イッポン国
わけのわからない二人組に会い、この島国はわけのわかわらない二つの国があることが分かった。
とりあえず魔人がいることと何らかの工作を行っていることも分かったが、魔人がどこにいるのかはわからない。
となると情報収集するしかないだろう。
「さて情報収集したいところだが・・・どっちの国から行こうかな?」
「どちらでもいいのではないですか?」
「そうなんだが・・・よしイッポン国の方から行ってみよう。」
「決めた理由は?」
「ゼロホン国怖そうだし・・・。」
「ふふふ。ハルヤさんって世界で一番強い人のはずなんですけどビビりですよね。」
「ビビりっていうな。慎重だと言ってくれ。」
とにかく目的地はイッポン国だ。といってもどこに何があるのかは分からないのだが、デカい建物目指せば大体偉い人の所にいけるはずだ。
そう考えてイッポン国の方向に飛んでいく。
しかし、見当違いもいいところだった。デカい建物を探すどころではない。
上空から見ればその統一感に驚かされる。
どの建物も全く同じ建物なのだ。真っ白に統一された街の中に豆腐のような建物が並んでいる。
何とも面白くない建物であるが、それがこうも同じ建物だらけになるとかえって面白い光景である。
畑や何かの作業場だろう家以外にも建物はあるがそれらも非常に統一感があり、国全体の秩序が統一されていることがよく分かる。
「当てが外れたな。全部同じとか・・・どうすりゃいいんだよ。」
「ここまで統一されていますと、美しさもありますがかえって不気味ですね。」
「そうだなぁ・・・ん?あれは?」
街をよく見ていると、一軒だけ違う形の建物を見つけることができた。
そこそこ大きい立派な建物だ。あまり派手な見た目ではないはずなのだが、一軒だけ違う形という事でものすごく目立っている。恐らく特別な誰かがいるはずだ。
俺はさっさとその建物を目指すことにする。
目の前まで行くと思ったより大きな建物だった。
門も備え付けられ門番もいる。恐らく重要人物がいるのだろう。
「すみません。」
「む?どちら様ですか?」
「俺は勇者のハルヤです。そしてこっちが預言者のエリー。今上空を覆っている暗がりを生み出している魔人を討伐するため各地を旅しています。」
「勇者ですか?!今しばらくお待ちを!」
そう言って門番は中に使いを出す。しばらく待っていると中に通してもらえた。
中に入るとこの国全体の特徴であるのだろう統一性の高さにやはり驚かされる。
建物の中は全てシンメトリーになっていて色も統一感がある。美しいが、面白みはない。
俺たちはボンヤリ建物の中を見ているとひとりの人がやってきた。
「勇者様、預言者様。この度はイッポン国にお越しいただき誠にありがとうございます。現在王はゼロホン国の討伐のため不在ですが、王子がおられますのでこちらにお越しください。」
俺たちは二階に備え付けられた広い部屋まで連れていかれた。
王子か。そこまでの大物は初めて会うんだけど・・・大丈夫かな。
領主とかとは訳が違うからな。あまり不敬なことをしないように気を付けよう。
俺は少し背筋を伸ばして王の間に入っていく。
後ろからクスって笑う声が聞こえた気がするが、今は構う場面ではない。放っておこう。
中に入ると、王の間と呼ぶにふさわしい大きな部屋になっていた。そこには偉そうな感じの人たちが何人も立っていて、その中央にある椅子の前にちょっと豪華な装いの、しかし至って平凡な顔をした青年が立っていた。きっと彼が王子なのだろう。
とりあえず俺は王子の前に行き片膝をつき礼をする。
未だに仰々しいのは慣れないし合っているのかもわからんが、こちらの誠意は伝わるだろう。
「勇者殿、預言者殿。この度は我が国へお越しいただき感謝する。」
返事した方がいいのか?でもなんて返せばいいのか分からん。こういう時は黙るに限るな。
「さて、この街を魔人が襲っているという事だが・・・残念ながら魔人のことに関しては我も分からない。協力できずに申し訳ないな。」
「いえ、それを探すのが私たちの役目ですから。大丈夫です。それで少し質問をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ふむ、我に応えられるものであれば何でも答えるぞ。」
「実はここに来る前にイッポン国の兵士に会ったのですが、三日前に急にゼロホン国の討伐に動いたと聞きまして。どのような事情があったのでしょうか?」
俺が質問をすると王子は目を見開いた。
「・・・ふむ・・・そうだな。」
そう言って王子は僅かに魔力を込め始めた。気配察知の高い俺だから気づけるレベルだろう。
なんだ?何する気だ?
