王子と姫
殴るラエラに喜ぶジャイコフ。
愛の形は様々であるが、ここで二人の世界を作り出され続けても困るので話を進めさせてもらおう。
「えーと。ラエラにジャイコフ?話を進めてもいいか?」
「おぉ勇者殿。すまんすまん。つい再開の喜びで我を忘れてしまっていたよ。」
ジャイコフは本当に我を忘れている。いやこの場合は殴られて喜んでいる姿の方が素の状態のようだから、仮初の姿に戻ったと言った方が良いだろうか。
ラエラも俺たちに気が付いたようで恥ずかしそうにしている。
「ラエラ、こちらの二人は勇者ハルヤ殿と預言者のエリー殿だ。今この島を覆っている暗闇はどうやら魔人のせいであるらしい。この度はこの島を救うため魔人討伐にやってきてくださったのだ。」
ラエラは勇者と預言者に驚いているようだがすぐに王族らしく丁寧なあいさつで返してきた。
「・・・勇者様、預言者様。この度はゼロホン国へお越しいただき誠にありがとうございます。私はゼロホン国の姫であるラエラ・ゼロホンです。」
少し間を置いて呼吸を整えるようにして挨拶をしたラエラはまさに姫と呼ぶにふさわしい礼をとっているが、悲しいかな、先ほどジャイコフをぶん殴る姿が目に焼き付いてしまったからか、どうも姫とは思えない俺がいる。
「改めまして俺が勇者ハルヤ。こっちが預言者のエリーだ。」
俺とエリーもラエラに礼をする。一応王族だから礼節をもった方がいいのかもしれんが、いきなり人をぶん殴る人だ、もうそういうのは関係ないだろう。
「それで早速本題に入りたいんだが・・・この国に魔人はやってきたか?」
「魔人ですか?全く分かりませんね。話を聞いたこともありません。」
「やはりそうか・・・それじゃあ三日前から戦争状態に突入したという事だがどういった経緯だったんだ?」
ラエラはあまり思い出したくないのだろうか思案顔をしながらも淡々と話始めた。
「そうですね。三日前に空が暗くなったと思ったら、しばらくしてから急に父が戦争に行くと叫び初めまして。周りの者も皆同調して誰も止めぬまま戦争状態に入っていきました。・・・私は怖くて止めることすら出来ずに・・・申し訳ありません。」
悲しそうな表情がこの人の優しく愛情深い部分を伝えてくる。
その優しさに感化されたのかエリーもラエラに優しく語り掛けている。
「それはしょうがないことでしょう。大勢の前に一人の声など無力ですから。」
「そうだぞラエラ。僕も怖くて黙るどころか同調して煽っていたからな。むしろ僕の方が罪深いさ。」
「あなたと一緒にされても嬉しくないわよ!」
そう言ってラエラはジャイコフを再び殴る。さっきちょっとでも優しく愛情深いと思った感情を返して欲しい。この二人のやり取りは放っておいて話を進めていこう。
「それで俺たちは戦争を止めるために魔人を倒さなければいけないんだが・・・何か手掛かりはあるか?」
「手がかり・・・ですか。そうですね。恐らく魔人の能力は私たちの心に干渉する能力があるようです。」
「それは状況から分かるんだが・・・何か確信できる情報があったのか?」
なぜ確信を持っているのか不思議に思っているとジャイコフが教えてくれた。
「あぁそうか!勇者殿!ラエラのステータスを見ればよく分かるぞ!」
「え?ステータス見ていいのか?」
「あぁ!きっと大丈夫だ。」
ラエラは【鑑定】を知らないので何を言っているのかという雰囲気を出しているが、王子の許可が出たしな。鑑定しちゃえ。怒られたら王子に全て擦り付けよう。
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名前:ラエラ・ゼロホン
性別:女
年齢:18
職業:聖女
状態:正常
称号:ゼロホン国の姫
レベル:20
体力:320
魔力:145
筋力:295
防御:299
敏捷:172
知力:170
スキル:
【共通スキル】
格闘術Lv.6、剣術Lv.5、弓術Lv.7
手加減Lv.5
筆記Lv.4、作法Lv.5、調理Lv.7
【固有スキル】聖女パック
博愛
愛をもって語れば語るほど相手は自分に対して柔和な印象を受けるようになる。同時に語られた人間は愛情深い思考を抱きやすくなる。
カウンセラー
相手の心理状況を把握しやすくなる。さらに相手にとって精神的に良い状態になるための対応が上手になる。
自己防衛
武術系スキルが成長しやすくなる。代償として魔法は覚えられない。
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「【聖女】・・・だと?」
まさかの職業にビックリした。見た目キツそうでジャイコフを殴りまくっているこの人が【聖女】だとはな。
俺のつぶやきに対してラエラはとても驚いている。
「わ、私のステータスを見れるのですか?!」
そう言えば勝手に見たんだったな。流石にまずかったか?
