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姥捨て山

俺たちは結局すぐに領主館に戻って来た。

こんなに早く帰ってきてしまっては訪ねづらい。ましてや内容が内容だけにさらにその感情が強くなる。


だというのにエリーには関係がないようだ。すでに領主館の門番に話しかけている。


「すみません。領主様に聞きたいことがあるのですが。」


「おや?預言者様ではありませんか。それではすぐに領主様に伝えてきますね。」


そう言って門番はすぐに中に伝えに行った。するとすぐにあの老執事が出てきた。



「どうかなさりましたか?何か忘れものでも?」


「えぇ。姥捨て山について聞きたいのですが。」


エリーは何とも直球に聞きに行く。どう考えても言いたくない内容だろうに、こいつは本当にこういう時に大物だなって思うよ。


「・・・すぐに領主様に伝えてきます。どうぞこちらでお待ちください。」


老執事は少しばかり重たそうに答えて中に消えていった。



「なぁエリー。流石に直球過ぎないか?」


「ふふふ。こういう時は聞きたいことを直球に聞くのがいいんですよ。でないと向こうがより話しづらくなるじゃありませんか。それに時間もありませんし。」



少しすると老執事が出てきて中に通してくれた。


先ほどの執務室に向かうと、既に扉は開いていた。中には少しばかり沈うつな顔をしたモレーヌさんがいる。


「・・・勇者様、預言者様。こちらにお座りください。」


「し、失礼します。」



俺たちが着席すると、領主は重たそうに口を開いた。


「・・・この街にある姥捨て山について聞いたのですね?」


「えぇ。この街に姥捨て山があることは今あなたから聞いたところですが。」


「・・・はぁ。敵いませんね。預言者様は中々強かなんですね。」


「ふふふ。私はか弱い女ですよ。」


嘘つけ。強かで図太い女だよ。



「・・・この街には確かに姥捨て山のような場所があります。ですがそれはお二方が想像するものとは少し違うと思います。」


そう言って領主が話し出した。



「姥捨て山・・・と言われているキリガ山という山はここから歩いて1時間ほど行ったところにあります。そこからさらに上って1時間ほどすると、一つの集落があります。けれどそこは私たちが作った場所ではありません。もう2年前になりますかね。街の鍛冶を取り仕切っていたモンドという方を中心に、高齢な方々が自分たちで作った集落なんです・・・。」



―――――――――――――――――――――


ある日モンドはいきなり私の部屋を訪ねて来た。モンドは街でも鍛冶の名工として有名で私たちもかなりお世話になっていたけど、領主館に訪ねてくるなんて今までなかったからびっくりしたわ。

そして話の内容を聞いてさらにビックリすることになったの。


「領主様。私はもう良い年になりました。そろそろ隠居したいと思うのです。」


「あらモンド。元気そうなのにもう隠居するの?」


「えぇ、おかげさまで弟子たちも育ちましたからね。これ以上老人が口をはさむのもよくないだろうと思いまして。」


「そうだったの。・・・お疲れ様。今まで街のために色々と働いてくれてありがとう。本当に助かったわ。それであなたはこれからどうするの?鍛冶をやめるにしても何か働くのでしょう?」


たとえ隠居したとしても何かしら働くもの。私はそう思っていたし、街の人たちもそう思っていた。知恵を誰かに与えたり、小さな鍛冶であれば手伝ったり。寝たきりにならない限り働くのが普通だと思っていたわ。だというのにモンドは突然変なことを言い出した。



「私はキリガ山に行こうと思います。」


「・・・キリガ山?山登りでもするの?」


「いえいえ。山に住もうかと。」


「はぁ?!あなたいくつだと思ってるの?!流石にその年で山暮らしなんて危険よ!」


「ホッホッホ!この年だからいいんですよ。いつ死んでもいい。だから山で暮らせるのです。」


「そ、そんな姥捨て山みたいなこと許可できるわけないじゃない!」


「ホッホッホ。許可などいりませんよ。勝手に出ていくだけですから。今日はそのことを伝えたかっただけなのです。」


「ど、どうしてそんなことするの?街の人たちはあなたにたくさん恩を感じてるのよ?誰も喜ばないわよそんなの!」


実際にモンドは街の人たちからも気に入られていたわ。良いおじいさんだったし、子どもの面倒見も良かったし。何よりも教え方が良くてね。あの人の弟子たちはみんな優秀な鍛冶師になったから、本当にたくさんの人が感謝していたのよ。



