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不思議な島国

俺たちは【浮遊】を使いつつ上空で昼飯を食べる。レイモンド食堂で作ってもらった特製サンドイッチだ。【アイテム】は時間経過もしないので、ふんわりした状態の美味しいサンドイッチを食べられる。やっぱりこっちの世界のパンはうまい。


エリーもすっかり俺の背中の上で食事をすることに慣れてきている。屈辱だが、便利だからしょうがない。


島国に向かう道中は一面海なので暇になる。だが俺としては迷わないように必死だ。目印になるものが何もないからな。

【マッピング】のおかげで来た道を覚えることぐらいはできるが、それでも一面海という視界は何だかんだ怖い。海の上で魔力が尽きて溺れて死ぬなんてことにならないといいが。


そんな俺の必死さが伝わらないのか、エリーはのんきに話しかけてくる。


「ハルヤさん、海というのは空から見るとこんなにも大きく、綺麗なんですね。」


「そうだなぁ。俺も飛行機の中からしか見たことはなかったが、直に見ると感動するな。」


「ヒコウキ・・・って何ですか?」


あぁ、そう言えば飛行機なんてこっちの世界にはないんだよな。最近こっちの世界に染まり過ぎて、俺が異世界人だということを忘れていた。



「飛行機ってのは俺が元いた世界にあった乗り物だ。でっかい鉄でできた乗り物が空を飛ぶんだ。」


「鉄でできた乗り物がですか?とんでもなく魔力を使いそうですね。」


「いや、元いた世界には魔力なんてなかったから電気の力を使って飛んでたんだ。」


「魔力がないんですか?それに電気?ふふふ。ハルヤさんの元いた世界って、何だかおとぎばなしのような世界ですね。」


前の世界がおとぎ話か・・・こっちの世界の人からしたら魔力がない世界というのは想像しがたいのかな。



「俺からしたらこっちの世界の方がおとぎ話みたいなんだが・・・。」


「そうなんですか?だとしたらうらやましいですね。おとぎ話の中に入れたなんて。」


「そうでもないな。おとぎ話も現実になったら何だかんだ大変だ。」


「ふふふ。そういうものですか。」


「あぁ、そういうもんだ。大事なのは自分が今いる世界でどうやって良く生きるかだ。」


「それもそうですね。それに今は目の前にこんなおとぎ話のような光景が広がっているのですから、行けもしないおとぎ話の世界を望むのはもったいないですね。」


目の前に広がる一面の海は、確かにおとぎ話の世界のような光景なのかもしれないな。



無駄話をしながら俺たちは南西の方向に【浮遊】で飛んでいく。次に向かうフォエフォ島は聞いたところによるとあまり他国との交流がない島国らしい。その実態についても知らない人が多く、島にうかつに近づくとすぐに攻撃されてしまうため誰も行こうともしないらしい。


そんなところに行って大丈夫なのだろうか。不安になるが暗がりが消えていないからな。流石に放っておくわけにはいかない。



そんなこんなで飛び続けていると空が暗くなっている場所が見えた。フォエフォ島だろう島国も見えている。

無事にたどり着けたようでホッとする。さて今回の島の様子はどんなものだろうか。




島に近づくとモンスターがはびこっているという状況ではなかった。

ただ一方では武装した兵士たちが、もう一方では武器をもった冒険者たちのような人たちがにらみ合っているのが分かった。


空が暗いという事から魔人がいることは分かっているのだが・・・どうなっているんだ?



