ケートの街
ウーディアの街を無事に解放した俺たちは次の目的地であるケートを目指して【浮遊】で移動している。
「ウーディアは良い街でしたね。いつか遊びにいきましょうね。」
「そうだな。次はのんびり遊びに行けたらいいけど。」
「そうですね。ハルヤさんはのんびりした生活の方が好きですか?」
生活に何を求めるか。うーん。刺激的な生活もいいかもしれないが結局疲れちゃうからな。俺はそもそも面倒くさがりだし結局は刺激がない方が好きだな。
「どちらかと言うとそうだな。のんびりした生活の方が好きだ。安定と言った方がいいかな。新しいこととかそういうのを面倒だと思ってしまうんだよな。エリーはどうなんだ?」
「私ですか?私は刺激を求める女ですよ。ふふふ。」
「なるほど。じゃあ俺たちは残念ながら相性が悪いな。残念だ。」
「何を言いますか。ハルヤさんは刺激たっぷりですから。相性バッチリですよ。ふふふ。」
「俺に刺激なんかないだろ。」
「ハルヤさんをいじるのは刺激的で楽しいですよ?」
「今ここから落ちたらより刺激的じゃないか?」
「それは刺激ではなく痛みですね。そういうのはちょっと好みではないのですが・・・ハルヤさんはそういうのが好きなんですか。ちょっと引きますね。」
「俺は猟奇的な人間扱いするな!!」
段々と【浮遊】しながらの会話も上達してきている。慣れてきているという事かな。
いや待てよ。エリーを背中に乗せることに慣れてきているというのは、もはや洗脳されてきているとも言えるのか?
マズイマズイ。どこかでちゃんと代替案を考えないと。コイツにも【浮遊】を付与した魔道具を持たせるか・・・でも魔力結構使うしな。うーん何かいい案を考えとこう。
そんなこんなで空も暗くなっている地域に突入した。
恐らく少し行けばケートの街があるだろう。出来れば交戦していてほしい。
前までは交戦していないことを願っていたが、交戦しているという事はまだ戦えているという証だからな。そうあって欲しい。
だが俺の願いもむなしくケートの街も交戦状態ではなかった。とても静かだ。
街の門に降り立つと門番がいた。恐る恐る話しかけてみる。
「あのーここはケートの街で良かったですか?」
「ん?ここはケートの街であるが・・・何者だ?」
あれ?今回は普通に話が出来る。操られてはいないようだ。
「俺は勇者ハルヤです。こっちは預言者のエリー。この空の暗がりは魔人のせいであり、魔人を倒すために旅をしています。この街には魔人は襲ってきませんでしたか?」
「な・・・お主が勇者であったか!急ぎ領主に確認を取ってくる!いや、領主館まで一緒に行った方がいいな!申し訳ないが一緒に来てくれ!!」
慌てる門番と共に俺たちは街中に入っていく。
皆が不安そうな顔で俺を見つめてくるが、特に外傷などはなさそうだ。街もどこかが壊れているという事もない。本当に一切襲われた気配がない。
しばらく歩いていくとそこそこ大きな一軒の館の前に着いた。
門番が館の門を守っていた兵士に声をかけると、兵士も慌てて家の中に入っていく。何だか伝言ゲームみたいだな。
すると一人の老人が館の中から出てきた。
「おぉ!あなたが勇者様でしたか。今領主モレーヌ様にお伝えしましたところ急ぎ会いたいということでしたのでどうぞお入りください。」
「あぁありがとう。」
こんな風に招かれるとアンデーキアの街の領主館を思い出してしまう。何だか嫌なことを思い出してしまった。ここの領主はまともであればいいけど。
執事に案内されるまま俺たちは領主の執務室に向かう。
「モレーヌ様。勇者ハルヤ様と預言者ハルヤ様が来られました。」
「どうぞお入りください。」
中からは澄んだ声が聞こえてきた。明らかに女性の声だ。
扉が開かれ俺たちは中に入る。すると緑色の髪の長い女性領主がいた。
年齢はそこそこいってそうだがとても綺麗な人だった。昔はもっと美人だったんだろうなぁとついつい考えてしまう。
だが俺もバカじゃない。女性関係の考え事はなぜかエリーの怒りを買う。コイツは俺に気でもあるのかと疑わせるが、コイツの普段の態度からはあまり想像できないのであまり調子のいいことは考えない。とりあえず今は危険を回避することが先決だ。
俺は綺麗だとかそんなことを考えているとは一切悟らせないようにすぐに視線を動かしながら挨拶をする。
「初めまして。勇者ハルヤとこっちが預言者のエリーです。当然の来訪失礼します。」
俺の言葉に合わせてエリーも礼をする。良かった。バレていなさそうだ。
「勇者様。こちらこそ世界が危険な状況の中で来訪していただき誠にありがとうございます。既に冒険者ギルドを通して世界のこと、勇者様のことは伝え聞いておりますのでご安心下さい。」
