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ようやく、一日が終わる。

サムエルさんとの間に、俺が一人で勝手に作っていたわだかまりが解けたことで、久々に楽しい時間を過ごすことができた。

何となく、ようやくこの世界に受け入れてもらった気がして、居場所が出来たように感じた。



横で聞いていたエリーも満足そうな顔をしながら、しかしどこか不機嫌だった。


「ハルヤさんはそんな風に苦しんでいたんですね。どうして私に何も言ってくれなかったんですか?」


自分に話してくれなかったのが嫌だったのか。と言ってもまだ会って一週間だぞ。それにお前だって自分のこと話してないだろ。お互い様だ。だというのに、サムエルさんが入ってくるからややこしい。


「お前さんは女心を分かってないな。時には相手に頼られるのも嬉しいんだぞ?」


「いや、言う暇なかったというか。実際会ってまだ一週間だし・・・」


「なにぃ?!一週間で嬢ちゃんを捕まえたってのか?!」


「いや、捕まえたんじゃなくて捕まったというか・・・」


「かー!勇者ってのはやっぱり女から寄ってくるってことか。こんな野郎にこんないい女がやってくるとはなぁ!」


周りにいた人たちも、その声に反応する。


「聞いたか?あの美少女は勇者ハルヤの女なんだとよ。」

「しかも女の方からやってきて一週間で骨抜きにされたらしい。」

「鞘の勇者ってもしかしてそっから来てんのか?」

「見てぇだな。今代の勇者は女たらしらしいぞ。」



「違います!本当に違いますから!」


クソ!エリーのせいでどんどん俺の株が下がっていく。

こいつは何がしてぇんだ!


