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魔人ダーレル

爺さんは奥にいる魔人ダーレルに話しかける。だというのに魔人は気怠そうにしているだけで反応しない。


「ん?なんじゃって?最近耳が遠くなってのう。もう一度言ってくれんか?」


爺さんのせいじゃないぞ。ソイツさっきから何も言ってないから。

魔人は相変わらず無視を決め込んでいる。


「あのー、そこにいる子はどうしたんですか?」


「ん?そちらはダーレルという者だそうでのう。3日前に迷子という事でここに住まわせておったんじゃ。」


「なるほど。ちなみにその子が魔人です。」


「はて?魔人?聞いたことがない種族だのう。お主そんなに珍しい人だったのか。」


魔人は当然無視を決め込んでいる。もうコイツはそもそも喋る機能がついていないんじゃないかと疑いたくなってきた。



「ふむ。それで魔人とやらをどうするんじゃ?」


「魔人は今この世界を乗っ取ろうとしているみたいなので、倒さなければならないんです。」


「・・・あの子を殺すのか?」


「・・・えぇそうですね。女の子みたいな見た目をしていますが彼女は魔人です。人間たちの脅威ですから倒さなければなりません。」




「そんなことはさせん!!」



爺さんがいきなりキレだした。なんだよ急に怒ると滅茶苦茶ビックリするよ。


「この子が来てから村に元気が出てきたのじゃ!皆笑顔を見れるようになってきたのじゃ!だからこの子を倒すのは許すわけにはいかん!!」


「・・・いや、でもこの子は魔人なので倒さないといけないんです。」


「ならんならん!!そんなことワシは許さんぞ!」


「世界がどうなってもいいんですか?!」


「何かの間違いに決まってる!!その子は魔人なんかじゃない!!」


ダメだ。完全に癇癪を起している。相手をしていてもしょうがないし。こうなったらあれだな、こっそり行くしかない。



そう思って時空魔法で魔人を外に転移させた。生き物を飛ばすのは抵抗されるとかなり難しくなるのだが、魔人があまりにも無抵抗なのでなんの問題もなく出来た。


こっそりやったつもりだったが爺さんにはすぐにバレてしまった。


「な?!あの子をどこにやった!」


「ちょっと外に出てもらいました。」


「どうしてそんな酷いことをするんじゃ!!」


「・・・酷いのはそっちだろ。世界が困ってるんだぞ?」


「何かの間違いじゃ!その子は悪いことなんぞ何もしとらん!返せ!」


そう言って爺さんは俺に殴りかかってくるが、流石に反撃は出来ない。【不殺】とか関係なしに老人にそんなことは出来ないので普通に受け止めておく。



俺は爺さんを一端エリーに任せて魔人の下に行く。

魔人は時空魔法で急に外に連れ出されたというのにのんびり寝てやがる。何なんだよコイツは。


「おい魔人ダーレル。起きろ。この村で何してたんだ?」


・・・一回じゃ何の返事もなかった。奴の肩を掴みブンブン振り回したて何とか起こした。

スゲー面倒くさそうな顔してるが、とりあえず起きたからいいだろう。



「この村で何してたんだ?」


「・・・時間稼ぎ。」


「はぁ?時間稼ぎ?どういうことだ?」


「・・・さぁ?知らない。」


時間稼ぎだと?これから誰かが来るってことか?よく分からん。

と考えているとコイツまた寝ようとする。待て待て寝るな!俺は再度肩を掴み魔人に問いかける。



「時間稼ぎってことはこの後誰かがここに来るのか?」


「・・・さぁ?聞いたことない。」


うーん。ってことは誰もこないのか?コイツが嘘をついているようには見えないが魔人だし油断は出来ないよな。


「ならなんのための時間稼ぎだ?」


「・・・だから知らない。他の魔人から時間稼いどけって言われただけ。」



コイツは本当に何も知らなそうだ。うーん。とりあえずこの村で何してたのか聞いておくか。


「この村で何してたんだ?」


「ご飯食べて寝てた。」


「何もしてないってことか?」


「ご飯食べて寝てた。」


「だから!何も魔人らしい活動はしてないってことか?!」


「ご飯食べて寝てた。」



がぁぁぁ!!コイツさっきから何なんだよ!だるそうに喋ると思ったら要領がつかめないことばっかり言いやがって!

ご飯食って寝てたばっかりって何だよ!!ってもしかしてコイツのご飯って「夢」なのか?



「ご飯って・・・もしかして夢食ってたのか?」


「・・・そうだよ。獏なんだから当たり前じゃん。」


当たり前って知らねぇよ!テメェの常識押し付けんな!



