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街の希望

街を解放した俺は時空魔法でアマニたちがいる木こりの家に行った。


そこには空が晴れたことで分かっていたのだろう、エリーとアマニが既に外に出て来ていた。俺に気が付いたアマニはすぐに走り寄って来る。


「街は解放されたのか?!」


「・・・あぁ、大魔人レイグルは死んだ。」


「あぁ・・・良かった・・・!本当に、本当にありがとう!!」


そう言ってアマニは感謝もそこそこに街の中に向かって行く。



「あっ!おいっ!」


・・・止めた方がいいんだろうか。

今街の中はたくさんの死体で埋め尽くされている。

その光景は何も縁がない俺ですらくるものがあった。


この街の人々を知っているアマニからすれば余計に辛いものだろう。



だが止めようとする俺をむしろエリーが止める。


「ハルヤさん、止めないであげて下さい。」


「いや・・・でもなぁ。街は死人だらけだったし。中には無残な姿の者もいる。見るのも辛いものだぞ?俺が【アイテム】で回収してからでもいいんじゃないか?」


「それもまた領主の務めです。何も出来ない方がかえって辛いものですよ。・・・別れも大切なんです。」


・・・領主の務めか。確かに何もできずに終わってしまう方が辛いものなのかもな。



「・・・そうだな。俺たちに出来ることは、手伝ってやることぐらいだな。」


俺たちはアマニを追って街中に入っていく。






そこには涙を流しながら、それでも現実を受け入れようと街の様子を見つめるアマニがいた。



「・・・今年は・・・豊作だったんだ。一昨日までは豊作を喜んで。皆でお祝いをして・・・。」


アマニは思い出を振り返るようにして話し始めた。ずっと一人で隠れていたからか、緊張の糸が解けて誰かに話を聞いてほしくなったのだろう。



「この街はな、特産も名物となるものもない。だがな、良い人の集まりだった。この人々こそこの街の特産であり名物であった・・・。私は胸を張ってそう言い続けてきたのだ。」


一度話し始めるともう止まらないものだ。アマニはなおも語り続ける。



「いくら街が破壊されても気にしなかった。建物であれば、物であれば、いくらでも直せる。」


街はレイグルによってかなりの建物が壊された。俺との戦闘によって至る所に瓦礫や武器も落ちている。その光景が街の景観を壊しているがアマニにとっては重要なことではないのだろう。



