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聖剣

ゴーン、ゴーン、ゴーン。


鐘の音が朝の訪れを伝える。クフの街の鐘の音は久しぶりだ。昨日は鳴っていなかったこの鐘が、日常が帰ってきたことを伝えているようだ。



俺とエリーはヤーレンさんに挨拶をし、朝ご飯を食べる。

やっぱりこの宿のご飯は旨い、というかクフの街全体の食べ物が旨い。


他の街に行って分かったことは、クフの街は物価が高いが、同時に全てのレベルが高いということだ。

宿にしてもご飯にしても。もちろん他の場所でもいいものはいっぱいあったが、クフの街ほどではなかった。


やはりこの街は発展している街であるということだろう。



「さて、飯も食ったし、ギルドに向かうか。」


大満足に朝食を食べ、俺とエリーは宿を出てギルドに向かう。その道中で、街の被害状況を改めて確認するが、思ったよりも大きな被害はなさそうだった。


モンスターが入って来ていたのも街壁に開いた穴一つだったし、そこまで大量に入ってきたというわけでもないのだろう。


そのことにちょっと安心したが、それでも犠牲になった人や建物がある。あまり安心していてもよくはないか。


・・・終わったことを悔やんでもしょうがない。今は出来ることをやっていこう。



ギルドに近づくと、ギルド前に人だかりができていることが分かった。30人ぐらいいるだろうか。


今日は何かあるのかな?



俺が近づくと、サムエルさんがこちらに手を振った。



「よぉおはようさん。昨夜はお楽し・・・よく眠れたか?」


「今何を言おうとしましたか?」


「いや、何でもねぇよ。それより見ろよ。お前さんの聖剣探しに、こんなに集まったぜ。」


「え?ここにいる人全員がそうなんですか?」


そう言って改めて周りを見回すと、50人ぐらいの人が来ていた。俺が初めて冒険者ギルドを訪れた時に声をかけてくれた犬獣人の大剣使いなどもいた。


そしてさらに見ていると、いつぞやのギルド受付嬢のアリサさんがいた!


相変わらず可愛い!


俺がちょっと視線を送ると、ペコリと挨拶をしてくれた。どうしよう、デレデレしてしまいそうだ。




「・・・鞘の勇者」



エリーがボソッと呟いた。


多分、俺にしか聞こえていない。でも、その一言で俺は視線を地面に向けた。



ダメだ、今はどこも見ない方がいい。濡れ衣が増えていく気がする。そして、エリーの攻撃が激しくなる気がする。


俺は最近学んだ。こういう時は、ただ下を向いてジッとしていることが最も良い回避方法であると。




「お?どうした?相変わらず冒険者にビビってんのか?」


「ふふふ。ハルヤさんは人見知りでしてね。大勢の前では緊張してしまうんですよ。」


違う。俺は大勢よりも横にいる一人が怖いだけだ。



「なんだよ、勇者になっても相変わらずだな。まぁいいか。鞘の勇者の聖剣探しっつったらかなりの人数が集まってよ。ちょっとしか声かけてねぇんだが、こんなことになっちまった。だから悪ぃんだが、あの聖装になってくんねぇか?」



まさかこれ全員聖剣探しとは・・・と言っても探すのは木の棒なんだけどいいんだろうか?

とりあえず、俺はサムエルさんの要望通り聖装に着替える。



「よし、これでいいな。・・・お前ら!今日はよく集まってくれた!ここにいるのが鞘の勇者ハルヤだ!」


「おぉ!アレが勇者か!」

「鞘だ!本当に鞘持ってる!」



「そうだ!コイツはまだ鞘しか持ってねぇ!だが、これから行く場所に聖剣が眠っている。その姿は、今はまだ何の変哲もない木の棒だ!だが、コイツが持てば聖剣に生まれ変わる!見た目は木の棒だから探すのに人手がいる!いいか!これから探すのは木の棒だが、これはれっきとした世界を救うための行動だ!胸を張って協力してくれ!!!」



「「「おぉおおお!!!」」」



サムエルさんの掛け声に、皆が盛り上がった。世界を救うための行動か・・・。実態は俺が捨てた木の棒を拾いに行くためなんだが・・・。そう考えたら申し訳なくなってきたが、確かに人手は有難い。


何だか段々と定着していた「鞘の勇者」だが、それももうすぐ終わりだ。僅か1日の呼び名だったが、少しだけ愛着が湧いていた。でも、付けられた理由と響きのひどさから、やはり一日でも早くそんな汚名は返上してきたい。