「だからですよ。街の人たちがこれまでの私を知って、たくさん感謝してくれるから私は山に行くのです。」


「何よそれ。意味が分からないわよ。」


「・・・最近は物忘れも酷くなってくるし、耳も目も悪くなってきた。一つ一つのことが出来なくなっていくことが、たまらなく寂しくてね。」


「それは・・・しょうがないことじゃない。」


「そう。しょうがないこと。だから皆私へ恩返しするように世話をしてくれるようになった。それがね・・・寂しさを後押しするんですよ。自分が何も出来なくなったのだと見せつけてくるようで。」


モンドの一言一言はとても辛そうで、私は段々と何も言えなくなったわ。



「だからね。山に行くんですよ。誰もいない山にね。」


「・・・余計に寂しくなるんじゃないかしら?」


「・・・それでいいのです。これ以上、カッコ悪い自分をさらけ出したくないのです。私が弱っていく姿に皆が心を痛めるように見つめるのが辛いのです。寂しいのです。それに誰かの世話になると余計に弱っていってしまう。だから、出ていきたいんです。」


「・・・でも・・・。」


「ホッホッホ!これ以上何も言いなさんな。私が勝手に出ていった。それで話は終わりですから。私のことは気にしなさんな。」



そう言ってモンドは領主館から出て行って、街からも出ていったわ。

酷い話よね。・・・恩だけ残して・・・返させてもくれないのよ。


それからというものモンドの後をついて行く人が何人か出てきてしまったの。みんな高齢な人ばかりだったわ。寂しくていなくなったり、ひどい話だけど邪魔者扱いされて出ていったり。


この街は近年急成長を遂げた街でもあったから、街の動きについて行けない老人にとって居づらさを感じさせてしまっていたのかもしれないわね。


私たちは何度か村に様子を見に行ったけどみんな元気そうに生きていたわ。もちろん弱っていく人もいたし、手当が必要な人もいた。だけど何か支援することは拒否されてしまってね。私たちはただ様子を見るしか出来なかったわ。


でも一年ほど前に街と村の関係が変わる出来事が起こったの。モンドが亡くなったのよ。

モンドはまだまだ元気に生きられると思っていたのだけど村づくりや劣悪な生活環境が原因で亡くなってしまったようでね。だというのに、私たちが知ったのはその村で葬儀を行った後だった。知らせに来てもくれなかったのよ。


既に自分たちは死んだものと扱ってほしいって言われてね。それ以来様子を見に行くのも避けて欲しいと言われるようになったわ。だから街の人たちもその村は遠巻きに様子見するぐらいしか出来なくなったの。



―――――――――――――――――――――


モレーヌさんは最後まで沈うつな表情のまま語ってくれた。

未だに納得がいっていないという顔だ。


そりゃそうだろうな。見殺しにするようなものだ。ただ本人たちが出ていくって言ったら止めづらいよな・・・。



「この事を話さなかったのは、その村のことについては街でもあまり口外しないようにしていたからです。傍から聞いたら姥捨て山のようなものですからね。それに空が暗くなった時にすぐにキリガ山に行きましたが、以前と変わらない様子でしたから問題はないと思い伝えませんでした。申し訳ありません・・・。」


まぁ言い辛いわな。内容が内容だし。それに既に様子を見に行ってるなら問題はないだろう。流石にここでモレーヌさんが嘘をついているようにも見えない。


「事情は分かりました。大丈夫という事であれば問題なさそうですが、一応様子を見に行こうと思いますが構いませんか?」


「えぇもちろん構いません。村の人たちも事情を話せば入れてくれると思いますから。」


「ではこれから向かいたいと思います。」



そう言って俺たちはキリガ山の場所を聞いて街から【浮遊】で向かうことにした。


にしても老人たちが自分たちの村を作るか・・・どうなんだろうなそれは。


移動中エリーにも感想を聞いてみる。



「なぁエリー。今の話どう思う?」


「そうですね・・・。誰かの世話になるということは意外と難しいですからね。ご老人の方々の気持ちもわかるような気もしました。」


「そうか。」


「ですが結局は勝手だなと思いましたね。」


「・・・老人たちがか?」


「えぇ。とても勝手です。老人たちが本当のところで何を思って出ていったのかは分かりませんが、残された方としては別れさせてもらえないというのはとても辛いものです。死という事と向き合わせてもらえないとも言えますね。」


