ヒーローよりも強い者
魔人ピラクルを倒した俺とテイヘンジャーはボロボロになった教会から出ていく。空はすっかり晴れ渡っていてこの街に平穏が訪れたことを伝えてくれる。
既にモンスターたちは撤退しているようで街も落ち着いていたようだった。
これからどうしようかと考えていると街の兵士たちがこちらに近づいてきているのが分かったのでここで待つことにした。
この気配はエリーもいるようだ。良かった無事だったか。逆転空間で結構強いエリーも弱体化するはずだから何だかんだ心配していたが、安心した。
しばらくすると兵士たちがやってきたので俺たちは無事を伝える。その際にテイヘンジャーの活躍も伝えると驚いているようだったが事情も把握できたようで、皆口々にテイヘンジャーに感謝を伝えている。
どうやら教会に向かう道中でも苦戦する兵士たちを助けたりしていたらしい。突然強くなって戸惑ったけど、ヒーローとして活動していたからか、すぐに動けたのだとか。
あまり褒められ慣れていないからだろうか、みんなに褒められてテイヘンジャーは照れている。でも今はちゃんと受け取っておけ。ヒーローなんだから。
そんなことを考えていると兵士たちの中からアランダさんが出てきた。街は解放されたというのにひどく怒った顔をしている。
「レイル!ピムル!イーラン!あなたたち何やってるのよ!」
「ア、アランダ!」
アランダさんが誰だか分からない名前を叫んだと思ったら、恐らくそれがレッドたちの本名なのだろう。狼狽したレッドたちが返事をしている。
「ここには魔人がいたのよ!!どうしてこんな危ないことするのよ!!」
「いや、弱い私たちこそ必要だと思って・・・それにちゃんと魔人を倒したのだぞ!」
「それでも何の戦闘経験もないあなたたちがいきなり行ったら心配になるに決まってるじゃない!!」
アランダさんはどうやらレッドたちが心配だったようだ。嫌いなのかと思ってたら逆だったとは。
「そ、それでも魔人が倒せたんだぞ?何とかなったんだから良かったじゃないか!」
「だから何よ!危ないことをしたことには変わらないでしょ!!」
何だか子どもと親の喧嘩みたいだな。二人とも何かムキになってる感じだ。
流石に止めないとマズイかな。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて・・・」
「うるさい!勇者様は黙ってて!!」
「はい!!」
怖い。美人が怒ると滅茶苦茶怖い。黙っていよう。
「・・・なぁアランダ。今回のことは確かに無茶をして悪かったよ・・・でも必要なことだったんだ。分かってくれるか?」
「・・・どうしてよ。」
「ん?」
「・・・どうしていつも三人で行っちゃうのよ!!」
「え?いや、俺たちほど底辺な人は他にいないし・・・。」
「そんなのどうでもいいのよ!!なんでいつも私だけ仲間外れにするのよ!!」
え、そっち系の悩みだったの?アランダさんもテイヘンジャーに入りたかったの?
「アランダ・・・?」
「昔はいつも四人で一緒にいたじゃない!なのに私だけ仲間外れにして!三人は勝手にどっか行っちゃって!何よ!アランダの才能は街を守る兵士に向いてるって!そんなのどうでもいいわよ!私は昔みたいに一緒にいたいだけなのに・・・なのに今回は危険なところに三人で行っちゃうし・・・うわぁぁぁん!!」
いよいよアランダさんは大声を挙げて泣き始めた。これには驚くレッドたち。と周りの人たち。見た目凛々しい感じの美人が大声で泣き始めたらビックリするよな。
「アランダ・・・君は優秀じゃないか。君は何にでもなれるんだから俺たちなんかより活躍できる場所に行った方が幸せなはずだよ。」
「どうして・・・どうしてそんなこと言うの?優秀かどうかなんてどうでもいいじゃない!どんなに幸せな環境に身を置けたとしても、そこにレイルたちがいなかったら何にも嬉しくないわよ!!」
「そんなことないよ・・・。」
「そんなことあるわよ!実際に今だってそうよ!!あなたたちのいない場所にいたいなんてコレっぽっちも思わないわよ!!」
・・・後ろで兵士さんたちが苦笑いしている。職場を目の前にして言うセリフじゃないよな。まぁそれだけ感情が爆発してるってことだ。みんなで目をつぶろう。