僅か分かりの名残惜しさと共に、俺は鞘の勇者から解放されていくことの喜びを噛み締める。




「よし、んじゃあ行くとするか!」



サムエルさんの号令で出発することになった。

だが、歩いていくのは時間がかかる。



「サムエルさん。俺は時空魔法を使えるので、魔法で行きましょう。」


「・・・はぁ?」


「かなり魔力は使いますが、ここにいる全員ぐらいだったら運べるはずです。聖剣の場所は行ったことありますから大丈夫です。」


「・・・お前さん、・・・便利だな!!」


「便利って言うな!!」


「ふふふ。そうですよ。勇者に便利は失礼です。快適と言ってあげませんと。」


「お前が言うな!」



結局、時空魔法で全員を始まりの場所に送ることにした。






俺がこの異世界に来て初めて降り立った場所。

森の中にポッカリと穴が空いたように原っぱになっている場所。

久しぶりに来ると、何だか感慨深い。


「ここがハルヤさんの出生地ですか。」


「いや、ここで生まれてはいねぇよ。落とされたというか、強引に連れてこられたというか。」



懐かしい場所だが、未だにどうしてこの場所なんだよと思ってしまう。



「ここがお前さんの言ってた場所か。この森にこんなところがあるとはな。しかし、草が伸びきってんな。こん中から木の棒探すっつーのは大変だな。」


「あ、そう言えばこの辺の草は確か上薬草だらけですよ。」


「なにぃ?!この辺一帯がそうなのか?!」


俺は改めて鑑定してみるが、やはり上薬草だらけだった。


「鑑定してみましたがやっぱり上薬草ですね。」



それを聞いて他の冒険者も騒ぎ出した。


「これ全部上薬草なのか?!」

「いい臨時収入じゃねぇか!刈りまくろうぜ!」

「おいおい木の棒探しはいいのかよ?」

「バカだなぁ。草があったら見つからねぇだろ。木の棒探すために刈るんだよ。れっきとした世界を救う行動だ!」


そう言って冒険者たちは草を刈り始めた。

つってもかなり広いからやめて欲しいんだが。



「・・・ッハ!お前ら!先に木の棒探してからにしろ!見つからねぇと世界の危機だぞ!」



サムエルさんの叱責が飛ぶ。そう言いながら、ちゃっかり五本ぐらい引っこ抜いていた気がするが、サムエルさんの沽券のために黙っておこう。



俺が過去に恐らく飛ばしたであろう場所を全員で探していくことになった。

あの時はやり投げの要領で結構な距離を飛ばしたはずだから、中心から50メートルぐらいの場所だと思うんだよな。


改めて過去の捨てた自分が嫌になるが、それでも必死に探していく。


始めは、地道に探すより鑑定しまくった方が早いかと思っていた。だが鑑定しまくっても草ばっかりで見つからない。

上空から鑑定すれば何か手掛かりがあるかと思い、【浮遊】を使って上空から見てみるが、既にあれから半年は経っているので草がかなり伸びきっているようだ。木の棒なんてまるで見えない。


しょうがないので草をかき分けて木の棒を地道に探していく。

この辺で聖装が邪魔になり、いつもの盗賊の服に戻した。


冒険者の人たちは見つけた木の棒を俺のところまで持って来てくれる。だが、どれだけ鑑定しても「木の棒」としか出てこない。



クソ、なんであの時俺はやり投げなんかしちゃったんだ。悲しくなってきた。

だが悲しくなっても木の棒が見つかるわけではない。地道に探すしかない。




結局、全く見つからないまま、みんなでお昼ご飯を食べることになった。

お昼ご飯は冒険者ギルドの方で用意してくれていた。


何でも今回の木の棒探しは冒険者ギルド総出で手伝ってくれているらしい。

だからアリサさんもいたのか。残念ながら受付の業務があるとかで森まではついてきてくれなかったが。



冒険者ギルドは俺の時空魔法の存在なんて当然知らず、歩いていく予定で考えていたため、人数分のお昼を用意していた。

こんなに早く目的地に着けると思っていなかったらしい。


用意された昼食をみんなで食べながら、俺は一人打開策を考えていた。


いい加減俺が捨てた木の棒をみんなが探してくれているという状況に耐えられなくなったからだ。

一刻も早く見つけるために、俺は閃いた打開策をサムエルさんに告げた。



「サムエルさん!燃やしましょう!」


「・・・はぁ?馬鹿野郎!これ全部上薬草だぞ?!結構な金になるんだぞ?!」


臨時収入が燃やされるとあっては冒険者の方々からも不満だったようで、反対意見だらけだった。



「でもこれじゃあ見つかりませんよ!!」


「それに木の棒まで燃やしたらどうすんだよ。」


「え・・・木の棒って燃えるんですかね?」


「・・・お前さんの困惑の意味は分かるが、言葉だけ切り取ったらスゲー馬鹿みたいだぞ?」


いや、木の棒は当然燃えるんだが、俺が探してるのはキノボーであって聖賢だ。だから、燃えないんじゃないか?いや、でも解放前だったら燃えるのか?


・・・不安になってきた。やっぱり燃やすのはなしかぁ。



再び地道な木の棒探しに戻る。




冒険者たちが大量に木の棒を持って来て山積みしていく。それを30分に一回ぐらいのペースでまとめて鑑定していく。さっきからこの作業の繰り返しだ。この原っぱ広すぎだろ。全然見つかんねぇよ。


俺はまた30分ほど経ったので、山積みになっている木の棒を鑑定する。

もう何度も見た「木の棒」の文字に頭がおかしくなりそうだ。



木の棒木の棒木の棒キノボー木の棒木の棒木の棒木の棒




ほら、一つカタカナが混じっているよう・・・・え?


