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旅の始まり

周りの冒険者たちは俺の重力魔法で潰されなかった上薬草を必死に集めている。


恐らく、二発目が放たれる前に刈りつくそうと考えているのだろう。チッ!バラバラに散ったせいで重力魔法が撃てない。



「あー笑った。」


「チッ。」


腹を抱えたサムエルさんが呟いた。

既にこの街の冒険者への尊敬を失った俺は、舌打ちで返しておく。



「ハハハ!まぁ何にせよ聖剣が見つかって良かったじゃねぇか。」


「そうですね。これで俺も聖剣の勇者ですよ。不可視の聖剣を賜りし勇者と呼んでください。」


「なげーよ。鞘の勇者でいいだろ。」


「良くないから言ってるんですよ!」


女にだらしないという意味を込めてつけられた鞘の勇者だぞ?良い訳ねぇだろ!



「バカだなぁお前さんは。既に通っちまった二つ名を変えることは並大抵じゃねぇ。だがな、そこにある意味を変えることは難しいことじゃねぇ。」


「通ってたわけじゃないのを無理矢理通そうとしている気がするのですが。それにしても意味を・・・変えるですか?」


「そうだ。例えばよ、鞘の勇者ってのは、その力は魔物だけに発揮するものであり、人間には力を抑えた鞘の状態でしか見せないから付けられたってことにすんだよ。そうすれば、鞘の勇者という呼び名には、人間への優しさが込められてるって意味になるだろ?」


なるほど・・・。今更二つ名を変えるより、その二つ名の意味をカッコよくすればいいのか!


「それは名案ですね!よし、この鞘は人への優しさの象徴にしましょう!」


「いいねぇ。俺たちが広める「女にだらしない鞘の勇者」とどっちが先に広まるか、勝負だな!負けねぇぞ!」


「こっちも負けませんよ!って何で余計な方を広めようとしてるんですか!」


「いや、そっちの方が面白いし。いいじゃねぇか。どこか弱さがある方が人間は親しみを覚えるんだぞ?むしろ広げてもらえることに感謝しろよ。」


「するわけねぇだろ!」


クソ!こういうところが俺から尊厳を奪っていく原因なんだぞ!



「それでお前さん、これからのことについて話しあおうぜ。昨日見せてくれた【地図】をもう一度見せてもらっていいか?」


「え、あ、はい。」


そう言って俺は【地図】を広げる。昨日、今の世界について話した際にサムエルさんたちには【地図】を見せている。


俺たちの話を聞いていたのか、いつの間にかドラゴンバスターズの人たちや他の冒険者も集まって来ていた。



「やっぱり、そうか・・・。」



サムエルさんは地図をジッと見ながらつぶやいた。


「何か分かりましたか?」


「あぁ、昨日見た地図から、若干だが動きがあるな。」



そう言われても俺は正直よく分からなかった。俺も何度か【地図】は確認しているが、一々すべては覚えていられない。


というのも、そこにある地理を把握しない状態で見ると分かり辛いからだ。


ほぼ白紙になっている紙にある黒くなっている範囲を覚えるのと、元々はここに世界地図が書かれていたと言われた上で黒くなっている部分を覚えるのではその難易度は変わっていく。


エリーもそこまで地理に詳しいわけではなかったので、昨日の内にサムエルさんたちにそのことを伝え、地理について説明してもらいながら全体的に覚えていてもらった。


サムエルさんたちも精巧な地図を用いての地理は分からないが、把握できる部分もあるということで見てもらっていたのだ。



「昨日まで解放されていなかった場所で解放されている地域もいくつかあるみてぇだ。これは嬉しいことだ。だが、昨日まで暗くなっていた場所を中心として、別の街に動いて行っている兆候もある。恐らく魔人は街を落としたら次の街に向かうということなんだろう。」


「やっぱりそうですよね・・・。」



クフの街は大魔人たちが来る前に既に一度襲われていた。そこから考えられるのは、別の街を襲った魔人が移動してきたか、召喚されたタイミングが分かれていたかだ。


だから地図をじっくり観察した。突然暗くなるのか徐々に暗がりが広がるのか。



サムエルさんは徐々に暗がりが広がっていること、突然一帯が暗くなっているわけではないことを指摘し別の街を支配した魔人が次の街へ向かっていくと考えたようだ。



そうなると次に襲われそうな場所を絞り出すことが出来る。同時に今襲われ続けている場所、そして既に魔人によって滅ぼされた可能性の高い場所が分かってしまう。


暗がりが近づいている場所がこれから襲われる可能性の高い場所。

暗がりが動かない場所が今まだ戦い続けている場所。

暗がりがその場所から広がっている場所が既に滅ぼされた可能性の高い場所。




だから俺はこれから襲われる可能性のある場所と今暗くなっていて魔人が動く気配のない場所の二つに絞っていかなければならない。


既に滅ぼされた可能性の高い場所に行っても意味のない可能性がある。今から目指す場所ではない、と割り切るしかないのだ。


苦渋の決断であるが俺の行動できる範囲には限界がある。

むしろ的を二つに絞ったところで手は足りない現状である。



そこで手を挙げたのがサムエルさんたちだった。


サムエルさんは、俺が魔道具を作れることをエリーから聞いていたらしい。

そこで作れる魔道具は何なのかを聞かれた。



俺は既に覚えているスキルを付与する形で魔道具を作ることが出来る。

ただ、付与する先の物によって強度は変わっていくと考えている。



加速を付与したエリーの靴だが、確認したら4~5回しか加速を使っていないのに既にボロボロになっている。エリー曰く安物の靴だったということだからもう少しいい靴に付与すればもう少し持つのではないかと考えている。