「俺たちは無能なんだぞ?」
「だから何?そんなの私にはどうだっていい。あなたたちは自分が底辺と言ってるけど、私からしたらあなたたちより一緒にいたい人はいないんだから一番上なの。」
「でも・・・。」
レッドは黙っている。どう答えたらいいのかわからなくなっているようだ。こういう時はやる気があってもどうしようもないんだな。
「・・・そう。わかったわ。」
「アランダ?」
「レイル。私決めたから。私も今日からテイヘンジャーに加入するから。」
「えぇ?!君は私たちとは違うんだからそんなのやめとけよ!」
「うるさい!人の幸せを勝手に決めないで!」
アランダさんは決意に溢れた顔をしている。アレはもう口で言って引き下がる様子ではないな。
「アランダ!考え直せ!俺たちについてきても良いこと何てないぞ?!」
「そんなものついて行ってから確かめればいいわ。」
「えぇ?!」
「うん。決めた。私は今日からテイヘンジャーの猪突猛進レッド。カッコいいわね。そうしましょ。」
いや、カッコよくはないが。今のアランダさんには良く似合う名前だな。
「いやいやいや!そもそもレッドは俺だぞ?!」
「あんたはウジウジブルーね。ろくでなしブルーでもいいわよ。」
「えぇ?!そんなのカッコ悪いじゃないか!!」
「いいじゃない。底辺なんでしょ?」
「底辺は底辺でも俺たちは最強の最弱なんだ!それにヒーローはカッコよくないと!!」
「じゃあヒーロー。カッコよく私の加入を認めてね?」
「うっ!・・・はぁ。昔から変わらないなアランダは。猪突猛進なところも変わらない。」
レッドもいい加減観念したようだ。このアランダさんは止められないと知っているのだろう。
「分かったよ。一緒に行こう。・・・俺たちもアランダがいないのは寂しかったし・・・。」
「分かればいいのよ!」
そう言って傍若無人に笑うアランダさんの笑顔はとても清々しいものだった。レッドたちも困ったような顔をしながらも、何だか嬉しそうだ。
「ふふふ。ハルヤさん、いいもの見れましたね。」
「そうか?痴話げんかなんて見ても良いものじゃないだろ。」
「猪突猛進レッドというヒーローの誕生に出会えたんですよ?」
「それのどこが良いものなんだよ・・・それに俺はさっき教会の中で本物のヒーローに出会ったんだ。そっちの方が良いものだったよ。」
「へぇ。そんなにカッコよかったんですか?」
「あぁ、とてもカッコよかった。だから今俺はレッドを見ないようにしているんだ。」
先ほどの喧嘩の続きで赤とリーダーの立場をアランダさんと取り合うレッドは見事に土下座している。さっきまでのカッコよさが消えそうになるから俺は見ないようにしているのだ。
さて、アランダさんとのひと悶着を終えたところで、俺たちはまたすぐに旅立つことに決めた。もう昼も過ぎてるしな。今日中にもう少し魔人を倒しておきたい。
「勇者殿、世話になったな。」
守護隊の隊長のフィラバルさんが挨拶してくれる。
「いえいえ。むしろ俺はテイヘンジャーに助けられた身ですから。」
「ふむ・・・にわかには信じられんが勇者殿が言うのであれば真実なのでしょう。それでも勇者殿がいたことが心強かったことには変わらん。援軍に感謝する。」
「いえいえ。あ、そうだ。このアイテムバッグを渡しておきます。」
そう言って俺はいつもの援軍パックを渡しておく。中身を説明するとかなり驚いているようだ。
「なんと!これは凄いな・・・。重ね重ね感謝する。それで勇者殿はこれからどこに行くのだ?」
「次はフォエフォ島に向かう予定です。」
「な、なんと・・・あの島に行くのか。あの島は謎だらけだからな、十分に気を付けなされ。」
え、そんな謎多き島なの?ちょっと行くの怖くなってきた・・・。でも放っておくわけにはいかないしな。
フィラバルさんと最後の挨拶を交わしているとテイヘンジャーたちも気が付いたのだろう。こちらに近づいてきた。
「勇者よ!またいつでも私たちの力を望むときは呼んでくれ!その内行くから!」
「ははは!その内かよ。相変わらずやる気だけだな。だがありがとよテイヘンジャー。これからも共に戦っていこう。」