俺はもう一度鑑定する。




木の棒木の棒木の棒キノボー木の棒木の棒木の棒木の棒





俺は一本の木の棒を手に取って鑑定する。



―――――――――――――――――――――

【キノボー】

何の変哲もないキノボー。歩くときに使うと少し役に立つ。

攻撃力補正なし。

価値:なし

―――――――――――――――――――――




「・・・あった!あった!あったぞおおおおおおおお!!!」




俺は木の棒を手に、歓喜の声を出す。


その声に冒険者たちからも歓声が上がり、皆が集まってきた。



朝から木の棒探しで疲れているだろうに、発見の報告で元気が出たようだ。


ワクワクした顔でこちらを見ている。



もう分かっている。皆まで言うな。解放しろと言うことなのだろう。




俺は、聖装を再び装備し直し、木の棒に魔力を送る。すると、木の棒が光り、剣が出てきた。


突然姿を変えて現れた聖剣は、まさに聖剣という姿をしていた。



煌めく刀身は、その姿だけで何物にも負けない強さを宿しているようだ。



・・・カッコいい。そして、美しい・・・。




いつの間にか俺は、そのカッコよさに目を奪われていた。





冒険者たちも口を開けている。やはりこのかっこよさに目を奪われているのか。


もう「鞘の勇者」なんて呼ばせないよ。これからは、「聖剣の勇者ハルヤ」になるんだ。




なぜか他の人たちは俺の手元ばかり見ている。正確には剣の鍔あたりを見ている。なぜだ?



「ハルヤ・・・その刀身がない剣が聖剣なのか?」



・・・は?



「・・・刀身がない?あるじゃないですかここに。」


何を言っているのか分からない。だが、周りの人たちは「お前の方こそ何言ってるんだよという顔をしている。



鑑定すると、その理由が分かった。



―――――――――――――――――――――

【勇者の聖剣】

神が遣える勇者に送る剣。勇者しか使うことは出来ない。

その見た目は、魔王に恐怖を与える。勇者と魔王以外には刀身が見えない。魔王にのみダメージを与えることが出来る剣であり、魔王以外には鞘に入れて攻撃することで剣術の補正を得られダメージを与えられる。

恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。

―――――――――――――――――――――



集まった人たちの視線が俺の手元に集まっているという事は、刀身が見えていないという事なのだろう。



俺は、鑑定の結果をみんなに伝えた。


どうやら、俺と魔王以外には刀身は見えないようだ、と。



だが、鞘に納めれば、ダメージを与えられる。剣術も発動するらしい。

魔王との戦い以外では、この剣は鞘に納め続けられることになる。

この剣は、普段使いする時は、鞘に納めないといけない。


端的に、俺は鑑定結果を伝えた。





・・・その事実を告げると、まずサムエルさんが声をあげた。



「クク・・・ハハハ・・・・ハハハハハ!ダメだ!面白すぎる!鞘の勇者ハルヤって、本物じゃねぇか!!」



その笑い声が、周りの冒険者たちの笑い声を誘発する。


「「「ハハハハハ!!!鞘の勇者だ!!!」」」



俺は怒りを込めて、初めに鞘の勇者と言い始めたエリーを見ると、腹を抱えてその場にうずくまっている。



「ま、まさか、さ、鞘の勇者が本当になるなんて・・・ごめんなさいハルヤさん・・・こんなつもりじゃなくて・・・」


今にも泣きそうな声を出しながら、エリーは笑った。



「あはははは!鞘の勇者ハルヤが真実でしたね!あはははは!!」



いつも「ふふふ」としか笑わないエリーが爆笑してやがる。


お前のせいでこうなったんだぞ・・・。きっとそうに決まってる。


預言者の声に神が呼応したんだ・・・きっとそうに決まってる。




「何が鞘の勇者ハルヤだ・・・ふざけんじゃねぇ!!この辺一帯燃やしてやる!!」


「お、おいやめろ!!これから刈って臨時収入を得るんだぞ!!」


「知るか!!俺を笑ったことを後悔しろ!!」


そう言って撃とうとしたが、【不殺】が発動した。解せぬ。ちゃんとあたり一帯を燃やしてからすぐに時空魔法を発動すれば大丈夫だろうに、神が危険と判断しやがった。クソ!




「鞘の勇者ハルヤの出生地だ!ここを大事にしようぜ!!」

「「「ハハハハハ!」」」



そんな冒険者の声が原っぱに広まった。



まぁ、最近殺伐としてばっかりだからな。今ぐらいは、許してやるか。


それにみんな、俺が捨てた木の棒探してくれたんだしな。今ぐらいは許してやるか。






そう思いながら、俺はいけるかなと思い、重力魔法で一定の範囲の上薬草を潰しておいた。





「「「あぁぁぁぁぁ!!臨時収入が!!」」」

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