ちなみにエリーの靴はサムエルさんからもらったお金から買うことにした。流石に裸足になったら可哀想だからな。



サムエルさんに作れる魔道具に関して説明する中で俺のスキルについても一つ一つ教えていった。

あまりの多さとLv.の高さに皆が唖然としていた。だが同時にその強さは魔人への希望になったようだ。


これならいける!という一言で俺たちの作戦が決まった。




俺が向かうのは今現在襲われ続けている街。緊急性の高い街に向かうことになった。



そしてこれから襲われそうな街にはサムエルさんたちドラゴンバスターズが向かうことになった。

その街に行き俺が付与した魔道具を配り街の防衛力を高めて魔人に向かっていく。

ついでに自分たちも魔道具や装備を強化して戦うとのことだった。


そのため俺は覚えていなかった【支援魔法】【強化魔法】などの存在を教えてもらい、すぐにLv.10まで上げた。これによってサムエルさんたちの装備品を強化することが出来た。



そして協力者をどんどん募り戦える戦力を確保していく狙いもある。

俺たちはまだまだ人手が足りない。少しでも協力者が欲しい。そのあたりをサムエルさんたちの知名度を用いながら要請していくことになった。



ただ街に行くためには当然足がいる。流石に馬車での移動では限界がある。遅くなって間に合わないなんてこともあるだろう。


そこである物に【浮遊】を付与して飛んでいくことになった。



そのある物は現在街の物になってしまったが、サムエルさんが朝のうちに領主の館を訪ね土下座して許可をもらってきたらしい。


実際には領主はあっさり許可を出したという事だから器の大きい人物なのだろう。アンデーキアの領主とは全然違うな。



クフの街は大魔導士クフのおかげでスゴイ街になった。だがそこに住むのは人間であり、いくらいい街の骨格があろうとも、その街が良い街になるかどうかは住む人次第である。それを上手くいかしているのだから領主がやり手であるという証拠でもあるだろう。


いつか挨拶に行けたらいいな。今はそんな暇はないけど。




そんなこんなで話し合いをしながら次に向かう場所を決めていく。


サムエルさんたちがまず向かうのは、クフの街から山一つ越えて東に行った「デルタ」の街だ。この街には段々と暗がりが近づいて行っているので援軍に行くとのことだ。


既に街を一つ滅ぼした可能性のある魔人のところに行くというのは大魔人との遭遇の可能性もある。だから危険度で言えばそちらの方が高い可能性がある。だが交戦中のところに行く方が難しいという判断で準備の出来る方に向かうことになった。




そして俺が向かうのは南に行った先にある「ウーディア」の街。そこは昨日から暗がりが全く動いていないため現在交戦中の可能性があるので向かうことになった。


こちらは急を要する。動きの速い俺の方が適任であるとのことで俺が向かうことになった。



既に時刻は昼を過ぎ夕方に向かおうとしている。

作戦会議が終わりこれから行く場所も決まった。何をしていくかも決まった。




この世界を救う。でもそれは俺だけがすることではない。

サムエルさんたちや他の街の皆でこの世界を守っていく。


俺は、その行動を守り支えていくのが役目なんだ。





俺の始まりの場所は、勇者の始まりの場所にもなった。

ここから勇者が始まっていく。その思いを胸に俺たちはクフの街に戻った。




クフの街に戻った後は魔道具と装備作りだ。


サムエルさんたちが付与出来そうなものを片っ端から集めてきてくれる。そこに俺は魔法やスキルを付与しまくる。中には二つスキルを付与できるものもあった。良い物なんだろうな。


作った魔道具や装備品を予め作っておいたマジックバッグにどんどん入れていく。

大量の物資を作りサムエルさんたちに配って行ってもらうのだ。もちろん俺も配るが。



魔道具はその術者の魔力を使う。だからあまり強い魔法を撃てたところで魔力が足りなければ意味がない。しかし魔道具は数人の魔力を使っても発動できる。だから俺が行っているのは、個人の武器を作るというよりは大砲を作っているようなもんだ。



【瞑想】をフルに使いながらどんどん魔道具を作っていく。流石に疲れてきたが、世界を救うためと考えれば悪い疲れではない。




そしてある程度魔道具を作り終えたところで、俺たちは街の広場に向かった。




そこにはドラゴンの骨がある。そしてドラゴンの背中には既に人が乗れるように布がかけられ、椅子も括り付けられている。



今からこのドラゴンの骨に俺の【浮遊】を付与する。【浮遊】はそこそこ魔力を消費するので燃費はそこまで良くはないが、それでも馬車を使っての移動よりも圧倒的に早い。


そのためこれがサムエルさんたちの今後の足になっていく。魔道具は安物に付与してもスキルに耐久が追い付かない。そのため移動の足となるものは良い素材を使わなければ危険だ。