「ハハハ!やっぱりハルヤは面白いなぁ。」

「ふふふ。ハルヤさんはやはりいじりがいがありますよね。」


「お前らの方が魔人より厄介だよ!!」



だめだ。エリーにサムエルさんに厄介な人が二人もいると本格的に面倒だ。



「さて、お前さんの今後だが、これからどうするつもりなんだ?」



何が面倒って、こういうふざけた会話の流れから急に真面目な話をしたりするところだ。何とも自分勝手なやつらだ。


「これから、聖剣を取りに行くつもりです。」


「なるほど・・・聖剣か。場所はもう分かってんのか?」


「えぇ。俺がこの世界に来た始まりの場所。つまり、サムエルさんと会った森の中です。」


そこに捨ててあるとは言い辛いからな。始まりの場所とかカッコよく表現してみる。これなら、何となくそれっぽい場所のように聞こえるだろう。



「ふふふ。ダメですよハルヤさん。ちゃんと自分が捨ててきた聖剣を拾いに行くと言わないと。」


「はぁ?!捨ててきた?!どういうことだ?!」



・・・コイツはやはりいらないことを伝える天才だ。俺を虐める天才でもある。

しょうがないので、サムエルさんたちに全てを話した。




「・・・というわけで、今日はもう日も暮れているので、明日聖剣を取りに行く予定です。」


「な、なるほどな。そういうわけで、さ、鞘の勇者だったのか・・・・ハハハハハ!だめだ、腹いてぇ!!!」



抑えられなくなったサムエルさんは大爆笑している。


「ハハハ!聖剣捨てて自分で拾いに行くってなんだよ、聞いたことねぇよ!お前さんの勇者物語は、分類はコメディーだな!『喜劇 鞘の勇者ハルヤ』だ!ダハハハハ!」



聖剣を捨てて拾いに行かないといけない勇者というのも初めての存在なのだろう。ドラゴンバスターズの人たちですら流石に笑っている。もう、俺はどうでも良くなってきた。



「あー笑った。なぁ、その聖装とやらを見せてくれよ。もうひと笑いしてぇ。」



何がもうひと笑いだよ・・・もうこうなったらヤケだ!俺は聖装に着替え鞘を高々と掲げて、言った。


「俺が、鞘の勇者だあああああ!!」


「「「ギャハハハハ!!!!」」」


酒の勢いだろうな。酔ったところに感情が高ぶるような話をして、テンションが上がってしまっていた。周りの席に座っていた人たちですら笑っている。


「食堂レイモンド」に勇者が登場し、結果、笑いがあふれた。




でもまぁいいか。皆笑ってるし。これもまた勇者の働きの一つだ。


ここまで楽しい時間は異世界に来てから初めてかもしれない。それぐらい楽しい時間を過ごすことができた。





楽しい時間と言うのはあっという間だ。気が付けばもうお開きの時間になっていた。


「サムエルさん、今日はありがとうございました。」


「気にすんな。こっちも楽しませてもらったからな。おっと、忘れてたぜ。」


そう言って、サムエルさんはアイテムバッグから出した袋を俺に渡してきた。



「そこにはあのドラゴンを倒した時に得た報酬が入ってる。200万Gだ。それがお前さんの分だ。」


中には金貨がかなりの枚数入っている。ていうか200万Gだと?!アンデーキアでの褒美の20倍かよ。とんでもない金額で流石に気が引ける。


「こんなに?いいんですか?!」


「何言ってんだ。お前さんはちゃんと受け取る権利がある。気にすんな。」


「いや、だからってこんなに・・・。」



「ハハハ!お前さんならそういうだろうと思ってたよ。」




「え・・・?」


「正確にはそこには195万Gしか入っていない。」


「・・・は?」

何だろう、嫌な予感がする。



「・・・残りの5万Gは、さっきの飲み食いで消えた。」


「・・・それはつまり勝手に使ったと。」


「いや~ハルヤが受け取るのをためらってくれて良かったよ!別に5万Gぐらいなくてもいいってことだよな?まさか一晩であんなに使うとはなぁ。アレックスが調子に乗って店の奴ら全員におごりだ!なんて言いながら自分は一銭も持ってないと知った時は焦ったが、この金持ってて良かった~助かったよハルヤ!」


「・・・返せ!」


「えぇ?!なんでだよ?!さっきは受け取るの拒否してたじゃねぇか。嘘だったのか?」


「うるせぇ!人の金勝手に使いやがって!」


「いいじゃねぇか。減るもんじゃあるまい。」


「減ってんだよ!5万Gも減ってんだよ!」



ギャーギャー騒ぐが、正直5万G減るのは別に構わない。ただ勝手に使われたのが腹立つだけだ。



「ハハハ!冗談だよ。悪かった。と言っても5万G使ったのは確かなんだがな。手持ちがなかったからよ。今度ちゃんと返すよ。」


「はぁ。なら初めからちゃんとそう言ってくださいよ。それに、別に今さら5万Gは返さなくてもいいですよ。サムエルさんには借りがありますし。」


「馬鹿野郎。俺は貸してなんかいねぇよ。くれてやっただけだ。」


「じゃあ俺が今度は施す番ですよ。」


「うるせぇ。お前さんからの親孝行はまだいらねぇよ。」



金を取り合ったり押し付け合ったり、不思議な会話をしていたが、結局返してくれることになった。まぁ、どっちでも良かったんだがな。


「さて、明日はギルド前に集合で良いんだよな?」


「そのことなんですが、本当にいいんですか?」



というのも、サムエルさんたちに話したら、聖剣探しを手伝ってくれることになったのだ。

正確には面白そうだからついて行くという事らしいが。


「いいに決まってんだろ。森の中で木の棒探すってのも大変だろ。人手が大いに越したことはない。」


「・・ありがとうございます。」


「ハハハ!気にすんな!じゃあ、また明日な。」



そう言って、サムエルさんたちは帰っていった。


「ふふふ。仲が良いんですね。」


「仲が良いとは違う気がするがな。」

気楽な上司と部下みたいな関係というか、不思議な関係性なんだよな。



「そうですか?私とハルヤさんみたいなやり取りをしていたので、てっきり仲が良いのかと。」


「そのたとえでなんで「仲が良い」って結論に行き着くんだよ。」


「あら?親密と言った方がよかったですか?」


親密か・・・確かにそれが一番いい表現かもな。エリーとの間柄は違うが。




そんなやり取りをしながら、俺たちはヤーレンさんの宿「孤独の拠り所」にやってきた。


「すみません。今からなんですけど、二人入れますか?」


「はいはい、・・・おや、あなたは確かハルヤさんですか?!」


覚えて入れくれたのか。てっきり忘れてるかと思ってた。



「えぇ、そうです。以前はありがとうございました。」


「おー良かった!あの時はサムエルさんたちがドラゴンを倒しに言ったことを伝えたらすぐに出てってしまいましたからね。あの後帰ってきませんでしたし、サムエルさんからいなくなったと聞いてますます心配していたのですよ!無事でよかった!」