「人を失ったこの街は唯一の宝物を奪われた街だ。建物だけが残ってもこの街はウーディアの街ではない。」


骨組みだけあってもその街はウーディアではない。街の人々への思いが強いからこそ出た言葉だろう。



「だから今、私だけがウーディアの街を背負っているのだ。・・・生きねばならん。・・・ウーディアの街を残すためには・・・私は生きねばならんのだ・・・。」


アマニはまるで決意するかのように、だがとても辛そうに生きる覚悟を整えようとしている。



「・・・う゛ぅぅぅぅ!!あ゛ぁぁぁぁぁ!!!」


アマニは膝をついて空を見上げ、ついには大声で泣き出した。

ずっと堪えていたものが崩壊したように、子どもが親を求めて泣きじゃくるように、号泣した。



俺たちはそれをただ見ていることしかできない。かける言葉も見つからない。



人がいなくなったウーディアの街はとても静かで。アマニの泣き声が何物にも邪魔されずに響き渡った。





「・・・アマニ様・・・?」




突然、小さな女の子の声がした。


唖然としながら女の子を見つめる。アマニは驚いているのか目を見開いて女の子を見つめている。



「アマニ様だ!」

「アマニ様が生きていたぞ!!」

「アマニ様よ!!アマニ様だわ!!」



小さい女の子の後ろから人々が次々に出てきた。

いないかと思っていたが何とか隠れて逃げられていた人々がいたのだろう。


その数は100人ほどしかいない。それでも100人もいる。

以前の街の規模からすれば少ないのかもしれないけれど、今の俺にはとても大勢に見えた。


「・・・生き残りが・・・いたのか?」


アマニはまるで迷子の子どもが親を見つけた時のような、安堵の表情を浮かべながら絞り出すように呟いた。



「・・・おぉ!!・・・おぉ!!・・・宝はまだあったのだ・・・!!・・・希望はまだ残されていたのだ・・・!!」


アマニは領民を見ながら再び涙を流している。

その姿を見つめながら領民たちも涙を流している。


「アマニ様が生きていた・・・!」

「これほど嬉しいことはない!!」

「希望は残っていたのよ!!」

「これでこの街はまだ生きていける!!」


領民たちもアマニが生存していたことを手放しで喜んでいる。

好かれていたんだなアマニは。領民を良い人と言って評価していたけど、アマニも領民の一人という事なのだろう。



血に染まり死体に埋め尽くされたこの街だけど、そこには確かに希望があった。





「もしかしてあなたがたがこの街を救ってくれたのか?!」



アマニ生存を喜んでいた領民の一人が俺たちに気が付いたようだ。俺にかわってアマニが答える。


「この方々はこの街を救ってくれた勇者ハルヤと預言者のエリーだ。」


「なんと!勇者と預言者!!」

「神は我々を見捨てなかったのだ!!」



勇者と呼ばれて街を救えた喜びはあれど、やはり責任も感じてしまう。

本当は遅くなってすまなかったと謝りたい。でも謝るのも違う。むしろ謝ったらそれこそこの街の人を傷つけてしまう。


だから俺は黙って賛辞を受け取る。エリーも黙って受け取っている。


「勇者ハルヤ、預言者エリー、改めてこの度はこの街を救ってくれたことに感謝する。本当は盛大に祝いたいのだが・・・とても今は無理そうだ。」


「感謝だけで十分だ。今はこの街で出来ることをやればいい。」


「ありがとう。何から何まですまないな。」


「いいんだよ。俺は勇者だからな。助けられたらそれでいいんだ。」


こんな状況で褒美も祝いもいらないよ。心からの本音だった。



「街はまだ生きていた。私だけが生かすのかと思っていたが、こんなにもたくさんの希望が残っていた。1人じゃない。それがここまで力強いとはな。おかげでウーディアの街は死なずに済みそうだ。」


「・・・あぁ。きっとこれから辛いこともたくさんあるだろう。あまり抱え込むなよ。街の人たちと頑張って生きろよ。」


「そうだな。・・・生きることに必死になるよ。」



そこには震えていたアマニも泣いていたアマニもいなかった。生きることを覚悟したアマニは、悲しさを帯びながらも、どこか強さをもった顔をしていた。



「ところで、勇者はこれからどうするのだ?すぐに他の街に向かうのか?」


「・・・いや、今日はもう遅い。流石に色々あって疲れたからどこかで休むよ。」


「ではウチの領主館を使えばいい。あそこが一番良い施設のはずだ。今なら住むものも私一人だ。何人でも泊められる。」



領主館か。でもレイグルが色々壊したりしてしまったり、それにあそこには恐らくアマニの家族の遺体もある。だから行きたくはないなぁ・・・。


「あー・・・あの場所は・・・。」


戸惑う俺の様子から事態を察したのだろう。アマニは本音を語る。


「・・・正直に言うとな、だから一緒に来て欲しいのだ・・・。領民たちから力をもらったが、それでも現実を受け止めるには時間がかかる。誰かと一緒でなければあの領主館に踏み込むことが怖いのだ。・・・だから恥を忍んで言う。一緒に領主館まで来てくれないだろうか・・・?」



そう言われたら行かないわけにはいかなくなった。一人じゃ辛いよな。こんなことぐらいであればいくらでも協力しよう。


「あぁ、分かった。一緒に行くよ。」


「ありがとう。勇者があなたのような人で良かったよ。」


「馬鹿言うな。俺は優しくも正義感もないぞ?乗りかかった船から降りるのが気持ち悪いだけだ。」


「そういうところが優しいというのだろう。」


別に優しくなんかない。そこまで綺麗な人間じゃないしな。



「さて、領主館に向かおうか。」


「俺の時空魔法で送ろうか?この街を見ながら歩くのも辛いだろう。」


「・・・申し出に感謝するが、いつかは見なければいけないものだ。むしろ彼らの戦った後を見ずにいたら私は領主失格だ。最後の姿を見納めるために、歩いていかなければならないのさ。」