危機感を感じた俺はとっさに構えた。
魔力を練り切ったのだろう王子の魔法は発動した。
構えていたが魔法が飛んでくるということはなかった。
だが、いきなり俺はよく分からない空間に飛ばされた。
・・・先ほどまでは王の間にいたはずなのに、気が付くと今は四角い部屋にいる。一体どこだ?
そこそこ大きい部屋だが、不思議な事に出口も窓もない。ただただ無機質な椅子と机と奥の方にベッドがあるだけだ。
そしてその椅子には王子が座っていた。先ほどまでたくさんいた偉そうな人たちも、そしてエリーもいない。
「ふむ。無事に発動できたな。」
やはり王子の魔法によるものか、俺たちに何をする気だ?
「一体、何をした?」
俺が剣を構えると、王子は普通にビビっている。
あまり戦おうという雰囲気ではない。むしろ申し訳なさそうに事情を説明してくれた。
「ああいや、驚かせてしまってすまなかった。これは私の【王の間】というスキルでな。ここであれば何物にも邪魔されずに話すことができる故、腹を割って話すにはちょうどいいと思い使わせてもらったよ。」
【王の間】だと?ということはこの人は職業が【王】なのか?
向こうがいきなりスキルを使ったんだ。俺だって使っていいだろう。俺は王を鑑定する。
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名前:ジャイコフ・イッポン
性別:男
年齢:19
職業:王
状態:正常
称号:イッポン国王子
レベル:24
体力:184
魔力:393
筋力:107
防御:490
敏捷:96
知力:365
スキル:
【共通スキル】
剣術Lv.3
筆記Lv.7、作法Lv.7
【固有スキル】王パック
統治
国を上手く統治することが出来る能力。国民感情の理解、経済流通の把握、災害の危機を事前に察知しやすくなる。
戦況理解
同族との戦争の際に発動可。
戦況を理解し的確な行動を選択しやすくなる。
王の間
魔力を消費することで発動可。一日に三度まで発動可能。
自分の他に3名までを対象に時間経過の存在しない別次元に作り出す空間に呼ぶことが出来る。
断罪
自分が統治者であり、なおかつ自らの治める国内において10万人以上の自国の民が半径5キロ以内に集まることによって、一日に一回だけ発動可。
過半数の人間が対象者の処刑を希望する時、能力・スキルに関わらず対象者を一撃で殺すことが出来る。
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やはり【王】だったのか。それで王の間に連れてこられたのか。
だが危険ではなさそうだが・・・なぜこんなことを?
「む?何をしているのだ?」
俺の【鑑定】は目が光るからな。警戒させてしまったようだ。
「すまない。突然のことで驚いてしまい、相手のステータスを見る【鑑定】というスキルを使わせてもらった。」
「ほう?随分優秀な能力であるな!ということは私のスキルについては理解いただけたかな?」
「あぁ、今俺たちは王の間にいるということはわかった。だがなぜこんなことを?」
「それはな・・・あの場では話せないことがあるからだ。」
そう言って王は先ほどの俺の質問に答えてくれた。
「先ほど申しておった、三日前から突然戦争が起こったということだがな、事実であるよ。空が暗くなった当初は焦りはしたが落ち着いて対処していた。だが父が突然「ゼロホン国を討伐する」と言い始めてな。さらに周りの者もそれに同調するようにして戦争に動いていったのだ。」
「なるほど・・・それをなぜあの場では言えなかったんだ?」
「これは明らかにおかしい侵略行為だ。これまでゼロホン国とは仲が良かったわけではないが、いきなり戦争を起こすなんてことは考えにくい。だというのに周囲の者も国民も誰も反対しなかったのでな。私は怖くて話を合わさざるを得なかったのだよ。」
「つまり王子だけがゼロホン国との戦争に反対していると?」
「あぁ、そうだ。私以外はまるで何かに執りつかれたように戦争に積極的だったのだ。全くわけが分からない。」