「中々辛辣だな。」


「ふふふ。モレーヌさんの前では我慢したのです。あまり彼女の恩人を悪く言ってもしょうがないですからね。」


「そうかい。何でも言うエリーにしてはよく耐えたな。」


「あら?これでもいつもかなり我慢しているのですが?」


「・・・ならもう少し忍耐力を鍛えてくれ・・・。」


なんて話をしていると村が見えてきた。とても小さな村だが、畑があったり何とか生活は出来ていそうだ。




・・・ん?あれ?


まだ遠いからボンヤリとだが、俺の気配察知に反応がある。ということはあそこに魔人がいるのか?

村が近づいてくると、気配察知がどんどん強くなってくる。間違いなくあそこに魔人がいる。


襲われている気配は全くないが・・・どういうことなんだ?



俺たちはそのまま【浮遊】で村の中に降り立った。すると外に出ていた老人の一人が俺たちに気が付いた。


「な、なんじゃお前さんたちは?」


「俺は勇者ハルヤです。こっちは預言者のエリー。」


「勇者?はて?こんな村に何の用じゃ?」


「この村に魔人がいるようでして。倒しに来ました。」


「魔人?なんじゃそれは?」


・・・うーん。本当に知らなそうだ。これが演技と言うのはあり得ないだろう。する意味も分からないし。


「今世界が魔人に襲われているんです。村を探させていただいても良いですか?」


「そりゃ構わんよ。だがあまり荒さんどいてくれな。片付ける体力もあまりないからのう。」


「分かりました。コッソリ探させてもらいます。」


老人の許可を取ったので、俺は気配察知で魔人のいる方に向かう。すると一軒の家にたどり着いた。



「・・・ここに魔人がいるな。」


「ここですか?魔人もこの村に住んでいるのでしょうか。」


「どうだろうな。まぁ中に入って確かめればいいだろう。」


そう言って俺は家の扉をノックする。するとしわがれた声が聞こえてきた。


「ほいほい。今開けるから待っとってくれ。」


少し待っていると、腰を抑えながら一生懸命歩いてきたのだろう老人が対応してくれた。



「む?どちらさんだ?」


「俺は勇者ハルヤ。こっちが預言者のエリーです。この家に魔人がいる気配があったので調べさせて欲しいのですが・・・。」


「・・・勇者じゃと?物語でしか聞いたことはなかったが実在したとはなぁ。長生きはしてみるもんだのぉ。」


「それでですね、実はこの家から魔人の反応があるのですがご存じありませんか?」


もうここまでくればハッキリわかる。

なんでこんなことになっているのかは分からないが魔人がいる。


「魔人???本当に分からんのじゃが・・・?」


「では、ここ3日ほどで何か変わったことはありませんでしたか?」


「3日・・・すまんのう最近は物忘れが激しくて。そうじゃな。3日前と言えばお前さんが来たのがそれぐらいだったかのぉ?」


そう言って老人は家の奥にいる何かに話しかけた。



そう、さっきからハッキリ見えていたソイツが魔人なんだよ爺さん。




―――――――――――――――――――――

名前:ダーレル

獏魔人

人の夢を食べる魔人。怠けることに関してだけは一生懸命に考える。それ以外のものにはまるで興味がない。日がな一日寝て過ごしているがそれでも常に眠気を抱えている。最近では生きるのすら面倒になってきている。


状態:正常


体力:2489

魔力:2811

筋力:548

防御:348

敏捷:893

知力:1148


【共通スキル】睡眠Lv.MAX


【固有スキル】夢食い、怠惰、夢送り


夢食い

人の夢を食べることで生命エネルギーを得る。


怠惰

怠ければ怠けるほど体力・魔力回復速度上昇


夢送り

指定した対象が望む夢を見せることが出来る。

―――――――――――――――――――――




今までの魔人とは全く違う。

紫色の小さな女の子みたいな魔人がそこで寝転がっていた。

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