「・・・そうかい。なら俺も歩こうかな。」


「いいのか?先に行っていても良いぞ?」


「あぁ。夜空をみるのが好きなんでな。」


俺の一言になぜかアマニは寂しそうに笑った。


「・・・父が良く言っていたな。現実を見るのが辛いときは空を見ろと。空を見ればその大きさに、自分の小ささがよく分かり、悩むのが馬鹿らしくなるのだと。」


「だとしたら今日はちょうどいい日かもな。」


「そうだな・・・二日ぶりにみる星空は、こんなにも綺麗なものなのだな。」



俺たちは領主館に向かっていく。領民たちも疲れたのだろう、街が解放されたことを知り、今日はゆっくり休むことにしたようだ。何があっても勇者がいるから大丈夫という一言で安心して皆が帰っていった。


明日になれば街の人々を弔う作業が始まっていく。辛さもあるだろう。でも体力がなければより辛くなってしまうから今日はゆっくり休んでほしい。



しばらく三人で歩いていると領主館に着いた。先ほどの戦いの中でレイグルが壁をぶち破った個所があったがそれ以外は特に傷ついていない。ぶち破ったところもあとで土魔法で直してやろう。



「静かなものだな。」



領主館を前にアマニは呟いた。きっといつもは灯りがついて、賑やかに家族団欒している頃合いなのかもしれない。思い出があればあるほど、静けさはより静かに聞こえるだろう。



アマニは少し歩を緩めつつ領主館に入っていった。



「父上・・・母上・・・タマリまで・・・。」


食堂に入っていくとアマニの家族が横たわっていた。



先ほどの戦いの中でいたアマニに似ている人たちはやっぱり家族だったんだな。


「・・・街は救われた。勇者と預言者とあなた方のおかげで・・・。」



そうだ。この人たちがいなかったらアマニは逃げられなかった。アマニがいなかったら街の人たちは余計に失意のどん底まで落ちていただろう。

だからこの人たちもまた街を救った人々なのだ。


「・・・安らかに眠ってくれ。後は任せてくれ。」


そう言ってアマニは家族に布をかぶせた。流石に今日どうこうすることは出来ない。今日はもう休むつもりらしい。


「勇者よ、預言者よ。この場所まで着いてきてくれてありがとう。最も辛い場所にこうして来られたのは君たちのおかげだ。」


その一言で今日の所は解散になった。



俺とエリーはそれぞれ一部屋ずつ借りることにしたが、就寝の前に【地図】を広げて明日以降の行路を確認する。


「明日はここからさらに南下したところにあるケートの街に向かう。暗がりがジッとしてるからな。交戦中か・・・もしくはここみたいに支配されているか。どちらにせよ魔人を倒しておこう。」


「今は少しでも魔人を倒して街を解放していくことが大事そうですね。」


「できれば・・・耐えていてくれたらな。」


「そうですね。でもきっと大丈夫ですよ。」


「・・・そうだな。きっと大丈夫。」


「今回のウーディアの街で分かったじゃありませんか。街は簡単に支配できないって。」


確かにそうだな。今回は今まで訪れた街の中で圧倒的に被害が大きかった。それでも街は前を向こうとしている。俺が思うよりもずっと強かった。簡単には支配できないんだ。


「だから大丈夫ですよ。それに何かあったらハルヤさんが希望を示せばいいんです。」


「俺が希望か・・・。出来るかなそんなこと。」


「今回だってアマニさんはハルヤさんに希望を頂いたんですよ。」


俺が希望か。勇者という肩書は、その力の強さもあって、人々に魔人や魔王への対抗手段となる希望を与えてくれる。俺が人々の希望になるのか。




「アマニさんには懇切丁寧にハルヤさんがいかにネガティブでウジウジしていて女にだらしないかを伝え、「あんな人でも必死に生きていたら勇者になれた」と伝えましたら前を向いてくれました。ハルヤさんは人々への希望なんです。頑張ってください。」