「ならもしかしてこの村の人たちが元気になったって言うのもお前の仕業か?」


「さぁ?でもいい夢見ただろうから元気になったんじゃない?」


うーん。そうなるといいことなのか?いや、でも良い夢見るとかえって現実にガッカリするしなぁ。やっぱり良くないことだよな。



「夢を食っても体に問題はないのか?」


「特に問題ない。死ぬのが早くなるだけ。」


「そうか問題ないのか。・・・って問題大アリじゃねぇか!!何のんきに言ってんだよ!!」


「・・・でも村の人たちは良いって言ったから。」


「それは・・・早く死んでもいいってことか?」


「・・・さぁ?生きるのに疲れたんじゃない?」


生きるのに疲れた・・・か。何だか寂しいが、的を得ているのかもな。



「まぁ何にせよ。お前がいたら空が暗いままだからな。申し訳ないが、倒させてもらうよ。」


「・・・どうぞご自由に。痛いのはやめてね。」


「そうかい。分かった、一瞬で終わらせるよ。」



そう言って魔人は大の字に寝始めた。この状況で一瞬で寝られるって何なんだコイツ。精神的にこっちが辛くなってくる。

コイツは人の夢と生命力を食うヤバい奴なんだから倒しても問題ないはず。なのに何だかこっちが悪者のような気がしてきた。絶対爺さんも怒るだろうし。



・・・でも世界のためだしな。



俺は【浮遊】で上空に上がり、一思いに【光魔法】で魔人を消し炭にした。

その瞬間にこのあたりの暗がりがなくなった。



・・・何というか気の進まない魔人討伐だったな。



俺が魔人を討伐し、空が晴れたことが分かったのだろう。さっきの爺さんがこっちにやって来た。


「あぁ・・・なんてことをしてくれたんじゃ!!」



やっぱりブちぎれてやがる。でもしょうがないだろ。アンタの為だけに放っておくわけにはいかないんだよ。


「世界のためだ。すまなかったな。」


あまり正論ぶつけてもしょうがないしな。こちらが下手に出ておく。



「何が勇者だ!何も悪いことしとらん奴に手を挙げおって!」


人の生命力吸うのはダメだろ。って言っても聞く耳をもたなそうだ。

というかいい加減面倒になってくる。もう放っておこう。

後味は悪いが見なかったことにしてさっさと街を出よう。と思ったがエリーがしゃべり始めた。



「おじいさん。良く頑張りましたね。」


「なんじゃ?!どういう意味じゃ?!」


「辛かったのでしょう?毎日が。」


「・・・知ったような口をききおって!何がわかる!」


「私にはあなたの痛みは分かりません。けれど、とても辛そうな表情をしてあの魔人に死を早めてもらおうとしていたことから、きっと辛かったんだろうなぁって。」


もっと辛辣なことを言うのかと思ったがエリーは優しい口調で話している。

こんな口調できたのか。普段からそれでいろよ。



「・・・そうじゃ。辛かった。モンドに言われてついてきたはいいが、ここには希望がない。・・・だがわしらには帰る場所も元気もない・・・。だから早く死にたかったのじゃ!だというのにお前さんたちが!」


モンド爺さんは街の人たちにカッコ悪くなる自分を見せたくないという理由で出たんだったかな。この爺さんにはそこまでの覚悟はなかったのだろう。だけど今さら帰るに帰れない。そんなところだったのかな。


「帰る場所はありますよ。街の皆さんは待っています。」


「・・・わしらのことなど待っていないじゃろう。誰も迎えに来んしな。結局は邪魔だと思っていたことじゃよ。」


何というか、本当に勝手だな。勝手に出てって、勝手に迎えを期待して、勝手に拗ねて。



「いいえ。そんなことはありません。私たちがここに来たのは街の皆さんから心配だから様子を見てきてくれと言われたからなんですよ。」


・・・そんなこと言われた覚えはないが・・・。コイツって結構大胆に嘘つくような。



「・・・そうじゃったのか。」


「ふふふ。街の皆さんは何も気にしませんよ。帰りましょう?街の皆さんも待っていますよ。」


「・・・今更歩いて帰るのも無理じゃ。迎えが来ないと難しいじゃろう。」



「ならハルヤさんに送ってもらいましょう。この方の魔法で送ってもらえば一瞬ですから。」


「何?こやつが?こんな人間の世話になるのは癪じゃが・・・。」


何でコイツはこんな偉そうなんだよ・・・!別に送らなきゃいけない義理なんてこっちには何もねぇんだぞ?!


