです。私はそのことを攻めようとは思いません。敵を作ってしまうことはよくあることです。けれどもそこに留まり続けることは非難せざるを得ません。」
敵対しても憎んでも責めないか。博愛の聖女らしいな。
「誰かを妬むこと、憎しむこと、怒ることは、とても辛いものです。その感情は私たちの心に大きな大きな影を作ります。私たちは両国が今のままの関係であり続ける以上、その痛みを抱え続けなければなりません。」
そうだ。負の感情は思ったよりも苦しい。
「私は皆さんに愛を語りに来たのです。【博愛】それが私に与えられた力です。互いに違っていいじゃありませんか。相手の良いところがあるならそこから学べばいいじゃないですか。私たちは愛をもって、互いを受け入れ合う時期がやってきたのです。それこそが私たちは最も良く生きられる方法でしょう。」
相手の良いところを学んでいく。それは簡単そうに見えて難しいものだ。
「私たちはどちらが優れた国であるかを決める必要などないのです。どちらも素晴らしい国だからこそ、認め合うべきなのです。
イッポン国もゼロホン国も素晴らしい国。そのことは私とイッポン国の王子ジャイコフが自信を持って証明できます。互いに素晴らしい。だから私たちはその素晴らしい部分を学び合い、もっと素晴らしい国を作れるはずなのです。」
この人の言葉からなら、もしかしたら両国は互いを認めて歩んでいけるのかもしれない。そう思わせるほどに、今この場所は博愛で満たされている。
戦うんじゃない。憎むんじゃない。愛に生きるのだ。そう思わせる何かがこの空間には充満している。
ラエラの演説を皆が聞き入っていた。俺もいつの間にか聞き入っていた。
まさに【聖女】だ。その神々しさに俺は魅入られていた。
きっとここに集う人たちも同じ感情を抱いていたのだろう。あちらこちらから声が聞こえてくる。
「私たちは・・・何をやっていたんだ。」
「互いに受け入れ合う時期・・・か。確かにそうなのかもしれないな。」
「ゼロホン国の人間だって悪い奴ばかりじゃない・・・。」
「イッポン国の奴とだって仲良くはできるんじゃねぇか・・・?」
段々と敵意が薄れてきている。俺には相手の感情を推し量る能力なんてものは備わっていないが、そんな俺でも分かる。明らかに雰囲気が変わった。
もう戦う必要はない。そんな雰囲気があたりに立ち込めた時だった。
「でもやっぱりイッポン国の奴らは許せねぇだろ。」
そんな声が俺の耳に聞こえてきた。
多くの人の感情が変わっていったからこそその異質な声が俺の耳まで届いたのだ。
見つけたぞ。
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名前:フッカ
種族:人大魔人
その見た目は人間に近くただ立っているだけでは違いは分からない。言葉を巧みに使い相手の感情をコントロールすることに長けている。嫉妬の感情に苛まれることが多い小心者。他人にもその苦しみを植え付けようと常に考えている。
状態:正常
体力:5198
魔力:8417
筋力:4073
防御:4634
敏捷:6916
知力:8883
【共通スキル】格闘術Lv.8、時空魔法Lv.7、火魔法Lv.9、隠密Lv.MAX、気配偽造Lv.MAX、強化魔法Lv.8、支援魔法Lv.9、魔力回復速度上昇Lv.MAX、体力回復速度上昇Lv.MAX、瞑想Lv.7、溜め時間省略Lv.8
【固有スキル】言霊、流行、嫉妬
言霊
相手の持っている感情を言葉によって別の感情に塗り替える。消費魔力によって相手に新しい感情を植え付けることも可能。関連性の低い感情に塗り替えようとするほど消費魔力が高くなる。全く反対の感情に変えることは不可能。
流行
自分の発した言葉が流行していく。その言葉に込められた能力も同時に拡散されていく。
嫉妬
嫉妬する対象に対して強い敵意を抱く代わりに力を得る。
魔力を消費することで自分以外を対象とすることも可能。
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