いきなりにらみ合っている人のところに突入しても良いことはないだろうから、俺はどこか着陸するのに良さそうなところを探す。



すると兵士と冒険者がいがみあっている場所を発見した。

事情を聴くにちょうど良さそうだな。この人たちの喧嘩を止めつつ、今この島で起こっていることについて聞いてみよう。


俺とエリーは二人のすぐそばに着地した。



「む?何奴だ?!」

「なんだぁテメェらは?!どこから来やがった?!」


にらみ合っていた二人は今度は俺たちに対して睨んできた。


「【浮遊】を使って空からやってきました。」


どこから来たかと聞かれたのでちゃんと説明したのに、彼らはそんな回答を求めてはいなかったようだ。



「そんなことはどうでもいいのだ!」

「てめぇがどこから来たかが問題なんだ!」


「お主はゼロホン人か?!」

「それともイッポン人か?!」


え?何人か?俺って何人なんだ?考えたこともなかった。普段意識していないところを質問されると、人はとっさに慣れ親しんだものを口にしてしまうものだ。



「に、日本人です。」




「二本だと?!」

「0でも1でもなく2本だぁ?!」


「なんたる中途半端な奴め!」

「男なら2つも持ってるんじゃねぇよ!」


「え、いやそういう意味での二本ではなく・・・。」


「貴様は新たな敵であるか?!」

「どっちにも与さねぇって言うのか?!」


「いや、だから俺は・・・」


「男ならイッポンであるべきだ!」

「男ならゼロホンに決まってんだろうが!」

「なんだと?!」

「なにおう?」



「うるせぇよ!!!0だか1だか知らねぇがうるせえよ!俺は勇者だ!この場所を助けにきた!それだけだ!!」


俺は言葉と一緒に近くの森に向かって【光魔法】の光線をぶっ放す。

相手を黙らせるには圧倒的な力で恐怖を与えるのが一番だ。



「ゆ、勇者だと?!」

「勇者ってのは2本なのか?!」


「だから2本じゃねぇよ!日出ずる国って意味で日本って意味だよ!お前らの敵でも何でもない!」


「なるほど、そうだったのか。」

「なんでぇ。紛らわしい名前しやがって。」


そう言って俺への敵対心はなくなったようだ。そのおかげか、また二人の喧嘩に戻ってしまった。



「お主は勇者に対して礼節もわきまえないのか!」

「勇者に礼節をもてなんて習わなかったからな。」

「そんなもん常識で分かるだろう!」

「あいにくこっちの国には常識がねぇからよ!」

「非常識な国め!」

「常識しかねぇ国が!」



「うるせぇよ!!黙れよ!!」


今度は二人の近くに光線を放つ。流石にこれには少しビビったようで、今度こそ沈黙した。


「まず確認したいことがある。この島に魔人はいるか?」


「魔人だと?聞いたことがないが。」

「俺も聞いたことはねぇなぁ。」


という事はどこかに潜んでいるという事か?また魔人探しからしないといけないのか。まぁいい。次にこの国の現状について知らないとな。


「じゃあ次にこの島についてだ。この島には二つの国があるのか?」


「嘆かわしいことに二つあるな。一つでいいのに。」

「まったくだ。ゼロホン国だけでいいってのに、イッポン国なんて訳の分からねぇ国があるからな。」

「邪魔なのはそちらの方であろう!」

「そっちに決まってんだろうが!」


すぐに喧嘩が始まる。どんだけ仲悪いんだよこの二国は。


「うるせぇ!それで、二つの国は仲が悪いのか?」


「当たり前だ!ゼロホン国などと仲良く出来るわけがなかろう。」

「イッポン国なんてこっちから願い下げだよ。」

「何だと?!」

「やんのか?!」


「うるせぇよ!!!!」


もしかして質問するたびに毎回怒らないといけないの?面倒なんだけど・・・。とりあえず片方ずつに聞いていこう。


「いいか。今から片方ずつに質問する。片方に質問している間はもう片方は絶対に黙ってろ。まずはゼロホン国だ。なぜ二つの国は仲が悪いんだ?」


「俺たちはただ自由に生きているだけなのによ。イッポン国がちょっかいかけてくんだよ。だから仲が悪いっつーか正当防衛ってやつだよ。」


「そう言ってるが、イッポン国はちょっかいをかけているのか?」


「そんなわけがないだろう!むしろ私たちこそ生活を邪魔されているのだ!無秩序なゼロホン国のせいで秩序の乱れが我が国にまでもたらされているのだ。」


まぁ互いに責任を擦り付け合うわな。これじゃ原因究明は難しい。どっちかというと無法者っぽいゼロホン国の人の方が悪そうに見えるが・・・イッポン国もちょっと違和感を感じるな。一体どうなってるんだこの二国は?


「ちなみにイッポン国はどういう国なんだ?」


「イッポン国はその名の通り、全てが一本化されている。」


「どういうことだ?」


「つまり全てが規定化されているのだ。朝起きる時間から寝る時間までの行動様式。食べる物から着るもの。働き口からその日の娯楽。全て国から指示される国である。」


・・・は?全て一本化って・・・全部指示されるってことか?!ヤバいだろその国!