「ふふふ。では皆さんに集まってもらうのは大変なので、一人一人送っていきますね。」



エリーの言葉に従って俺は老人たちを街に送り返していく。場所は領主館の前でいいだろう。

ほとんどの人がこの村の現状を知って帰りたかったようだ。だが一度来てから帰るのも大変で、今さら帰るのも心苦しい。中には寝たきりのような状態になっている人もいたし。色々な状況が重なって戻り辛くなっていた状況だった。


おかげでほぼ全員抵抗することなく帰っていくことになった。動けない人はベッドごと送る。改めて魔法って便利だわ。



「ありがとうエリー。あのまま放っておこうと思ってたが、後味が悪くなるしな。おかげで助かったよ。」


「ふふふ。これぐらいであればいくらでも。」


「しかし本当に勝手な人たちだったな。」


「しょうがありませんよ。人の世話になるというのは思いのほか難しいものです。弱さを受け入れ、もどかしさを抱えなければなりませんから。」


「そういうもんか。」


「えぇ。そういうものです。そして私たち若者にはその痛みは分かりません。だから私たちが彼らを勝手な人間と評価することもしょうがないことです。」


「・・・そういうもんか。」


「えぇ、そういうものです。」


難しいなぁ年代の差というものは。互いが互いの痛みを理解できない。分かっていても心の底から共感することは出来ない。だから互いに勝手な奴らと評価し合う。ままならないもんだな。


とりあえず全員を送り返した俺たちも街に帰っていく。



そこには次々に送られてくる老人たちに領主や街の人たちが集まっていた。


「おかえりなさい勇者様、預言者様。それで一体これはどのような状況なのでしょうか?」



状況説明を頼まれたので、俺は村で起こったことを話した。領主は魔人の存在にかなり驚いたようだが、討伐し空を取り戻したことに礼を言われた。


連れて帰ってきてしまった老人たちをどうするのだろうかと思っていたら、かねてから一つの建物に住まわせるという事を検討していたようだ。つまり老人ホームだな。


村の始まりはモンド爺さんのカッコつけによるものだったが、その後で追従する人が出たのは街の人たちの老人への扱いもあったのかもしれないと気にした街の人たちは老人も住みやすい場所を建設予定だったんだとか。


今回のことでちょうど良い状況になったのでこれから急ぎ計画していくとのことだった。

何だかんだ愛されてるな老人たち。俺への当たりは強かったが、昔は良い人だったのだろうか。俺はちょっと引っかかるものがあるが。とりあえず問題なさそうだったから、この街のことはもういいだろう。


「勇者様、預言者様。この度は街を救っていただきありがとうございました。それに街に残っていたしこりまで解消していただき本当にありがとうございます。」


「いえいえ、気にしていませんよ。」


モレーヌさんは心からの礼をしてくれるが、後ろで俺と喧嘩した老人は恨みがましい目で俺を見ている。クソ。なんで助けたのに俺が恨まれなきゃいけないんだよ。


腹は立つが美人なモレーヌさんに免じて許してやろう。




魔人を倒すことが出来たので、俺たちは出発することにする。


次の目的地は南西に向かった先にあるホラムの街だ。

結構な大きさの街だが、暗がりから解放されていない。すぐに向かう必要がある。



ここまでの道中で魔人の動向が正直よく分からなくなってきている。

ダーレルにしても、前の街にいたレイグルにしても、まるで次に攻めていく様子はなかった。


さらにダーレルの発した「時間稼ぎ」という言葉。あれは何を意味しているのか。もしかしたらレイグルも時間稼ぎをしていたのかもしれない。

その辺の情報が知りたいが、今はこれ以上に情報はない。とにかく少しでも魔人を倒していかなければならない。



「ふふふ。ハルヤさんお疲れさまでした。」


「本当に疲れたよ。気苦労って感じだな。おまけに老人たちからは礼の一つも言われてねぇし。」


「いいじゃありませんか。モレーヌさんは嬉しそうでしたし。」


「そうだなぁ。それだけのために頑張ったと思うことにしておくよ。」



「ふふふ。・・・しっぽを出しましたね。」




背中がゾクっとした。


「・・・エリーさん。さっきのおじいさんたちへの対応のように、優しい声で話してくれませんか?」


「ふふふ。それは出来ませんね。」


「どうしてでしょうか?」


「さっきの方々には、興味がなかったのであのような対応が出来ただけです。」


「は?興味がない?」


「えぇ。相手に対して興味や関心がない時ほど、人は余裕を持って対応できるのです。ですからあの時もあまり興味がありませんでしたから、余裕を持って対応が出来ました。」


何というか・・・優しいんだかとんでもなく冷たいんだか分からないな。



「そして、ハルヤさんには興味がありますから、そういう対応は出来ないのです。」


「・・・なるほど。興味をもっていただいて大変ありがたいのですが、ぜひその興味を別の物に移していただきたいのですが。」


「ふふふ。残念ながら、興味関心は自分自身でもコントロールできないものですので、諦めてください。」



可愛い女の子に興味があると言われて、こんなに嬉しくなかったのは初めてだ。

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