何だか怒ってるし王子のせいにしとこう。
「俺は【鑑定】というスキルもっているので他人のステータスを見れるんだ。ジャイコフ王子が良いって言ったから見させてもらった。」
「あなたは何を勝手に許可出してるのよ!乙女の個人情報見られたのよ!」
「えぇ?!でものぞき見されるみたいで嬉しくない?!」
「嬉しい訳ないでしょ!!」
おぉ、今度は蹴った。中々いい蹴りだな。流石格闘術の使い手。王子は王子で「ありがとうございます」って。ダメだ。聞かなかったことにしとこう。今後まともに顔を見れなくなる。
ただ【手加減】のLv.が高いのはいつもこうやって手加減して殴ったり蹴ったりしてるからかな。何だかんだ仲いいな。
「それで、私のスキルが分かったということですよね?」
「あぁ。つまり【カウンセラー】のスキルで人々の感情が動いたことが分かったってことか?」
「えぇ。そういうことです。あの時は人々の抱えていたある感情が反転するように敵意になっていきました。」
「ある感情・・・?」
「嫉妬です。」
「嫉妬?それはつまりゼロホン国の人間がイッポン国の人間に嫉妬してたってことか?」
「えぇ。実は以前からその感情はかなり強く表れていました。」
おいおい。何だよそれ。ゼロホン国はイッポン国に嫉妬してたのか?ということはイッポン国でも同じようにゼロホン国に嫉妬してた・・・?どういうことだ?
「恐らく嫉妬を敵意に変える魔法が発動した結果、周囲の人々は戦争に踏み切ってしまったのではないかと思います。」
「うーん。両国は互いに嫉妬し合っていたのか?」
「私はゼロホン国のことしか分かりませんが・・・嫉妬の感情は確かにありました。いつもゼロホン国は無法地帯ですからね。息苦しかったのでしょう。」
「自由な国なのに息苦しいってのも変なものだな。」
「この国は法やルールはありませんが、それは同時に安全が保障されていないという事です。常に何かに脅えて、常に自分しか頼れず、常に気を付けなければならない。そんなもの、全くもって自由ではないのですよ。」
何にも縛られない国なのに、全くもって自由ではない・・・か。不思議なものだな。
「ということは、ジャイコフとラエラは互いに嫉妬していなかったという事か?」
「そうだな。私は特に嫉妬することはないな。互いの国を良くしようと考えていたし、互いの国の欠点もよく知っていたから。嫉妬など起こるはずがない。」
「そうですね。私もジャイコフと同じです。ゼロホン国もイッポン国も根本的におかしいのに、それが伝統になりいつの間にか抜け出せなくなってしまいました。そのような国に対して嫉妬するという事はありません。」
なるほどなぁ。そりゃ互いに悪口言い合ってたら嫉妬するわけないか。
となると嫉妬というのが一つのキーワードになって戦争が起こっていると。それを誰も止めなかったと。
どんだけ互いに不満抱えてたんだよ。隣の芝は青く見えるとはよく言うが、ここまでかねぇ。
「とりあえずどんな魔法なのかは何となくわかって来た。問題はこれからどうするかということだ。肝心の魔人の手掛かりが何もない。」
魔法について分かったところで、肝心の魔人の居場所は何一つ分かっていない。
どうやって見つければいいんだろうか。悩んでいると打開策をラエラが提案してくれた。
「勇者様であればその魔法の発生したタイミングであれば気配を探ることは可能でしょうか?」
「そりゃあ発生したタイミングであれば察知することはできると思うが・・・もう起こったことに対しては探ることはできないぞ?」
鑑識みたいに起こったことを探ることが出来れば便利なんだがなぁ。残念ながら過去にそういう能力を手に入れられないかと頑張ってみたが無理だった。勇者は器用だが全能ではないからな。
「ならもう一度相手に魔法を起こさせれば良いのではないでしょうか?」
「もう一度?どうやって?」
「私はカウンセラーですし【博愛】の持ち主です。大声で語り掛ければ何人かは敵意から逸らせることができるのではないかと。」
敵意を取り除こうとすれば自ずと魔人側も動く可能性があるということか・・・確かにそれはいい作戦かもしれない。だがジャイコフはラエラが戦場に立つのが不安なのかどこか反対の意思を持っているようだ。
「ラエラよ!そんなことをして大丈夫なのか?!」