実はクフの街での活動を通して分かったことを冒険者ギルドは世界に発信してくれている。冒険者ギルドはどこの街にもある普遍的な組織であり、さらに通信の魔道具も各地区に設置されているため状況を伝えてもらっている。
「それでさっさと本題に入りたいと思うのですが、こちらの街にはまだ魔人は襲ってきていませんか?」
「えぇ、今から三日前に空が突然暗くなりましたが、未だにどこも襲われてはいません。モンスターの襲撃も多少はあったようですがそれも微々たるものでして。ですから魔人と言われても私たちにはサッパリで・・・。」
・・・こんな状況は初めてなのでイマイチ状況がつかめない。
空が暗くなれば魔人が襲撃するものと思っていたが・・・そうではないようだ。
・・・何か手掛かりはないものか。
「そうですか・・・正直こんな状況は初めてなので・・・どこか近くに街や村はありますか?」
聞いてみるがモレーヌさんは少し考え込んですぐに否定する。
「いえ・・・そういうものはありませんね。」
「そうですか・・・。分かりました。情報ありがとうございます。あ、それではこちらのマジックバッグを渡しておきます。魔道具や食料が入っているのでお使いください。もちろんお代はいりませんので。」
「え?!良ろしいのですか?!ありがとうございます!正直魔人の話を聞いてからとても不安だったので大変ありがたいです!」
そう言って喜ぶモレーヌさん。あぁ年齢を重ねても美人はやはりいいな。
「ふふふ。良かったですね勇者様。」
ニッコリ笑うエリー。なるほどね。俺は今気を抜いちゃったわけだ。
撤退だ。潔く撤退しよう。
「で、では私は魔人を探してきます。時間もありませんからすぐに出ようと思います。情報ありがとうございました。」
「え?もう行かれてしまうのですか?!ではこの街の名産品でもある焼き菓子を持って行ってください!イリウス!急いで持って来て!」
「分かりましたモレーヌ様。勇者様、ほんの少しだけお待ちください。」
そう言って老執事は凄いスピードで去って行き、すごいスピードで帰って来た。
もう結構いい年なのに随分速い動きだ。一瞬この人が魔人かもなんて思ったけど、流石に不謹慎だな。やめておこう。
「勇者様、こちらがこの街の名産品でもある焼き菓子のスコーンでございます。この辺りは酪農が大変有名で、そこの美味しい牛乳とバターをふんだんに使ったものです。日持ちもしますからぜひ旅の道中にお食べ下さい。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
美味しいお土産をもらい少し上機嫌になる。
領主館を出るとエリーが話しかけてくる。
「良かったですね。ケートの街の焼き菓子と言えば有名ですからね。そういえば私甘いものに目がないんですよね。とても嬉しいです。」
そういえばこちらの世界は甘いものが少ないからな。今も焼き菓子を頂いたがそれなりに貴重なものでもあるのだろう。大事に食べよう。
「それに今日はとても貴重な情報を手に入れられました。」
「ん?何かいい情報があったか?」
「えぇ。鞘の勇者には年齢は関係ないと。これでいずれ書き残す『鞘の勇者ハルヤの伝説』がさらに盛り上がることでしょう。」
「・・・俺甘いものあんまり好きじゃないんだよね。いっぱい食べたらいいよ。」
俺はもらったスコーンを多めにエリーに渡す。
「あら?鞘の勇者様は甘いものは好きではないのですか?女性からの甘い言葉は好きそうですのに。」
「・・・全部食べたらいい。」
俺はもらったスコーンを全てエリーに渡す。
「ふふふ。冗談ですよ。ちゃんと二人で食べましょう。美味しいものは誰かと食べた方がおいしいので、手伝ってくださいね。」
「・・・エリーの冗談は分かり辛いんだよ。」
「あら?食べるのはモレーヌさんのような年上の女性との方がいいということですか?」
「一緒に食べような!空が晴れたら青空の下で一緒に食べよう!きっとおいしいぞー!よーし!そのためにも魔人探しに行くぞー!」
これ以上会話に耐えられないのでさっさと魔人探しに向かう。
実際魔人を探さないといけないからな。今はエリーの機嫌よりも世界の平和だ。俺の選択は何も間違ってはいない。
「ふふふ。そうですね。それでどうしますか?虱潰しに探すんですか?」
「うーんそうだなぁ。探してもいいんだが・・・この辺の地理についてちょっと聞いてみようかな。」
「そうですね。それがいいと思います。先ほどモレーヌさんはこの辺に街はないと言っていましたが・・・ちょっと怪しいと思ったんですよね。」
「え?そうか?全然そうは見えなかったけど。」
「ふふふ。ハルヤさんは素直な方ですね。普通であれば近くに街があるかどうか、考える必要はありません。すぐに答えられるはずです。ですがモレーヌさんはなぜか考え込んでいました。」
そう言えば確かに考え込んではいたが・・・エリーの疑いすぎじゃないか?