「そんなの・・・生きづらくないのか?」


「むしろ他の過ごし方を知らないからな。私からすればむしろ指示がない方が生きづらいように感じるぞ。なぜ朝起きる時間から食べる物、着る物、その日の予定を自分で立てなければならんのだ。そっちの方がよっぽど大変であろう。」


いや・・・そこに対して面倒だと思うことはあるかもしれないけど・・・だからって全部指示されたらかえって面倒だろ・・・。変な国だな。


「それじゃあゼロホン国ってのはどんな国なんだ?」


「俺たちはイッポン国みたいに不自由な国じゃねぇ。むしろこの世で最も自由な国なのさ。」


「ほうほう。」

それだけ聞いたらこっちの方が良さそうだな。


「俺たちの国には法律もルールもねぇ。全て自分たちで考えなきゃなんねぇ。その代わり何をしたって自由なのさ。殺そうが盗もうが誰からも咎められねぇ。」



・・・世紀末じゃん。こっちの方がヤバい国だわ。イッポンもヤバいがゼロホンはもっとヤバい。


「・・・法もルールもなくて退廃していかないのか?」


「へっ。むしろ逆だよ。法やルールで縛らねぇからこそ、何だかんだみんなで助け合っていけるんだ。助け合いっつーのは強制されたり植え付けようとするからダメなんだ。かえって放っておいた方が人間は精神的に成長していくもんなんだよ。」


へぇ。世紀末みたいに荒廃した世界を想像していたけど、意外と何とかなってんのかな。


「勇者よ。騙されるな。ゼロホン国では殺人も窃盗も日常茶飯事なのだ。それが日常になり感覚がおかしくなっているだけだ。」

「あぁ?!テメェ出鱈目言うな!お前らこそ洗脳されてるだけじゃねぇか?!」

「なんだと?!」

「やんのか?!」


また始まった。もう放っておいていいかな・・・。



それにしても自由な国と不自由な国か。それでゼロホンとイッポンね。そりゃ仲良くなんか無理だわ。むしろなんでそんな国が隣り合ってんだよ。


「それで今この状況はどうなってるんだ?いつもこんな感じで戦っているのか?」


「フン!この馬鹿どもを蹴散らそうと三日前にいよいよ我が国が立ち上がってな。戦争が起ころうとしているのだよ。」

「ハッ。むしろ立ち上がったのはこっちの方だよ。三日前にイッポン国のアホどもをぶっつぶそうって皆が一丸になったところだったんだよ。」


三日前・・・ということは魔人による何らかの干渉が起こったという事か?

でないとここまでタイミングよく両国が戦争に踏み切るのはおかしい・・・。


恐らく互いの国に何らかの細工がされている。その結果この戦争が起きているという事だ。

これは早いとこ魔人を探さないといけない。じゃないと戦争が起こってしまうな。



「なるほど。分かった。この戦争は恐らく魔人の力によるものだ。二人とも魔人探しに協力してくれないか?」


「魔人探しだと?!今はゼロホン国との戦いの最中である。そんなものに付き合えるわけがなかろう。」

「ケッ!お前と同意見なのは癪だが、勇者さんよぉ。つーことだから協力は出来ねぇな。」

「魔人のせいだとしても兼ねてからゼロホン国への怒りはあったのだ。どのみち同じ末路をたどっていたであろう。」

「こっちこそテメェらはいずれ倒す予定だったんだ。むしろ魔人が背中を押してくれたって―ならありがてぇじゃねぇか。」



・・・ダメだ。完全に戦う姿勢になっている。これは協力者は得られそうにないな。こうなったら俺たちだけで探さないといけないようだ。この人たちは放っておこう。どうしようもないし。


とりあえずここで戦われても後味が悪いので、武器を取り上げて二人を気絶させておく。

一度やってみたかったんだよね、後ろから首筋にトンってやって気絶させる奴。



実際にやろうとしたら【不殺】で出来なかったので急きょ覚えた【催眠術】で眠らせることになった。やっぱりここはおとぎ話の国ではないな。都合が悪すぎる。




「ふふふ。ハルヤさん、おとぎ話みたいな国に来られましたね。」


「確かにおとぎ話みたいな国ではあるけど・・・。」


「先ほどハルヤさんが言ったように、おとぎ話が現実になるというのは確かに大変なのですね。」


「・・・これはちょっと違うだろ・・・。」

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