「えぇ。今は国のピンチだから。危険だとかそういうのは言ってられないわ。それにあなたより強いから大丈夫よ。」
「うむ・・・だがなぁ。」
「もう!心配性ね!私が大丈夫と言ったら大丈夫なのよ。」
ジャイコフはどこか不安げだが、現状それ以外の作戦が思いつかない。魔人がどこに潜んでいるか全く分からないからな。
「俺はいい作戦だと思う。危険もあるだろうが俺は結界魔法も使えるしそこまで戦場に近づかなくても声を届ける方法があるから安心しろ。だからその作戦でいこう。」
「ありがとうございます勇者様。ちなみにどのようにして近づくのですか?」
「勇者殿は【浮遊】というスキルを持っているのでな。空を飛ぶことが出来るのだ。私も先ほど【浮遊】で連れてきてもらったが大変貴重な体験であったぞ!」
「【浮遊】ですか?!勇者様はそんなことまで出来るのですか?」
「そうだぞ!勇者殿は便利なのだ!」
「あ、あなた失礼でしょ!勇者様に対して便利なんて!」
「便利」と言い放ったジャイコフをラエラがぶん殴っている。
今までこのことを咎めてくれる人は誰もいなかったのに・・・あぁ博愛ってすごいな。こちらまで愛情深くなりそうだ。
それにしても【浮遊】かぁ。俺が上空からぶら下げて語るのもいいのかもしれないが・・・どうなんだろうか。
流石に戦争中の人々に俺と姫二人ではちょっと不安なので王子にもついてきてもらいたい。だが王子と姫の二人が宙ぶらりんになっているのは流石にカッコ悪すぎる。かといって俺の背中に乗ってもらうのも俺がカッコ悪すぎる。
なら・・・やっぱりあの魔法試すしかないかなぁ。
「・・・分かった。でも俺の【浮遊】で行く前に一つ試させてほしいことがある。」
そう言って俺はかつて諦めた【召喚魔法】を試していく。
まだLv.1だから鳩が出てきた。
「勇者殿・・・流石にそれでは飛べないのではないか?」
そりゃそうだ。こんな鳩じゃあ流石に無理だ。俺はなるべく鳩を見ないようにすぐに火魔法で倒す。
そして二回目には既にLv.4に上がっている。そこで俺はLv.4の召喚魔法で狼を召喚することが出来た。
そんなこんなで魔法を繰り返し俺はスキルLv.を上げていく。
デカい魚。大きな鳥、バカでかい象。
途中出てきた大きな鳥ならいけるかと思ったが、大きさ的に三人を乗せるのはまだ不安がある。Lv.上げ続行だ。
召喚獣たちを召喚しては物理的に消してを繰り返し、ついにLv.9でお目当ての召喚獣が出てきた。
・・・やっぱりいたんだ。きっと召喚できるんじゃないかと試して良かった。
俺の魔法によって呼び出された召喚獣は俺に頭をひれ伏している。
俺は何とも嬉しくなりソイツの頭をなでてやる。相変わらずデカいな。この種族のモンスターは。
俺は嬉しい気持ちを持っていたが、ジャイコフとラエラは完全にビビっている。
「「ド、ドラゴン!!!!」」
そうだ。ドラゴンなら背中も広いし格好もつくだろう。
ドラゴンバスターズの面々に竜騎士なんてあだ名が付けられていたが、俺こそが本物の竜騎士だ。
なんせ生きたドラゴンを使役できるんだからな。
「ゆ、勇者殿、まさかこれに乗っていくのか?!」
「あぁそうだ。こっちの方がカッコいいからな。」
「か、カッコいいって・・・」
「俺に吊るされるよりはこっちの方がいいだろ?」
「私は吊るされる方が・・・」
あ、ジャイコフが何かを言いきる前にラエラにぶん殴られてる。そうだな。今の発言は聞きたくないよな。恋仲ならなおさら聞きたくないよな。
「勇者様ありがとうございます。この見た目であれば人々の注目をひくことも出来るし、素晴らしいと思います。流石は勇者様ですね。」
ニコリと笑いながらラエラは肯定してくれる。
さっきぶん殴る光景さえ見てなければ好きになっていたかもしれない。いや、ここまで来たらぶん殴られるのも愛情表現の一種として受け入れられるんじゃないだろうか。
「ふふふ。ハルヤさんはドラゴンまで使役できるんですね。」
「え?あぁ、今やってみたら出来ただけだけどな。」
「なるほど。では今まで浮遊で私を背中に乗せていたのは選択肢があるにもかかわらずあえてそうしていたと。」
「違う!今ここにきて閃いただけで・・・!」
「ふふふ。ハルヤさんも変わった愛情表現をなさるのですね。」
「俺を王子と一緒にするな!!」
愛の形は様々だが、あくまでも愛の形であって。俺たちにそんな表現は似合わないだろう。