「そうか・・・って何変なこと吹き込んでるんだよ!俺の性格とか伝えなくていいだろ!!」


「それは失礼しました。私は話下手ですからハルヤさんのことぐらいしか話題がなかったもので。すみませんね。」


「申し訳ないと思ってないだろ!!」


「さぁ寝ましょうか。どうします?ハルヤさんもここで寝ます?アマニさんには女にだらしないと伝えていますからきっと察してくださいますよ?」


「自分の部屋で寝るよ!」


「ふふふ。それは残念です。でもハルヤさん。辛い時はいつでも言ってくださいね?」


「・・・あぁ、ありがとう。じゃあおやすみ。」



そう言って俺は部屋に帰っていく。

今日はカッコいい勇者になれたと思ったんだけどな。エリーに邪魔されてしまった。



何だかんだ、アレがあいつの優しさだ。今も少しだけ心が軽くなった。


これから俺は旅路の中で、いくつもこんな場面に遭遇するのかもしれない。その度にきっと落ち込む。

だからエリーは励ますようにいつもの調子を続けてくれる。

それが結局、どんな慰めの言葉よりも、俺を慰める。





でもやっぱり悪い噂を流すのは腹がたつ。


その内アイツの悪いうわさも流してやろう。そう心に誓いながら俺は眠りについた。






カーンカーンカーン!!



街の鐘の音で俺は目を覚ました。クフの街の鐘の音とは違い澄んだ鐘の音は朝の目覚めには心地よく響いた。

ウーディアの街は多くの人が死んでしまった。それでも街は生きている。そのことをこの鐘が伝えているようだ。



「おぉ、おはようハルヤ殿。」


食堂に降りるとアマニが挨拶をしてくれる。少しは寝れたのだろうか昨日よりは元気そうだ。


「おはようアマニ。少しは寝れたか?」


「おかげさまで。ここ二日間ほとんど寝れなかったからな。その疲れがあったのか良く眠れたよ。それに鐘の音を聞いたのも久しぶりで元気が出たよ。」


笑って語るアマニの表情もさることながら、声も昨日より元気そうで安心した。


「おはようございます、ハルヤさん、アマニさん。」


「おぉエリー殿もおはよう。」


エリーも起きてきたので三人で朝食を食べた。流石に食堂は遺体があって今は入れる状況でもないので、小さな部屋で食べることにした。


「それでハルヤ殿たちはすぐに旅立つのか?」


「そうだな。まだまだ向かうところがあるからすぐに出発する予定だ。」


「そうか。・・・ウーディアの街としては何もしてやることは出来ないが、いつかまたこの街を訪ねてきて欲しい。その時は精一杯恩返しをさせてくれ。」


「あぁ、今度は遊びに来るよ。」


そう言ってこの街から出ようとするが忘れていたことがあった。


「あぁ、そう言えばこのアイテムバッグを渡さないとな。」


俺は【アイテム】からアイテムバッグを取り出す。何とも不思議な感じだが【アイテム】には物をしまった状態のアイテムバッグをそのまま保管することが出来るから便利なのでそうしている。

バッグにポーチを入れているようなもんだと考えればそこまで変なことではないか。


「アイデムバッグ?そんなものをもらっていいのか?」


「あぁ。ここには武器や食料がたくさん入っている。街の復興もそうだし、もしかしたらまたモンスターが襲ってくる可能性もある。撃退は出来なくても逃げるためには使えるはずだ。」


「な?!そんなものをもらって良いのか?!」


「気にすんな。俺がすぐに作れるようなものばかりで元手も手間もほぼかかってねぇし。」


「なんと!勇者とは凄いものなのだな。何も返すことができないばかりかさらに支援物資までいただいて感謝のしようもない。大変ありがたく受け取らせてもらう。」


アマニにアイテムバッグを渡す。これで本当にこの街での用事は終わった。


「・・・達者でな。」


「あぁ。無事を祈っているよ。」



そう言って俺とエリーはウーディアの街から南の方向に移動していく。



気が付けば街の人たちも出てきていて、俺を見送ってくれている。


「ありがとう!!ありがとうー!!」

「頑張れよ勇者ー!」

「世界を頼んだぞ!!」



ウーディアの街はこれから復興作業で大変になるだろう。でもきっと大丈夫。

あそこには人という宝物が100もある。大きな大きな力になって、支え合っていけるはずだ。

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