そうか。この人にまで心配かけてたんだな。



「あの時は何も告げずにいなくなってすみませんでした。」


「いえいえ、こちらが勝手に心配していただけですから。無事でよかったです。それで、お二人でしたね。・・・ただいま一部屋しか空きがないのですが、同部屋でも構いませんか?」



え?一部屋しかないのか。じゃあ俺は時空魔法でどっか他のところにでも行こうかな。


「じゃ「構いませんよ」


俺の返答の前にエリーが答えてしまった。


「それは良かった。朝ご飯はどうしますか?」


「二人分お願いします。」


とエリーがさっさと答えてしまう。ヤーレンさんがニヤニヤしながら俺の方を見ている。絶対勘違いしている。


訂正しておくが聞く耳を持たない。しかも前回お金だけ払って使わなかったからということで今回の宿泊料はタダにしてくれたから、あまり強く言い出しづらくなってしまった。



「こちらの部屋になります。それではごゆっくりどうぞ。」


結局、俺たちは二人で一部屋を使うことになった。




「なぁエリー。俺は別に時空魔法を使えるからここじゃなくても良かったんだが?」


「別に構わないじゃないですか。一週間とはいえ同居した仲ですし。」


「そうは言うがなぁ・・・」


「それに、正直私もうヘトヘトなんです。ハルヤさんもそうなんじゃないですか?」


確かに、今日は何だかんだあったが、アンデーキアに行き、クフの街に行き、夜はサムエルさんたちと騒いで。かなり体力を使っている。

エリーは既にベッドに座りウトウトしている。相当疲れてたんだな。


「これから色々なところに行く場合、こういうこともたくさんあると思います。だから、今から慣れていきましょう。」


「そうは言うがなぁ。」


「ふふふ。それにハルヤさんが奥手なことは知っていますから、安心して休めるんですよ?」


「・・・もうちょっとこう、信頼してるとかそういう表現はないのか?」


「ふふふ。ハルヤさんは私にはまだ心を開いていないようですし、それはまだ難しいですね。」



コイツ、やっぱり俺が一人で悩んでたのを気にしてたのか。



「いや、あれはだなぁ。」


「いいんですよ。責めているわけではありませんから。」


「とか言いながら俺をいじるんだろ?」


「ふふふ。何を言いますか。私はハルヤさんをリラックスさせようとしているんですよ。」


「だとしたらその方法は考え直した方がいい。」



エリーはやっぱり相当疲れているようだ。既にベッドに横たわり、目を閉じている。


「・・・ハルヤさん。もし何かあったら、私は愚痴ぐらい聞きますからね?それぐらいしか、私は手助けできませんし・・・。」


既に目をほとんどつむって、寝ぼけるように言っている。だからかな、いつもよりどこか弱気で、直球の優しさを伝えてくる。


「・・・ハルヤさん。私はいつでも、味方ですからね・・・?」



「・・・あぁ、ありがとう。」



この旅に、もし一人で放り出されていたら、俺は潰れていたかもしれない。


そのことを分かっていたからか、力があるわけじゃないのにエリーはついてきてくれた。誰かが傍にいてくれる。その心強さを俺はこの旅が始まってからよく分かってきた。

サムエルさんが言っていた、弱くていいって言葉が、身に染みるように感じる。


本当は、俺が見ていないところで、コイツは毎回大変な思いをしているのかもな。


リトラスの村でも、アンデーキアの街でも一人放り出されて、今回に至っては魔人と戦って。コイツなりに頑張っているんだ。感謝しないとな。



既に眠っているエリーを見つつ。改めて感謝する。口は悪いが、いつも頼りにしているよ。

すると、エリーは寝ぼけているのか、夢の中なのか。訳の分からないことを言い始めた。




「・・・ハルヤさん。私は頑張って、鞘の勇者ハルヤの名前を言い広めます・・・だから安心してください・・・。」




叩き起こそうかと思ったが、今日だけは我慢してやる。

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