「うーん。どこまでを近くというかで考え込んでただけじゃないか?わざわざ隠す理由もないし。」
「ふふふ。ハルヤさんはやはり年上の味方と・・・。」
「いや、そうだな!確かに怪しかった!アレは何かを隠そうとする顔だったな。」
「どちらにせよ少し街の方に聞き込みした方がいいでしょう。」
とりあえず街の人たちに聞き込みをしてみる。が、やはり有益な情報は何もなかった。
「この近くの街・・・?特にないなぁ。」
「人がいそうな場所ですか?いえ、私は知りません。」
「他を当たってください・・・。」
全員が全員知らないと来たもんだ。
エリーに言われたからか少し疑う目で見てしまう。そういう目で見ると全員が何かを隠しているような気がしてしまう。
だが街の人に聞いても何も答えが帰って来ないからな。結局有益な情報は何もなかった。
やはり虱潰しに探すしかないか。
すると少し遠くにいた親子の会話が聞こえてきた。
「ねぇお母さん!おばあちゃんはどこに行っちゃったの?」
「こ、こら!今はその話はしちゃだめ!」
「だって最近会ってないんだもん!私おばあちゃんに会いたい!」
「分かったから!とりあえず今は黙ってましょうね!おうちに帰りましょう!」
何だか母親が随分焦っている。
俺は気になって親子に話しかける。
「あの、すみません。」
「な、なんでしょう。」
なんだろう。やっぱり焦ってるな。
「失礼ですが、そのおばあちゃんのことについて聞かせてくれませんか?」
「いえ、そんな・・・勇者様に伝えるようなことなど何も・・・。」
どもる母親に対して、女の子が答えてくれた。
「おばあちゃんはね!とっても優しいおばあちゃんなの!今は病気を治すために山でりょーよー中なの!」
「こ、こらハンナ!すみませんね勇者様。変なことを聞かせちゃって。本当はおばあちゃんが最近亡くなってしまったので娘にそう伝えていただけでして。」
「違うよ!おばあちゃんはちょっと前まで元気だったもん!おばあちゃんはまだ生きてるよ!」
「やめなさいハンナ!お願い!黙って!」
いよいよ母親の様子がおかしなことになってきた。今すぐこの話を切り上げたいという感じだ。周りの人まで注目し始めている。
エリーが落ち着かせるように母親に話しかける。
「お母さま。どうぞ落ち着いてください。それで、失礼ですがその山はどちらに?」
「わ、私はなにも知りません!」
「・・・なるほど。・・・姥捨て山ですか。」
「な、勝手な事言わないでください!そんなんじゃないです!山で療養中なだけで!」
「亡くなったのにですか?」
「え、いや。それは・・・。」
まるで尋問だな。全然落ち着かせる気なんてなかったわ。
「何か手掛かりがあるかもしれませんから、その山の場所を教えていただけますか?」
「それは・・・私には答えられません。領主にお聞きください。」
そう言って母親は去ってしまった。
・・・姥捨て山か。・・・まさかそんなものが実在するのか?
「・・・良かったですねハルヤさん。またモレーヌさんに会えそうですよ。」
「・・・別に会いたかったわけじゃないし。それに今は本当に会いたくない・・・。」