この辺で一番いい素材に付与するとなると自ずとこのドラゴンの骨になってしまうのだ。



俺はドラゴンの骨をまず強化魔法で全体を一体化させる。飛んでバラバラになったらちょっとカッコ悪いしな。


そして【浮遊】を付与する。するとこの骨にはまだスキルを付与できることが分かった。

なので俺は【火魔法】と【風魔法】そして【音魔法】を付与した。やっぱり良い素材なんだな。


さすがにスキルを4つも付けたためこれ以上付与出来なくなったが十分だろう。




そのことをサムエルさんたちに伝えると、早速試運転することになった。



「よし!いくぞ!」



乗り込んだサムエルさんたちがドラゴンの骨に魔力を通す。するとドラゴンはふわりと浮いた。




・・・ただ、【浮遊】で無理矢理浮かせているからか羽は動かない。見た目は空飛ぶメリーゴーランドに乗っている大人5人だ。正直ダサい。



そこで俺は閃いた。やつらをダサい名前で呼んでやる。というか定着させてやる。

そっちが先に変な名前を定着させようとしたからな。文句はあるまい。俺は叫んだ。



「おいおい見ろよ!ドラゴンバスターズが動かないハリボテの竜に乗ってるよ!骨に群がる姿はまるで犬のようじゃないか!「骨むしゃぶり隊!」って呼んでやろうぜ!」




だが俺の叫びは誰からも相手にされず、街中からは歓声が沸いている。



「ドラゴンバスターズがドラゴンに乗って飛んでいるぞ!」

「竜騎士だ!救世の竜騎士だ」

「ドラゴンナイト!」

「いや、ドラゴンライダーだ!」



あちこちからカッコ良さそうな呼び名と共に彼らを讃える声が沸き起こる。



「ふふふ。ダメですよハルヤさん。「骨むしゃぶり隊」は語呂が悪すぎます。木馬の騎士とか、過去の栄光にすがりつく姿を揶揄して「骨の栄光」とか、言いやすいものにしませんと。」



流石エリーだ。悪口を言わせたら天下一品だな。


「お!それいいな!採用だ!あれは木馬の騎士だ!過去の栄光にすがる、骨の栄光だ!」




・・・当然のように無視され、ドラゴンバスターズは「救世の竜騎士」が定着した。クソ。





試運転を終えたサムエルさんたちが報告をくれる。

どうやらドラゴンの骨は浮遊にそこまでの魔力を有しないらしい。そういえばドラゴンも浮遊を持っていたからな。その辺が関係しているのだろうか。



何にせよ目途が立った。これにてサムエルさんたちとは一端の別れだ。



「ありがとよ。おかげで今後の目星がついたぜ。」


「いいですよ救世の竜騎士様。鞘の勇者など所詮、竜騎士様たちに仕える者ですから。」


「おいおい何卑屈になってんだよ。いいじゃねぇか。これから良い意味広めんだろ?」


なんで俺だけ自分でいい意味広めなきゃいけないんだ。最初からカッコいい呼び名つけろっての。



「ま、何にせよこれで準備は終わったな。すでに日が落ちようとしているが悠長にしている時間はねぇ。」


そうだ、俺たちがゆっくりしている間に何が起こるか分からない。自体は一刻を争う。



「というわけだ。早速俺たちはデルタに向かう。何かあったら魔道具で連絡を取ろう。」


俺たちは【通信】が付与された魔道具を互いに持っている。これによってどこにいても連絡を取ることが出来る。あまりに遠いととんでもない魔力を使うことになるが。



「いいかハルヤ。忘れんじゃねぇぞ。お前は勇者である前に俺の子分なんだ。何かあったらいつでも連絡しろ。」



こういうところがこの人の憎めないところだ。



「分かりましたよ。親分も、もう年なんですからあまり無理はしないでください。では。」


「馬鹿野郎。まだ嘆く年じゃねぇ。良い味が出てきところだよ。じゃあな。」



そう言って、俺たちは別れた。



心配がないわけじゃない。でも、それを口にするのは野暮だ。言い換えればこれは信頼。

大丈夫だと信頼して、不安を抱えるのではなく、支えをもって旅立っていく。





たくさんの人の支えをもらい、鞘の勇者の旅が始まっていく。

以上で2章は終わりです。


誠に申し訳ありませんが、ここでストックが尽きてきました。

3章のプロットは既に出来上がっていますが、文章を書き終えていません。

章の終わりを書かずに続きを投稿するのは不安ですから、10日ほどお時間を頂き、再度投稿していこうと思います。今のところ12月4日(金)を予定しています。



ブックマークや評価をつけてくださる方がおられ、本当に感謝しております。大きな心の支えになると共に、執筆へのやる気に変えられていきます。


これからも楽しんでいただけるように頑張ります。

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