うーん。やはり魔人の仕業であることは確実なのだが・・・なぜ王子だけは反対したんだ?【王】という職業はそういった精神への干渉も受けにくいのか?いや、実際の王も戦争に加担したんだったな。じゃあ違うか。
よく分からないが、とりあえずこれ以上は王子と話しても魔人の情報はなさそうだな。
というかさっきから王に対しての礼儀とか忘れていたけど、向こうも怒ってなさそうだし、もうこのままでいいか。
「魔人が何らかの細工をしたことは確定だが、実際にどこで何をしているかは分からないな。とりあえずゼロホン国にも行って話を聞いてみるよ。」
「うむ。この国の民の為に助力していただき感謝する。」
「では、ここから出していただけますか?」
「あぁ、そうだな。だがもう少し話をしてもいいだろうか?この空間は時間が経過しない。この国についてと今後のことについてもう少し相談があるのだ。」
時間が経過しないの?滅茶苦茶便利だな。まぁそういうことなら良いだろう。
「時間が経過しないというなら構わないよ。」
「ありがとう。それで一つ聞きたいのだが・・・この国を率直にどう思った?」
王子の前だからあまり失礼になるようなこと言ったらマズイかな・・・。でも向こうが率直にと言うのだから率直に答えてやろう。
「・・・正直言うと変な国だなと思ったよ。」
「ふむ。やはりそうか・・・。」
なんだ王子も自覚があるのか。
「この国については一人の兵士から聞いただけだが、それにしてもこの国は不自由もいいとこだ。何でもかんでも決めてしまうのはやはり生きづらいだろう。」
「・・・そうだな。不自由であることは無責任になれる故に楽な生き方でもある。しかしそこには感情がない。それに全員を平等に扱うために、全ての個を押さえつけるしかなくてな。職業も固有スキルも全て無視しているこの国は、緩やかに衰退していっている。」
そこまで縛ってるのか。でも確かに職業や固有スキルは有用だが個性でもある。
この国の枠組みに取り入れるには難しい部分もあるだろう。
でもだからと言って全部無視するって・・・。
「それって不満とかでないのか?」
「・・・出る前に消されるのだ。」
「・・・え?」
「あまりにも強い能力を抱えた者は国が管理すると言ってな。そのまま他国へ売り払われる。」
「な?!そこまでして秩序って守るべきか?!」
なんだよそれ。ただの人身売買じゃないか!
「この国の民は怖がっているのだ。自分たちの生活に異物が入ってくることが。だからこの国は徹底して平等を貫き、管理し続けているのだ。競争すること、責任を持つこと、悩むこと。本来人間が抱えねばならない世界の不条理から逃げ続けた結果、このような国が出来上がってしまったのだ。」
王子は悲観するように、声を絞り出していた。
「・・・実を言うとな、私の職業が【王】であるということはほとんどの人間は知らないのだ。父にすら伝えていないからな。これまでこの国に【王】が出現したことはない。秩序の乱れとして排除されることを恐れて、ずっと隠していたのだ。」
「この国を良くしてくれるというのに、排除される可能性があるのか?!」
「それがこの国なのだ。」
「・・・狂ってる。」
王子を前にして言う言葉ではないかもしれない。でもやはり狂っているとしか思えない。
「狂っているか・・・。私もそう思うよ。だから勇者よ。私をゼロホン国に連れて行ってはくれないか?」
「・・・逃亡するのか?」
「馬鹿を言うな。私はこの国の王子だ。この国を見捨てられるほど非常な人間ではない。だが、このままでいいと思ってもいない。」
「ゼロホン国に行ってどうするんだ?危険だぞ?」
今は恐らくゼロホン国もイッポン国への敵意で満ちている。そんなところに王子が乗り込んでいったら絶対に危険だ。だというのに王子は覚悟した顔をしている。
「確かに危険であるが、すでに戦いは始まり、これ以上民を危険にさらせるわけにもいかないだろう。それに向こうにも信頼できる人物が一人いる。」
「信頼できる人物?ゼロホン国に知り合いがいるのか?」
「あぁ・・・ゼロホン国の姫であるラエラ・ゼロホンに会いに行く。彼女は唯一私が【王】であることを知っている人物だ。」