レッドと一緒にアランダさんも一緒にきていた。話はついたんだろうか。
「勇者様。この度は本当にありがとうございました。それに私も吹っ切れることが出来ました。本当に感謝しています。」
「アランダさんもレッドたちと仲良くな?コイツらはやる時はやる奴らだから。」
「ふふ。大丈夫ですよ。私の方が彼らのことは良く知ってますから。」
本当にスッキリしたみたいだ。何だかいい笑顔でレッドたちのことを教えてくれた。
「レイルたちは昔、私が近所の子に虐められている時に助けてくれたんです。」
「へぇ。あのレッドたちが。」
「えぇ。ものの見事にいじめっ子たちにボコボコにされてましたけどね。」
「ははは!そりゃ想像がつくな。」
「でもその時に言ったんです。「見ろ!こんなにボコボコになっても私は笑えるのだ!こんなに弱くとも笑えるのだ!どんなことがあっても心さえ折れなければ、私たちはいつも笑えるのだ!」って。」
へぇ。良いこと言うな。その頃からヒーローへの憧れがあったのかな。
「その頃から私にとって彼らはヒーローなんです。まさかこの年まで続けるとは思いませんでしたけどね。」
「まぁ、確かにそうだな。」
「でもそれが彼らの良いところです。昔っから誰かのためにって行動は変わらない。それを大人になっても持ち続けてる。大人になってもヒーローであり続けるってとても難しいのに、彼らはそれを続けているんです。」
大人になったらヒーローで居続けるのは難しいか。確かにそうだな。自分のことでいっぱいで誰かを助けるなんて忘れちまうもんな。
「ね?私が一番彼らの良いところを知っているでしょ?」
「ははは!そうみたいだな。」
「ですから大丈夫。腕っぷしでも負けないし。彼らを見事に従えて見せますよ。」
「従えるって・・・とても新加入の奴が言う言葉じゃねぇだろ。そういや、あんたの名前は何になったんだ?」
「私ですか?私は総司令官アランダです。」
「え?総司令官?!」
「えぇ。ヒーローを陰から操る本当のリーダーということで落ち着きました。」
・・・なるほど。裏ボスね。何か似合うわ。怖いから絶対に口にはしないけど。
「そうか。これからがんばれよテイヘンジャー。あ、そうだ。勇者たちにも手伝ってほしいことがあるんだが・・・アランダさんに頼んだ方がいいな。」
そう言って俺はアイテムバッグを渡して中身を説明する。
「もし他の街に行くことがあったらこれを使って援軍に加わって欲しいんだ。といっても無理はしなくていい。もし機会があればということで渡しておく。」
俺はアランダさんに渡そうとするがレッドが悲しそうな顔をしているのでレッドに渡しておく。するとレッドはいい笑顔をした。分かりやすいなコイツ。
「ふむ。なるほど。支援物資を運ぶのか。であれば私たちの得意分野だな!」
「そうなのか?」
「あぁ。私は気配察知だけは長けているからな。逃げるのはお手の物だ。それに元イエローがいれば臭くてモンスターも寄ってこない。ピンクはあれでいてなぜか地図を覚えるのが得意でな。故に私たちは物運びが得意なのだよ!ふはははは!」
おぉ、本当に得意分野なんだな。これは頼もしい。
「頼んだぜ、ヒーロー。」
「うむ。任せとけ!ふはははは!」
「じゃあ、俺たちは次に行きたいと思います!ホラムの街の皆さん!気を付けて!!」
そう言って、俺はエリーを背中に乗せて【浮遊】を使う。
「ありがとう勇者殿!!!」
「ありがとうーーー!!」
「勇者よ!!わがライバルよ!!お前の下には我々がいることを忘れるなよーーー!!」
初めて出会った同業者でライバルは、頼もしい奴らだった。
「ふふふ。強力なライバルですね。」
「あぁ、そうだな。負けてらんねぇな。」
「ふふふ。ハルヤさんは大丈夫ですよ。」
「そうか?」
「えぇ。彼らは下にいると言っていましたが、ハルヤさんの方が物理的な面で下にいるのは上手ですから。ふふふ。」
そう言ってエリーは俺の背中をポンポンと叩く。
なるほどね。確かに今の俺は物理的に下にいるわ。
「落とすぞコラァ!!」
「あら?ヒーローがそんなことするんですか?中身まで下になりますよ?」
ぐぬぬ。ああいえばこう言う。今度からコイツのことはブラックと呼んでやる。




